【特別企画】

100型画面の「グランツーリスモ7」は圧倒的なド迫力!BenQの4K 4LEDゲーミングプロジェクター「X3000i」徹底検証

「X3000i」の性能を大画面☆マニア的な視点で検証してみる!

RGB+Bの4LED純色光源で色域が凄い!

 「X3000i」は、その映像パネルとして、液晶パネルではなく、TI(テキサスインストゥルメンツ)社が開発したDMD(Digital Micro-mirror Device)パネルを採用している。このDMDパネルは、実は、今でこそ広く実用化されているMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を最も早期から実用化したものであり、簡単に言えば「各画素自体が超微細な電磁メカでできている映像パネル」なのだ。

 液晶プロジェクターでは、赤緑青の3原色映像を3枚の液晶パネルで生成して、これをプリズムで合成して投写する構造となっているが、TIが考案した単板式DLP(Digital Light Processing)プロジェクターでは、赤緑青の3原色映像を1枚のDMDパネルだけで時分割表示する構造になっている。つまり、液晶プロジェクターが必要とする複雑な光学経路が不要となるため、単板式プロジェクターには「プロジェクター本体をコンパクト/軽量にできること」「製品価格を相対的には安価にできること」といった利点がある。

「X3000i」の映像投写部

 また、このDMDチップは、液晶を遙かに超えた超高速で駆動できる特徴があり、このDMDチップ1枚を用いた単板式DLPプロジェクターでは、ある瞬間は赤(R)だけの映像、次の瞬間は緑(G)、次は青(B)、以降その繰り返し…という感じで、超高速に単色の映像投写を切り換えることでユーザーの脳でフルカラー映像を視覚させる仕組みとなっている。この仕組みは「時分割フルカラー表現」と呼ばれる。

 単一のDMDチップで時分割フルカラー表現を行なう際には、高速に光源を赤緑青で切り換えなければならないが、従来のDLPプロジェクターでは、これを「カラーホイール」と呼ばれる超高速回転するカラーフィルターを用いて実践していた。しかし、最新型の単板式DLPプロジェクターでは、これを赤緑青(RGB)の純色LED光源を用いる製品が増えてきている。「X3000i」はまさに、この方式を採用する製品なのだ。ちなみに、昨年紹介した「TK700STi」はカラーホイール方式だった。

 LEDの発光応答速度はマイクロ秒(100万分の1秒)のオーダーなので、電動モーターで回転するカラーホイールに対して劣るところはない。

 そして「X3000i」では、赤緑青の3LED方式ではなく、青LEDを1灯分、増やした赤緑青青(RGBB)構成の4LED光源システムとなっている。青LEDが1つ多いのは結論から言えば「長寿命と高輝度」の両立のため。LEDという部材は、短波長の光を発するものほど寿命が短い(ちなみに有機ELも同様)。つまり、3原色で最も波長の短い青色を発する青色LEDは、相対的に赤や緑のLEDよりも寿命が短いのだ。ちなみにLEDは、強い電荷を掛ければ掛けるほど明るく光るがその分、寿命が短くなる。だったら、青色LEDに対し、それほど高くない電荷をかけて光らせることで長寿命を狙いつつ、その光量不足を補うために青LEDの数を増やせば……という発想が「X3000i」の4LEDシステムなのだ。

 これは、有機ELパネルでも良くやる改善案で、最新型の有機ELパネルで青色発光層を3層にまで増やしたものが存在するのはこのため。ちなみに、「X3000i」の光源システムの公称寿命は2万時間(エコモードでは3万時間)となっている。なお、水銀系ランプを採用していた「TK700STi」は4000時間(エコモードで8000時間)であった。

 さて、RGB(+B)の3原色LEDは、余計な色を含まない純色の赤緑青を放つので、これらを組み合わせて得られる混合色は極めて品質が高くなる。簡単に言えば色域が広くなるということだ。実際、「X3000i」では、Rec.709(sRGB)色空間カバー率100%はもちろん、DCI-P3色空間カバー率も100%となっている。

 実際に、筆者が私物の色度計で「X3000i」を測定したところ、以下のようなスペクトラムが得られた。映像は「X3000i」が搭載する5種類のモード(Bright・LivingRoom・Game・Sports・Cinema)をそれぞれ表示させた。

Picture Mode「Bright」
Picture Mode「LivingRoom」
Picture Mode「Game」
Picture Mode「Sports」
Picture Mode「Cinema」

 一切遮光をしない環境下でも映像が見られるようにするための輝度最優先の「Bright」モードに限っては、やや異質なスペクトラムになっているが、それ以外の画調モードでは、赤緑青のピークスペクトラムの分離感が良好で、スペクトラムピークのパワーバランスも均整が取れていて美しい。

 特に赤と青のスペクトラムが鋭く立ち上がっているため、赤と青については色域の広さを連想させる。緑のスペクトラムも分離感はいいので、水銀系ランプと比べれば発色における雑味は少ないはず。参考までに水銀系ランプを採用していた「TK700STi」のCinemaモードのスペクトラムを下に示しておく。発色性能の優秀さを左右する「スペクラムピークの鋭さ」「スペクラムピークの分離感」は、圧倒的に「X3000i」の方がよいことが読み取れるはずである。

「TK700STi」のスペクトラム(参考)

時分割4K表示とフルHD/240Hz表示対応。さらに「TK700STi」よりも開口率アップ!

 ところで、「X3000i」は、4Kプロジェクターに分類される製品だが、搭載されているDMDパネルは0.65インチサイズの1920×1080ピクセル解像度のフルHD(1080p)パネル「DLP650TE」になる。「X3000i」では、このフルHDのDMDパネルにSpatial Light Modulator(SLM:空間光路変調器)を組み合わせ、DMDチップ上のピクセルを空間的に4回分、時分割表示することで4K(3,840×2,160ピクセル)表示を行なうことで4K表示を行なう。そう、「X3000i」では、色のみならず、解像度についても時分割表現を行なっているのである。

 「X3000i」が採用する時分割ピクセル数増強システムはTIによって「XPR」(Expanded Pixel Resolution)技術と命名されており、この方式を「疑似4K」と呼ぶこともあるが、かなり再現度の高い4K分のピクセルを投写することができる。

 実際に、DMDパネルのネイティブ解像度であるフルHD表示時と、同じ画像をXPR技術を使った4K時分割表示時の投写映像の接写写真を撮影してみたので下記に示そう。

【ネイティブ解像度/XPRの画像比較】
ネイティブ解像度によるフルHD表示
XPRによる4K表示
【ネイティブ解像度/XPRのテキスト比較】
ネイティブ解像度によるフルHD表示
XPRによる4K表示

 前述したように、「X3000i」のDMDパネルはフルHD解像度であり、XPR技術によって位置をずらしで4回分、各ピクセルを描画して4K表示を行なうが、ピクセルサイズはフルHD解像度のままなので、テキスト表示のような1ピクセル単位の表現はややピンボケしたような感じにはなるものの、画像(映像)表示においては、角張った感じが消えて、たしかにリアル4K表示に近い解像感は得られているように見えている。

 なお、「TK700STi」もXPR技術を活用した4K表示に対応していたが、「TK700STi」のDMDパネルは0.47インチの「DLP471TE」だった。「X3000i」が採用するDLP650TEの方がパネルサイズが大きい分、1ピクセルあたりの開口率が向上することから光の利用効率が向上することになる。開口率の向上は、各画素の格子筋が狭まることから、表示ピクセルの粒状感が低減する。このあたりも地味ながら「TK700STi」に対する優越ポイントになっている。

 また、「TK700STi」もそうだったように、「X3000i」は、DMDパネルの高速応答性をハイリフレッシュレートに転用する特殊表示機能も搭載している。具体的には、フルHD映像に限っては120Hz、240Hzの表示に対応するのだ。ある意味、これこそが、「X3000i」におけるはゲーミングプロジェクターとしての大きな訴求ポイントになっている。このあたりのインプレッションについても後述しよう。

入力遅延の低さはプロジェクターとしては業界最速レベル

 「X3000i」は、プロジェクター製品としては業界最速レベルの低遅延性能がアピールされている。

 メーカー公称値としては下記のように発表されているが、これが事実かどうか検証すべく、筆者の連載、大画面☆マニアでお馴染みのLeo Bodnar Electronics社の「4K Lag Tester」を用いて入力遅延を実測してみた。

「X3000i」の入力遅延に関するメーカー公称値
実機での入力遅延の測定の様子

 なお、この計測機材で計測できるのが4K/60Hz、フルHD(1080p)の60Hzと120Hzの3パターンに限定され、240Hzについては計測ができていないことをあらかじめご了承頂きたい。なお、計測時の画質モードは「Game」とし、最も低遅延となる「高速モード」をオン/オフの両モードで計測した。また、フルHD/60Hz入力時に限り、XPR技術による4Kアップスケール適用時においても計測した。(なお、フルHD/120Hz以上ではXPR技術は利用出来ない)

【「X3000i」入力遅延の測定結果】
高速モードオンオフ
4K/60Hz16.7ms33.4ms
FHD/60Hz16.8ms33.8ms
FHD/60Hz/XPR17.2ms33.8ms
FHD/120Hz8.8ms17.1ms

 台形補正処理などが無効化される「高速モード:オン」設定時の計測値は、ほぼほぼ公称値と一致していることがわかる。逆に「高速モード:オフ」時は、1フレーム分の遅延が発生していることが読み取れる。ちなみに「高速モード:オフ」時の1フレーム分の遅延増加の原因は、この台形補正処理の介入が大きな要因となる。逆に言えば、低遅延で「X3000i」を活用したいユーザーは、台形補正を活用しない設置スタイルを心がけた方がいいということになる。

 それにしても、「X3000i」のリフレッシュレート240Hz時に約4msという入力遅延値は、かなり直視型のゲーミングディスプレイに近いものとなっていて凄い。「X3000i」でゲームをフルHD解像度でプレイする際には、たとえフレームレートが60fps固定のゲームであったとしても、リフレッシュレートは240Hzに設定することをお奨めする。

 というのも、60fps固定のゲームであってもPC版の場合に限っては、リフレッシュレートを上げることで入力遅延が低減される現象が確認されているためだ。

 本筋から外れるので本稿では軽い紹介に留めるが、筆者が以前、NVIDIAが提供しているGPUのパフォーマンス解析ツール「FrameView」を使って「MsRenderPresentLatency」(映像表示指示が出されてから実際に表示が行なわれるまでの遅延時間)を1,200フレーム分計測したことがある。その平均値を下表に示すが、リフレッシュレートを上げれば上げるほど、広視野の時間が短縮する現象を確認することができた。

【「FrameView」を用いた遅延時間の検証】
リフレッシュレートMsRenderPresentLatency
60Hz13.09
120Hz6.26
240Hz5.48

 PC(≒WindowsのDirectX環境)では、ゲームのフレームレートと無関係に高いリフレッシュレートが設定できることから、映像の描画が完了していれば、即座に表示を行なうことができる(家庭用ゲーム機にはこの表示特性は備わっていない)。このことから、60fpsのPCゲームであってもリフレッシュレートを高くすると低遅延が実現されてしまうのである。

 「X3000i」ならば、eスポーツ系のPCゲームもかなり高い次元のプレイが楽しめるはずだ。