【特別企画】
TGS2020オンラインで「MTGアリーナ」大会「Red Bull Untapped」の日本予選が開催
決勝でまさかのタイムアウト発生!? 2つの「オムナス」最強デッキが激突!
2020年9月28日 13:46
- 9月26日、27日開催
「マジック・ザ:ギャザリング」(以下MTG)は、1993年に発売が開始された世界最初のトレーディングカードゲーム(以下TCG)であり、その後登場したTCGのほとんどがMTGの影響を多かれ少なかれ受けている。そのMTGのデジタル版として登場したのが「MTGアリーナ」であり、現在はWindows版とMac版がリリースされているが、近日中にスマートフォンやタブレットで動作するモバイル版がリリースされる予定だ。
「MTGアリーナ」は、無料で始めることができるため、これまで紙でMTGをプレイしたことがないという人でも、気軽にプレイする人が増えている。そのMTGアリーナを使った、誰もが参加できる大型大会「Red Bull Untapped」が東京ゲームショウのeスポーツ大会「TGS2020 eSportsX」の枠組みで開催されることになった。
Red Bull Untappedは、Red Bullとウィザーズ・オブ・ザ・コースト(WoTC)のコラボによって実現した、「MTGアリーナ」の対戦イベントであり、世界大会である「Red Bull Untapped Finals」に向けて、全部で16回の予選が開催される。予選は、参加制限のないオープンなインターナショナル予選とその国の在住者だけが出場できる国別予選に分かれている。9月26日と27日に行われた「Red Bull Untapped Japan Qualifier」(以下Red Bull Untapped Japan)は日本の国別予選であり、今回が12回目の予選となる。
Red Bull Untapped Japanの優勝者には、Red Bull Unatapped Finalsへの出場権が与えられるほか、賞金2000ドルが授与される。また32位までの選手には、10月24日と25日に開催される「ゼンディカーの夜明け」予選ウィークエンドに招待される。
Red Bull Untapped Japanの対戦形式はシングルエリミネーション、つまり1回負けたらそこで終わりのトーナメント方式で、フォーマットはスタンダード、2試合先取制(BO3)である。
フォーマットというのは、どの範囲のカードが使えるのかという規定のことであり、MTGでは、スタンダードやパイオニア、モダン、レガシーなどのフォーマットが規定されている。スタンダードは、直近に発売されたいくつかのセットのカードのみ使えるというフォーマットで、もっともカードプール(使えるカードの種類)が狭いフォーマットとなる。最近は、DCGでもいくつかのフォーマットが規定されているものが増えているが、「シャドウバース」ならローテーションがスタンダードだと思えばよい。
MTGのスタンダードは、1年に1回、秋に発売されるセットと同時に、古いセットが使えなくなる(スタン落ちという)。今回は、9月25日に登場した新セット「ゼンディカーの夜明け」とともに、「ラヴニカのギルド」、「ラヴニカの献身」、「灯争大戦」、「基本セット2020」の4セットがスタンダードで使えなくなる。つまり、9月26日と27日に行われたRed Bull Untapped Japanは、新スタンダード環境での初めての大型大会ともなるのだ(実際はMTGアリーナでは1週間前からゼンディカーの夜明けの新カードが実装され、新スタンダードに移行している)。そのため、新環境をいち早く知りたいというプレーヤーから注目が集まる大会となった。
今回のRed Bull Untapped Japanは、東京ゲームショウ2020 オンラインの公式番組の一つ「eSports X STAGE」において、TOP8(準々決勝以降)の対戦生配信が行われたので、決勝戦の様子を紹介する。
新環境でまず頭角を現した「4Cオムナス」と対抗馬「4Cアドベンチャー(出来事)」が決勝に
決勝の実況を務めたのは、大和周平氏、解説を務めたのは行弘賢氏である。行弘氏は、世界最高峰のMTGプロリーグ「MPL」に参加しているプロプレーヤーであり(MPLメンバー32人のうち3人の日本人の1人)、名実ともに日本を代表するトッププロである。
約500人もの参加者の中から決勝戦に進出したのは、石橋広太郎選手と柏智博選手の2名である。石橋選手が使ったデッキは「4Cオムナス」、柏選手が使ったデッキは「4Cアドベンチャー(出来事)」であり、4C(4色)同士の対決となった。
4Cオムナスは、その名の通り、最新セット「ゼンディカーの夜明け」で登場した「創造の座、オムナス」(以下オムナス)を核としたデッキであり、新環境で真っ先に頭角を現したデッキである。ゼンディカーの夜明けでは、「上陸」と呼ばれるキーワード能力がフィーチャーされているが、その上陸による恩恵を最も受けるカードがこのオムナスである。
オムナスは、場に出しただけで、カードを1枚引くことができ、各ターンに上陸(土地が場にでること)が行なわれるたびに、「ライフを4点得る」、「赤緑白青の各色のマナを1つずつ加える」、「各対戦相手と相手のプレインズウォーカーにそれぞれ4点ダメージを与える」という効果が順に誘発するという化け物だ。
今のスタンダードには基本土地を探せるフェッチランド「寓話の小道」があるので、オムナスが場にいる状態で、寓話の小道を出せばまずライフ4点回復、フェッチを切って基本土地を探して出せば赤緑白青のマナが1つずつ使える、といった具合だ。さらにやばいのが同じ最新セットで再録された「水連のコブラ」とのシナジーである。水連のコブラは、土地が場に置かれるたびに、好きな色のマナ1つを加えられるという能力を持つため、この2枚が揃っていると爆発的なマナ加速が可能になる。こうして増えたマナを使って、7マナ必要な「発生の根本原理」などのパワーカードを使って、勝負を決めるというのが4Cオムナスだ。
それに対し、「4Cアドベンチャー」は、同じくパワーカードであるオムナスを4枚投入はしているのだが、水連のコブラを使うのではなく、出来事呪文をコピーできる「幸運のクローバー」を使って、「砕骨の巨人」や「願いのフェイ」、「厚かましい借り手」といった出来事呪文を持つカードの出来事呪文の効果を2倍や3倍にすることで、アドバンテージを取るデッキだ。
特に、願いのフェイの出来事呪文「成就」は、ゲーム外(サイドボードを意味する)からクリーチャー以外の好きなカードを1枚持ってくるというものだが、幸運のクローバーが1つ場にあれば2枚のカードを持ってくることができ、2つ場にあれば3枚のカードを持ってくることができる。サイドボードから有効なカードを手札に入れることで、いわゆるシルバーバレット戦略(特定の状況に有効なカードを使って、状況を有利にする)をとることができるのだ。
決勝戦の1本目は、両者とも1マリガンスタートとなった。先攻は石橋選手である。3ターン目に石橋選手が「自然の怒りのタイタン、ウーロ」を戦場に出し、ライフゲインと1ドローを行ない、さらに追加の土地を出してアドバンテージを広げる。それに対し、柏選手も「幸運のクローバー」を場に出し、「砕骨の巨人」の出来事呪文である「踏みつけ」をコピーして、石橋選手の強力なクリーチャーである「峰の恐怖」を破壊する。
マナが十分揃った石橋選手は、「発生の根本原理」を唱えたが、場に出たのは「精霊龍、ウギン」だけとやや不発であった。しかし、ウギンのパワーは高く、柏選手は有効な対策を見付けることができない。しかし、ここで柏選手がまさかのタイムアウト(時間切れ)で、全ての行動を終える前に相手にターンを渡してしまうという痛恨のミスをしてしまう。
MTGアリーナは比較的制限時間が短く、長考しているとタイムアウトになりやすいのだが、これが勝負の分かれ目となった(このターンしっかり動いていてもウギンの対処は難しかったが)。石橋選手が2回目の「発生の根本原理」を唱え、オムナスが着地。さらにウーロも脱出させるなど、怒濤の攻めで1本目を勝利した。
2本目は、1本目で負けた柏選手が先攻でスタートした。今度は、2人ともマリガンせず、手札7枚でのスタートだ。石橋選手は3ターン目、水連のコブラを2枚手札に持っており、1枚目は柏選手の踏みつけで破壊されるものの、もう1枚の水連のコブラを着地させる。しかし、石橋選手のオムナスを柏選手が「神秘の論争」で打ち消す。さらに石橋選手の2枚目のオムナスも再び柏選手が「成就」で持ってきた「神秘の論争」を使って打ち消し、「砕骨の巨人」が2体並ぶ有利な盤面を作る。そのまま石橋選手が盤面を制圧して勝利した。これで、カウント1-1。勝負の行方は最終戦にもつれ込む。
3本目は、石橋選手が先攻となる。両者ともにマリガンせず、初期手札7枚でスタート。柏選手は2ターン目に「幸運のクローバー」を場に出し、出来事呪文をコピーしてトークンを並べて攻めていく。それに対し、石橋選手も「水連のコブラ」と同一ターンに土地を2枚以上置くと土地を1枚手札に戻させる「当惑させる難題」を設置し、対抗する。それに対し、柏選手は「厚かましい借り手」の出来事呪文をコピーし、「水連のコブラ」と「当惑させる難題」の2枚を石橋選手の手札に戻す。
試合が大きく動いたのは、その返しのターンだ。7マナ揃った石橋選手は、全てのマナを使って「発生の根本原理」を唱える。この発生の根本原理によって場に出たカードは、土地が2枚、オムナスが2枚である。オムナスは伝説のクリーチャーであるため、場に2体並ぶことはできないのだが、出たときの効果などは誘発してから、どちらか1体を残すことになる。土地が2枚出ているので、これだけでオムナスの効果によって4色マナが2つずつ合計8マナ加わり、2枚ドローとなる。その増えたマナを利用して、「僻境への脱出」、「睡蓮のコブラ」、「耕作」、「当惑させる難題」を唱える。まさに勝負を決めるビッグターンとなった。
返しのターンの柏選手も、有効な手は打てず、その次の石橋選手のターンで、「峰の恐怖」から2枚目の「発生の根本原理」を唱え、さらに「ウーロ」も唱えて(さらに脱出も)、峰の恐怖の誘発ダメージで、柏選手のライフを削りきった。石橋選手が怒濤の攻めで優勝の栄誉を獲得し、日本人としては4人目のRed Bull Untapped Finalsへの出場者となった。
新環境の今後を占う重要な大会
行宏氏は、本大会を通じての講評を求められ、次のように答えた。「この大会では、4Cオムナスを使う人、そしてそれを倒しに来る人という構図がトーナメントのテーマとしてあったと思います。軍配は4Cオムナスに上がったということなんですが、4Cオムナスがただ勝ったという結果だけではなくて、やはりこの大会に向けてオムナスを研鑽してきた、デッキの構築だったりというのが随所に見られたので、ただただ4Cオムナスが勝ったというよりは、しっかり研鑽を積んできた人がしっかり優勝したと思います。新環境なだけあって、オムナスというデッキがどういう風に動くのかなと、はじめて見た人もいると思いますので、それはそれで新鮮なものがあるのかなと思いますし、どういうアプローチをしたらオムナスが苦しいのかということも、ある程度この大会を通して見えてきたので、今後オムナスを倒す側もブラッシュアップしていくので、この大会は新環境の幕開けとしては、すごく参考になる大会でした。」
また、優勝した石橋選手からのコメントも紹介された。「今回、オムナスを使ったデッキが現環境最強だろうということは分かっていたのですが、まさか自分が優勝できるとは夢にも思っていませんでした。今回、環境初期ということで、サイドボーディングなど自信がないところが多々あったため、2日間を通して相当運が良かったと思います。」
蓋を開けてみれば、予想通りオムナス旋風が吹き荒れた大会といえるが、ちなみに紙環境では、執筆時点(9月末)でオムナスは実売価格が1枚4,000円を超えている。オムナスを使うのならやはり4枚入れたくなるので、なかなか金銭的なハードルも高いし、強すぎるため今後「禁止カード」に指定される可能性もある(オムナスのみならず、水連のコブラなどの関連カードも連鎖的に禁止になる可能性もある)。
以前は、スタンダードに禁止カードが出ることはあまりなかったのだが、最近は強すぎて禁止になるカードも少なからず登場している。紙のTCGは、DCGとは違って発売後にナーフ(強さを調整すること)を行うことは難しいので、もう少しテストプレイを入念にしてもらいたい。Twitterのウィザーズ・オブ・ザ・コースト公式アカウントは、今週前半にもスタンダードの環境について何らかのアップデートがあることを表明しているため、少し様子を見たほうがよさそうだ。