【特別企画】

「クレイジー・クライマー」43周年! ビルをよじ登る、奇想天外な傑作アーケードゲームの妙味を振り返る

【クレイジー・クライマー】

1980年11月 稼働開始

 今からちょうど43年前の1980年11月、日本物産からアーケード用アクションゲーム「クレイジー・クライマー」が発売された。

 本作は、主人公(クライマー)を操作して、敵キャラの攻撃や落下物などを避けつつ高層ビルをよじ登り、屋上まで到達すればステージクリアとなるアクションゲーム。数十年の歴史を紡ぐビデオゲームの中でも、本作の独特の遊び方や世界観は、今なお他にに類を見ない珍作かつ傑作である。

 以下、本稿では奇妙キテレツ摩訶不思議、奇想天外な本作の魅力などを改めて振り返ってみよう。

【「クレイジー・クライマー」ゲーム画面】
※写真はNintedo Switch「アーケードアーカイブス クレイジー・クライマー」版(以下同)

難しくも面白い、独創的な操作システム

 本作の一番のキモは、何と言っても左右2本のレバーで主人公を操作する面白さに尽きる。

 左のレバーが主人公の左手、右のレバーが右手の動きに対応しており、左右のレバーを交互に上下に動かすことで主人公が1階ずつ、上へ上へと登っていく。この独特の操作は他のゲームでは体験できない、本作ならではのたまらなく楽しいところだ(※片手で登ることも可能)。筆者が本作を初めてプレイした当時は小学生だったが、ほかに類を見ない操作方法ゆえ、慣れるまでにはかなりの時間を要したと記憶している。だが操作に慣れてからは、よじ登るたびに「ピピッ、ピピッ……」という心地良いSE(効果音)と相まって、ついつい夢中になった。

【アーケード版「クレイジー・クライマー」】

 各ステージで、ときどき開いた窓から出現する敵キャラの「おじゃまMAN」は、植木鉢や空き瓶などを投げ落として(!)攻撃を仕掛けてくる。主人公が落下物に当たるとビルから落下してミスになるが、両手を下げた状態の「ふんばりポーズ」などの姿勢を取っていれば、落下物が直撃しても耐えることができる。落下物が頭に当たったときに、主人公が「イテッ!」と叫ぶボイスが流れる演出も実に面白かった。

窓が開いている所に向かって手を掛け、ビルをよじ登る面白さは本作ならでは。主人公が窓に手を挟まれると、ビルから落下してミスになってしまう
頭上に落下物が直撃しても、両手を下げた「ふんばりポーズ」の姿勢であれば耐えることができる
各ステージの屋上に到達後、ヘリコプターに捕まるとボーナス得点が加算されるアイデアもこれまた面白かった

 「おじゃまMAN」以外の敵キャラ、障害物のアイデアも実に独創的だ。上空からフンを落として攻撃する「しらけコンドル」をはじめ、「ホイヤッ!」と叫びながらパンチを繰り出す「キングコング」、電線に触れると感電する「シビレ看板」、頭上から突然落ちて来る、巨大な「ハズレ看板」など、いずれも一度見たら容易に忘れることができない強烈なインパクトがある。また本作は、当時の人気漫画「ゲームセンターあらし」に登場したこともあり、漫画を通じて本作および敵キャラの存在を知った人も少なくないと思われる。

 数ある敵キャラの中でも、「ふんばりポーズ」を取っても直撃を防げない、すなわちガード不能の「ハズレ看板」は、まさに恐怖の存在。特に、横幅が狭い場所で頭上に出現した場合は、その瞬間に奈落の底に突き落とされる運命が決まってしまうのだからつらい。今までに、いったい何人のプレイヤーが「ハズレ看板」の無慈悲さに涙を流したことだろうか……。

【敵キャラも障害物も奇想天外】
フンを落としてくる「しらけコンドル」
ビルの左右からパンチを放つ「キングコング」
電線に触れると感電するシビレ看板
「ふんばりポーズ」でも耐えられない、恐怖の「ハズレ看板」

ボイスとBGMにも並々ならぬこだわりが

 本作は演出面、とりわけ当時としては豊富な数のボイスとジングルを収録していたのも特筆に値する。

 ボイスが流れるゲーム自体がまだ珍しかった時代にあって、本作は前述の「イテッ!」と主人公が叫ぶほか、ミスをすると「あれ~」という声を発しながらビルから転落したり、ヘリコプターにつかまると「よいしょ」としゃべったり、さらには上の階になかなか進めずにいると「がんばれ!」とプレイヤーを励ましたりするボイスも用意されている。

 各ステージのスタート時のジングルは、マンシーニ作曲の「子象の更新」の一節を使用したジングルが流れ、「しらけコンドル」出現中は懐かしの「しらけ鳥音頭」を、「キングコング」出現中は「ピンクパンサーのテーマ」をモチーフにしたジングルが流れる。また、主人公がつかまると上層部までワープできる効果を持つ「ラッキー・バルーン」が出現中は、パッヘルベルの「3つのバイオリンと通奏低音のためのカノンとジーク」が、つかんでいる間には「ドラえもんのうた」の一節を元に作られたジングルが流れるのも実に面白い。

 極めつけは、各ステージをクリアしたときのジングルがすべて異なっていることだ。本作は全部で4ステージあり、2面をクリアしたときに流れるジングルは、かの有名なスコット・ジョブリンの「ジ・エンターテイナー」が元ネタで、本曲がプレイヤーを祝福するジングルに使えると思い付いた開発者のアイデアは見事としか言いようがない。筆者は今までに40年以上の時間を掛けて数百、ひょっとしたら千種類を超えるゲームをぼちぼちとプレイしてきたが、ステージクリアのジングルがすべて異なる例は、今も昔も極めて珍しいケースであるように思う。

 本作は43年も前に開発された古い作品であるが、嬉しいことにハムスターのアーケードアーカイブスの1タイトルとしてNintedo SwitchとPS4でそれぞれ配信されており、現在でも手軽にプレイすることができる。本作を知らない人は、世にも珍しいツインレバーでビルをよじ登る独特の面白さを、この機会にぜひ一度体験していただきたい。

先へ進めずにまごまごしていると、やがてどこからともなく「がんばれ!」のボイスが流れてくる
「ラッキー・バルーン」につかまると、「ドラえもんのた」の一節が流れる
2面クリア時に、主人公が「ジ・エンターテイナー」のジングルとともに飛び去る光景は実にシュールだ

□PS4版「アーケードアーカイブス クレイジー・クライマー」のページ
□Switch版「アーケードアーカイブス クレイジー・クライマー」のページ