【特別企画】

東西対抗eスポーツ大会「Red Bull 5G」、5年振りに開催

「ぷよテト」から「鉄拳7」まで、ジャンルを超えたeスポーツ大会の魅力

【Red Bull 5G 2021】

11月27日開催

会場:Gメッセ群馬

 「Red Bull 5G」は2012年にスタートしたレッドブル・ジャパンが主催する大規模eスポーツイベントのひとつだ。特定のゲームの大会ではなく、「5G」の名の通り5つの競技種目を同日に扱い、またそれぞれの種目は東軍西軍に分かれた団体戦によって競われ、総合得点の高いチームが勝者となる。普段のeスポーツイベントとは違い、多様なタイトルを一度に楽しめ、また普段は見れない選手たちのチームプレイが見られるのが当イベント最大の魅力といえよう。

【Red Bull 5G 2021】

 2016年以来5年ぶりの開催となった「Red Bull 5G 2021」は、「eFootball 2022」、「グランツーリスモ SPORT」、「鉄拳7」、「ぷよぷよテトリス2」、「雀魂」とジャンルの違う5タイトルをメイン種目として催された。前回大会では東軍が5-0のストレート勝ちを納めたが、今大会でも彼らが同じように強さを見せつけるのか、はたまた西軍が5年越しに雪辱を果たすのか。

 今大会の会場には群馬県高崎市のコンベンションセンター「Gメッセ群馬」が使用され、内装やライティングは無観客とは思えないほど、流石レッドブル主催大会というべき完成度の高さだ。コロナ禍においてはイベント性を重視したeスポーツ大会は少なくなってしまったが、「Red Bull 5G 2021」はそんな現状の中でも様々な工夫によってeスポーツイベントの新たなスタンダードを打ち立てた。本稿ではそんな大会の様子を現地からレポートする。

会場はレッドブルカラーの赤と青で照らされる

特殊ルールにAR、サイドアクトで観客を楽しませる

 まず「Red Bull 5G 2021」の全体ルールを紹介しよう。本大会では全5種目の競技タイトルで東軍西軍それぞれの予選を勝ち抜いた代表チームが団体戦を戦い、その内の3種目で勝利を収めたチームの総合優勝となる。タイトルの順番は事前には決まっておらず、直前の対戦で負けたチームに次の種目の選択権が与えられることとなっているため、種目選びの駆け引きも重要な要素になっている。このようなルールから、異なった種目の選手たちがチームメイトとしてそれぞれを応援する姿も見られ、会場は終始熱気に包まれていた。また各種目の勝利チームにはトロフィーとして高崎市の名産品でもある特製の達磨が進呈されることとなっており、地域性を取り入れた施策が非常に興味深い。

トロフィーの達磨は全て特注だという

 今大会の特筆すべき点はその規模感もさることながら、配信のクオリティにもある。初の無観客開催となった今大会は、オンライン配信にも観客を飽きさせない工夫が各所に施されており、まず目を引いたのは風神雷神の美麗なARエフェクトだ。配信にはカメラの動きと連動してCGが投影されており、緻密なライティングも相まって、配信で見る限りでは実際にその場に風神雷神がいるかのような映像になっていた。

ヘッドセットをした風神雷神がステージ上部に浮かびあがる

 また各種目の開始前には著名キャスターを招いた動画による見どころ解説が行われた。ニュース番組風のシュールなコント仕立てで繰り広げられるこれらの動画は、観戦初心者にもわかりやすく、また往年のファンも飽きさせないレクリエーションになっていた。

「鉄拳7」でスカ確の説明をするハメコ。氏

 競技自体の面白さは当然のこと、「Red Bull 5G 2021」は幕間のパフォーマンスにも力を入れていた。各種目の間にはサイドアクトと称したインターバルの時間が設けられ、様々なジャンルから招かれたパフォーマーたちが会場を大いに盛り上げた。登場したパフォーマーは、ダンサー、ビートボクサー、BMXライダーなど多岐に渡り、それぞれのサイドアクトは単体でも見る価値のあるほど圧巻だった。eスポーツとこうしたパフォーマンスを融合させるのはまさしくレッドブルらしく、「Red Bull 5G」が単なるeスポーツ大会の枠組みを超えた複合的なイベントであることを物語っている。

Red Bullアスリート徳田耕太郎氏によるフリースタイルサッカーの演技

専業プロが圧倒的な強さを見せた!「鉄拳7」部門

 大会の幕開けを飾ったのは格闘ゲームタイトル「鉄拳7」だった。この種目で特筆すべきなのはなんといっても専業プロVS兼業プロという対決構造だろう。西軍の面子を見てみると、公式世界大会優勝経験を持つchikurin選手をはじめ、ダブル選手、NOROMA選手と3人が3人とも一線級のトッププロ選手だ。

 対する東軍はG選手、うましか選手、KAGEMARU選手と全員が社会人ゲーマーであり、普段から仲の良いという3人で構成されている。客観的に見ればかなりの実力差があるように思われるが、東軍はこの試合に備えて2か月以上も対策を練ってきたとのこと。果たして番狂わせを起こすことはできるのか。

左からNOROMA、ダブル、chikurin、G、うましか、KAGEMARU

 先鋒に出てきたのは西軍からはNOROMA選手、東軍からはうましか選手となった。後に東軍にインタビューを行ったところ、西軍の先鋒にNOROMA選手が来るのは予想通りだったとのことで、対策は十分のカードだ。うましか選手のニーナはNOROMA選手のスティーブに対して若干不利ではあるが、それでも熟練度と対策で食い下がる。スティーブの主力技クイックフックに対してスカし確定を決めている場面もあり、両者は互角の戦いを繰り広げた。

スカ確を決めるうましかニーナ

 しかし試合が進むにつれ、勝負どころの駆け引きでNOROMA選手が優位に立ち、試合のペースを握っていった。特に第4ラウンドなどは、うましか選手が体力リードを持っていたものの、NOROMA選手が中間距離からのスカし確定でレイジドライブを決めて一気に体力差を縮め、さらには壁際でのスローモーションを制して勝利を掴んでいた。不利状況からの復帰プランの明確さや思い切りの良さなどは、やはり場数の多いプロならではのプレイだといえよう。

試合に臨む東軍

 うましか選手が敗れると、次に出てきたのはボブ使いのG選手。敗者側にはステージの選択権が与えられることになっているが、G選手はスティーブの高火力壁コンボを嫌ったようで壁無しステージを選択した。

 しかしさすがプロ、NOROMA選手はすぐさまこのステージ変更に適応し、プレイスタイルを変えてくる。先程までの接近戦重視の戦いから、序盤に小突いて体力リードを奪ってから大きく間合いを取るディフェンシブな作戦をとってくる。するとG選手はNOROMA選手に対してリスクを負って攻めに行かないといけなくなるわけだが、NOROMA選手はガードのセンスも抜群で、G選手の勝負をかけた攻撃が何回もガードされているのが印象的だった。G選手も健闘したが、NOROMA選手の緩急のあるプレイに上手く適応できず惜敗。東軍は残りKAGEMARU選手ひとりとなった。

 もう後がない東軍、ニーガン使いの大将KAGEMARU選手が出陣し、ステージは継続して壁無しステージを選択した。ニーガンは機動力の高いキャラクターなため、広い空間を上手く使えると踏んだ判断だろう。実際KAGEMARU選手は横移動からの細かい削りや、相手の上段攻撃に対するしゃがみからの反撃など、小さなところからリターンを重ね、スティーブに対して前の二人よりも圧倒的に上手く立ち回っていた印象がある。

スティーブの上段攻撃に手痛い反撃を与えるKAGEMARUニーガン

 両者が2ラウンドずつ取り合った後のファイナルラウンド、緊張感とともに会場が試合の行方を見守る中、両選手は互いに攻撃を交わし合い、体力残りわずかの状況に。するとKAGEMARU選手がプッシングのカウンターヒットからダウンを奪い、起き攻めに持ち込む。KAGEMARU選手やや優勢の戦況に見えたが、ここでNOROMA選手が起き上がりにレイジアーツを放つ。ガードされていたら負けていたハイリスクのレイジアーツだったが、これがうまく噛み合い、NOROMA選手の逆転勝利となった。こうした大胆な読み合いを仕掛けられるのもプロの妙技と言うべきか。

起き上がりのレイジアーツが決まり手に

 試合後のインタビューでレイジアーツについて伺うとNOROMA 選手は「裏に頼もしい仲間が控えていたからこそ取れた選択肢だった」と語った。3タテに終わったためchikurin選手とダブル選手の出番こそなかったが、彼らの存在はNOROMA 選手の精神的な支えとなって勝利に貢献していたということだ。

勝利を喜び合う西軍

 負けてしまった東軍に話を伺うと「仲良しチームと言われていたが、勝つ気で来ていたので悔しい。一先という形式の中健闘したが、最後に立っているのはNOROMA選手だった」と悔しさを滲ませた。

目にも止まらぬ音速の決着!「ぷよテト」部門

 多くの名場面を生んだ「Red Bull 5G 2021」だが、「ぷよぷよテトリス2」部門はハイライトの一つと言えるだろう。日本最高峰の「ぷよテト」プレイヤーが集い、目にも止まらぬ速さでパズルと駆け引きを繰り広げる。試合時間は僅か6分だったにも関わらず、両チームの激闘に、視聴者たちは固唾を呑んで試合の行方を見守った。

 今大会の「ぷよテト」部門は各チームぷよぷよプレイヤーとテトリスプレイヤーがタッグを組んだ2対2の形式で競われた。チームプレイが重要になってくるため、普段の1対1戦とは毛色が大きく異なる。テトリスが主導して速い展開を作る中、ぷよぷよは如何に発火点を守り、そしてどのタイミングで一斉攻撃を仕掛けるかが勝負のポイントになる。

出場選手、左から、もちもちもちもち、Live、なしー、あめみやたいよう

 そしてなんといっても注目は東軍あめみやたいよう選手だ。「テトリスの神」とも呼ばれ、名声と実力を兼ね備えて日本テトリス界のトップに君臨する彼は、なんとこれまでに「Red Bull 5G」を2連覇する偉業を成し遂げている。今大会でまたもや勝利すれば3連覇という記録がかかった大一番というわけだ。もちろん西軍もそれは承知の上であり、神速のスピードを持つあめみや選手をどう食い止めるかが見どころになってくる。

 試合が始まると、西軍もちもちもちもち選手と東軍あめみやたいよう選手が互いにテトリスでスピード勝負を仕掛け、Tスピンの応酬となった。矢継ぎ早に迫ってくるおじゃまブロックに対応しながら攻めを繋がなくてはいけないため、1つのミスがラウンドの負けに繋がる。1ラウンドが1分も経たぬ間に終わってしまうハイスピードな戦いだが、やはり勝負の鍵となってくるのはぷよぷよの立ち回りだろう。例えば第1試合の両者が2ラウンドずつ取り合った5ラウンド目、東軍あめみや選手がBack to BackでTスピンを決めると、それに乗っかるように相方のなしー選手が3連鎖の全消しを放ち、これが決め手となって東軍が勝利した。

追い打ちをかける全消し

 後に東軍にインタビューを行うと、彼らは今大会に向けて連携プレイの練習を積んできたと語った。あめみや選手が爆速でテトリスを積んでいる最中も、なしー選手は常に自分と相手のぷよぷよの連鎖数を報告しており、戦況を計りながら一斉攻撃のタイミングを見計らっていたという。

 続く第2試合も両者ともに健闘したが、やはりチームワークの差が勝敗を決した印象だ。東軍が勝利にリーチをかけた第4ラウンド、ぷよぷよが全消しを狙えるツモが落ちてくるも、あめみや選手がこのタイミングを逃すことなくTスピンを決めて西軍live選手におじゃまぷよを送る。するとなしー選手が華麗に全消しボーナスを獲得する中、live選手はおじゃまぷよが1つ残って全消しにならないという悔しい結果に。この差が響いて「ぷよテト」部門は東軍のストレート勝ちに終わった。

勝利してガッツポーズを決める東軍

最後はタイマン!白熱の「eFootball 2022」部門

 他全ての種目がチーム戦で争われた中、唯一1対1のタイマン形式で行われたのが「eFootball 2022」部門だ。最終タイトルとして選ばれた本タイトルだったが、この時点で東軍西軍がそれぞれ2種目ずつ勝利を収めていたため、総合優勝は「eFootball 2022」の選手に託されたということになる。強大なプレッシャーの中試合に臨んだのは、東軍レバ選手と西軍Mayageka選手だ。

Mayageka(左)レバ(右)

 使用チームはMayageka選手はマンチェスターU、レバ選手はFCバイエルンと、双方決定力の高いチームを選んでいる。試合が始まると、レバ選手が細かいドリブルでボールを保持し積極的に攻める姿勢を見せ、対するMayageka選手は守りに徹するようなプレイスタイルだ。両者の実力は拮抗しており、試合時間90分を越してもお互いに得点はなかった。

 しかし後半91分過ぎ、試合がアディショナルタイムに突入した直後、今まで守りに徹してきたMayageka選手が均衡を破るかのように1点を決める。ペナルティエリア内での細かなパス回しから、フェルナンデスでディフェンスの合間を縫うようなシュートを差し込んだ。この得点が決定打となり、第1試合は西軍に軍配が上がる。

Mayageka選手得点の瞬間

 続く第2試合、勢い付いたMayageka選手が今度は攻勢に転じ、前半3分と10分に立て続けに点を決める。Mayageka選手の攻めは緩急のあるドリブルが特徴で、ゴール前で華麗にディフェンダーを抜き去るさまは圧巻だった。しかしレバ選手も負けておらず、前半後半それぞれに得点を返し同点に持ち込んだ。

 後半77分、試合終了迫る中、均衡を破ったのはまたしてもMayageka選手だった。右サイドからロナウドの個人技を活かして一気にゴール前までボールを運ぶと、ディフェンスが揃う前にすかさずシュート、最後までロナウドの個人技で得点を決めて見せた。残り少ない時間でレバ選手も反撃を試みたが、攻めの糸口を見出せず、第2試合も西軍の勝利となった。

得点のたびに後ろに控える多種目の選手が盛り上がっていたのが印象的だった

 東軍としては後がない第3ゲーム、両者はお互いに1点を奪い合い、試合は今大会初の延長戦にもつれこんだ。拮抗した試合が動いたのは延長戦開始直後、Mayageka選手がキックオフから不意をつくように縦パスを通し、ロナウドで前線へ繰り出す。レバ選手も必死にディフェンスを試み、一度はシュートを阻んだが、その後もMayageka選手がしつこい攻めで絡みつき、短いパスからマルシャルでシュートを決めた。これが決定点となり、「eFootball 2022」部門は西軍の勝利となり、合計3種目で勝利した西軍が「Red Bull 5G 2021」の総合勝者となった。

壇上に駆け上がり互いの健闘をたたえ合う西軍の選手陣

 試合後にインタビューするとMayageka選手は「チームメイトが勝利を繋いで僕に総合優勝を託してくれたので、プレッシャーに感じるというよりも、テンションを上げてプレイできました。勝利できて本当によかったです」と喜びを語った。

総合勝利した西軍

 各種目がそれぞれの魅力を発揮し、多様なeスポーツの在り方を再確認できたイベントとなった「Red Bull 5G 2021」。結果としては西軍が5年越しの雪辱を果たし、悲願の総合優勝を手にして幕を下ろした。普段は見られないeスポーツ選手たちのジャンルを超えた共闘や、eスポーツの枠組みを超えたエンターテイメントとしてのイベント性は、やはり「Red Bull 5G」ならではの魅力だったように思う。次回大会は5年後とは言わず、是非また来年開催してほしいと願うばかりだ。