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ヨコオタロウ氏×加藤正人氏がゲームの世界観を語る!「Flyers' Lab #2」が開催

11月13日 開催

左からモデレーターの下⽥翔⼤⽒、「シノアリス」プロデューサーの前⽥翔悟⽒、原作・クリエイティブ・ディレクターのヨコオタロウ⽒、「アナザーエデン」の加藤正⼈⽒、ディレクターの古屋海⽃⽒

 グリーのアプリ開発スタジオであるWright Flyer Studiosは、同スタジオが主催する業界交流イベントとして「Flyers' Lab(フライヤーズ ラボ)#2」を開催した。

 前回の#1(シナリオ編)に続き、今回は「SINoALICE ーシノアリスー(以下、シノアリス)」や「NieR」シリーズ、「ドラッグオンドラグーン」シリーズを手掛けるヨコオタロウ氏と、「クロノトリガー」など「クロノ」シリーズ、そして「アナザーエデン 時空を超える猫(以下、アナザーエデン)」を手掛ける加藤正人氏を招き、「世界観」をテーマに座談会を行なった。本稿ではそのイベントの様子をお伝えしたい。

お2人に聞く、「ゲームの世界観」について

「世界観のアイデアの源泉は?」

 今回は「世界観」をキーワードとするイベントということで、両氏の作り上げてきた世界観はどこから着想を得ているのか?という話題からスタート。

 加藤氏はその質問に対し、それは自らの「全て」だと答えた。モノを作るということは人生における経験の全てを「スープのように煮込んで」その時々で完成したものを取り出し、生きてきたことの証として作品を生み出しているのだという。そんな加藤氏は「子供のころから絵を描いたりモノをつくっていた」と語り、その当時からモノを作り続けて生きていくことを目指して今に至ったのだという。

 一方、ヨコオ氏はアイデアの源泉をスタッフの数やその他のリソースという意味での「お金」だと語る。使えるリソースによって作れる作品の規模は定まってくるため、アイデアに関しては「適当に考えている」ということで、そのアイデアを実現することにこそ注力しているのだという。

 また、ヨコオ氏がクリエイターを目指すきかっけとなったのは大学時代読んだ「ハイブリッド・チャイルド」だという。この小説に「新しいものを見られた」という喜びを感じて、今の自身の作品でも世界観やストーリーをひっくるめて新しい体験と物語のゴールの新しさを提供することを心がけていると語る。その上でプレーヤーに色々考えて欲しいという想いから、「妄想を豊かにできるもの」を目指して作っているのだという。

 それを受けて加藤氏は、感じ方はプレーヤーである受け手に委ね、自らは「自分が作りたいものを本気でひたすら作るだけ」と語り、制作における考え方の相違が見られた。

「自身にとって世界観とは?」

 加藤氏はまずは面白いゲームありきという考え方で、ここに強烈に力点を置いていることが語られた。そうした面白いゲームという着想に引っ張られて、相応しい世界観やキャラクターを設定していくのだということで、ここでも加藤氏は「無から有は生まれない」という表現で、"アウトプット"するための"インプット"の重要性について語っており、制作の際には締め切りと戦いながらそうした自分の内部にあるものを絞りだしていくのだという。

加藤氏はアイデアを出す際にキャラクターや風景などの落書きからスタートするのだという。画像は「アナザーエデン」の例として掲示された各時代の地図。最初に白地図を描き、ストーリーを描きながら村や地形などを書き足していくのだとか

 一方ヨコオ氏は「感情のゴール」というストーリーの着地点を重視するため、そこに至るために必要な情報だけを盛り込んでいき、その過程に必要ないと判断したものはどんどん削ぎ落していくのだという。マップなどはほとんど描かず、描いたとしてもこれはストーリーの構築の為ではなく、リソースに応じて制作が可能な世界の規模を設定するためなのだと語った。

 世界観という視点では松野泰己氏の「タクティクスオウガ」などを例として挙げ、こちらを世界観を堪能するのが楽しいつくりだとするならば、自らは「人間同士の群像劇を描くタイプ」だと分析。そういった意味で「世界そのものはざっくりでいいのかな」と考えているのだという。

「クリエイターとして何を大切にしているか?」

 ヨコオ氏は「やりたくないこと、イヤなことをなるべくやらない」ということを大事にしているのだという。「ドラッグオンドラグーン」の制作時には、世界観やマップを作ってほしいというプロデューサーに対し、ヨコオ氏はプレーヤーがマップの地名を覚えたりすることを「コスト」だと捉えており、自身でも力を入れるべき点ではないと感じていたのだという。

 そのため結局ユーザーにコストを強いないよう「森の国」、「海の国」など、わかりやすい名前にしたほか、マップそのものはヨーロッパの地図の上下左右を反転させ、「それっぽくした」のだという。一方で、やりたくないこと、イヤなことを良い方向に改善するため、自ら動くことの重要性についても言及した。

イヤなことの1例として、なんと今回のスライドのフォーマットについて言及。ボックスの端や文字指定のフォーマットが揃っていないことを指摘し、改善案を提示していた

「世界観」がゲームに宿るまで

「世界観はどのように作られていったか?」

 ここからは「シノアリス」のプロデューサー前田翔悟氏と、「アナザーエデン」ディレクターの古屋海斗氏も登壇。チームによる制作の進行などに話題は移っていった。

 「シノアリス」について、ヨコオ氏の経験してきたコンシューマーの作り方と、ポケラボのスマホゲームの作り方の違いに戸惑いがあったと前田氏は語る。それについてヨコオ氏は、自身は普段スマートフォンゲームはほとんどプレイしておらず、プレイする際にもほとんどシナリオを読まないため、シナリオを「書きたくなかった」とコメント。ここでもやりたくないことはやらない、というポリシーが出た形で、1タップで飛ばせるように「短いポエムならば」と、シナリオを作っていったのだという。

 また、ヨコオ氏はキャラクターのテイストやUIの調整については初期からかなり関与していたとのこと。初めのミーティングで話したことも主にUIのことだったと語り、自分がイヤだと感じるものを改善していったのだという。また、ゲームの基本となるUIはもちろん、担当するイラストレーターが異なることによってキャラクターのテイストがバラバラになってしまうことを良しとせず、統一感を持たせるように指示をしていたという。

 一方「アナザーエデン」チームはゲームの構成から話し合っていったと古屋氏。ゴールデンウィーク前にミーティングを行なったが、ゴールデンウィークが明けると加藤氏は「アナザーエデン」の骨子になるシナリオをほぼ完成させていたという驚きのエピソードが明かされた。加藤氏は「作るのが好きで仕方ない」ため、休みなく仕事をすることに対してさほど抵抗がないのだという。

 また、制作過程の一例として「魔獣王ギルドナ」の話題に。加藤氏のアイデアを原案としてチームで製作を進めたということだが、古屋氏の発案により原案にはなかったビームを出すギミックを追加したりなど、加藤氏の"原案を超える"べく、初期構想にはなかった新たなアイデアを盛り込んでいったのだということだ。

幻視胎の原案と完成データ。加藤氏は完成版をみたとき、その完成度に「やられた!」と悔しさすら感じたという
「魔獣王ギルドナ」の原案と完成データ。当初はビームを撃つ予定などはなかったのだが、新たなアイデアとして盛り込まれたのだという

 「アナザーエデン」チームは「クリエイティブに関しては常に本気なので、立場も何も関係なく面白いものを作ったもの勝ち。お互いリスペクトし合って、本当に面白いものを作りたいんだという願いのもと取り組んでいる」と古屋氏。これ受けて加藤氏は、「うちのチームは常に全力疾走」だと語る。チームの誰かが「全力疾走」しており、チームがその先頭を走る誰かに追いつき、追い越そうという空気の時はチームが上手く回っているときなのだという。

 こうした「アナザーエデン」は若手のメンバーが多く在席しているということで、加藤氏は「僕からすると子供のようなもの」で、「面白いゲームはこうやって作るというのを見せてあげたい」と語る。これにはヨコオ氏も「インタビューは嫌いだが、セミナーやメイキングなどを通じて若い世代に情報を共有していきたい」と後進を育てるということを意識していると述べた。

 ヨコオ氏はこの流れの中、クリエイターの世代についても言及。かつてナムコに在籍していた際、上の世代から押さえつけられていたということに触れつつ、加藤氏や「ファイナルファンタジー」生みの親である坂口博信氏は"第1世代"のビッグネームで、いわゆる"レジェンド"と呼ばれる世代だと語り、「レジェンド達は皆自信に満ちている」と指摘。一方ヨコオ氏は自らを1970年生まれの第3世代だとして、「自信はないし、ねじ曲がっている」、レジェンドたちの光に当てられて腐ってしまった人たちだと自虐的に語った。

 そして、「クリエイティブの世界はマウンティングのし合い。誰かの意図をねじ伏せて折っていかなければならない」と語ったうえで、ヨコオ氏はそのことに罪の意識を覚えているが、レジェンド世代はそれを全く自覚なくやっていると指摘。

 これを受けて加藤氏は、自らが第1世代であったとしても「上からモノを言うのは大嫌い」だということで、「自分も1企画であり1プランナー」であるが故に、「アナザーエデン」チームでは若手から意見が飛んでくることも多いと語った。

 そうした環境の中、チームで面白いものを創ろうと様々なアイデアが出てくるが、やはり最後には1つの形にしなければならない。その過程で不採用となったアイデアに対し、古屋氏は「最後には納得感があるように努力はしている」のだと語った。

「その世界観を実現する上での工夫とは?」

 「シノアリス」について、ヨコオ氏は「"世界のトンマナ(編注:トーン&マナーの略。デザインなどにおいて統一感を演出するためのガイドライン)"を整える工程が1番多かった」と振り返る。これが1度決まればあとは大きなリテイクもなく、スムーズに進行していったということだ。

 ヨコオ氏は特に彩度の高いUIが嫌いだということで、ゲームのUIやデザインなどの色味をその場で調整できるようなヨコオ氏用の専用端末までもが用意されたという。

 また、前田氏はヨコオ氏を知る努力としてTwitterを逐一チェックしていたと述べ、ヨコオ氏は「Twitterの距離感はほぼ他人。直接聞けばいいのに!」とコメント。あまりにももっともな指摘に会場が笑いに包まれる一幕もあった。

 対照的に「アナザーエデン」ではUIを世界を阻害しないよう、なるべく見せない方向で製作しており、ここには加藤氏はあまりタッチしていないということが古屋氏より語られた。

 また、古屋氏は「アナザーエデン」は開発中にデザインが大きく変更されたことにも言及。2頭身のキャラクターがいつしか加藤氏の世界観にそぐわないものになってしまっていたということで、「あの変更は避けられなかった」と語る。加藤氏自身は、「ファミコンの時代には2頭身のキャラクターを用いてシリアスなストーリーを描いていた」という経験もあり、当時さほど問題視はしていなかったということだが、「よく思い切ってガラッと変えたな」と評価した。

「今回このチームでゲームを創ってどうでしたか?」

 「シノアリス」、そしてポケラボに対してヨコオ氏は「若い人が多くて、熱意があって吸収が速い。あらゆる面ですごいスピード感を持って仕事をしていて、その中で進化もしている。この人たちは将来的に凄いものをつくるんだろうなと思う」との印象を語った。

 前田氏は、「クリエイターはクリエイティブでなければ意味がない」と前置きし、ヨコオ氏から言われたことをそのまま実行するのではなく、自ら考えて実行すること、そしてやるからにはさらにいいものにしていこうと取り組んできたのだという。その結果が「シノアリス」に生きたのではないかと述べた。

 「アナザーエデン」に関して加藤氏は、20人程度の人数で開発をスタートさせたため、ファミリーコンピュータやスーパーファミリ―コンピュータの制作時代を想起させる懐かしい感覚を覚えているという。そんな懐かしさを感じる環境で、最新のスマートフォンゲームを創っているというその両方の感覚が面白いと語り、「僕はアナザーエデンに携われてよかったと思う」と締めくくった。

「Flyer's Lab #3 『運営編』」開催決定!

 イベントの最後には、次回のFlyer's Labの開催が告知された。シナリオ、世界観に続く第3回目はスマートフォンタイトルの運営についてで、開催は12月18日19時より。

 登壇者は「アンジュ・ヴィエルジュ」、「オルタンシア・サーガ」、「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」などを運営するf4samuraiのCMO佐藤允紀氏、「逆転オセロニア」プロデューサーであるディー・エヌ・エーの香城卓氏、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~メモリア・フレーゼ~」プロデューサー、Wright Flyer Studiosの野澤武人氏を予定している。