【特別企画】

【EVO2023】「スト6」初のEVOは錚々たるメンツが居並ぶ最終決戦に! TOP6の戦いの様子をレポート

【EVO 2023】

開催期間:8月4日〜8月6日

場所:アメリカ・ラスベガス

 20年以上の歴史を誇る世界最大のゲームイベント「Evolution Championship Series」。通称「EVO」と呼ばれる本イベントは毎年7~8月に開催され、さまざまな対戦格闘ゲームの大会が行なわれている。

 その中でも注目したいタイトルは、やはり今回が初となる「ストリートファイター6」(以下、「スト6」)部門だろう。「スト6」は6月に発売されたばかりのタイトルで、招待制トーナメント「Red Bull Kumite 2023」が7月に開催されたものの、参加型かつ大規模なトーナメントは「EVO 2023」が初めてだ。

 また、「スト6」自体も、格闘ゲームの金字塔と言われる「ストリートファイター」シリーズの約7年ぶりの完全新作であり、前作「ストリートファイターV」を超える期待作。その初回の「EVO」となれば、格闘ゲーマー以外にも「一体誰が優勝するんだ」と非常に注目された大会であった。

 本稿では、「EVO 2023」の大トリに選ばれた「ストリートファイター6」部門の決勝トーナメントについてレポート。アメリカだけでなく日本を含めた世界中のプレイヤーが参加する本大会の様子をお届けする。混迷を極めた大会で最後まで立っていたのは果たして誰なのか? それぞれの選手の背景とともに、各試合の行方を見ていこう。

【【日本語実況】EVO Championship Series 2023 - Day3 Finals「CAPCOM Pro Tour 2023」 オフラインプレミア】

世界各地から7,000人を超えるプレイヤーが終結

 前述したとおり「EVO」は世界最大規模の格闘ゲームイベントだが、今年は参加人数も過去最高となった。前年度は約5,000人の参加だったが(格闘ゲームイベントということを考えれば5,000人でも凄い)、今年は去年の2倍近い9,000人オーバー! そのなかでも「スト6」部門の参加者だけで7,000人オーバーと群を抜いている。

 そんな中でTOP6まで勝ち抜いたのは下記の6名。決勝トーナメントでは、このうち、負けなしの1名以外はウィナーズからルーザーズへ落ち、合計で5名が生き残りを賭けてルーザーズで戦うことになる。最後はウィナーズとルーザーズそれぞれの勝者が、グランドファイナルの舞台で対決するわけだ。

【ウィナーズ】
・翔(日本)
・AngryBird(アラブ首長国連邦)
・ハイタニ(日本)
・Punk(アメリカ合衆国)

【ルーザーズ】
・MenaRD(ドミニカ共和国)
・ときど(日本)

【トーナメント表】

 決勝トーナメントへと進出したこの6名。全選手が注目選手ではあるが、日本勢で気になるのはやはりハイタニ選手か。ハイタニ選手はもともと第一線で活躍していたプロ格闘ゲーマーではあったが、現在はプロゲーミングチーム・REJECTの“ストリーマー部門”で活動しているプレイヤーだ。「スト6」においては、公式のチームリーグ戦「ストリートファイターリーグ」にも参加しておらず、配信活動をメインにしていたものの、なんとウィナーズサイドでTOP6に進出。プロとして活動していたころと変わらない強さをみせた。

 もちろん、日本最強のJP使いと名高い翔選手に、言わずとしれたトッププレイヤーのときど選手も注目したい。この3人の日本人選手の中で誰かが、現段階で「スト6」最強プレイヤーの1人ではないかと謳れるAngryBird選手と、読み合いの強さや反応速度の速さに定評のあるPunk選手、Capcom Cupで唯一2度の優勝経験を持つMenaRD選手を倒して優勝するのか、はたまたAngryBird選手・Punk選手・MenaRD選手が優勝するのか。ここに注目が集まった。

錚々たるメンバーが集った本戦! 最後の勝者となるのは誰だ!?

 それでは、ここからはウィナーズとルーザーズにおける注目の試合を見ていこう。本戦は8月6日の午後7時(現地時間)から、およそ4時間に渡って行なわれた。日本でも、8月7日の午前11時からTwitchなどで配信された。

ウィナーズ

 第1試合は翔選手のJP 対 AngryBird選手のケン。片や若手ながらも発売当初から日本最強JPとの呼び声が高い翔選手と、片や「Red Bull Kumite 2023」のときから世界最強ケンと噂されるAngryBird選手の対戦となった。お互いに譲らず一進一退の攻防が続き、フルラウンド・フルセットまでもつれ込んだが、最後にはAngryBird選手が地力の高さを見せつけて勝利した。

左からAngryBird選手、翔選手。決勝トーナメントの初戦ということもあり少し緊張が見える
フルランウド・フルセットでJPのザプリェットがキマる。絶望的な状況だったが、直後にAngryBird選手が神龍烈破コンボで反撃

 第2試合はハイタニ選手の春麗 対 Punk選手のキャミィ。ハイタニ選手はトップ6で唯一モダンの使い手で、全キャラクターを最高ランクのマスターになるまでやり込むなど、本作の攻略・研究にも定評がある。対するPunk選手はアメリカのトッププレイヤー。必殺技はもちろん、スーパーアーツでさえワンボタン(1フレーム)で出せることによるモダン操作の防御力に苦戦を強いられるのではないかと思いきや、Punk選手が圧倒的な攻めを展開してストレート勝利を収めた。

ハイタニ選手とPunk選手の対決
本来は難しいコマンド操作を必要とする低空百裂脚だが、モダンなら簡単に出せるのが強み

 第3試合(ウィナーズ・ファイナル)はAngryBird選手のケン 対 Punk選手のキャミィ。第1試合と第2試合の勝者同士だけあって、素晴らしい戦いが展開された。ドライブラッシュで積極的に攻めるAngryBird選手に対し、地上での差し返しをメインに迎え撃つPunk選手。どちらも譲らず2-2までもつれ込んだが、最後はAngryBird選手が神龍烈破をキメて勝利した。

試合前には会話をするシーンも見られ、ウィナーズ・ファイナルという舞台でも落ち着いている様子だ
ドライブラッシュによる強引な攻めがとにかく強い本作だが、この1戦ではテクニカルな攻防も見られ、会場は大いに沸いた

ルーザーズ

 ルーザーズの第1試合はウィナーズで敗退した翔選手のJPと、ときど選手のケン。ときど選手はもともと「THE KING OF FIGHTERS」シリーズの出身で、「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」などのカプコン作品もプレイしていた。「CAPCOM VS. SNK MILLENNIUM FIGHT 2000」公式大会の予選では、当時最強と言われていたウメハラリュウの前転にリョウの龍虎乱舞を合わせて逆転勝利している。以来、歴代カプコン作品の大会ではつねに上位に食い込み続けてきた人物だ。

 試合は、ウィナーズの第1試合と同じく一進一退の攻防が続く。一時は翔選手の勝ちが確定したかと思われた場面もあったものの、ときど選手が最後の最後まで粘り強く戦い、3-2で勝利をものにした。

日本人選手同士の対決。翔選手はケン2連戦となった
体力残りわずかのJPが乾坤一擲の連係を仕掛けるが、設置していたヴィーハトがまさかの空振り
龍尾烈脚の反撃によりときど選手が勝利する

 ルーザーズの第2試合はウィナーズで敗退したハイタニ選手の春麗と、MenaRD選手のルーク。MenaRD選手は、「ストV」においてCapcom Cupで2度の優勝経験を持つプレイヤーだが、今作「スト6」では、今回使用したルークだけでなく、ブランカも高い水準で使いこなしている。試合では、ハイタニ選手がモダン操作による防御力の高さを見せる場面もあったが、最終的には3-1でMenaRD選手の勝利となった。

MenaRD選手 vs ハイタニ選手。両者ともに後がない
ハイタニ選手を画面端に追い詰めたMenaRD選手が絶妙のタイミングでドライブインパクトを仕掛けるが……
ハイタニ選手の反応の速さとモダン操作の特性を活かして鳳翼扇で反撃

 ルーザーズの第3試合(ルーザーズ・セミファイナル)は、MenaRD選手のブランカ 対 ときど選手のケン。2-2の状況でときど選手が1ラウンド先取してリーチをかけるも、MenaRD選手がライトニングビーストを使った連係で逆転勝利した。

ときど選手 vs MenaRD選手。「Capcom Cup 2017」のグランドファイナルでもぶつかったカードだ
お互いバーンアウトで体力も残り少ない状態から、MenaRD選手がライトニングビーストを発動。ローリングアタックからの奇襲でギリギリの戦いを制した

 ルーザーズ・ファイナルとなる第4試合は、ルーザーズから勝ち上がってきたMenaRD選手のブランカと、ウィナーズで惜しくも勝利を逃したPunk選手のキャミィ。まずはPunk選手が相手の攻めに対応して2試合連取するが、3試合目からMenaRD選手の動きが変わる。バックステップローリングやエリアルローリングを駆使して動きの幅を広げ、逆に3試合連取で勝利を決めた。

グランドファイナルへの進出をかけた1戦
この1戦も、ルーザーズ・ファイナルにふさわしい名勝負となった。MenaRD選手のローリングを駆使した連係が光る

そしてグランドファイナル。リセットにもつれ込むほどの接戦に

 熱き闘いの最後を締めくくるのは、ただの1度も負けずにここまでたどり着いたAngryBird選手。そして、ルークとブランカの二刀流でルーザーズを勝ち上がってきたMenaRD選手の対決となった。

「EVO 2023」のトリを飾るにふさわしい好カードとなった最終決戦。いずれも前評判の高かったプレイヤーなので、ある意味では順当とも言える

 AngryBird選手は前述したとおり、前評判が非常に高く、優勝候補の筆頭とも言える存在。トッププレイヤーのなかにも、「AngryBird選手には負け越している、彼はトップ層のなかでもズバ抜けて強い」と言う人が多い。ちなみに「Red Bull Kumite 2023」で優勝したBig Bird選手とは同門で、ともに切磋琢磨してきた仲でもある。

 対するMenaRD選手は、Capcom Cup史上で唯一2度の優勝経験を持つ王者。メインキャラだけでなく、サブキャラも高いレベルで使いこなし、トップ6まで上がってくる途中で、もけ選手の春麗や鶏めし選手のダルシム、そしてウメハラ選手のケンなどの強者を葬ってきた。ただし、ルーザーズブロックからグランドファイナルへと進出したMenaRD選手は、2回連続で3試合を先取しなければ優勝とならない厳しい戦いを強いられる。

最後の決戦を前に談笑する2人。どちらも緊張はなさそうだが、果たして……?

 試合は、AngryBird選手のケン 対 MenaRD選手のブランカの対決からスタート。ここまで圧倒的なポテンシャルを見せてきたAngryBird選手だったが、第1試合は精彩を欠く。それに対して好調なのがMenaRD選手。1試合目をストレートで取り、続く2試合目も1ラウンド先取する。ここまでは、Capcom CupやEVOの決勝に出場した経験のあるMenaRD選手と、それほど大きな舞台に立ったことのないAngryBird選手の差が出た形か。

「EVO 2023」のグランドファイナルという大舞台でも落ち着いてコンボをキメるMenaRD選手のブランカ

 しかし、第2試合の2ラウンド目でいつものAngryBird選手が戻ってきた。ブランカのローリングアタックをパリィでいなし、立ち強Pなどをメインにしたラッシュで第2試合と第3試合を連取する。そのまま優勝するかに思われたが、ここでMenaRD選手がルークを投入。怒涛の攻めを展開して2試合を連取し返し、絶望的な状況からリセットまでこぎつけた。

落ち着きを取り戻したAngryBird選手が2試合連取で優勝に王手をかけるが、MenaRD選手のルークが行く手を阻む

 泣いても笑っても最後の3先、1ラウンド目を取ったのはAngryBird選手のケン。だったがここでトラブルが発生。2ラウンド目の開始時に、MenaRD選手のコントローラーが接続不良で切れてしまった。本来であれば、このラウンドはAngryBird選手が勝利となるところだが、AngryBird選手がMenaRD選手に合図を送り、そのまま試合が再開。折角の決勝戦がトラブルに水を差されるかと思ったが、一転、本大会屈指の熱いシーンとなった。

喉から手が出るほどほしいであろう1本だが、AngryBird選手はトラブルによる勝利を拒むかのように試合を再開。自らの実力でAngryBird選手が勝利をもぎ取った

 その後、キャラクターをブランカに変えて2試合目を取り返すMenaRD選手だったが、3試合目はAngryBird選手が勝利。そして運命の4試合目は、またもやキャラクターをルークに変更したMenaRD選手の猛攻をしのいだAngryBird選手がフルラウンドから投げの連打で試合を決定づけ勝利した。

お互い一歩も譲らないシーソーゲームとなった最終戦。AngryBird選手の投げが決め手となり、ついに悲願の優勝を手にした

 開催前から高い評価を得ていたアラブのトッププレイヤーBig Bird選手とAngryBird選手。Big Bird選手は「Red Bull Kumite 2023」で、AngryBird選手は今回の「EVO 2023」で優勝し、その強さを証明して見せた。この2人を中心に回り始めると思われる今後の「スト6」界に、これからも目が離せない。

試合後にハグをする両選手
涙をみせるAngryBird選手