【特別企画】

最初に作るのはダンス! 「ジャストダンス 2023 エディション」開発風景レポート

どこまでもダンスありき。本気も本気のダンス収録現場を取材

【ジャストダンス 2023 エディション】

11月22日 発売予定

価格:6,380円(税込)

 11月22日発売予定の「ジャストダンス 2023 エディション」は、実際の有名楽曲に合わせてダンスを心ゆくまで楽しむタイトルだ。リズムを正確に合わせるというよりは、画面上でお手本を見せてくれる「コーチ」の動きをマネしていく感覚で、ダンスの得手不得手に関わらず楽しむことができる。

 本作がとても特徴的なのが、この「コーチ」の存在だ。入力操作ではなく「人の動きをマネする」というより根源的なプレイ方法を採り入れているわかりやすさなどもあり、「ジャストダンス」シリーズは世界で8,000万本以上を売り上げる人気タイトルとなった。シリーズは毎年のように新作が出されており、Ubisoftの中でも欠かすことのできない一大フランチャイズになっている。

【『ジャストダンス2023エディション』新しいダンスの時代へようこそ】

 それにしても面白いのは、本作におけるダンスがどの楽曲でも凝っていることだ。ゲームであることを考えると動きのパターンが制限されそうにも思うが、「ジャストダンス」に関してはそういう窮屈さは一切感じない。これまで500以上のダンスを作ってきたというが、「ジャストダンス 2023 エディション」ではさらなる楽曲ごとにまったく異なるテイストのダンスを楽しむことができる。

 今回、フランスのパリに赴いて、開発するUbisoft Paris Studioを取材できた。取材の中でわかったのは、「ジャストダンス」の開発は“ダンス作り”から始まっていることだ。スタジオには「ジャストダンス」専門の振付ディレクターがいて、Ubisoft内には「ジャストダンス」専用の撮影スタジオもある。

 さらには衣装作りを担うコスチュームデザイナーと、衣装作り専用の部屋も存在する。つまり「ジャストダンス」においては、まず楽曲合わせたダンスが作られ、そのイメージに合う衣装が作られ、それからダンスに合わせたゲーム要素(Joy-Conによる動きの反映など)などが作られていく。だいぶ大雑把なまとめではあるが、どこまでもダンスありきのゲーム開発、ということは間違いない。

 スタジオツアーではこれらゲーム開発の様子や、撮影スタジオでのダンス収録の様子を直接見ることができた。貴重なスタジオ内の風景なども交えながら、お伝えしていきたい。

 なお「ジャストダンス 2023 エディション」については、ツアー中に体験できたデモ版の模様も別稿でご紹介している。こちらも合わせてご覧いただきたい。

「ジャストダンス」は楽曲からイメージされるダンスから始まる
【「ジャストダンス 2023 エディション」Ubisoftスタジオツアー ダイジェスト】

まず100%のダンスと衣装が作られる!

 先ほど触れた通り、「ジャストダンス」の開発過程で最も特徴的なのは、コーチが踊るダンス(=プレーヤーが踊ることになるダンス)を最初に作る点だろう。

 まずあるのは楽曲リストとダンスの難易度だけで、曲のイメージから振付師が振り付けを構築していく。実際のアーティストのダンスをほぼ採用する場合もあれば、「ジャストダンス」用にアレンジしたり、逆にダンスのほとんどをオリジナルで制作する場合もある。この時点で、ゲームの他の要素は一切関係ない。ゲーム的な制約を受けることなく、100%のイメージのダンスがここで作られる。

 ちなみにコーチのダンスは、グリーンバックのスタジオで実際にダンサーが踊って収録している。曲のイメージに合うダンサーを選び、ダンサーは振り付けを覚え、「filming day」と呼ばれる撮影本番に臨む。ちなみにコーチの肌が真っ白などになっているのはどういう仕組かと思ったら、顔部分は実際に白く塗り、腕や足などは白いタイツを履くという意外にもアナログな手法だった。

 また衣装は曲とダンスのイメージに合わせたものが作られる。すべての衣装はダンサーの体型に合わせた1点もので、一からの手作り。華やかな装飾をよく見ると手縫いだったりするなど相当に凝っている。

 撮影が終了したあとは、ダンスと楽曲ステージの背景とを合成していく。ダンサーのダンス映像は、ゲームに落とし込んでいく過程で彩度をグッと上げた着色をほどこし、キャラクターとしての「コーチ」になっていく。コーチの着色は、1フレームごとに行なっているそう。

【「ジャストダンス 2023 エディション」コーチのポストプロダクション】
ゲーム画面の完成イメージ
衣装はすべて手作りの1点もの。取材した日も衣装が作られていた
文字の部分などをよく見るとひとつひとつ手縫いになっている。文字が反転しているのは、ゲーム内ではダンサーの踊りを左右反転させて使用するためだ
衣装について説明してくれている「ジャストダンス」Lead Costume and Character DesignerのBenjamin Jouffre氏

 そしてダンスゲームの“ゲーム”部分はここから作られる。振りに合わせてJoy-Conの動きなどが設定されて、いよいよステージの完成だ。プレイ中は画面の右下に動きの参考ポーズが出てくるが、常にダンスがベースになるためパターンがどんどん増え続けている状態だそうだ。

画面右下に出てくる参考ポーズは常に新規作成されているという

すべてはこの日のため。撮影本番「filming day」に密着

 「ジャストダンス」シリーズはダンスがすべての生命線なため、開発過程で最も力が入るのは「filming day」だ。振り付けも衣装もすべてはこの日のためにあり、撮影されたものはゲームにほぼそのまま実装される。今回のスタジオツアーでは、緊張感あふれる「filming day」の1日を取材できた。

開発スタジオとは別にある、Ubisoft Carnot Studio。本格的すぎてゲーム開発の取材に来たとは思えないほど

 「filming day」では、ダンサーは衣装の準備から取り掛かる。メイクを施し、衣装を着て、髪型などをきっちり整えていく。メイクや衣装によっては4時間以上かかる場合もあるそう。この日までに何度もリハーサルを重ねていることを考えると、やはりダンスへのコストのかけ方が尋常ではないと感じる。

 取材した日は、ダンサーさんをメイク段階から見ることができた。顔を白塗りでバッチリ決めて、衣装はカウガール風。アーティスト名や楽曲名は情報解禁前となっているので明かせないが、セクシーかつカッコいい風貌だ。

順番に衣装を着ていく。ジャケットの模様は、よく見ると生地に貼り付けられたものだ
メイク中のダンサーさん。キリッとしたコーチの姿ができあがってきた

 そして、ダンス本番は時間との勝負。なぜかというと、汗が出るとメイクが崩れてしまうほか、衣擦れや床との接触で衣装にもダメージが入っていくから。特に衣装は1点ものなので替えが効かないため、壊れたら修復の時間を要する。そのため「filming day」にはトラブルに対応できるよう衣装担当もしっかり付いている。

 かといって、肝心のダンスのクオリティも妥協はできない。何と言ってもダンサーが務めるのは「コーチ」なので、最初から最後まで、ダンスは何度繰り返し見ても粗が見つからないくらいに完璧でなくてはならない。一発OKがもちろん理想だが、立ち位置や画角、照明の位置などやってみてから初めてわかる調整箇所もある。とにかく、様々な高いハードルが一度にやってくるのが「filming day」というわけだ。

ついに本番!
迫力あふれるダンスを何度も繰り返していく
メイクが落ちないよう、ファンで汗を乾かしているところ
少しでもブーツへのダメージを減らすためカバーをかけている

 取材日ではダンスを何度も繰り返すも、なかなか担当振付師からOKが出ず、予定の時間を大幅に過ぎて撮影が行なわれていた。メイク直しも繰り返されているし、こんな大事な日に取材で邪魔をしているんじゃないかと申し訳ない気持ちも出てくるほどだったが、ダンサーさんはさすがで数時間踊りっぱなしでもまったくクオリティが落ちていない。そこから細かい振り付けの修正を何度か繰り返し、フィルムチェックをし、ついに担当振付師が納得したところで撮影が完了した。現場は拍手喝采となり、ダンサーさんも満面の笑顔を見せる。「ジャストダンス」ならではとしか言いようがないほどの、独特の現場体験だった。

 “どこまでもダンスありき”という開発姿勢は今回初めて知ったが、ここにこだわるからこそ、多くのファンを獲得できるパワーがタイトルに生まれているのだと思う。コーチひとりひとりのダンスにUbisoftの本気の本気が詰まっていると考えて「ジャストダンス」をプレイすると、また違った感想が浮かんでくるのではないだろうか。

撮影は無事終了! ダンサーさんの笑顔が良かった