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【必見! エンタメ特報】「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」

テーマは歌姫達の絆! キャラクター性と見所を磨き上げた劇場版

2月9日より公開中

 2月9日より、全国の劇場で「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」が封切られた。筆者はこの映画を待ち望んでいた。「マクロス」シリーズのファンであることに加え、映画となることで「マクロスΔ」のさらなる発展、何よりも映画に出るであろう新メカと、その商品の登場を期待できるからだ。実際映画も非常に見応えがあった。今回は映画の魅力を語っていきたい。

 「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」は、TVシリーズ「マクロスΔ」をベースに、構成を改め新作パートを追加し2時間の劇場映画にまとめ上げた作品となる。その名の通り5人の女神達による戦術音楽ユニット「ワルキューレ」にフォーカスした構成となっているが、新メカなども登場し、「バルキリーと歌」という「マクロス」シリーズらしい映画となっている。

 そのテーマが強く出ているのが公開された予告編で、ここにはTV版では見なかったシーン、そして戦闘シーンが盛り込まれている。どのような映画になったのか、その雰囲気をピックアップしていきたい。なお、本レビューでは映画の内容や見所にも触れているので、「前知識なしで映画を見たい」という人は注意して欲しい。

【「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」本予告】

「マクロスΔ」を再構成、キャラクターを掘り下げ、テーマを強める面白さ

 「マクロス」シリーズは第1作目の「超時空要塞マクロス」から、TVアニメ版と映画「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」の展開や内容が大きく異なるというところが特徴である。本シリーズにおいて映像作品は“解釈の1つである”と設定されているのだ。「マクロス」シリーズは年表が設定されており、“史実”が存在するのだが、後世の人によって様々な解釈がある。TVアニメと映画では同じ史実をテーマとしながら、解釈が異なるわけである。

劇場版のポスター。描かれている女の子達が「ワルキューレ」である。笑顔のイメージの強いフレイアの泣き顔や、描かれた重装備のバトロイドなど見所の多い構図だ

 そしてファンとしては、“新要素”こそが注目である。TVアニメで1度描かれた物語が、映画ではどう変化するのか、人物描写や物語の変化、そして新たな戦闘シーン。ファンにとってその変化こそが映画版に対する期待となる。特に前作に当たる「マクロスF」は2本の映画で物語が描かれ、様々な新要素が盛り込まれてファンから高い評価を受けた。「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」への期待も高いものとなった。もちろん本作は「マクロスΔ」を見るのが初めて、という人に向けても作られている。

 簡単に本作の背景を説明しておこう。本作では地球人類(と和解したゼントラーディ)を中心とする新統合政府が様々な他の知的生命体と出会う時代を舞台としている。この時代、人々は突如凶暴化してしまう謎の奇病「ヴァール症候群」が発生し、その対処法を模索していた。その中で見つけた1つの方法が「歌の力」。星間複合企業体「ケイオス」は歌姫達の歌によってヴァール症候群を沈静、予防する力を持つ戦術音楽ユニット「ワルキューレ」を結成する。「マクロスΔ」はこのワルキューレ達が中心となる。

 そのヴァール症候群を意図的に起こす力を発見したのが銀河辺境の国家「ウィンダミア王国」である。彼らは地球人類やゼントラーディと同じように“プロトカルチャー”に生み出された種族だが、新統合政府からの独立を果たすため、プロトカルチャーの遺跡と“風の歌”によってヴァール症候群をコントロールし、これを武器に戦いを仕掛けてくる。ワルキューレを守る「Δ小隊」とウィンダミアの騎士「空中騎士団」は激しく戦い、ウィンダミアの少女・フレイアは祖国の戦争に心を痛めながらも、ワルキューレの1人として歌の力を信じ、平和を模索しながら命がけで歌い続けていく……。

 劇場版はTVシリーズの要素を再構成するだけでなく、印象的な新作カットを加えて2時間に物語をまとめ上げている。TV版とはスタートから異なり、いきなり宇宙での戦いとなる。アステロイドベルトで発生するヴァール症候群、パイロットの暴走により同士討ちを始める新統合政府の宇宙軍部隊。ここにヴァールを沈静化するため、宇宙用装備スーパーパックと、ワルキューレの歌ろ彼女たちの姿を宇宙空間に届けるための「プロジェクションユニット」を装備したVF-31ジークフリートによるΔ小隊が介入するシーンで幕を開ける。

 ワルキューレの歌はヴァールを沈静化していくが、謎のバルキリー部隊による妨害が入り戦闘が激しくなる。その中でΔ小隊の1人ハヤテ・インメルマンは、戦闘宇域に紛れ込んだ輸送船を見つける。ハヤテは輸送船の中で乗組員の暴走を歌で止めた密航者の少女を発見する。彼女はフレイア・ヴィオン。ワルキューレに憧れ、そのメンバーになるため渡航を禁止されているウィンダミアから密航でやってきた女の子だった。

劇場版ではハヤテはすでにΔ小隊の一員として活躍している

 「マクロス」シリーズは可変戦闘機バルキリーをはじめとするメカアクションと、歌姫(アイドル)の華やかなステージが大きな特徴となる。映画では2時間という“枠”内に全26話で描かれたTV版「マクロスΔ」の基本ストーリーを、新作カットを含める形で1つの物語としてまとめ上げている。しかも初めて物語に触れる人にもストーリーやキャラクターの魅力が伝わるようにしなくてはならない。TV版では総監督、劇場版では監督を務めた河森正治氏をはじめとした映画スタッフはこの難題をきちんとクリアしている。今まで「マクロスΔ」に触れていない人にも、TV版のファンにもオススメである。

 「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」は、その名の通り5人の歌姫を中心に置いて物語が構成されている。新たにワルキューレに加わり、祖国の戦争状態に苦しみながらも成長を遂げていくフレイアだけでなく、謎めいた美女「美雲」、リーダーとして皆をしっかりとまとめようとする「カナメ」、メカニックとアイドルという2つの夢を実現した「マキナ」、天才ハッカーであったが歌の素晴らしさに目覚めた「レイナ」それぞれにきちんとスポットが当てられている。劇場で販売されているパンフレットでは河森氏のインタビューに加え、ワルキューレメンバー5人のキャストインタビューも用意されており、今作の方向性がはっきりと提示されている。

 物語の中で特にしっかり描かれているのが、ワルキューレ達の“絆”である。映画では限られた尺にもかかわらずメンバーの1員として成長するフレイアだけでなく、現在に至るまでのエピソード、アイドルとしての魅力、そして彼女たちに襲いかかる試練が描かれる。その中で1つピックアップしたいのが、パンフレットでレイナ役の東山奈央さんも言及している、ワルキューレの絆をレイナが語る場面である。無愛想で何を考えているかわからない雰囲気があるレイナが、メンバーにその絆を訴えるのは強く印象に残る。彼女が絆を語るからこそ、ワルキューレとしての繋がりがはっきりと伝わってくる。このレイナのセリフは、TV版ではないものだ。

 このように本作では様々な場面でキャラクター性、テーマ性をより強調する要素が盛り込まれている。こういった“掘り下げ”は、TV版が下地にあるからこそできることだと思う。「マクロスΔ」の物語を再構成し、キャラクターの見せ場、作品のテーマをより強調することができる。「マクロスΔ」の物語がどのように“凝縮”されているのかを楽しむことができるのが、本作の醍醐味である。

 今回、初めて「マクロスΔ」に触れる人にとっては、「ずいぶんかわいらしいキャラクターデザインだな」と思う人もいるかもしれない。本作のキャラクター原案にカプコンの「囚われのパルマ」などを手がける実田千聖氏が参加しており、ポスターも手がけている。キャラクターデザインは「ゆゆ式」でメインアニメーターを担当したまじろ氏と、「Persona4 the Golden ANIMATION」でもキャラクターデザインを担当した進藤優氏。映画版の脚本には河森氏と、TV版の構成を手がけた根元歳三氏が参加している。

 世界観デザインにはフランス出身のデザイナーのロマン・トマ氏。メカニックデザインに「劇場版マクロスF」にも参加したブリュネ・スタニスラス氏。美術設定にニエム・ヴィンセント氏が参加している。この3人は河森作品を手がけることも多く、TV版を含め「マクロスΔ」の世界に厚みを加えている。こういった本作ならではの雰囲気を作ったスタッフにも注目していきたいところだ。

歌姫の1人・レイナ。彼女がワルキューレの絆を語る台詞はグッとくるものがある
ワルキューレを非難する人々。アニメにはなかったシーンだ

3DCGによるライブシーンと、新メカ! 見所たっぷりの新作パート

 そして、「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」の注目ポイントはやはり新作パートである。TV版では見られなかった様々なシーンが盛り込まれているのだ。大きく印象に残るのはフルCGで描かれる新しいライブステージ。デジタルセルでの作画とは一味違う、3DCGモデルを使ってのライブシーンが描かれる。アニメでは「プリキュア」シリーズなどを始め、フルCGによる華やかなシーンを盛り込む作品も多いが、「アイドルとコンサート」を追い求める「マクロス」がどのような表現をしていくかはぜひ劇場で確認して欲しい。

 3DCGであることの特性を痛感されるのが空中に浮き上がったモニターにワルキューレ達が映し出されるシーン。モニター内でキャラクターは様々な表情を見せる上、モニターはめまぐるしく場所を変える。手書きの作画では、モニターの角度とキャラクターの描写に説得力を持たせるのにめまいがしてしまいそうだが、3DCGモデルを動かす方式ならば、角度や動きに合わせた描写が可能だ。そこにアニメーター達のセンスが込められることで、強いインパクトをもたらすライブシーンができあがる。

 3DCGだからこそできるカメラワーク、演出、キャラクターの動きなど、様々なチャレンジが伝わるシーンとなっている。個人的な感想としては、このシーンは「VRコンテンツ」を目指しているのではないかと感じた。ユーザーが自由に映像内を動き回り、好きな角度からコンサートを見ることができる、そういう可能性を感じたライブシーンだった。河森監督は20年以上前の「マクロスプラス」で、アイドルがステージを飛び出して目の前で歌うというシーンを作っているが、VRコンテンツならばそういうシーンも可能なのではないだろうか。

3DCGで描かれるライブシーン。演出や構図などで作画ではできない絵作りをしようという気合いが感じられる。ワルキューレ達のCGモデルも作画とは印象が変わる

 他にも様々な新作シーンが盛り込まれているのだが、筆者はやはり「メカ」をピックアップしていきたい。「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」でうれしいのは可変戦闘機バルキリーのロボット形態「バトロイド」での戦闘シーンが増えていることだ。TV版は飛行機形態での戦闘シーンが中心で、「マクロス」ならではの戦いとして楽しめるのだが、やはり可変戦闘機である以上、様々な形態での戦いも見たい。戦闘シーンの追加カットは映画の見所である。

バトロイドの戦闘画面が追加されているのもメカファンにはうれしいところ

 そして新メカである。劇場版のポスターには重装備のメカが描かれているが、こちらももちろん登場する。どのような活躍をするのか、この機体が何かはお楽しみである。そしてもう1つが予告編でも描かれている「リル・ドラケンを装備したVF-31F」である。VF-31FはΔ小隊のエース・メッサーが駆る機体であるが、リル・ドラケンは“敵”側のバルキリー「Sv-262ドラケンIII」の追加装備である。

 なぜメッサー機に敵側の装備がついているのか? 誰がこの機体を操るのか? こちらも劇場でぜひ確かめて欲しい。リル・ドラケンはサブ・エンジンとして独立して可動することで、急激な機体回転や急旋回など、従来の航空機では不可能なマニューバ(空中戦闘機動)を可能にする。「マクロス」シリーズならではの超高速の戦闘シーンを劇場の大きなスクリーンで見れるのはやはり楽しい。そしてもう1つ、メカに関しては“隠し球”があることだけは触れておきたい。どのようなメカが登場するか、楽しみにして欲しい。

「リル・ドラケンを装備したVF-31F」。これまでと異なるマニューバ、アクションを見せてくれる

 筆者は本誌で「DX超合金 VF-31J ジークフリート」のレビューや、「DX超合金 Sv-262ドラケンIII」のレビューを行なっているが、「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」に登場したメカが商品化されるのか、とても期待している。昨今の商品はどれもハイクオリティであり、劇中の活躍を再現できるギミックも盛り込まれている。……その分高価なのは悩みの種だが、今後の各メーカーの動きに注目していきたいところだ。

 TV版「マクロスΔ」は、DVD/Blu-rayでのコメンタリーで河森監督が発言しているが「ライブ感」を意識した制作体制が取られており、設定や物語の細部をあえて作りながら決めていくという形になっていたとのことだ。そのため全体としてみると明かされる真実や、キャラクターへのエピソードなどに尺が足りなかったり、ドラマの展開として似たような流れになってしまう部分もあった。「劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ」は再構成だからこそ、各要素が整理され、テーマやキャラクター性が凝縮され、ストーリーとしてもわかりやすい形になった。

 もちろん贅沢を言えばやはり映画1本という時間は、短い。劇場版2本組みのようにもっとボリュームがあればさらにしっかりと物語を描けたかもしれない。ファンにとっては取捨選択したシーンに対してそれぞれの感想があるだろう。しかし、やはり「マクロスΔ」が様々な新要素も追加され劇場版となったことを祝いたいし、実現させてくれたスタッフに感謝したい。今後映像コンテンツとして販売された際は、映像のチェックなどより細かい鑑賞も楽しみだが、なんといっても劇場での迫力は格別である。ぜひ劇場に足を運び、ワルキューレとバルキリーの競演を楽しんで欲しい。

映画でメッサーがどう描かれるかも注目ポイントだ