【特別企画】

映画の興行成績も絶好調! 今もなお大爆進を続ける名作「名探偵コナン」はコミックス1巻発売から29周年

【「名探偵コナン」コミックス1巻】

1994年6月18日 発売

 小学館の漫画雑誌「週刊少年サンデー」にて連載中のマンガ「名探偵コナン」は、コミックス1巻が発売された1994年6月18日より本日で29周年を迎える。

 「名探偵コナン」は、漫画家の青山剛昌氏による本格的な推理漫画で、週刊少年サンデーにて1994年より連載開始後、現在もなお連載が続く大人気作品となっている。

 物語は巷で有名な高校生探偵の工藤新一が、幼馴染の毛利蘭と出かけた遊園地で黒の組織の取引現場を目撃してしまったことにより毒薬を飲まされ少年化してしまうところからスタートする。少年化した新一は「江戸川コナン」と名乗り、父親が探偵をやっている幼馴染の毛利蘭の家に居候しつつ、数々の難事件を解決していきながら、元の体(工藤新一)に戻るため様々な仲間と共に黒の組織を追っていくというストーリーだ。

 1996年にはアニメの放送もスタートしており、アニメも漫画同様に放送が続いている。また、1997年からは毎年春に劇場版の公開も行なわれ、家族で楽しめる国民的アニメという立ち位置を保ちつつも、劇場版やスピンオフ作品などでより幅広い層も取り込んでいる。偶然かもしれないが筆者の周りの知人や友人達の、その誰もが「名探偵コナン」の劇場版は毎年見に行っており「最早履修必須なのか?」と思うほどの人気っぷりだ。

 今回はそんな大人気の「名探偵コナン」のコミックス発売29周年を記念して、コナンの魅力を筆者の思い出を振り返りながらお届けする。

物語を彩る個性豊かなキャラクターたち

 「名探偵コナン」ではなんといっても作中の登場キャラクター達が魅力的だ。

 主人公の「コナンくん」こと江戸川コナンをはじめ、物語が進んでいくにつれて実に個性豊かな魅力的なキャラクターが沢山登場する。ここでは主に物語上で黒づくめの組織の話がメインの時に登場する重要な人物を中心に紹介する。

工藤新一(江戸川コナン)

 言わずもがな、「名探偵コナン」の主人公。

 数々の難事件を解決し「平成のホームズ」、「東の名探偵」と呼ばれる有名な高校生探偵だった。しかし、とある取引を目撃してしまったことで毒薬を飲まされて少年化し「江戸川コナン」になる。

 本来の工藤新一は17歳で高校のサッカー部に所属しておりサッカーが得意。そのためコナンの姿ではボールや空き缶などを蹴って犯人を追い詰めることもある。性格は正義感が強く論理的で達観した発言もするが、キザで照れ屋。

灰原哀(宮野志保/シェリー)

 新一が飲まされた毒薬「APTX(アポトキシン)4869」の開発に携わっていた元黒づくめの組織のメンバーでコードネームは「シェリー」。

 組織から離れることに失敗し、自ら命を断とうと手元に残っていた「APTX4869」を飲むも、新一同様体が少女化してしまい「灰原哀」として組織にバレないよう身を潜めることになる。実年齢は18歳。組織の元から逃げ出し新一の家の前で倒れていたところ、阿笠博士に保護される。

 性格はクールだが優しい所謂ツンデレ。得意の情報分析でコナンをサポートしている。

阿笠博士

 新一の実家の隣に住んでいる風変わりな博士。

 コナンの正体を知っている数少ない一人。体が小さくなってしまった新一(コナン)のために様々な探偵アイテムを作ってくれている。また、組織から逃れ体が小さくなって新一に助けを求めてきた宮野志保(灰原哀)を保護し、コナン同様に小学校に通わせている。

安室透(古谷零/バーボン)

 私立探偵(喫茶店の店員)・公安警察・黒の組織の潜入捜査官(スパイ)の3つの顔を持つ。

 「安室透」として毛利小五郎の弟子入りし、小五郎の事務所の下にある喫茶店アポロでアルバイトをしているが、実は公安警察の頂点・警察庁警備局警備企画課(ゼロ)に所属する警察官で、黒の組織で潜入捜査を行なっている。組織にも気に入られ「バーボン」というコードネームを得る。コナンの正体はまだ知らないが、推理力の高さや性格に一目置いており、故にコナンのことを信頼している。料理が上手。特にハムサンドは絶品らしい。作中でも現実でも女性ファンが多く大人気のキャラクター。

赤井秀一(沖矢昴/ライ)

 アメリカ合衆国の警察機関の一つである連邦捜査局 (FBI)。推理力も捜査手腕も高く、作中一のスナイパー技術の持ち主。偽名を使って宮野志保(灰原哀)の姉で同じく組織にいた宮野明美を利用する形で接触・交際、その後志保を通して組織に潜入していた。潜入当時与えられたコードネームは「ライ」。

 組織に正体がバレてしまい、明美と志保を残して組織から離れたが後に赤井を連れてきたことが理由で明美が組織に殺害されてしまうことから宮野姉妹とは深い縁がある。表の姿はが工藤邸に住んでいる大学生の沖矢昴。

水無怜奈(キール)

 黒ずくめ組織に潜入しているCIAの諜報員で、元日売テレビ人気アナウンサー。組織でのコードネームは「キール」

黒の組織

ジン

 新一に「APTX4869」を飲ませた黒の組織の幹部。

 性格は冷酷・残忍だが頭が切れる。赤井が組織にいた頃から疑っており、赤井を連れてきた宮野明美を殺害したのもこの男。組織から離れたシェリー(宮野志保)を追っている。

ウォッカ

 黒の組織の実働部隊として主に潜入捜査でジンをサポートしている。

 いつでもジンについて回り「兄貴」と慕っている。狙撃・操縦・IT関係等こなせるため優秀だが、うっかりしているところもある。

ベルモット(シャロン・ヴィンヤード)

 黒の組織の大幹部で、組織のボスに気に入られている。表の顔はハリウッド女優のシャロン・ヴィンヤード。変装の達人。組織の中で唯一コナンと灰原の正体を知っている人物。

 以前ニューヨークで新一と蘭に助けられたことから新一と蘭だけは組織から守りたいと思っているように見える。

コナンの友達・仲間

・毛利蘭:新一の幼馴染で恋人
・毛利小五郎:毛利蘭の父親で探偵
・鈴木園子:蘭の親友
・服部平次:関西の高校生探偵
・遠山和葉:平次の幼馴染
・少年探偵団(小嶋元太・吉田歩美・円谷光彦):コナンの小学校の友達

警視庁の人達(コナンの仲間)

・目暮十三:捜査一課強行犯三係警部
・白鳥任三郎:捜査一課強行犯三係警部
・佐藤美和子:捜査一課強行犯三係警部補
・高木渉:捜査一課強行犯三係巡査部長

FBI(コナンの仲間)

・ジェイムズ・ブラック:FBI捜査官で赤井たちの上司
・ジョディ・スターリング:FBI捜査官であり英語教師
・アンドレ・キャメル:FBI捜査官

その他

怪盗キッド

 神出鬼没の怪盗。コナンの宿敵であり時に協力者。黒づくめの組織とは関わりがないので主に事件パートで登場する。

 ここで紹介しているのはごく一部ではあるが、他にも物語には欠かせない魅力的なキャラクターがたくさん登場する。事件パートと黒づくめの組織パートで関わってくるキャラクターが変化することで物語のテンションにも変化が出ているように感じる。それも長く読み続けられている秘訣なのかもしれない。

キャラクターが残す名言や印象的なエピソード

 本作はキャラクタービジュアルのキャッチーさ魅力の1つ。一方で「事件」を扱ってはいるものの過激な描写はなく、犯行動機が複雑過ぎず読みやすいストーリー、子供心をくすぐる数々のアイテムなど、一見子供向け作品のように感じられるかもしれないがそれだけではない。

 大人にもグッとくるような名言や、キャラクターがより感じられる印象的なエピソードもあって、大人だからこそ味わい深い作品でもあるのだ。

コミックス7巻「月影島への招待状」

「コナン」の中でも特に衝撃的なラストだ

 基本的に「名探偵コナン」では犯人が自殺する展開はないのだが、この回で初めてコナンの目の前で追い詰められた犯人(浅井成実)が自ら命を絶ってしまうのだ。筆者はコミックス・アニメの両方で見たのだが、このエピソードはコナンの中でもずっしりとくる終わり方をしていたように思う。

 自分が推理することで犯人を精神的にも追い詰めてしまうことを自覚した新一ことコナンには、犯人(浅井成実)の最後の顔が強烈な印象として残っており、後のストーリーでは犯人の自殺を止めたり、諭すシーンも度々見られるようになった。

 本エピソードではないのだがこの事件がキッカケとなり、後の事件でコナンは服部平次の言葉に対し「犯人を推理で追い詰めて、みすみす自殺させちまう探偵は……殺人者とかわんねーよ……」(コミックス16巻:名家連続変死事件)と返している。

 一つの事件をきっかけにコナンが探偵としてのポリシーを持つようになる様子に、コナンというキャラクターにより一層深みが生まれる素敵な話だと筆者は思った。多くのコナンファンにも印象に残っているようで各所で神回ランキング1位に選ばれている。

コミックス29巻「謎めいた乗客」

スキー場に向かうコナンや少年探偵団がバスジャックに巻き込まれるストーリー

 同じバスの中に赤井秀一、ベルモット、FBIのジョディも乗り合わせているという豪華な回。灰原は第六感で自分の身の危険(黒づくめの組織がバスにいること)を感じ取る。無事バスジャック犯を押さえ込み解決したと思いきや、犯人が倒れた際にぶつけた腕時計型の起爆装置が起動してしまう。乗客は全員避難するが灰原だけは爆弾と共にバスの中。自分のせいで大切な人達も黒の組織に狙われてしまうことを危惧した灰原は爆弾にわざと巻き込まれようとしていたのだ。

 その時に灰原を間一髪のところで救出したコナンが灰原に伝えたセリフ「逃げるなよ、灰原。自分の運命から……逃げんじゃねぇぞ。」は自分の運命を受け入れて立ち向かうコナンの覚悟を感じた。もし自分がコナンと同じ状況だったら受け入れられるだろうか、そんなことを考えた。自分の運命に対しての価値観は人それぞれだが、逃げずに立ち向かうコナンがかっこいい。

 アニメ版の冒頭での赤井秀一の「すみません、ゴホッゴホッ(咳) 携帯、持ってないんです」は声色も相まって白々しくて妙に面白かった。

コミックス85巻 「緋色シリーズ(交錯)(帰還)(真相)」

 安室と赤井の間にある確執にまつわるエピソードが描かれている。過去同時期に組織にいた頃、スコッチの死をキッカケに二人の間には確執が生まれた。後に組織を抜けた赤井だったがキールによって殺された。安室は死んだはずの赤井秀一が生きているのでは? という疑惑の真相を暴き、生きている赤井秀一を組織に引き渡し、バーボンとして組織内の中心部に上り詰めた後に組織の重要な手がかりを得ようとしていたのだ。

 沖矢昴が住む工藤邸へ部下と共に向かう安室透だが、実はそこにいたのは沖矢昴に変装していた新一の父親(工藤優作)だったのだ。その時赤井は安室に対し「目先の事に囚われて……狩るべき相手を見誤らないで頂きたい。君は、敵に回したくない男の一人なんでね……」と電話口で伝えるシーン。安室透の能力を高く評価している故のセリフなのではないかと考えると、二人の関係性がより際立って見えた印象的なシーンだ。

 他にも、死んだと思われていた赤井秀一がFBIの車の中に突然現われた時のセリフ「このくだらんチェイスにケリをつけてやる……」など、赤井秀一のセリフは冷静なトーンでありながら言葉にパンチがあってめちゃくちゃかっこいいのだ。これも赤井秀一が人気の理由ではないだろうか。

 余談だが、安室透と赤井秀一はかの有名なアニメ「機動戦士ガンダム」の主人公アムロと宿敵シャアに通ずるところが多々ある。例えば、アニメ版の声優も安室透は古谷徹さん(『機動戦士ガンダム』のアムロ役)、赤井秀一は池田秀一さん(『機動戦士ガンダム』のシャア役)など、安室と赤井の設定には原作者の遊び心を感じて面白い。

張り巡らされる数々の伏線

 「名探偵コナンは、ただただコナンの行く先々で事件が起きるだけでなく、コナンにとっての最大の宿敵「黒づくめの組織」がいることで非常に重厚感がある設定にもなっている。

 そのため、作中には数々の重要な伏線が随所に張られており「え! あの人が!?」、「アレはあの時の!?」なんてことがよくある。薄い考察しかできない筆者は毎度毎度コナンくんの推理に頼りっぱなしであるが、読者自身が推理・考察しながら細かく読み進めることもできるのも本格的な推理漫画ならではの最大の魅力だろう。

新井智昭=ベルモット(回収済)

 新井智明は新一や蘭が通う高校の校医だったが、灰原に近づこうとしているベルモットに殺害されてしまい、初回登場以降はベルモットが新井先生に変装していたのだ。

 しかし新井先生の死はベルモットを誘き出すだめにFBIによって偽装されていたため、本物の新井先生は生きている。この伏線はコミックス42巻「満月の夜と黒い宴の罠」~「ラットゥンアップル」で回収されている。

赤井秀一=沖矢昴(回収済)

 組織を抜けた赤井は、キールに殺されたのだが(コミックス57巻「赤と黒のクラッシュシリーズ」)、実はキールを組織に潜入させるための偽装死だったのだ。その後、新たなキャラクター大学生の「沖矢昴」として工藤邸で暮らしている。コミックス85巻 緋色シリーズではこの死体トリックの内容が明らかになっている。

ボスの正体(回収済)

 黒の組織のボスのメールアドレスは「♯969♯6261」ということが判明している。これを携帯で打つと「七つの子」という童謡のメロディーになる。(カラスなぜ鳴くの)

 実はこの童謡自体が伏線で、コミックス30巻に登場するキャラクターで半世紀前に高齢で亡くなった大富豪「烏丸蓮耶」が黒の組織の黒幕だったのだ。(コミックス95巻)

ベルモットが灰原哀を助ける(見逃す)理由(未回収)

 今年の劇場版でもフォーカスされている灰原哀とベルモット。ネット上では更なる考察が繰り広げられている模様。

 ジンもベルモットも何度も灰原を消すチャンスがあったのにも関わらず取り逃している。ここにも「実は灰原哀は組織のボスの血縁だからなのでは」など様々な考察が行き交っている。また、ベルモットはまだまだかなり謎が多い。FBIのジョディに「あなた、どうして年を取らないの?」と聞かれているが(コミックス42巻「満月の夜と黒い宴の罠」~「ラットゥンアップル」)ベルモットもまた「APTX4869」を服用した一人ではないかと考察されている。果たして本当にそうなのか、今後の伏線回収が楽しみだ。

 このように数えきれないくらいの伏線が数多く張られているのだが、まだ読んでいない方にはネタバレにもなってしまうので控えさせていただこうと思う。そもそもだが、1巻が発売されてから29年経ってもいまだに「APTX4869」と「黒づくめの組織の目的」が明らかになっていないのには驚きだ。

 それでも細々と伏線が散りばめられたり、絶妙なタイミングで回収されたりと緩急がつけられているからファンはなかなか離れられないのではないだろうか。ネット上には数々の伏線に関して考察サイトがあったり、最近はYouTubeでも「まさに名探偵では?」と言わんばかりの考察を紹介している動画も多数あるので、これから実際に原作を読んでみて気になった方はぜひ調べてみても面白いかもしれない。

作中の大人気キャラクター安室透・赤井秀一の引力

 アニメ映画とのエピソードを交えつつ、筆者と「名探偵コナン」の出会いと魅力に引き込まれたきっかけを紹介したい。本作をを知ったのは小学生の頃だった。

 当時筆者は地方に住んでいたが、確か毎週水曜日の夕方4時くらいから「名探偵コナン」のアニメが放送されていた。改めて思い返すと、当時は小学校低学年だったので特定のキャラクターをピンポイントで好きになるというよりは、「コナンくんがんばれー!」くらいの子供がヒーローを応援するテンションでざっくり楽しんでいた。

 時を経て、漫画を読もうと思ったのは大人になってからここ数年のことだ。

 筆者の友人が毎年コナンの映画を見に行くようになっていたり、各所で「安室の女」、「赤井の女」と自称している女性ファンがこぞって増えてきているの目の当たりにし、「今『名探偵コナン』に何が起きているんだ? あれから随分経っているし、漫画ではそろそろコナンくんが黒の組織を追い詰めて完結して大人になっているんじゃないのか!? そもそも安室さん・赤井さんって誰!?」と筆者は気になって仕方がなかった。

 そして筆者に“「名探偵コナン」履修”の拍車をかけてきたのは、筆者が好きなアイドルがコナンくんを見ているという事実だった。推しですら「名探偵コナン」を見ている、これはいよいよ「名探偵コナン」をちゃんと読むしかない。とはいえ、単行本はその時点で100に近い巻数だ。そのボリューム感に若干ひよってしまった筆者。まずはAmazon Primeに配信されている過去の劇場版から視聴を開始した。

 劇場版作品は既にいくつか見ていた作品があったので、いきなりではあるがせっかくの機会にと巷で噂になっている安室さんが出ている作品「劇場版 名探偵コナン ゼロの執行人」を鑑賞した。

2018年4月13日に公開された劇場版。監督:立川譲

 終盤のアクションシーンでコナンくんから「安室さんって彼女いるの?」と問いかけられる安室さん。車のシフトレバーをなんとも言えない艶かしい手つきで動かしながら安室さんは答える。

――僕の……恋人は……フッ、この国さ!――

 何ーーーーー!!!! か、かっこいい……!! 国!? 国ごと恋人にしてしまうのかこの男!! 確かに数多の女性がドボンドボン沼に落ちる音すら聞こえそうなくらいかっこいい! 一体なんなんだ。

 いくつもの顔をもつミステリアスさと色気を持ちながらも、絶対的な安心感もある安室さんの破壊力は相当なものだった。

 そして安室さんと赤井さんを両方摂取しようとした筆者は「劇場版 名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)」も続けて鑑賞した。

2016年4月16日に公開された劇場版。監督:静野孔文 若干暗い終わり方をしていたこちらの劇場版。筆者はラストで泣いてしまった

 黒づくめの組織が乗ったヘリコプターを観覧車の隙間から狙う赤井秀一。狙撃箇所を捉え、引き金を引く瞬間のこのセリフ。

――落ちろ!――

 一瞬ヘリコプターが落ちたのか、筆者が沼に落ちたのかわからなかった。一言のパンチ力がこんなにあるセリフ聞いたことがない。たった一言だ。なんて素晴らしい「射撃技術」なんだ赤井秀一……。

 こんなに引力のあるキャラクターが2人も出てきている今の「名探偵コナン」、絶対面白いことになっているに違いないと筆者は遂に原作を読むことに至った。おそらく筆者のように劇場版から原作に入る人も少なくはないだろう。

劇場版も大ヒット。劇場版低迷期からの復活「なぜ?」

 コミックスの人気があっての劇場版だが、この人気もとんでもないことになっている。

 2023年4月に公開された「劇場版 名探偵コナン黒鉄の魚影(サブマリン)」は黒の組織と灰原哀にフューチャーしたストーリーだ。

2023年4月14日公開 監督:立川 譲

 筆者は2022年公開作品の「ハロウィンの花嫁」を劇場へ見に行ったのだが、その本編終了後に流れた翌年作品の予告編で流れた「会いたかったぜ、シェリー」というジンのセリフで会場内が大きくざわついており、かなりの期待の高さを実際に感じていた。そしてついに今年「黒鉄の魚影(サブマリン)」公開後、5月29日時点で興行収入が約122億円、観客動員数は約860万人を記録した。1997年の1作目の「劇場版 名探偵コナン 時計じかけの摩天楼」の公開から26年目にしてシリーズ初の興収100億円を大幅に上回り、大ヒットとなったのだ。

 しかし、これまでの劇場版シリーズを振り返ると第1弾公開から26年間ずっと順風満帆というわけではなかったのだ。2002年の「ベイカー街(ストリート)の亡霊」以降の数年間は興行収入が低迷している時期があった。しかし、2009年「漆黒の追跡者(チェイサー)」から少しずつ成長し、2016年「純黒の悪夢(ナイトメア)」で急成長を遂げているのだ。

4DXが普及し始めたのも2014年頃から。もちろん本シリーズの劇場版作品でも4DX上映が行なわれていた。もしかすると4DX普及の影響も受けているのかもしれない

 この急成長の大きな理由が、「黒の組織の登場」・「ゲスト声優起用」・「原作との連動」の3つではないかと言われている。特に「原作との連動」は原作ファンにはたまらない「異次元の狙撃手(スナイパー)」の衝撃のラストシーン。劇場へ足を運んだ原作ファンの口コミにより、まだ見ていない既存原作ファンもまだ何も知らない新規も「一体何が!?」と劇場に足を運びたくなったのだろう。

2014年4月19日公開 監督:静野孔文  この映画のラストシーンでは劇場版が原作の伏線を回収し、一歩先を行っているのだ。(ラストで沖矢昴の「了解。」という声が赤井秀一の声に変わるというもの)

 このように昨今「コナン劇場版」では原作に直結するようなラストシーンになっているため、現在公開中の「黒鉄の魚影」も原作を読んでいる人には考察し甲斐があるラストシーンに仕上がっているだろう。もちろん、原作を読んでいないライト層でも楽しめるように作られているので、名探偵コナンの様々な仕掛けは確実にファンの新規獲得に繋がっているに違いない。

関連作品も大人気

 「名探偵コナン」には前述した通り魅力的なキャラクターが沢山登場するのだが、特に人気のキャラクターにはスピンオフ漫画も存在する。

 怪盗キッドがメインで描かれている「まじっく快斗」は、怪盗キッドの人気からスピンオフとして広まったように思えるが、実は「名探偵コナン」よりも前に連載されており、コナンくんよりも先に世に出ていたメインキャラクターだったのだ。

原作:青山剛昌 1987年に週刊少年サンデーに登場後、同年の増刊号より連載開始後1988年まで連載されていた。今からだと40年近く前に怪盗キッドが連載されていたのだ。2010年にはアニメ化もされている

 筆者は、作中のここぞという時に登場する怪盗キッドが大好きだったので、この「まじっく快斗」の存在を知った時はすぐに近所のレンタルショップに走った。

 このとき本編「名探偵コナン」の作中にスパイスの如く登場し、謎多きイケメン怪盗として登場する怪盗キッドが好きだったことに気づいた。「もっと怪盗キッドを知りたい!」という怪盗キッドファンでまだ読んでいない人には非常におすすめだ。それくらい「まじっく快斗」では高校生・黒羽快斗としての怪盗キッドが楽しめる作品となっている。

 そして、本編で大人気のキャラクター安室透が主人公のスピンオフ漫画「ゼロの日常」(ゼロのティータイム)は3つの顔を使い分ける安室透(本名:古谷零)の日常が見られる貴重な作品だ。

原作:青山剛昌・作画:新井隆広 2018年5月9日発売の「週刊少年サンデー」24号より連載開始

 「ゼロの日常」と書いて「ゼロのティータイム」と読む。ファンの間では「ゼロティー」と呼ばれ愛されている。第1話が掲載された「週刊少年サンデー」は売り切れが続出。満を辞して同年8月に単行本化された後、2022年4月にはアニメ化も行なわれた。アニメ制作以前からアニメ化が期待されていたということからもキャラクターそのものの人気が伺える。

 こちらは本編の名探偵コナンとは別の世界線での安室透の日常を描いたストーリーになっている。

 お店でサンドイッチを作ればアイドルの舌も唸らせるほど絶品、家でご飯を作ればバランスの良い食事だがついうっかり作りすぎてしまう。野良犬に懐かれれば根負けして連れて帰り予防接種して名前もつけてあげるなど…….パーフェクトだけど本編とは違いちょっと抜けている安室さんのギャップにほっこりしてしまう作品だ。

 こちらの作品は安室さん好きはもちろんだが、なんとなく心が疲れている時に読んでみるのもおすすめだ。安室さんの日常の柔らかい雰囲気に癒されること間違いなしの作品となっている。

 安室透関連だともう一つ大人気のスピンオフ漫画がある。「名探偵コナン 警察学校編」だ。

原作:青山剛昌・作画:新井隆広 単行本全2巻 『週刊少年サンデー』にて、2019年第44号から2020年第51号にかけて不定期掲載

 コミックス100巻プロジェクト始動の一環としてまじっく快斗と同様にアニメ化。「名探偵コナン」枠で2021年12月4日から2023年3月11日まで不定期放送された。

 「名探偵コナン 警察学校編」は本編である名探偵コナンの7年前の警視庁警察学校で同期だった、古谷零(安室透の本名)・松田陣平・伊達航・諸伏影光・荻原研二の5人の警察学校時代を描いた作品だ。

 ゼロの日常でもTIME.40「花びらのおまじない」で安室さんが警察学校の仲間達を思い出している姿が見られるのだが、「警察学校編」を読んでから「ゼロの日常」を読むとよりジーンとくるシーンがある。

 また、昨年公開された「ハロウィンの花嫁」には過去回想シーンで警察学校メンバーも登場している。今の安室さんの強さを支えているのはこの警察学校の仲間たちであるとも言えるだろう。安室さんの知られざる過去も覗き見ることができるのでファンにはゼロの日常同様たまらない内容になっている。

 さらに、「名探偵コナン」には欠かせない黒いシルエットの犯人を中心としたスピンオフギャグ漫画「犯人の犯沢さん」も存在する。

原作/青山剛昌・漫画/かんばまゆこ 2017年7月号から「週刊少年サンデーS」にて連載

 本編の「名探偵コナン」で犯人の正体が明らかになる前の全身黒タイツの人物「犯沢さん」が主人公。「名探偵コナン」本編の登場人物や米花町などを極端に誇張したギャグ漫画になっている。2022年10月にアニメ化された。

 こちらも本編とは異なるパラレルワールドでのストーリー。犯沢さんが「ある男」を殺害するために島根県出雲の片田舎からコナン本編の舞台でもある「東京都米花市米花区米花町」へ移住し、日常的に凶悪犯罪が起こる米花町での日常を描いたギャグ漫画だ。

 本作の「犯沢さん」自身は実際に事件を起こしておらず、犯人志望として米花町を訪れているのだが、本編「名探偵コナン」が長期連載故に生じてしまっている矛盾や有り得ないことをあえて誇張した設定になっており、犯人志望の犯沢さんに米花町の常識外れた人や出来事が襲いかかるストーリーだ。

 本編に登場するキャラクターのコナンや毛利蘭なども登場するが、その容姿も誇張されている。例えば、誰もが「そこどうなってるの?」と指摘されがちな毛利蘭の尖った髪型も本作では更にすごいことになっている。筆者的には好きだ。

 開幕早々電車の乗客達が「嘘だろ!ここは米花町だぞ!」、「死にたいのか!」、「早く戻るんだ!」と犯沢さんが電車から降車するのを止めるシーンからすでにこの漫画のテンションが伺える。読んでいるうちに米花町での生活に奮闘する犯沢さんがなぜか可愛く見えてくる。

 いずれも本編の「名探偵コナン」とは一味違った作品達だが、スピンオフ漫画を派生させることができるほど作中のキャラクター達が個性豊かで愛されている証拠だろう。

 なお、劇場版も大ヒットしている「名探偵コナン」の原作にあたるコミックスは現在103巻まで発売されている。100巻超えとなるとすごく長く感じるが、飽きがこないように展開されているのできっとサクサクと読み進められてしまうはずだ。今作の劇場版にも繋がっているので、原作を読んでから劇場に足を運んでみるのもいいだろう。