【特別企画】

汗と泥にまみれた白熱の青春物語を描くマンガ「ウマ娘 シンデレラグレイ」が連載開始から本日で3周年

現代に甦る伝説、芦毛の怪物オグリキャップ

【ウマ娘 シンデレラグレイ】

6月11日 連載3周年

 集英社の漫画雑誌「週刊ヤングジャンプ」にて連載中の漫画「ウマ娘 シンデレラグレイ」が本日、2020年6月11日の連載開始から3周年を迎えた。

 「ウマ娘 シンデレラグレイ」はCygamesがアニメやスマホゲームアプリを中心に展開しているメディアミックスコンテンツ「ウマ娘 プリティーダービー」を原作としたスピンオフ作品。カサマツ出身のウマ娘「オグリキャップ」を主人公としたコミックス作品で「週刊ヤングジャンプ」(集英社)にて現在も連載中。紙および電子累計480万部を突破した人気作品だ。

コミックスは2022年6月現在、第10巻までが刊行されている

 物語は名馬の名と魂を受け継いだ、馬のような耳と尾、そして超人的な脚力を持った少女「ウマ娘」達が競争ウマ娘として訓練する施設、ウマ娘トレーニングセンター学園(通称トレセン学園)を舞台に、主人公のオグリキャップが地方から競争ウマ娘の頂点を目指し駆け抜けていく、シンデレラストーリーを描く。個性豊かなキャラクターたちが織りなす青春の物語や、繰り広げられる白熱のレース描写。そして史実の競走馬オグリキャップの歴史をなぞる物語は競馬ファンのみならず、多くの読者を魅了している。今回はそんな「ウマ娘 シンデレラグレイ」の魅力をあらすじと共に、元ネタとなった実際の競走馬の話と合わせてお届けしたい。

1巻~2巻 序章 カサマツ篇

 地方育ちである主人公オグリキャップは、岐阜ウマ娘カサマツトレーニングセンター学園に入学する。競走ウマ娘になるための授業でオグリキャップが走った際、その速さと独特な超前傾姿勢の走りに魅せられたトレーナーの北原穣(キタハラジョウ)に自分のチームに入るようスカウトされる。レースに参加するにはチームに所属する必要があると知ったオグリキャップはこれを受け入れ、競争ウマ娘としての第一歩を踏み出す。

 初戦のレースで敗北の悔しさを味わうが、それを糧にして以降は連戦連勝。地方レースの重賞、東海ダービーを目指す。しかし、その道中で出走した中京盃で走りを目撃した日本ウマ娘トレーニングセンター学園の生徒会長シンボリルドルフにより、"中央"(トゥインクル・シリーズのスターウマ娘を多数輩出する超エリート校日本ウマ娘トレーニングセンター学園)へくるよう誘いを受け、物語は大きく動き出す。

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 後に「怪物」と呼ばれる少女、オグリキャップのスタートラインを描いたのがこのカサマツ編。天然マイペースな性格で周りを呆れさせたり、破天荒な行動から周囲をドン引きさせるなど、登場時からかなりのインパクトのあるキャラクターとして描かれている。だが、特に驚いたのはこういったシーンのいたるところで史実の競走馬オグリキャップのエピソードが自然に散りばめられているところだ。

膝のハンデ

 作中でオグリキャップは、生まれた時は立ち上がれないほど膝が悪く、母親のマッサージと支援により入学できたことを告白する。これは実際の競走馬に通じるエピソードでもある。オグリキャップは誕生時、右前脚が大きく外側を向いていたため、出生直後は自力で立ち上がることができなかった。しかし、稲葉牧場場長の稲葉不奈男氏が削蹄(蹄を削ること)を行ない、懸命に矯正に努めたことで、成長と共に右前足は改善されていった。

汚れたジャージと壊れた靴

 カサマツ編でトレーニング姿が描かれる際、オグリキャップはつねに汚れたジャージを着用した姿で登場している。また靴はボロボロで、レースでは走りにくい姿が描かれている。これはオグリキャップの芦毛(灰色の馬)をアレンジしたものだろう。芦毛の馬は年齢を重ねるごとに、毛色が白くなっていく。そのため、幼い頃や現役時代のオグリキャップは毛色がまじり、まだら模様の姿だった。また、当時は蹄叉腐爛(ていさふらん)というひづめの病気にかかっており能力を十分に発揮することができなかった。

大食い

 1話から食堂で山のように盛られたコロッケタワーとキャベツ、白米を食していたオグリキャップ。実は競走馬オグリキャップには「食べる競走馬」という異名も存在している。幼い頃から雑草もかまわず食べる食欲や、飼い葉を他の競走馬の倍ほども食べる、寝藁をも食べようとするなど、食欲旺盛なエピソードが多く存在する。

画像は「ウマ娘 シンデレラグレイ」公式Twitterより

3巻~4巻 第一章 中央編入篇

 トレーナー北原穣の手を離れ、中央に移籍したオグリキャップ。北原たっての願いから、中央でトレーナーをしている北原の叔父・六平銀次郎(ムサカギンジロウ)の元、トレーニングに励む。断念した「東海ダービー」に代わり、中央レースの最高格付であるGIレース、クラシック三冠のひとつ「日本ダービー」を新たな目標にする。しかし、地方から移籍してきたオグリキャップはクラシック登録をしていないため、クラシックレースへの出場権をもっていなかった。

 オグリキャップは生徒会長シンボリルドルフに自分を日本ダービーに出すよう直訴するも、地方から来て間もない、中央での実績もないオグリキャップにシンボリルドルフは「中央を無礼るなよ」と一蹴する。それに対してオグリキャップは自分の脚と実力で常識もルールも全て覆してやることを決め、中央のレースへと挑む。

【【ウマ娘 シンデレラグレイ】「日本ダービー入門編」ボイスコミック】

 中央編入篇では移籍後に開幕から躓くという驚きの展開で始まる。しかし、そんなハプニングをものともせず、レースで自分の走りをみせつけ、ファンを魅了していく展開には胸が熱くなった。

クラシック登録がないオグリキャップ

 作中同様に、史実でもオグリキャップがクラシック登録されていないことによって、大きな論争の火種となった。クラシック登録は前年に予備登録をする必要があるのだが、地方レースを主としていたオグリキャップは、中央のGIレースで走ることを想定していなかったため登録を行なっていなかった。これが後に波紋を呼ぶことになる。

 中央に移籍後、オグリキャップは初戦として第2回 ペガサスステークス(現アーリントンカップ)に出走し圧勝する。その後の第35回 毎日杯と第34回 京都4歳特別でも勝利し、順調に連勝を積み重ねていった。波紋の始まりは第48回皐月賞。第35回毎日杯でオグリキャップに敗れたヤエノムテキが皐月賞で優勝する。この結果、オグリキャップのダービー出走を求める声が挙がり、大きな論争へと発展する。結論として、オグリキャップのダービー出走は叶うことがなかった。だが、この件をきっかけに、4年後の1992年に未登録場でもクラシックレースに参加することができるようになるクラシックの追加登録制度が導入されることとなった。

 中央編入篇ではこういったオグリキャップを取り巻くファンの熱気や人気、当時の雰囲気などを感じとることができる。

名称の違うウマ娘たち

 「ウマ娘 シンデレラグレイ」にはフジマサマーチをはじめ、ブラッキーエールやディクタストライカなど、たびたび架空の馬名が登場する。これらは原作である「ウマ娘 プリティーダービー」に登場していないウマ娘たちで、主に権利関係の都合で名前が変更されている。しかし、それぞれモデルとなった馬が存在しており、ブラッキーエールはラガーブラック、ディクタストライカはサッカーボーイと、元の馬が連想できるネーミングとなっている。

4巻~8巻 第二章 白い稲妻篇

 怪物のごとく連勝を続けるも、日本ダービーという目標を失ったオグリキャップ。次の目標がさだまらないオグリキャップにかつてのライバル、フジマサマーチが「日本一のウマ娘になれ」と活を入れる。この言葉から、オグリキャップは破竹の勢いで勝利を積み重ねる現役最強のウマ娘「タマモクロス」に勝って、日本一のウマ娘になることを決意する。

【【ウマ娘 シンデレラグレイ】「最後の芦毛対決、開幕!!」】

 「芦毛の馬は走らない」2巻の中京盃でも会長シンボリルドルフが言っていた台詞。史実でも強い芦毛の競走馬がいなかったことから通説として言われていたが、それをぶち壊したのが同時期に登場したオグリキャップとタマモクロスだ。第二章 白い稲妻篇ではそんな二人の手に汗握る、白熱した戦いをみることができる。

白い稲妻 タマモクロス

 作中では小柄で関西弁を喋る元気なキャラクターとして描かれている。史実のタマモクロスも作中同様に食が細く、小柄な部類とされていた。タマモクロスは440~450kgであるのに対し、オグリキャップは490~500kgと同じ芦毛でも、大食らいなオグリキャップとはまさに正反対である。

 「白い稲妻」は元々父馬のシービークロスの異名である。シービークロス同様にタマモクロスも終盤に強烈な追い込みを得意としたことから、いつからか白い稲妻の異名で呼ばれるようになった。作中ではまさに白い稲妻の如き走りで他者を抜き去る様が描かれている。

 タマモクロスは北海道新冠郡新冠町の錦野牧場で生まれ、その後滋賀県にある栗東トレーニングセンターに行なっている。しかし、作中で関西弁を喋っている理由は、史実で参加していたレースの影響だろう。競走馬としてのデビュー以降、タマモクロスが現役中に参加したレースは18戦。うち勝利した9勝中8勝は関西で行なわれたレースだ。そのため、関西とは強い縁をもっている。

宿命のライバル関係

 オグリキャップとタマモクロスは同じ芦毛という理由だけでなく、実際のレース結果でもそのライバル関係があらわれていた。オグリキャップとタマモクロスが戦ったレースは天皇賞秋、ジャパンカップ、有馬記念の3つだが、いずれも着順が並ぶ結果で激戦となった。

 特に本年無敗馬同士、世紀の「芦毛対決」と言われた第98回天皇賞(秋)で繰り広げられたデッドヒートとワンツーフィニッシュは、戦後では三指に入る名勝負だと競馬評論家に言わしめた。本作内でも屈指のレースとなっているのでぜひとも読んでほしい。

9巻~ 第三章 永世三強篇

 タマモクロスとの大勝負を終え、いっそうの注目を集めるオグリキャップ。皆の想いを背負い、春シーズンに向けて踏み出そうとした瞬間、突如脚に異変が走る。診断の結果、負傷が発覚したオグリキャップはしばらくレースにでることができなくなってしまう。主人公不在が心配される一方で大井レース場ではこの時、新たな風が中央にむけて吹き荒れていた。

【【ウマ娘 シンデレラグレイ】新章・永世三強篇 開幕!】

 待望の新シリーズ、第三章 永世三強篇。オグリキャップとタマモクロスの激闘で燃え尽きた読者を、大井からの刺客、イナリワンが襲う。オグリキャップのように地方から中央に殴り込みをかけてきたウマ娘の破天荒ストーリーが開幕する。

地方からきたもう一人の怪物イナリワン

 作中では気性が荒い江戸っ子娘として描かれているが、史実の馬も蹴り癖や気性の荒さで有名だった。しかし、その実力はたしかなもので、中央移籍後は初のGIレース第99回天皇賞(春)にてコースレコードを叩き出す圧倒的な走りで勝利し、続く第30回宝塚記念でも勝利を収めている。作中でも史実でもオグリキャップとの対決が期待され、レースは写真判定が行なわれるほどのギリギリの戦いが繰り広げられた。

オグリキャップの怪我と治療

 作中、オグリキャップは繋靱帯炎(けいじんたいえん)を発症し、ハワイ風の施設で温泉やプールを利用した療養を行なった。これは史実でも実際にあった話で、1989年4月に繋靱帯炎を発症したオグリキャップが、競走馬総合研究所常磐支所にある温泉療養施設(馬の温泉)にて、温泉での療養やプールでの運動などで治療を行なったことからきている。

 このように「ウマ娘 シンデレラグレイ」はオグリキャップを中心としたドラマを描き、競馬を知らない読者も楽しめる素晴らしい作品となっている。ただ、今回紹介したように、本作には史実をベースにしたネタふんだんに含まれている。あまりにも多すぎるため、今回は一部のみの紹介となっているが、コミックスを読んだあとにこれらを知るだけでも違う形で本作を楽しむことができるので、気になった方はぜひともオグリキャップやタマモクロスの歴史を調べてみてほしい。

 6月19日には最新刊となる11巻の発売が予定されている「ウマ娘 シンデレラグレイ」。公式サイトでは1話が無料配信されているので、まだ読まれていない方は、この機会に是非とも読んでみてほしい。