ニュース
プロゲーミングチームSengoku Gaming、直営eスポーツカフェ「SG.LAN」をお披露目
コンセプトは“会いに行けるプロゲーマー”。選手がスタッフとして働くユニークなゲーミングカフェ
2018年7月21日 21:11
- 7月21日訪問
プロゲーミングチームSengoku Gamingは7月21日、福岡筑紫野市にあるSengoku Gaming直営のゲーミングカフェSG.LANをメディアにお披露目した。SG.LANの営業時間は12時から翌日6時までで、利用料は3時間1,000ポイント(1,000円)より。本稿ではメディア向けの説明会の模様をお届けし、その後に午後から行なわれたSengoku Gaming主催のオフラインイベントについては別稿にてお伝えしたい。
Sengoku Gamingは、「レインボーシックス シージ」や「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」など複数のタイトルで活躍しているマルチゲーミングチームだ。国内で活動するプロチームとして唯一九州を拠点としており、選手達のゲーミングハウス兼活動の場となっているのが今回訪問したSG.LANとなる。
SG.LAN自体は、先月6月10日にオープンしており、この時期はPC業界的にはCOMPUTEXがあり、ゲーム業界的にはE3があるということで、それらの話題に埋もれてしまう懸念から1月ほど時期を置いてのお披露目となった。
メディア向け説明会には、Sengoku Gaming「レインボーシックス シージ」部門のSengoku Gaming Extasyに所属する選手達や、Sengoku Gamingオーナーの岩元良祐氏、そしてSengoku Gamingのメインスポンサーであり、SG.LANに機材を提供しているMSIの関係者が参加し、Sengoku GamingおよびSG.LANについての説明が行なわれた。
説明を聞いていて一番おもしろかったのはオーナーの岩元氏だ。プロゲーミングチームの運営には少なからず初期投資が必要となるため、そのオーナーは他業種での成功者が少なくないが、岩元氏はなんと現役の漁師だ。もちろん、小舟に乗って釣り糸を垂れるような“まんが日本昔ばなし風”の漁師ではなく、鹿児島を拠点に大小8艘の漁船を持ち、17名の従業員と共に地引き網を営む漁業者だ。
岩元氏もご多分に漏れず、学生時代にプレイステーション 3の「メタルギアオンライン」でトッププレーヤーまで上り詰めたコアゲーマーで、大学卒業後は一時漁業に専念したものの、経営が落ち着いたことから「レインボーシックス シージ」などのFPSに再び手を出したことが、Sengoku Gaming設立へと繋がっていく。
eスポーツとしての取り組み自体は数年前から実施していたということだが、スポンサーを獲得してプロチームを宣言したのは2017年10月からということで、設立からまだ1年経っていない若いチームだ。ユニークなのは、設立当初からチームとしてゲーミングカフェの運営を前提としていたところだ。
岩元氏自身は、選手やコーチが一カ所に同居し、共同生活を送るいわゆる“ゲーミングハウス”の存在には懐疑的で、eスポーツはただでさえメンタルスポーツの側面が強く、選手としてストレスフルな活動を強いられるにも関わらず、生活自体に別のストレスが発生し続けるのは合理的ではないと判断した。
そこで岩元氏は、ゲーミングハウスの機能を兼ねる形でゲーミングカフェを企画し、MSIのアマチュアチーム支援プログラム「Dragon Project」に応募したところ、見事合格し、同時にメインスポンサーの獲得にも成功する。まさに一石二鳥だ。
SG.LANに置かれている41台のゲーミングPCは、すべてMSI製で、PCのみならず、モニター、マウス、キーボード、ヘッドセットまですべてMSI製で統一されている。奇しくもSengoku GamingとMSIのイメージカラーが黒と赤だったことから、店内も黒と赤で統一されており、MSIのマスコットキャラクターラッキー君が至る所に置かれていることもあり、まるでMSIのアンテナショップのようだ。
Sengoku Gamingの「レインボーシックス シージ」部門の選手達は、プロとしての固定給とは別に、SG.LANの従業員として働き、アルバイト代も含めた収入で暮らしを立てている。住居はSG.LANから徒歩10分ほどの距離にあるマンションを5部屋借り、そこに1人ずつ住んでいるという。7畳ほどの広さの1Kで、家賃は地方らしく25,000円ほどだというが、これも水道光熱費含めてチームが負担している。
岩元氏は、「日本のチームが勝てない理由は環境にあると思います。それを整えることで、世界に勝てる実力を付け、正直今出している月給は安いと自分でも思っていますが、彼らがその10倍、100倍稼げるようにしていきたい」と抱負を語ってくれた。日本のプロゲーマーの多くは、収入や副業の面で問題を抱えているが、それを丸ごと解決する形でゲーミング環境を整えている点は画期的だと言える。
岩元氏の考えでは、プロだからといってゲームだけプレイして大会にだけ登場するのではなく、ゲームファンと交流し、ファンを作り、ファンと話すことも重視している。イメージはAKBで、キャッチフレーズは「会いに行けるプロゲーマー」だそうだ。
岩元氏は、先述したように漁業でも代表を務めているが、眠っている漁業権を買い取ることでビジネスの規模を拡大しているという。漁業は、キツいというイメージが強く、若いなり手が不足し、国が支援金を出してまで後継者を育成しているという現状があるが、実際には一般的な想像を遙かに上回るほど近代化されており、IT化され、かつ儲かるという。Sengoku Gamingの活動を通じて、イベントの賞品にカツオを出すなどして、“本業”である一次産業の魅力もアピールしていきたいと笑顔で語ってくれた。
ちなみにSengoku Gamingの名前の由来は、世界で戦うことを前提に、これまで世界にチャレンジしていた日本のチームはすべて横文字ばかりだったことから、「ガッツリ日本色を出したい」と考え、“戦国”と付けたという。この名前は賛否両論で、「ダサい」という意見もあれば、「日本チームらしくていい」という意見もあるようだ。
ところで、SG.LANの場所は福岡の中心である博多から、西鉄線の特急で20分ほど南に下った筑紫野市にある。太宰府天満宮で有名な太宰府がすぐ東にあり、都心から少し離れている。なぜ博多や天神にしなかったのだろうか?
岩元氏は、「単純に博多や天神に店を出せばお客さんが入るというわけでもない」と切り出し、実際に福岡だけでなく東京や大阪も視察したということだが、天神は土日の集客は凄いが、基本的には仕事をする場であり、平日の集客が見込めないと考えた。Sengoku Gamingの副代表を務める松本孝眞氏が以前韓国に居住し、PCバンの事情に詳しかったことから、ゲーミングカフェはコンビニのように学校帰りに寄るような身近な施設であり、周囲に学校が4校もある現在の場所を選択したという。
新大久保にあるゲーミングカフェは、韓国人や中国人の客も多く、プロ選手も練習に利用することからそれ目的の来店も多く、夜22時に訪れて3時間待ちの人気ということで、いずれはそういった人気店にしたいと考えているようだ。
ゲーミングカフェのシステムは、東京池袋のLFSと同じ、PCCSのシステムを採用し、あらかじめいくつかのゲームやSteamなどのソフトウェアプラットフォームがプリインストールされており、自身のアカウントでログインし、有料のゲームについては自身のアカウント側で購入する必要がある。料金は3時間で1,000円で、後は使った分だけチャージされる仕組み。営業時間はお昼の12時から朝6時までの18時間営業とかなり長い、これを2交代制で回していく。
現時点ではまだ開店からまだ一カ月ということもあり赤字経営で、岩元氏の本業から補填する形で回しているという。パートナーのMSIと共に、半年、1年のスパンでじっくり収益化に取り組んで行きたいという。
MSIからは、Sengoku Gamingのスポンサーになった意図と、SG.LANに展開している機材について説明が行なわれた。
MSIは、PCメーカーの中では、かなり古いタイミングからeスポーツを支援してきた実績を持ち、現在は世界でサポートしているチームはfnaticをはじめ200チームに及ぶ。Sengoku Gamingが応募したDragon Projectでは計8チームと契約を交わし、その1チームがSengoku Gamingだという。対象はアマチュアチームで、ゲーミングギア、ユニフォーム、SNS、イベント交通費のサポートなどを行ない、将来性のあるアマチュアチームを、ネームバリューと実力を兼ね備えたプロチームに育て上げることが目的で、その意味ではSengoku Gamingはその目的を果たしたチームと言うことになる。今後もプロチームとしてスポンサードは継続し、広告や店内装飾の面でSengoku Gamingに協力して貰いながらPCゲーム業界全体を盛り上げていきたいと抱負を語ってくれた。
SG.LANに展開している機材は、MSIのデスクトップチームが日本で展開している、フルタワーのInfinite Xと、スリムサイズのTrident 3の2種類で、数はInfinite Xが10台、Trident 3が30台となっている。Infinite Xについては店舗とは別に、選手の自宅にも1台ずつ納入されており、自宅はNVIDIA GeForce GTX 1080搭載モデル、店舗はGeForce GTX 1070Tiモデル、Trident 3はすべてGeForce GTX 1060搭載モデルとなっている。これなら現行のゲームなら何でも動きそうだ。
モニターも豪華だ。144Hzのリフレッシュレート、1msの応答速度を備えた湾曲型のゲーミングモニターで、24インチモデルのOptix MAG24Cと27インチモデルのOptix MAG27Cの2モデルが配置されている。さらにヘッドセット、キーボード、マウスもすべてMSI製で、トータルコディネートされたRGBイルミネーションが怪しく輝く。MSIファンにはたまらない空間と言える。
ユニークなのは、通常のゲーミングカフェだとスペックに応じて料金が変わるものだが、SG.LANではすべて一律3時間1,000円になっているところだ。当然のことながら、ハイスペックPC、大型モニターから先に埋まるということで、Sengoku Gamingの選手達もInfinite Xで練習することが多いという。
そしてSG.LANの一番の魅力は、Sengoku Gaming Extasyの選手達が、スタッフとして応対してくれるところだ。プロ選手としてレクチャーするのは、法律的な問題で難しいものの、スタッフとして遊び方を教えて貰うのはアリということで、お店の人気ゲームはやはり「レインボーシックス シージ」だという。天神から西鉄天神大牟田線特急で約20分、340円で行ける。ゲームファンは「会いに行けるプロゲーマー」がいるSG.LANに訪れてみては如何だろうか?