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【GDC 2019】スーパーヒーローを体感できる「Anthem」の飛翔アニメーション
モーションアニメとゲームデザインの連携で実現する爽快感
2019年3月20日 12:53
GDC2019初日の3月18日(現地時間)、BioWareは、2月に発売されたばかりの新作アクションRPG「Anthem」の飛翔アニメーションについて講演を行なった。
本作では、ジャベリンのタイプ別に、それぞれ差別化されたスーパーヒーローを表現することをコンセプトにしている。とくにユニークなのはキャラクターが飛行できることで、アニメーションのみならずカメラ制御や操作系も含めて、細かいところまで考えて作り込まれている。
本稿では、本セッションの内容を通じて、「Anthem」のアニメーションが目指すスーパーヒーロー像について理解を深めていきたい。
セッション開始前は、アニメーションブートキャンプというカテゴリーの「Rocket Man: Creating Flight for 'Anthem'」という講演タイトルから、高速に飛翔するヒーローのさま、もっと有り体に言えば“アイアンマン”っぽさの演出を、モーションアニメーションの工夫で頑張っています……という内容が中心だと予想していた。
ところが、2人の登壇者のうち最初にスピーチを行なったのは、ゲームプレイ設計を担当するNordlander氏のほうで、しかもその内容は、コントローラーのキーバインドや、飛翔状態に応じたカメラ制御といった技術的な側面の話題で、いい意味で予想を大きく裏切られた。
コントローラー操作には、どのゲームにも採用されているお約束の操作というものがある。例えば、2つあるアナログスティックのうち、左側を前後左右の移動に、右側にカメラの回転というデフォルトキーバインドは、アクションやシューターのみならず、RPGでさえ広く一般的に採用さてれいるものだ。この標準的な操作と、特定のゲームに最適な操作のどちらを優先するかという問題は、ゲームを開発するうえで本当に悩ましい。
というのも、人間の慣れとは恐ろしいもので、たとえ本質的にはそのゲームに最適な操作とは言えない場合でも、普段慣れ親しんでいる操作ができないと、人は操作性が悪いと判断してしまうからだ。
宇宙空間や空中でのドッグファイトをテーマにしたゲームの操作では、通常左スティックは左右が機体の首振り方向、上下がお辞儀方向の旋回動作とし、操縦桿を引くイメージから上下が逆転しているものが定番だ。ところがNordlander氏は、「Anthem」の飛行時の操作に、左スティックの左右で平行移動、上下で加減速というキーバインドを採用して、旋回を右スティックに逃がしている。
左スティックの操作を、陸上歩行時の操作に近いものとし、陸上歩行時はカメラ回転、飛行時はプレーヤーキャラクターの回転と操作対象が変化する操作を右スティックとしたキーバインドは、本作には合理的だと言えるだろう。
左右のスティックの役割を入れ替えて、ドッグファイトで標準的な操作との互換性を高めるというアイディアも考えられることから、この判断に至るまでは相当悩ましい日々を過ごしたに違いない。
飛行時のカメラ制御のほうでは、スーパーヒーローらしさを強調して、飛翔の爽快感を増す演出が行なわれている。旋回速度に応じたキャラクターがロール角を深くしていく演出は、誰しもすんなりと受け入れられる表現だろう。実際のところは翼を持たない「Anthem」のキャラクターの場合、航空機ほどの左右の揚力差は生まれないと考えられるため、ロールすることにあまり意味はないと思われる。それでもバンクする表現は、航空機の急速な旋回動作のイメージを想起させ、なによりカッコいい。
また、キャラクターが上昇する局面では背面側が、降下する局面では腹部側を捉えるように、それぞれカメラのピッチ角も変化する。加えて、急上昇、急降下の両方で、画角を変化させたり、画面のブレさせるカメラアニメーションをブレンドして、スピードや空気抵抗が増している様子を強調している。
そのほか、プレイヤーキャラクターの急加速時に、カメラとキャラクターの相対距離が離れ、カメラを置いていってしまうのも、スーパーヒーローに限らず、宇宙船や自動車といった高速に移動する物体の表現として、ゲームや映画のワンシーンでお馴染みの表現と言えるだろう。
さらには、重力影響の表現として、キャラクターのピッチ角が下降の方向に深くなり、急降下を行なうと落下による加速が加わり、移動スピードが上昇するという処理も入っている。角度の付き始めは急速だが60度以上で一定に止まるなどと、必ずしも物理的に正しい重力影響をシミュレートするものではなく、あくまで落下感の演出であるようだが、感覚的にしっくりくる。これもまた、高速に飛行するスーパーヒーローとしては、お馴染みの演出だ。
これらのカメラ制御を加えて、ダイナミックに描写された飛行演出には、個性付けられた躍動感のあるモーションアニメーションの工夫が寄与していることも忘れてはならない。
次に登壇したHoang氏の解説で印象的だったのは、ジャベリンがジャンプしてから飛行状態に移る一連のアニメーションや、飛行中のアクションに対して、ごく短い尺の中にトランスフォーマーさながらの小気味良いアクションが仕込まれていることだ。
陸上から飛翔して飛行状態に移行する一連の流れや、ブースト状態への移行などに、それぞれのジャベリンタイプに似つかわしい個性的なモーションアニメーションが用意されている。また、バレルロールを行って回避するランサーやストームに対して、シールドで防御するコロッサスというように、ゲームデザイン上の差異が設けられている場合も、同様に相応しいアニメーションがデザインされている。
ただ、飛行中のキャラクターは、おおむね足裏の方向から見ることになるため、アニメーションのさまが視認しにくく、シルエットの変化量も体側側から見たときのものと比べて、どうしても小さく見えてしまうため、魅せるという意味では、ちょっともったいないようにも感じられる。
旋回時やバレルロールアクション時には、ロール角に加えてヨー角をもっと大胆に傾けてあげれば、もう少しキャラクターの体側側をカメラで捉えることができるため、アクションが視認しやすく見た目に楽しい。
もっとも、このあたりのさじ加減は進行方向との矛盾で違和感を感じさせてしまう恐れがあるため、さまざまな試行錯誤を経て、リリース版の状態に落ち着いているのだろう。
人間、子どもの頃に抱いたヒーローに対する憧れは、いくつになっても忘れることはできない。プレーヤーに対する視覚的なフィードバックから得られる爽快感は、プレイ中の妄想力を高めると同時に、キャラクターとの一体感を強固なものにする。
カメラとキャラクター、それぞれのアニメーションに対する工夫を行う際、作品性によっては「Anthem」のアプローチがヒントになることもあるだろう。今後も、それぞれのゲームに似つかわしいアプローチで、ひと味もふた味も違うプレイ体験を与えてくれるゲームの登場に期待したい。