【特別企画】

ふ~ど、ネモ、ときどがサウジ勢を迎え撃つ! 「日本・サウジアラビアeスポーツマッチ」ストV部門レポート

ファイサル・ビン・バンダル・アール・サウード殿下への個別インタビューも収録

【日本・サウジアラビアeスポーツマッチ】

10月3日開催

会場:ところざわサクラタウン

 10月3日、日本eスポーツ連合(JeSU)が主催する国際eスポーツ大会「日本・サウジアラビアeスポーツマッチ」の2日目が開催された。この大会は、両国間の戦略的国際パートナーシップ「日・サウジ・ビジョン2030」の一環として、両国の親善を深める目的の下で開催される。本大会は日本での開催だが、翌2022年にはサウジアラビアでも同様の大会が予定されている。

会場の様子

 国を巻き込んだ一大イベントということで、大会には多くの関係者が来訪していた。自身もゲーマーであり、サウジアラビアeスポーツ連盟会長を務める、王族のファイサル・ビン・バンダル・アール・サウード殿下をはじめ、外交官として中東域の調査員を務めていた経験のある埼玉県知事の大野元裕氏や、所沢市長の藤本正人氏も登壇。eスポーツイベントらしからぬ厳かな雰囲気の中、壇上で両国の高官が言葉を交わすさまを見ていると、本大会がいかに両国間の友好の証となっているかがわかる。

閉会式でスピーチをするファイサル殿下
流暢なアラブ語でスピーチを行い、会場を驚かせた大野県知事

 2日間に分けて開催された本大会では、合計5タイトルのゲームで両国の招待選手がしのぎを削った。本稿では、そんな中でも特に盛り上がりを見せた「ストリートファイターV チャンピオンエディション」(以下ストV)部門をレポートし、eスポーツと国際親善の親和性を探っていく。

世界最高峰の日本チーム、サウジアラビアはどう戦うのか

 「ストV」は格闘ゲームの中でも特に競技シーンが活発なゲームだが、「ストV」の強豪国といえばやはり日本だ。日本のプロシーンは選手層が厚く練習環境も整っているため、アメリカやイギリスにも強豪選手はいれど、総合力では群を抜いている。そんな中で今回日本代表チームに選抜されたのは、ときど選手、ふ~ど選手、ネモ選手と、それぞれが世界大会の優勝経験を持つトッププレイヤー揃い。この3人相手に勝ち越すのはどんなチームを以てしても困難なように思えるが、果たしてサウジアラビアチームはどれほど戦えるのか。

 サウジアラビアチームの代表選手は、Big Boy選手、Breaker選手、Gin選手の3名だ。3名とも国際大会で見かけることは少ないが、サウジアラビア国内のシーンではかなりの実力者だという。サウジアラビアの選手たちは日頃から日本人選手のプレイ動画を見て「ストV」を研究しているそうで、今回こうして日本チームと対戦できるのは光栄だと語っていた。

左から、日本チームふ~ど選手、ネモ選手、ときど選手、サウジアラビアチームBig Boy選手、Breaker選手、Gin選手

 本大会のルールだが、3対3のチーム戦を最大3セット行い、先に2セットを獲得したチームの勝利となる。また各セットの大将戦は勝利チームに2ポイント与えられることになっており、先鋒、中堅戦で負けていても大将戦を勝てばBO1のタイブレークに持ち込めるルールとなっている。単純な実力だけでなく、チームの選出順も大切になってくるルールだが、果たして両チームはどのように立ち回って来るのか。

本大会ルール

 第1試合はネモ選手対Big Boy選手、使用キャラクターは両者ともユリアンで、実力の差が顕著に現れるミラーマッチとなった。ユリアンはVトリガーの「エイジスリフレクター」が攻守ともに優秀で、昨今の競技シーンでの評価が非常に高く、使用人口がめきめきと増えているキャラクターだ。しかしネモ選手はユリアンを実装当初から使っている数少ないプレイヤーの一人であり、その成熟度は並みのユリアンとは比べ物にならない。Big Boy選手のユリアンはネモ選手に対してどこまで戦えるのだろうか。

ユリアン同キャラ戦、Vスキル、Vトリガーの選択も全く同じだ

 同キャラ戦ということもあり、試合はゆっくりとした立ち上がりとなった。互いが飛び道具で牽制し合い、ゲージを溜めながら攻めの機会を伺っている。派手なぶつかり合いはなく、一見すると拮抗した試合にも見えたが、細かなところでネモ選手の上手さが垣間見える。まず両者の決定的な差となっていたのは、Vスキルの運用だ。ネモ選手は相手の技の空振りやダウンなどを有効に使ってVスキルをチャージしており、終盤には体力を6割ほど残してVトリガーを発動していた。また相手の技の空振りに対する差し返しや、飛び道具に対する対処もネモ選手の方が安定しており、Vトリガーの爆発力に頼らずとも、終始ネモ選手が優勢の状況が続いていた。

対戦中のネモ選手

 Big Boy選手も健闘し、Vトリガーを使った攻めに逆転の望みを懸けるも、ユリアン使いの第一人者であるネモ選手が相手では起死回生のエイジスリフレクター連携も上手く決まらない。立ち回りでリターンを取ろうにも終始ネモ選手にゲージで上回られており、中々攻めの糸口が見いだせなかった。第1試合はネモ選手が圧倒的な実力差を見せつけ、1ラウンドも落とさずに完封勝利となる。

ヘッドバットで切り返すネモ選手

 続く第2試合はGin選手対ふ~ど選手のカード。Gin選手はリーチの長い通常技を持つメナトを選択し、対するふ~ど選手は長年使っている近距離ファイターのレインボー・ミカを選択している。切り返しに乏しいメナトとしては近寄られると圧倒的に不利になるため、どのようにして相手の距離を詰めさせないかが課題となってくる。しかし当然ふ~ど選手もそれは承知のことで、ふ~ど選手は普段から日本のSako選手などを相手にしたメナト戦を得意としているため、これまた厳しい戦いになりそうだ。

左がミカ、右がメナト

 試合が始まると、ふ~ど選手は容赦なく接近戦をしかけていく。ドロップキックなどをちらつかせて相手の動きが止まったところに前ダッシュを差し込み、距離が詰まってからは多彩な投げ技で相手を逃がさない。なすすべもなくやられてしまったGin選手は、たまらず使用キャラクターをポイズンに変更する。ポイズンも遠距離キャラクターだが、メナトよりは近距離戦に有効な技を持っていることからの変更だろう。しかしふ~ど選手はポイズンをサブキャラクターとして使っていることもあり、キャラ対策は万全だ。ポイズンの攻めの要となるEXハートレイドに対しても冷静に対応しており、この試合もふ~ど選手が盤石な試合運びで勝利した。

負けてしまったGin選手

 これまで良いところがないサウジアラビアチーム、第3戦は是非とも勝ちたいところだが、迎え撃つは日本のプロシーンの中でも抜きん出た実力を誇るときど選手だ。ユリアンをメインキャラクターに戦うときど選手は、つい先日の「SFLプレシーズン大会」でも名だたるトッププレイヤーを抑えて優勝の座に輝いており、コンディションもかなり整っていると予想される。対するサウジアラビアのBreaker選手は競技シーンであまり見かけないバルログ使い。ときど選手に対してどこまで食らいつけるのだろうか。

左がユリアン、右がバルログ

 正直なところ、この試合もときど選手が完全勝利するのだろうと思って見ていたのだが、ここでBreaker選手が意地を見せる。見慣れないバルログに対して受けに回ったときど選手を前にして、正攻法では崩せないと悟ったBreaker選手は、バルログの豊富な空中攻撃を駆使して積極的な攻めを展開する。EXバルセロナアタックやEXスカイハイクローの表裏択を気合で通し、危険を顧みないスライディングも功を奏し、第1ゲームは見事Breaker選手に軍配が上がる。後にこの試合について尋ねるとBreaker選手は、「ときど選手相手に1戦でも勝てるとは思っていなかった、自分でも驚いたよ」と語ってくれた。

画面端のEXスカイハイクロ―でときど選手がスタンしてしまう

 しかしそこはトッププロのときど選手、奇襲作戦の一つや二つすぐに対応できるだけの力を持っている。続く第2ゲームからときど選手は受けに回るのをやめ、ダッシュや歩きからの投げを積極的に仕掛けていく。するとBreaker選手はペースを乱され、自身の攻めを思うように展開できず固まってしまう。そこに今度はときど選手が巧みな間合い管理で相手の投げ抜けを誘い、空振りが生じた隙に大きな打撃を叩き込んでコンボを決める。ときど選手は試合をプロならではの心理戦へと持ち込み、駆け引きでBreaker選手を圧倒したのだ。この勢いに気圧されてしまったか、第2、第3ゲーム共にBreaker選手が敗北し、第1セットは日本チームの全勝となった。

真剣な眼差しで試合に臨むときど選手

 やはり日本チームは強かった、というのが正直な感想だ。第1セットの完勝に甘んじることなく、続く第2、第3セットも手堅いプレイイングでサウジアラビア勢を圧倒し、「ストV」部門は結果として日本チームが9戦全勝で勝利することとなった。試合後のインタビューで日本チームに話を聞いたところ、「僕たちには『ストV』強豪国として、世界の『ストV』シーンを引っ張ていかなきゃいけないという自負が強くある。絶対に負けられないと思って試合に臨んでいた」と語ってくれた。その言葉通り、実力差がハッキリした後でも日本チームは一切手を抜くことなく、最後までサウジアラビアチームを圧倒していたという印象だ。

 しかしサウジアラビアチームも、全く良いところなしというわけではなかった。第2セット第1試合では、先ほどときど選手相手に大活躍を見せたBreaker選手がふ~ど選手相手に再び大健闘し、1ゲームを奪ってみせた。Breaker選手は奇襲作戦が強いだけでなく、ふ~どポイズンの強攻撃に対する差し返しの反応速度や、通常投げ間合いでの攻防も非常に優秀で、先ほどの勝利がまぐれではないことを証明するかのような戦いぶりだった。最後にはふ~ど選手に対応され、惜しくも負けてしまったものの、大舞台でここまでのプレイができたというのは、本人にとってもいい経験になったことだろう。

Breaker選手がふ~ど選手相手に1ゲーム選手したシーン
Breaker選手

 また第2セット第3試合、ネモ選手対Gin選手のカードでは、ネモ選手がエイジスリフレクターを絡めたコンボをミスしてしまう場面が発生。Gin選手はこの好機を見逃さず、自身のVトリガーであるポイズンカクテルで一気に反撃し、ネモ選手から1ラウンドを奪ってみせる場面も見られた。後にこの場面について尋ねるとGin選手は、「ネモ選手相手に1ラウンド取れただけで嬉しいよ、自分にとっていい経験となった」と語ってくれた。

ラウンドを奪取するGin選手

 結果としては日本チームの圧勝となったわけだが、大事なのはゲームを通じて国際交流が行われたという点だろう。ときど選手も、「我々は迎え撃つ立場として、自分たちの持っている技術を惜しみなく出したつもりです。サウジアラビアの選手たちは十分伸びしろが感じられたので、この敗戦から沢山学んでほしい。来年のサウジアラビア大会ではもっと白熱した試合ができることを望んでいます」と語ってくれた。

優勝賞金240万円を手にする日本チーム

 負けてしまったサウジアラビアチームにインタビューをすると、「このような機会を設けていただいて本当にありがたい。我々の『ストV』シーンは日本ほど大きくないが、少しでも上達しようと沢山のプレイヤーが切磋琢磨していて、いつも日本の選手たちを目標に練習している。負けてしまったのは悔しいが、このような舞台で憧れの日本の選手たちと戦えて非常にうれしい。出国までに日本のプレイヤーとオンラインで沢山対戦をして、少しでも上手くなって帰るつもりだ」と語ってくれた。

インタビューに答えてくれたサウジアラビアチーム

 日本の選手たちはゲームを通じて強いメッセージを送り、サウジアラビアの選手たちはそれをしっかりと受け取っていた。このように各国の代表選手が言語の壁を越え、ゲームを通じて交流している姿は見ていて胸を打たれる。これからもこのような国際交流が続き、世界中のeスポーツシーンが盛り上がってくれることに期待したい。

「これからも両国の友好が続くことを強く望む」

 せっかく来日されているファイサル殿下に、是非ともインタビューをしたいと申し込んだところ、忙しいスケジュールの合間を縫ってインタビューに応じてくれた。この大会の主導者のひとりでもあるファイサル殿下は、どのような想いで大会を見ていたのだろうか。

――『日本・サウジアラビアeスポーツマッチ』がこうして開催されたことの意義はなんだと思いますか?

ファイサル殿下:  まず初めに、私は日本に多大なる好意を寄せています。日本の人、食、文化、どれをとっても素晴らしいものばかりです。そして我々両国は「日・サウジ・ビジョン2030」のもと、ビジネスや国交など、様々な面で非常に友好的な関係を築いています。今回の大会は、そんな両国の友好の証として、非常に意義深いものであったと感じています。このような取り組みが続き、これからも両国の友好が続くことを強く望みます。

 ゲームの素晴らしいところは、人々を繋げる力を持っているということです。今サウジアラビアには2千万人以上のゲーマーがいるとされており、eスポーツの潜在的市場価値は非常に高くなっています。この2千万人の人たちを日本のゲームコミュニティと繋げ、また日本のコミュニティから学ぶことで、我々のゲームコミュニティは更に大きなものに発展することでしょう。将来的にはサウジアラビアが、中東のeスポーツの中心地になってくれることを望んでいます。

――サウジアラビアの若者たちが、こうして国を背負って日本に来ていることに対して、どのように思いますか?

ファイサル殿下:  国を代表できるというのはどんな分野においても、非常に貴重な経験となります。今回サウジアラビアを代表してくれた選手たちは皆素晴らしい若者たちであり、彼らのことを心から誇りに思います。今回の大会で学んだことを国に持ち帰り、サウジアラビアのスポーツシーンが一層盛り上がってくれることを望みます。願わくば次回の大会では、今回よりも互角の戦いができるといいですね。

インタビューに答えてくれたファイサル殿下