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「Horizon Zero Dawn」のクエストはMMORPGとFPSのノウハウの融合

空間が支配するアクションゲームのクエストは“爆弾”だ!!

3月19日~23日開催

会場:Moscone Center

 自社に前例のない完全新作に求められるゲームデザインとは何か。「Horizon Zero Dawn」はGuerrilla Gamesにとって、過去5作品連作してきたシューター「Kill Zone」シリーズとはまったく異なる世界観、まったく異なるジャンルの意欲作だ。

「Horizon Zero Dawn」シニアクエストデザイナーのBlake Rebouche氏

 「Balancing Action and RPG in 'Horizon Zero Dawn' Quests(「Horizon Zero Dawn」のクエストにおけるアクションとRPGのバランス取り)と題したセッションでは、登壇したBlake Rebouche氏によって、新作に臨む際の知見が共有された。少々時間が経ってしまったが、GDC2日目の興味深いテーマであったためご紹介したい。

 「Horizon Zero Dawn」(以下、「HZD」)のシニアクエストデザイナーのRebouche氏は、生粋のGuerrilla Gamesっ子ではない。同氏は、ZeniMAXの「The Elder Scroll Online」やBioWareの「Star Wars: Old Republic」といったMMORPGで、サービス中のコンテンツ追加やレベルデザインといった役割で活躍してきた人物だ。Guerrilla GamesがオープンワールドのRPGに挑戦するにあたり、外部から多数の人材が合流しているが、Rebouche氏もそのひとりということになる。

 ご承知の通り、オープンワールドのゲームでは、プレーヤーが任意に行動できる範囲が広く、いわゆるクエストを積み重ねてストーリーが紡ぎ出されるスタイルのゲームが多い。ストーリーをドライブするイニシアチブはプレーヤーが握っており、自由でスケールの大きい冒険活劇が演出される。

 MMOは、一般的にゲームに流れる確たる1本のストーリーラインといったものは弱いものの、複数のプレーヤーが同一コンテンツを体験して、相互にコミュニケーションすることを考慮に入れたクエスト設計がなされる。クエストを積み重ねることで、世界観やプロットを、プレーヤー自身の解釈やゲーム体験を重ね合わせながら、経験的に理解し、登場キャラクターに感情移入していくという意味では、オープンワールドのシングルゲームと共通する部分も多い。

【コンセプトアート】

 さて、Rebouche氏がプロジェクトに合流した際の「HZD」の初期段階は、どんなものだったのだろう。「HZD」は、ユニークな世界設定が、コンセプトアートが先行する形で進んでいた。すでに美しい自然につつまれた世界や、そこに潜むメカ、Aloyのキービジュアルの製作が進行しており、そのコンセプトは最終の製品に受け継がれている。

【初期ストーリーボード】

 一方のクエストはというと概要が見えてきている段階で、あらすじとしては7つのキーになるエピソード項目が挙げられていた。それをふくらませる形で、最終的に16項目からなるメインチャプターが決定される。当初のものから、序盤から中盤にかけてと、最終章の部分に対して、比較的多くのエピソードが挿入されている。このストーリーチャプターを、具体的なゲームプレイのなかに落とし込むのが、Rebouche氏らクエストデザインチームの仕事だ。

 一方で、クエストの舞台となるフィールドの構成に目を移すと、本作は、大きくオープンワールドの地上部分と、バンカーの地下部分で構成されている。両者のゲームプレイにおける役割も対照的だ。MMORPGのレベルデザインで、経験則のあるRebouche氏でも、ストーリーのクエストへの落とし込みについて、当初はどうしたものかなと考えあぐねたという。

【Free Heapのクエストシーン】

 そこで、本作のゲームプレイを確立させるために、Free Heapのフィールドではどうしても実験的にならざるを得なかった。概念的ではあるが、フィールド同士の行き来の捉え方も、Free Heap、Scrapper Den、Bandit Campの3ヶ所それぞれを個別に捉えて相互に行き来する考え方から、3者を包括的に捉える考え方に改める必要もあった。

 ストーリーを追ってもらうために、理想的なルートを想定しても、プレーヤーの導線を規定できるものではないから、当然元来た道を引き返すルートを取る可能性もあり、それに対処する必要もある。そこで、あくまで自由度を保ちつつ、HUDにプレーヤーをナビゲートする誘導表示を追加している。

 この手のシステマチックな表示表現は、世界観との一致や、プレイの没入への配慮、そもそもゲームデザイン的にイージーな解決策であるため、なかなか落とし所が難しい。ゲームでは古来から伝統的に許容されている手法ではあるが、「HZD」のようなモダンなゲームには、もう少し工夫が欲しいところだ。この点は、バディを同行させることで、自然にナビゲートする「Uncharted」シリーズの方が洗練された印象を受ける。

【Free Heapクエストデザイン】

 Free Heapのフィールドを振り返って、Rebouche氏は、こうまとめている。本作のオープンワールド部分は、MMOゲームとの比較では、クエストの流れがよりまっすぐであるということ、ストーリーをプレーヤーにとってのゲームプレイの基本的な筋道として存在させているということ、プレーヤーをナビゲートする表示表現のシステムに大きな力を割いているとのことだ。

 Rebouche氏の振り返りは、その通りだろう。事実、プレーヤーが求めるのは、自由度といっても分解能の細かいワールド内での生活の営みではなく、自らが能動的に行動して道を切り開く、ゲームプレイのイニシアチブだ。このあたりは、はからずも同日にセッションを行なったNaughty DogのJosh Scherr氏も同趣の発言をしていた。

 一方で、Scherr氏が、ストーリーに分岐があることの複雑さを強調していたのに対して、Rebouche氏はMMOゲームほどではないとしているところは対照的だ。もちろんゲームが違うわけだから、同一の対象を捉えて発言したことではないが、両者の出身背景の違いが、物事の捉え方や、スピーチでの表現の違いに影響していて興味深い。

【Free Heapクエストデザイン】

 バンカーの代表格The Grave-Hoardでは、当初は、直線的に進むプレーヤー導線想定と戦闘発生エリア、迂回する第2のプレーヤー導線想定で、本フィールドでの戦闘のゲームデザインを行なったが、フィードバックは散々なものだった。

 いわく、状況がわかりにくく、単純すぎて、興味がそそられない、まるで「Kill Zone」の出来の悪いレベルのようだという。本来、アクション性が最も高まる戦闘の舞台となるフィールドでは、最もエキサイティングな体験を提供するものにしなくてはならない。Rebouche氏には、シューター開発の経験がなく、いい仕事ができなかった。

 しかしながら、多くのタレントを擁するデザインチームには、もちろん「Kill Zone」シリーズで経験を培ったシューターのエキスパートもいる。そこで彼らと協調しながら、最高のゲーム体験を提供すべくレベルデザインが進められていった。

【The Grave-Hoardレベルデザイン】

 わかりやすくするためには、フィールドの出入り口部分、迂回路、側面攻撃可能な線選択肢などは、プレーヤーに明確に示さなければならない。また、敵の位置や隠れ蓑として利用できるオブジェクトも同様に明確にしておく必要がある。とはいえ、例えば、照明によってプレーヤーを誘導するといったように、これらのわかりやすさは、すべてゲーム内のビジュアル、環境、ライティングによって実現しなくてはならない。

 この部分にまでシステマチッックな表示表現を加えたり、テキストで説明をしてしまったら、プレーヤーが試行錯誤のうえ攻略法を発見するという楽しみを奪ってしまうことになる。

 また、環境の最適化としては、敵との多段階遭遇、閑居全体を通してプレーヤーを効果的に誘導するための導線、側面攻撃チャンスの提供、同一エリア内の複数ルート、名場面の多様性といった事項を考慮して行なっている。

 そもそもバンカーという行動ルートが制約される閉鎖空間を導入しているのは、作為的な攻略要素を盛り込みやすいからだ。素地はあることから、こうした改善をつみ重ねることによって、オープンフィールド部分とは異なる緊迫感のあるバトルフィールドに仕上げている。

【フィールドでのアクション】

Rebouche氏ふたたび

 最後にJesse Schell著作の「Art of Game Design」を引用して、Rebouche氏は、RPGとアクションのゲームデザインを対比してくれた。

 いわく、RPGでは、ストーリーを通じて、クエストがプレーヤーを導いてくれるのに対し、アクションではゲームプレイという挑戦を通じて、空間がプレーヤーを導いてくれる。RPGでは、どのようにプレーヤーがクエストに挑むのかを考慮しなければならないのに対して、アクションでは、どのようにプレーヤーが空間に対して挑むのかを考慮しなければならない。

 RPGでは、プレーヤー行動は誘導されなければならないし、プレーヤーの回り道は阻止するようにはすべきだが、アクションではプレーヤー自身による行動そのものが楽しみである。RPGではクエストは意味のあるものでなくてはならないが、アクションでは、クエストは“爆弾”を抱えていなければならない。

 こういった格言の類はいかようにも解釈可能なものなので、下手に寸評を加えることは差し控えるが、この対比に示唆されていることには、確かに意味がある。古典的なRPGには、たとえ空間内を探索するものであっても、それはなんらテキストで表示される選択肢を選ぶのと実質的に意味が変わらないものも多数存在した。位置や、射線、軌道、効果範囲といった空間的要素は、アクションゲームのデザインの流れだ。コンピュータRPGの主要な楽しみ方のひとつにキャラクターの育成があり、その結果として、RPGはプレーヤー誰しもに勝利する喜びを与えてくれる。

 時代は変わり、今やRPGといっても、なんらかの形でアクション要素を有しているものが多くなった。ファンタジックな題材でも、古典的なRPGと比較すると、格段に活劇感が飛躍するのだ。「HZD」のように、アクションから獲得した“爆弾”で、ゲームの流れを大きく昇華させたアクションRPG作品が増加することは、素直に喜ばしい。