【特別企画】
ロジクール「PRO X 60 LIGHTSPEED」インプレッション
全キーカスタマイズを実現! 所有欲をくすぐるクールな60%キーボード
2024年4月23日 16:00
- 【PRO X 60 LIGHTSPEED】
- 2024年5月16日発売予定
- 価格:33,110円
数あるゲーミングデバイスカテゴリの中でも、キーボードほど多種多様なものはないだろう。キーボードのサイズは100%(フルサイズ)、80%(テンキーレス)、そこから5%刻みで60%まで。キータイプ(キー入力の検知)にはメカニカル、オプティカル、メンブレン、磁気、静電容量無接点方式などがあり、そこからキーの高さ別に、フルストローク、ロープロファイル等に細分化される。
ゲーマーの間で重要視されるアクチュエーションポイントはすでに0.1mm単位での設定や調整が当たり前になって久しいが、ラピッドトリガーの登場によって、0.1mm単位での入力のオンオフが可能となった。さらに、ゲーミングキーボード大国中国からは、ガスケットマウントという新トレンドも登場し、リニア、タクタイル、クリッキーといった軸による打鍵感に加えて、“ショック吸収”という新しい潮流も生まれつつある。
ポイントなのは、これらのほとんどは選択肢の提示、カスタマイズ機能の提供であって、ある組み合わせを選べば最強の1台になるわけではないことだ。キーボード界でここ数年で最も画期的なテクノロジーとされるラピッドトリガーにしても、入力の速さと引き換えに、誤入力のリスクとも付き合っていかなければならない。すべてにメリット、デメリットがあり、ゲーマーはそのひとつひとつを慎重に選んでいかなければならない。
「じゃあどうすればいいのか?」ということになる。「最強のヤツください」とPCショップの店員に無茶ぶりするのも格好悪いし、PCショップで触り比べようにも、そもそも自身の中に確たる評価軸を持っているわけでもないゲーマーが多いだろうから、店頭に並ぶ一線級の新製品は「どれも良い!」という結論になりがちだ。そうした時に、ひとつの選択基準になるのが「プロゲーマーが選んだ」という事実だ。ロジクールのPROは、まさにそのお墨付きにこだわったシリーズであり、迷ったときの選択肢になりうる。
今回紹介するロジクールの「PRO」シリーズは、ゲーミングブランド「ロジクールG」の中でも、もっともカッティングエッジなラインナップを擁し、その名の通り、プロゲーマーないしプロを目指すゲーマーに向けたシリーズだ。“いま”プロが欲しい機能だけを抽出した、ある意味使い手に覚悟を求めるクセのあるプロダクトが揃っている。今回は新たに仲間入りを果たす「PRO X 60」を紹介していこう。
ロジクール初となる60%キーボード
「PRO X 60」は、製品名からもわかるように、ロジクールとしては初となる60%サイズのキーボードだ。昔ながらのテンキーまで装備したフルサイズキーボードを100%、テンキーを廃したテンキーレスキーボードを80%、そこからさらにカーソルキー等のカットしたキーボードが60%キーボードだ。これ以上小さいのは、いわゆるキーパッドと呼ばれる左手デバイスしかない。デザイン的には昨年10月に登場したテンキーレスキーボード「PRO X TKL」の姉妹モデルといった印象だ。
サイズは290×103×38mmで、ついに横幅が30cmを切った。これまでロジクールでもっともコンパクトだった「PRO X TKL」(352mm)からさらに6cm近くコンパクトになっている。ちょうどマウス1個分のスペースで、筆者も日頃、テンキーレスキーボード「G913 TKL」(横幅368mm)を使っているが、ここからさらにマウス1個分のスペースを確保できるののはちょっとした驚きがある。ただ、キー自体は、ロジクールが積極的に推し進めていたロープロファイルではなく、フルサイズ/フルストロークなので薄さはない。コンパクトな分だけむしろ厚みを感じるボディで、重量も610gと、多少乱暴な打鍵でもびくともしないしっかりとした安定感がある。
見た目は、最高にスタイリッシュだ。左右上下、ギリギリまで65個のキーが表面を覆い尽くしており、まったく遊びがない。「PRO X TKL」と比較すると、上部のファンクションキー、メディアキー(ボリュームダイヤル、LIGHTSPEED、Bluetooth、ゲームモードボタン)はすべてなくなり、メディアキーが側面に移動したほか、右部の特殊キーとカーソルキーが綺麗になくなっている。これらなくなったキーは、すべてFNキーを使った操作に変わっている。
手元にあるのはホワイトモデルだが、このほかにブラックとマゼンタの計3色展開。どのモデルも、左上のESCキーが、色違いのGキーがはめ込まれており、これがアクセントになっている。この色違いのGキーは、後述するキーカスタマイズにおいて、設定したGシフトキーに差し替えることで目印として活用できる(そのために、本来のESC/全角半角キーも同梱している)。接続は有線およびワイヤレスで、ワイヤレスはLIGHTSPEEDとBluetoothの両対応。バッテリー駆動時間は65時間で、通信範囲は10m。
使って見てさっそく実感したのはカーソルキーがない影響の大きさだ。個人的には、常用することも踏まえて、HHKBのカーソルキー搭載モデルのようにカーソルキーを標準で付けてほしかったところだが、このあたりは「ゲームにカーソルキーは不要」というプロゲーマーの判断が優先されたのだろう。ちなみに、後述するフルキーカスタマイズを使えば、カーソルキー入力を割り当てることは可能だが、カーソルキーの←に割り当てたい位置にあるFNキーは再割り当て自体ができないため、右下をカーソルキーに割り当てて、HHKBっぽく使うという使い方はできない。ゲーム以外も含めて常用したいゲーマー、カーソルキーが欲しいゲーマーは、素直に「PRO X TKL」のような80%キーボードを選択したほうがいいだろう。
初のオプティカルスイッチ「GXオプティカル」初採用も、ラピッドトリガーには非対応
キーキャップは「PRO X TKL」と同じPBT製で、わずかにざらつきがあり、ロジクールの歴代ABS製キーキャップで感じられたペタ付き感は皆無。触り心地は歴代最高だ。スイッチは、従来のメカニカルスイッチから、新開発のオプティカルスイッチ「GXオプティカル」を初採用している。機械的な検知から、光学的な検知となり、耐久性、正確性、応答性を高めている。
打鍵感は、スイッチ機構が変わったものの従来のGXメカニカルとほぼ変わらない。今回試遊したのはリニアだが、今回のGXオプティカルのほうが、ややストレートな押し心地のような気がするが、触感だけで触り比べたら間違えそうなぐらいのわずかな差だ。スペック的にもアクチュエーションポイントが1.9mmから1.8mmに変化しただけで、押下圧は50g、キーストロークも4.0mmで変わらない(なお、タクタイルの押下圧のみ50g→60gに増圧されている)。
そして気になるゲーマーも多いであろうラピッドトリガーには「PRO X 60」は対応していない。アクチュエーションポイントの設定にも対応しておらず、このあたりは「PRO X TKL」の非対応に続いてガッカリするゲーマーも多いだろう。SteelSeriesのAPEX PROを筆頭に、Razer Huntsman V3 PRO、REALFORCE GX1などなど、主要なライバルメーカーは軒並みラピッドトリガー搭載モデルをリリースし、ゲーマーの支持を増やしているだけに、筆者も長年ゲーミングキーボードを見てきている人間として、このタイミングでもロジクールがラピッドトリガーを出さないのは意外な気がした。ロジクールはもともとグローバルメーカーとして、トレンドのキャッチアップは遅めなほうだが、さすがに遅すぎるように思う。
この件についてロジクールに問い合わせたが、現時点でコメントできることはないという回答だった。ドライバアップデートでの対応も原理的に可能だが、こちらについてもノーコメントということで、いずれにしても春のタイミングでのラピッドトリガー対応はなさそうだ。ただ、いつリリースされるかはわからないが、ラピッドトリガーモデルの開発はしていると思う。なぜそう言い切れるかというと、キーボードの入力速度競争に終止符を打つ決定的なテクノロジーだからだ。繰り返しになるが、ラピッドトリガーを搭載すれば上手くなれるわけではないが、使い方の多様性を受容するゲーミングキーボード界において、ラピッドトリガーを提供しない選択肢はもはやないように思う。ラピッドトリガー搭載モデルを待っているロジクールファンは、もうしばらく「待ち」だ。
親指シフトを彷彿とさせる自分だけの入力法を極められる全キーカスタマイズ機能
さて、上記概要を踏まえた上で「PRO X 60」のアピールポイントを改めて整理すると、史上最もコンパクトな60%キーボード、高耐久性のオプティカルスイッチ、そして全キーカスタマイズ機能ということになるだろう。
全キーカスタマイズ機能「KEYCONTROL」は、60%キーボードの宿命として限られたキーを最大限に活用するために誕生した機能だ。先述したようにFNキーなどいくつかのキーは割り当てできないものの、ほぼすべてのキーを自由にキー割り当てが可能となっている。しかも、ShiftやCtrlのほか、FNキー、そしてGシフトを駆使することで、1つのキーに対して最大5つの入力を割り当てられるという盛り過ぎなカスタマイズ機能を誇る。
FNキーやGシフトといった特殊キーを駆使することで、フルサイズのキーボードを遙かに上回るキー入力が可能になるという仕組みはおもしろい。筆者も記者という職業柄、特に筆者より上の世代で、親指シフトを使ってもの凄いスピードで文字入力する方がいるが、「KEYCONTROL」を使いこなせば、そういうことが可能になる。親指シフトのような特殊入力は、専用のキーボードが必要で、汎用性が低いこともあり、ゲーミングの分野には入ってこなかったが、「PRO X 60」は、携帯しての利用が前提になっているため、「KEYCONTROL」でフルカスタマイズした入力スタイルを、どこでも持ち運んで使えるという利点がある。速さと正確性が重視されるゲーミングの分野で、この機能がどれほど有効かは未知数だが、ウィークポイントを補うユニークな機能と言えるだろう。
今回、「PRO X 60」を使ってみて強く実感したのは、圧倒的な省スペース性だ。ラージサイズのゲーミングマウスパッドG640S(460×400mm)のスペースに、PCゲーミング環境がまるっと収まるのは衝撃的で、カーソルキーがないためこれ1台でゲームから日常使いまで全部賄うのは難しいが、ゲーム用途でしばらく使い込んでみようと思っている。
FPSを筆頭としたコアなPCゲーマーは、やはりラピッドトリガー非対応なのが気になるところだろう。「ラピトリ以外考えられない!」というゲーマーは素直に待ちだと思う。ただ、筆者のように、シビアなストッピングが要求される世界に棲んでいないゲーマーには、「PRO X 60」は必要十分な性能を備えているといえる。とりわけ気に入ったのはデザイン面で、このところロジクールのゲーミングキーボードはデザイン面での変化に乏しく、特にプロ仕様のPROシリーズではそれが顕著だったが、ここに来て思いっきり変えてきた。LIGHTSYNCも悪く言えば大人しめだが、良く言えばビカビカ五月蠅くなく、個人的にはとても気に入っている。
「PRO X 60」は、スタイリッシュな60%サイズのキーボードとして、PROシリーズの新しい顔となりそうなプロダクトだ。G913のように全部入りというわけではないが、ロジクールの60%キーボードを待ち望んでいたゲームファンにとっては待望の1台となる。ぜひトライしてみては如何だろうか?
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