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新日本BGMフィルのコンサート「NJBP Concert #1 “古代祭り”」が開催

古代祐三氏「今振り返ると『アクトレイザー』は神ってるクオリティかな」

12月1日開催

会場:大田区民ホール・アプリコ 大ホール

 ゲーム音楽プロオーケストラである新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団(以下、NJBP)の公演「NJBP Concert #1」が12月1日、東京都大田区の大田区民ホールにて開催された。

 NJBPとは前身の「一般社団法人日本BGMフィルハーモニー管弦楽団(2014年に解散)」の創設者であり指揮をしていた市原雄亮氏を中心として結成された、ゲーム音楽を主体として演奏するオーケストラである。

 今回は初のNJBPメンバーのみで構成された単独オーケストラ公演であり、その記念すべき第1弾は「NJBP Concert #1 “古代祭り”」と銘打たれ、作曲家でありゲームプロデューサーでもあるエインシャント代表取締役社長の古代祐三氏が手掛けた曲を中心に演奏された。

 編曲は管弦楽向けに羽田二十八氏が担当、古代氏も数度にわたるリハーサルチェックを含め監修として全面的に参加している。その「NJBP Concert #1 “古代祭り”」のセットリストは以下の通り。

【第一幕】
・DAWN -Theme of NJBP- 作曲:国本剛章

・ザ・スキーム
  I'll save you all my justice

・ベアナックル 怒りの鉄拳 & ベアナックルII 死闘への鎮魂歌
  Fighting in the Street - Dreamer

・世界樹の迷宮『世界樹の迷宮メドレー2018』
  迷宮I 翠緑ノ樹海 - 鉄華 初太刀 - 鉄華 討ち果て朽ち果て - 迷宮V 遺都シンジュク

【第二幕】
・アクトレイザー『交響組曲アクトレイザー2018』
  オープニング - 天空城-降臨 - フィルモア
  人々の誕生 - レベルアップ - 捧げ物
  ブラッドプール~カサンドラ - 魔獣現る - ラウンドクリア
  ピラミッド~マラーナ - アイトス~テンプル
  ノースウォール
  世界樹
  強敵 - サタン
  静寂 - 平和な世界 - エンディング

作曲:    古代 祐三
管弦楽編曲: 羽田 二十八
指揮:    市原 雄亮
演奏:    新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団

“古代祭り”はこうして現実のものとなった

 今回は何と言ってもスーパーファミコン用アクションゲーム「アクトレイザー」の全曲演奏が目玉となっており、市原氏によると、市原氏は1年前から「アクトレイザー」の全曲演奏を企画し、半年かけて練り上げた後、古代氏へ打診し、本公演が実現したという。

指揮・司会のNJBP代表 市原氏。本日もSFCマリオペイント付属の専用マウスパッド片手に観客の心を掴みつつ進行した
演奏の合間に曲やサウンドにまつわる逸話を繰り広げる市原氏とゲストの古代氏。その中で「ベアナックルII」の登場キャラの声は全て(女性キャラクターであるブレイズも含む)古代氏が当てていた事が暴露され、会場内が騒然となった

 まずはNJBP公演での恒例となっている国本剛章氏作曲の「DAWN」を演奏、今回は大規模編成での重厚な音で出だしを飾った。

 そして「ザ・スキーム」を以て古代ワールドの扉が開かれた。「ザ・スキーム」の人気曲である「I'll save you all my justice」は特徴あるベース、いわゆる古代氏が当時得意としていた“ズンダラ節”、当時のゲームミュージック界では珍しいユーロビート調、そしてプログラム演奏ならではの難解なフレーズだが聴いていて気持ちが良いメインパートのソロをいかに管弦楽に落とし込んで表現されるかが見ものとなった。

 果たしてそれは人の手によって見事に再現されることとなる。特にメインパートソロは1ループ目はクラリネット水越裕二氏が、2ループ目はコンサートマスターでもある第一ヴァイオリン小林明日香氏がそれぞれ務めた。

 これは羽田氏が編曲するにあたり、大規模編成だが皆の見せ場を作りたいと心血を注いだ結果であろう。こういった工夫を凝らした演出は全篇に亘って随所に見られた。また、原曲後半のオーケストラル・ヒット(通称オケヒ)も忠実に再現されていた。

 続いて「ベアナックルI」と「II」から1曲ずつメドレー形式で演奏。こちらも「ザ・スキーム」と同様、2016年に公演された「NJBP Live! #4 “The Sun of Ancient”」からのリバイバルとなるが、当時の小規模編成時はビートを表現するためにキックパートとして文字通り足踏みをしていたが、今回は指揮者がいてリズムが測れたこともあり、多彩なパーカッションを用いてのビート表現となった。

 原曲はバリバリのハウス系で、オーケストラとは最も縁遠いところにいるだけに編曲・演奏の技量が問われるところであるが、Fighting in the Streetのイントロが始まるや否やそれらをグランドアッパー(※1)で一蹴。Dreaming時のチェロの見事なソロを経て再びFighting in the Streetに戻り、ステージクリアBGMで締めるというゲーム音楽公演ならではの心憎い演出尽くしであった。

 「ベアナックル」シリーズは海外で高い評価を得ており、今回の公演にも海外からの参加者をちらほら見かけることができた。中にはとても流暢な日本語で古代氏に話しかけていた方も見受けられた。

(※1)グランドアッパー……「ベアナックルII」プレーヤーキャラクターであるアクセルの必殺技。驚異的な性能を誇る。

 ここで撮影タイムとして、自由に撮影して良い時間が設けられた。「DAWN」も短い時間ではあるが演奏され、演奏やゲストの古代氏とのトーク風景も撮影することができ、観客がスマートフォンやカメラを手に撮影を楽しんだ。その写真はSNS等へのアップロードも自由という、NJBPのライブではお馴染みとなったファンサービスに溢れるイベントである。

 撮影タイムの後、第一幕の最後は「世界樹の迷宮」から3曲演奏された。原曲はFM音源だが、リメイクされた「新・世界樹の迷宮」が生音編成であったこともあり、その「新」のテイストを受け継ぎつつ情感たっぷりにフィールドである「迷宮I」を、一転して管楽器系を前面に押し出した勇壮感溢れる「鉄華 初太刀」。それまで大人しかったボンゴの暴れっぷりが見どころである。勢いそのままに「鉄華 討ち果て朽ち果て」へなだれ込み、「迷宮V」へ違和感を感じさせずに流れ落ちていった。行き着いた「迷宮V」ではイングリッシュホルンが優しく出迎え、包まれるように終焉を迎えた。

“神ってる”名曲がいよいよ現世界へ降臨

 幕間では観客席後方から市原氏が小林氏とともに登場。観客にNJBPオリジナルグッズを振る舞うファンサービスイベントを経ていよいよ「アクトレイザー」の全曲演奏となった。本公演では『交響組曲アクトレイザー2018』と銘打ち、8つの楽章で構成されていた。

 この時点でどっぷりと肩まで古代沼に浸かってしまった観客と視聴者にとって待ちに待った瞬間と言えよう。しかもact1のオープニングからact8のエンディングまでほぼ一気に駆け抜けるという、演奏する方も聴く方も息詰まる展開となった。

 まずはact1の「オープニング」。左からホルン、右からトロンボーンが交互に掛け合い、それに弦楽器が徐々に染み込んできて一気に弾けるという原曲を忠実に再現した進行は、当時アクトレイザーのROMカセットを挿して電源を入れて真っ先にこの曲が流れてきた衝撃そのままだった。もうこの時点でお腹いっぱいなのだが、「天空城」がすかさず入り込みそれを許さない。そして「降臨」からの屈指の人気曲である「フィルモア」へ。「フィルモア」は1ループが短めなのだが、2ループ目は小林氏のソロ、3ループ目への移行時は転調を交える等アクセントを付け単調にならないよう進行していった。

 act2はクリエーションモードである「人々の誕生」、「レベルアップ」、「捧げ物」の3曲構成となっていた。レベルアップのジングルは初発のサウンドトラックには収録されておらず、「古代祐三 BEST COLLECTION vol.1」で初お目見えとなっており、「全曲演奏」と銘打つだけのマニアックなこだわりっぷりに脱帽である。「捧げ物」の後半の低音部をコントラバスがセクシーに繋いでいく。この曲だけに限らず、古代氏の曲は低音部がとても艶やかに感じるのは筆者の気のせいだろうか。

 物悲しくも荘厳なact2からact3の「ブラッドプール~カサンドラ」へと移っていく。こちらも「フィルモア」に負けず劣らずの人気曲である。ギャロップよろしくシロフォンが駆け抜けていくが途中で中ボス曲である「魔獣現る」に当たり、中ボスを倒して「ステージクリア」という展開となった。てっきり「フィルモア」からの「魔獣現る」になると身構えていたが、シームレスに曲をつなごうとした場合は「ブラッドプール~カサンドラ」がより適しているのかもしれないと感じた。ここはティンパニとトロンボーンが見せ場を作り、ボス戦の緊張感を見事に表現していた。

 act4は「ピラミッド~マラーナ」からスタート。1ループ目と2ループ目でメイン構成を僅かに変えているのは飽きさせないためだろうか、「アイトス~テンプル」も同様に1ループ目は原曲どおり弦楽器から入るが、2ループ目は管楽器から入ってきていた。

 act5「ノースウォール」、原曲の物寂しい雰囲気をピアノとホルン、そしてファゴットが醸し出した。続けざまにact6の「世界樹」へ移り、決戦へ向かっていく勇壮感を静と動を交互に交えて原曲に忠実に表現した。

 そしてact7では大ボスである「強敵」と「サタン」のバトル2本立て。「アクトレイザー」の一番の山場であろうこの2曲を各パートフル動員で全力でぶつけてきた。

 act8、嵐が去ったような「静寂」のジングルから「平和な世界」。ここも先述の工夫が凝らされており、1周目のメインパートはフルートだが、2周目はトランペットが務めている。最後に「エンディング」が演奏され、実に40分近くもの演奏を終えた瞬間、堰を切ったように拍手が鳴り響いた。この拍手は各パート全てにフォーカスが当たり終わるまで鳴りやむことは無かった。

 その拍手に応えるべく、アンコール「ベアナックル」が始まった。アンコールでは市原氏の誘いで会場全体が手拍子でビートを刻んだ。一体となる会場、第一幕よりさらにパワーアップしたパフォーマンスを見せたチェロパートトップ神野洋平氏のソロ。ちなみに会場の手拍子は俗に言う「うんたん(※2)」だったが、観客席で見ていた古代氏がしっかり原曲のキックに忠実な四分打ち(※3)をしていたのは作曲家のサガであろうか。閉演後のサイン会の際に観客の1人にそれを指摘された市原氏は「四分打ちだとお客さん疲れちゃうからね」と観客を気遣った旨のコメントを残している。

(※2)うんたん……四分休符を「うん」四分音符を「たん」と呼び、1拍休んで1拍叩くを繰り返す。
(※3)四分打ち……1小節内に四分音符を4拍刻むこと。※2に照らし合わせると「たんたんたんたん」となる。

 アンコールが終わっても続く割れんばかりの拍手に、もう1曲とばかり「アクトレイザー」の「エンディング」を演奏。最後に恒例となった3本締めで大盛況のうちに本公演は幕を閉じた。

アンコールにて上着を脱ぎ捨ててソロパートを熱演する神野氏。写真左はコンサートマスター小林氏。

 開幕前、幕間、閉幕後には物販コーナーへオリジナルグッズや古代氏のサントラ等を買い求めるファンが殺到した。また、公演後に市原氏、古代氏のサイン会が行なわれ、こちらもファンが思い思いのグッズにサインを求めて長蛇の列が出来た。

物販コーナーに展示されていたPC8801実機とデモ音源。音源の中身は「ACTRAISER for PC-8801」。古代氏によると、アクトレイザーBGMのプロトタイプとのこと。アクトレイザーの曲はPC8801上で生み出された事を物語っている
閉演後、物販コーナーにおいてグッズ購入者にサインをする市原氏と古代氏。中にはアクトレイザーのROMカセットそのものにサインを希望するファンもいた

 公演を終えて感じたことは、一言で述べると「アクトレイザー」のROMカセットからオーケストラが飛び出してきたような思いを味わった。リリース当時、余りのクオリティの高さに「アクトレイザー」のゲームカートリッジの中には、間違いなくオーケストラがいる(※4)とまで評された古代氏の傑作は、NJBPという力を得てこの現代に鮮やかに蘇ったと言えよう。

(※4)「アクトレイザー」サウンドトラックライナーノーツより引用

 古代氏も「アクトレイザー」という作品自体が四半世紀以上前ということもあり、手掛けた当時はこのような素晴らしい公演の機会に恵まれるとは夢にも思わなかった、作曲活動を続けてきて良かったとのコメントを残しており、生みの親である作曲者自体もとても楽しめる公演であったことが窺えた。

 このように、NJBPはオーケストラとしての編成を意識しつつも、ゲーム音楽演奏集団としてのこだわりを持ち、何よりもライブとしてのエンターテイメント性を大切にし活動を続けている。

 もし本公演で初めて足を運んだ方、生配信を見て興味を持たれた方は、是非ともNJBPのホームページをチェックいただき、今後開催予定の公演に足を運んでみてはいかがだろうか。1粒で3度美味しい思いを味わうこと請け合いである。

"神ってる"古代氏(右)と、その神が降臨したかのような指揮を見せた市原氏(左))