【特別企画】
SF作品に愛された男、キアヌ・リーブス主演の映画「JM」で「サイバーパンク2077」を予習せよ!
キアヌ35年のギャップに注目。共通点からサイバーパンク作品の見どころを探る!
2020年12月2日 00:00
- 2020年12月10日発売予定
- 価格:7,980円(税別)より
1995年に公開された映画に「JM」というものがある。キアヌ・リーブスが主演しているサイバーパンク世界の映画なのだが、この組み合わせ、最近聞き覚えがないだろうか。
サイバーパンクでキアヌ・リーブスといえば、真っ先に思いつくのは今まさに発売直前の「サイバーパンク2077」だろう。開発するCD PROJEKT REDがあまりにクオリティに真摯すぎるため、マスターアップ後に延期という伝説クラスの逸話をさっそく残しているが、いよいよこの12月に発売となる。ついに、キアヌ演じるジョニー・シルヴァーハンドに会えるし、怪しげに光るナイトシティで思う存分自分だけのストーリーを楽しめるわけだ。
しかし、すでに公開されている「サイバーパンク2077」の映像があまりに魅力的であるために、「発売が待ちきれない!」という方も多数いると思う。そこで登場するのが、映画「JM」なわけだ。
「JM」は、単にサイバーパンクがテーマなだけの映画ではない。原作は、ウィリアム・キブスンの短編小説「記憶屋ジョニィ(Johnny Mnemonic)」。ウィリアム・ギブスンといえばサイバーパンクの起源とも言われる小説「ニューロマンサー」を著していて、「JM」では自身で脚本も担当している。
つまり、サイバーパンクのお手本としても「サイバーパンク2077」の予習としてもまず間違いない映画である。そして何より、キアヌが過去にどんなサイバーパンク作品と関わっていたのかを知ること(偶然か必然か、「JM」でも「サイバーパンク2077」でもキアヌは”ジョニー”を演じている)で「サイバーパンク2077」の味わいはより深みを増すだろう。
そこで本稿では「サイバーパンク2077」の公開情報を踏まえた上で、その予習として映画「JM」の見どころをご紹介していきたい。
キアヌ、もうひとりのジョニー役は「記憶屋」だった
映画「JM」の見どころは、やはりその舞台設定にある。登場人物たちの衣装はどれも奇抜で「サイバーパンク2077」そのものだし、腕を機械化していたり、筋肉を増強したり(その筋肉移植お粗末ね、とマウントを取られたりもする)、肉体改造を示唆する描写も数多く登場する。
また有名な闇医者が「チバシティにいる」とのセリフがあったり、ヤクザが巨大な力を持っていたり(ヤクザのボスを演じるのは北野武!)、日本勢力は思い切り幅を利かせている。「サイバーパンク2077」をしっかり追っているゲームファンなら、この共通する”空気感”を理解していただけるだろう。
本作のストーリーは、主人公のジョニー(キアヌ・リーブス)が自分が記憶した「機密データ」を取り出すために奔走するものとなっている。ジョニーは脳に記憶装置を埋め込んだ「記憶屋」であり、外部に漏らせない機密情報を運ぶ闇仕事の従事者だ。ちなみに、データを転送する際に「後頭部にプラグを挿すシーン」も登場する。映画「マトリックス」よりも前に、キアヌは後頭部にプラグを挿していたわけだ。
ある日ジョニーは”フィクサー”から仕事を依頼される。そのデータ容量はジョニーの許容量を大幅にオーバーしていたが、ジョニーは無理やりデータを脳にねじ込む。その代償は大きく、24時間以内にデータをダウンロードしなければ脳に負荷がかかって死ぬリスクを追うことになる。しかしパスコードは行方不明になり、さらにデータを狙う組織もジョニーの命を狙い襲ってくる。
映画としてはアクションとサスペンスが入り混じったような内容だが、仕事の依頼から物語が展開する流れはまさに「サイバーパンク2077」でも見られるものだ。フィクサーが果たして信用に足る人物なのか怪しいところも、よく共通している。「サイバーパンク2077」になぞらえるなら、「JM」でのジョニーはまさに主人公V(ヴィー)の立場ということだ。
ジョニーを襲う敵にも様々なタイプがいるが、鮮烈な印象を残すのはヤクザのシンジだろう。特に、シンジの使うナノワイヤーがいい。ナノワイヤーは赤く光るテグスのような武器で、シュッと一振りすることで人体も鉄のドアもスパスパッと一刀両断できる激強な代物。「サイバーパンク2077」でもナノワイヤーは武器のひとつとして登場するが、「ナノワイヤーはこうやって使うんですよ!」という手本をシンジがたくさん見せてくれる。
また「JM」には、のさばる企業に反抗的な集団「ロー・テク」も登場する。華やかな都会の生活からは一歩引いて、瓦礫を寄せ集め、自分たちの根城を築いている。郊外に住むという点では「サイバーパンク2077」のバッドランズ(ナイトシティの外側)に暮らす人々を連想させるし、独自の文化を形成している点では「ギャング」のひとつだと言える。どの組織もファッションから武装方法まで思想が極端に傾いていて、だからこそそのコントラストが面白い。
思想が極端すぎるといえば、牧師でありドSな殺人鬼でもあるカール牧師(演じるのは人間核弾頭ことドルフ・ラングレン)という濃いキャラクターも「JM」にはいる。アクセルべた踏みのトラックに轢かれても超元気なほどゴリゴリに肉体改造しているサイボーグなのだが、”拷問の際に手をナイフ等で壁に突き刺して磔を再現しがち”という牧師として最悪に罰当たりな嗜好を持っている(しかもしつこい)。いわば「どうかしている人たち」がわんさか出てくるので、そこも楽しめるポイントだ。
映画「JM」はサイバーパンク史に残すべき貴重な作品
映像表現として特徴的なのは、「インターネット接続」の描写だろうか。ジョニーは情報収集のため、ヘッドマウントディスプレイとグローブを装着し、今のVRゲームのような感覚でインターネットへダイブする。音声認識とジェスチャーを組み合わせて機密情報にハッキングしていく様はスピード感にあふれていて、その際のキアヌのキビキビとした動きと緊迫感がいい。現実の2020年のネット検索とは違った形ではあるのだが、VRでは実現できている部分もあり、”憧れが詰まった理想像”という点でとても魅力的だ。
「サイバーパンク2077」には自由にアクセスできる広大なインターネットが存在しないということだが、我々の知っている技術も知らない技術も「こうあってほしい」という姿で登場するはずだ。想像力を刺激するような、未知の体験を次々に見せてくれることを、「サイバーパンク2077」には期待したい。
「JM」は1995年の作品であり、誰の記憶にも残るような大ヒットを飛ばした映画ではない。見方によっては、よくあるB級映画のひとつにもなってしまいそうだ。しかし本作を「サイバーパンク2077」を知る上でのヒントとして改めて見直してみると、「サイバーパンク2077」との共通点は驚くほど多い。
見たことあるようで見たことのない景色、どういう構造かわからないがとにかく強い武器、奇抜なファッション、そしてキアヌ・リーブス。「JM」での活躍も、「サイバーパンク2077」での起用に大きく影響を与えているはずだ。
1995年のキアヌは2021年のサイバーパンク世界にいて、2020年のキアヌは2077年のサイバーパンク世界にいる。「JM」でのキアヌは当時30歳ほどで、高い技術を持つが感情的にもなりやすい青年を演じている。その危うさ、ナイーブさが魅力となっているが、一方の「サイバーパンク2077」では事前に公開されている情報を見る限り、ジョニー・シルヴァーハンドなる謎のミュージシャンは危ういというより危険度MAXのヤバさがある。この35年の振り幅がどれほどのものになるのか、その演技にも注目したい。
ちなみに原作となる短編「記憶屋ジョニィ」だが、著者のギブスンは「2作目の小説で、これが初めて売れたことでプロとしての人生をスタートできた」と映画「JM」に関するインタビューで語っている。「記憶屋ジョニィ」が売れなければ、おそらく「ニューロマンサー」も「サイバーパンク2077」も存在しなかっただろう。映画「JM」は、その意味でサイバーパンク史に残る貴重な作品と言えるのではないだろうか。