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【特別企画】世界の隅々までゲームを届ける! バザールのアジアゲームビジネス奮闘記(後編)

“マイクロeスポーツ”って何だ!? 誰もが選手になれて賞金が稼げる驚きの仕組みとは?

4月取材

取材地:インドネシア バンドン

 バザール・エンタテインメント(以下、バザール)への密着取材レポート後編では、新興市場向けゲーム配信プラットフォーム「Game Bazaar」および、ゲーム配信SNS「Bazaar TV」を紹介した前編に続いて、「Game Bazaar」を介して推進している世界一小規模なeスポーツ“マイクロeスポーツ”への取り組みについてレポートしたい。

新興国向けのeスポーツ“マイクロeスポーツ”とは?

バザールは新興国のeスポーツ振興も目指している
一般的なeスポーツのイメージ。写真はIntel Extreme Masters Sydney 2017のもの
バザールが提唱するマイクロeスポーツの風景

 筆者が“マイクロeスポーツ”という言葉を知ったのは、今年の2月頃だ。ミーティングのためにバンドンから日本に一時帰国していた大和田健人氏(バザール・エンタテインメントCEO)と新宿で会い、正式ローンチを目前に控えていた「Game Bazaar」の最新動向について話を聞いていた際、「マイクロeスポーツというものをやろうと思っているんです」という言葉が彼の口から出てきたのだ。

 筆者は、2001年からeスポーツを取材してきているが、マイクロeスポーツという言葉は聞いたことがない。その定義を尋ねると、インフラの脆弱な新興国向けのゲームプラットフォームである「Game Bazaar」と同様に、インフラの脆弱な新興国向けのeスポーツだという。現在のeスポーツは、PCが主体で、ゲームコンソールやスマートフォンも増えてきているが、高速かつ安定したインターネット回線が必要不可欠だ。このため、インフラがまだまだ脆弱なインドネシアでは、eスポーツが活発ではないという。

 大和田氏は「高価なPCや高速インターネットがなくても、誰でもeスポーツが楽しめるようにならないだろうか?」と考え、「Game Bazaar」のビジネスに組み込む形でマイクロeスポーツを提唱。最小単位2人から、誰もeスポーツアスリートとして賞金が稼げるユニークなeスポーツの形を完成させ、すでに実現化させている。筆者はこの話を聞いて「おもしろい!」と思い、ぜひ現地で取材してみたいと思ったのだ。

 一般的なeスポーツの定義は、競技性のある対戦型ゲームを対象に、ゲームをスポーツとして捉え、大会、リーグを介して勝者を決めるというものだ。勝者には賞金が支払われ、プロゲーマーはその賞金を生活の糧にする。ファンは会場やライブストリーミングを介して観戦して楽しみ、ひいきのチームや選手を応援する。プロ選手の妙技、パフォーマンスをコアコンテンツとしたビッグビジネスだ。

 これに対してマイクロeスポーツは、対戦したいと思う2人と、スマートフォンが2台あれば成立する。インターネット回線も会場も審判も不要で、特別な賞金も用意する必要がない。ファンは参加者を取り囲むギャラリーたちだ。賞金は参加者から集められた参加費の合計額で、そこから手数料を差し引いた額が勝者に支払われる。

【マイクロeスポーツの風景】
「Paint Monster」を使った体験イベント。オンライン環境がなくてもeスポーツ大会が行なえるのは、マイクロeスポーツならではだ

誰でもeスポーツ選手になれて賞金が稼げるバザール独自の仕組み

試合参加料を払う。「Paint Monster」は3 Bazaar Gold
戦いに挑む
勝敗に応じてBazaar Goldが支払われる

 仕組みはこうだ。バザールが「Game Bazaar」を介して提供しているマイクロeスポーツタイトルは、eスポーツモードを搭載しており、誰でも賞金付きのeスポーツ大会を主催できる。ホストが大会を立ち上げる際に、バーコードが表示される。参加者はそれを各自のスマートフォンで読み込ませることで、大会への参加が可能となり、最大8人による大会が成立する。

 対戦形式は、1対1で勝敗を競い、シングルエリミネーションで最終勝者を選ぶものと、シングルプレイでスコアを競い、スコアをホスト側にアップロードする形で勝者を決めるものの2種類が用意されている。ホストとのデータのやりとりはBluetoothが使われ、まったくネットに繋がらない環境であってもeスポーツ大会が楽しめる。

 今回、対戦型のゲームは「Paint Monster」と「Space Strikers」をプレイすることができた。開発は日本のゲームデベロッパーのバンガードが手がけており、純国産タイトルだ。「Paint Monster」は、「スプラトゥーン」の“塗り”の要素だけを2次元に落とし込んだような塗りゲーだ。スマートフォンの傾き機能を使ってキャラクターを操作し、どんどん地面を自分色に染めて勢力を拡大していく。

 塗りの範囲を拡大できる巨大化アイテムや、敵キャラクターを倒せるようになるハンマー、接触すると一定時間移動不能になるシャークなどが一定時間毎に登場し、それらのアイテムを効果的に活用することが勝利のカギを握る。誰でも競技性が直感的に理解でき、バザールブースの試遊会でも男女問わず人気だった。

 「Space Strikers」は、2人同時プレイスタイルのシューティングゲームとなっており、見た目は、オーソドックスな縦スクロールシューティングだが、味方を邪魔することができ、目の前の敵をふたりで協力して撃破しながら、味方を邪魔したり、味方に先んじて敵を倒し、より高いスコアを稼いでいくというユニークなゲームだ。

 また、スタンドアロン型のeスポーツタイトルは、3マッチパズルや、ラン系のアクション、タイミングを図るミニゲーム集や、「スーパーマリオ」風の横スクロールアクションなど、様々なものが用意されていた。これらはゲームとしては完全にオフラインゲームになるため、ポーズ機能があり、マイペースで競技に挑める。

【「Surga Permen」の場合】
ゲームを起動する
ルームを作成する
プレイ料金を支払う
このバーコートを対戦相手に見せて読み込んで貰う
あとはプレイするだけ
獲得スコアがもっとも高いユーザーがBazaar Goldが獲得できる

 対戦型のゲームで1プレイは3 Bazaar Gold(3,000ルピア、約23円)。スタンドアロン型のゲームでは1プレイ1 Bazaar Gold(1000ルピア、約7.8円)。対戦型のゲームで8人が参加すると最大24 Bazaar Gold(24,000ルピア、約189円)となり、ここから一定額の手数料を差し引いた額が勝者への賞金となる。

 Bazaar Goldは、レポート前編でも紹介したようにバザール独自の仮想通貨で、ユーザーはディストリビューターを介して入手し、ゲームプレイ料金として使用する。このBazaar Goldをユーザーが使ってくれることでバザールもディストリビューターも儲けることができるわけだ。重要な点は、この仮想通貨そのものの現金化を認めているところで、要するにゲームの巧いプレーヤーはGame Bazaarを通じてお金を稼ぐことができる。これがバザールが推進する“マイクロeスポーツ”の全貌だ。

【「Eddie Adventures」の場合】
ゲームを起動する
ルームを作成し参加料を払う
バーコードを参加者に見せて読み込んで貰う
ゲームスタート
後は通常の1人プレイゲームとしてゲームオーバーまでプレイする
ハイスコアを叩き出せば賞金が獲得できる

 ここまで読んで多くの人が「そんなことして大丈夫なの?」と思ったかもしれない。確かにApp StoreやGoogle Playでは、対戦課金を認めていないし、日本の法律でも賭博と認定される可能性がある。だからこそバザールは、App StoreやGoogle Playでの展開はせずに、インドネシア限定で、Game Bazaarという独自のプラットフォームのみに展開先を絞ってうえでサービスを行なっているわけだ。

 今回、“マイクロeスポーツ”という点にフォーカスして取り上げたが、マイクロeスポーツ対応タイトルが常にBazaar Goldを賭けなければいけないかというとそうではない。通常プレイ料金のみで対戦できるモードもあるし、インドネシア国民の大多数を占めるムスリムに配慮して、賞金を第三者に“寄附”するモードも用意する。

 というのは、ムスリムでは、豚肉を食べることと同列で賭け事を禁止している。この“マイクロeスポーツ”が賭け事かどうかについては解釈がわかれそうだが、1人だけが儲けることを嫌うユーザーも現れることが予想されるため、先手を打って寄附モードも取り入れたという。これはインドネシア人のスタッフから出てきたアイデアだということで、バザールならではの“レリジョライズ”(宗教的なローカライズ)と言えそうだ。

【その他のマイクロeスポーツ対応タイトル】

ハイスコア競争をeスポーツ化したバザール。独自の発展に期待

人が人を呼ぶマイクロeスポーツ。かつての日本のゲームセンターの風景だ
約30年前の当時、ハイスコア争いが盛り上がった「ファイナルファイト」
街で見かけた「Mobile Legends」のeスポーツ大会を告知する看板、賞金総額は22,500,000ルピア(約177,000円)。高速インターネット回線の普及に合わせて、通常のeスポーツも当たり前になりつつある

 正直な所、この“マイクロeスポーツ”が日本に上陸することはなさそうだし、世界でポピュラーな存在になるとも思えないが、新興国ならではのニーズと、バザール独自のシーズをうまく組み合わせた絶妙なソリューションだと思う。とりわけ、ハイスコアをみんなで競うという発想は、我々ゲームファンが久しく忘れていた感覚ではないだろうか。

 筆者自身、現地のゲームファンが“マイクロeスポーツ”を楽しむ風景を見て、個人的なeスポーツの原風景である1980年台後半に大流行したゲームセンターでのスコアアタックを思い出した。世間的にスコアアタックというとシューティングゲームを指すことが多いが、筆者の場合は、シューティングは苦手だったため、「ドラゴンバスター」(1985年、ナムコ)、「ワンダーボーイ モンスターランド」(1987年、ウェストン)や、「スプラッターハウス」(1988年、ナムコ)、「ゲイングランド」(1988年、セガ)、「天地を食らう」(1989年、カプコン)、「ファイナルファイト」(カプコン、1989年)などなど数え上げればきりがないが、当時、毎週のように登場していたきら星のアクションゲームを友人と一緒に、あるいは代わる代わる遊んでスコアを競い合った。

 当時のゲーマー御用達雑誌だった月刊ゲーメストの副題が「ゲームファンのためのハイスコアマガジン」だったことからもわかるように、当時のゲームファンの巧さの指標はスコアだった。その後、1991年には現在のeスポーツが原型となる「ストリートファイターII」と共に、ハイスコア時代は幕を閉じ、対戦格闘という新たな時代が幕を開けた。

 バザールがインドネシアで展開している“マイクロeスポーツ”は、そうしたeスポーツの原風景を思い出させてくれるもので、とてもよい体験だった。ぜひ現地独自の発展を遂げてくれることを期待したいところだ。