【特別企画】

「バイオ2」"非公式"リメイクから全ては始まった。リスペクトと独創性に満ちた「デイメア:1998」メディアツアー in イタリア

2月20日 発売予定

価格:
4,378円(税込、PS4パッケージ版)
3,839円(税込、PS4/PC DL版)

 DMM GAMESより2月20日に発売されたプレイステーション 4/PC用サバイバルホラーアクション「デイメア:1998(Daymare:1998)」。

 本作はある日をきっかけに、市民が血に飢えたモンスターへと変貌した小さな町「キーンサイト」を舞台として、恐怖と困難の中で謎を解きながら真実に迫っていくサードパーソンシューティングアクション。限られた弾薬を手に硬く強いゾンビを始めとした恐ろしい敵に立ち向かう、1990年代のゲームや映画、中でもカプコンの「バイオハザード」への強烈なリスペクトに満ちた世界観やゲームシステムを備えた意欲的なタイトルだ。

 今回はDMM GAMESのご招待により、イタリアはオレーヴァノ・ロマーノに位置する本作の開発スタジオInvader Studiosへとに赴き、本作の日本語版試遊や開発インタビュー、スタジオ見学から「デイメア:1998」の"世界観の素"となった現地ロケーションまでをたっぷりと取材することができた。なお、現地試遊は限られた時間ではあったが、弊誌では別稿にてプレイレポートも先行して掲載している。こちらも併せてお読みいただければ幸いだ。

【【Daymare: 1998】公式トレーラー】
付きっきりでメディアツアーをアテンドしてくれたInvader StudiosのMichele Giannone氏(左)とAlessandro De Bianchi氏(中)、Tiziano Bucci氏(右)
オレーヴァノ・ロマーノはローマの東、大体この辺り

「バイオハザード2」の非公式リメイクから生まれた「デイメア:1998」。キーワードはまさしく「1990年代」

 そもそもInvader Studiosは、元々ゲーム業界で働いていた友人同士で立ち上げたスタジオで、その開発タイトルは「Resident Evil 2(バイオハザード2)」の非公式リメイク版。自分たちの手で「バイオ2」を3Dにするなど現代風のアレンジを施した作品を手掛けていたが、その作品がコミュニティに受け入れられ、高い人気を誇ることになる。

 そう、彼らは「バイオハザード RE:2」を自ら作ろうとしていたスタジオなのだ。後にその作品はカプコンの目に留まり、三上真司氏や青山和弘氏、中井 覚氏など、本家「バイオ」スタッフらの強力なサポートを経てオリジナルIPへと舵を切ることになる。そうして生まれたのが「デイメア:1998」なのである。

【現地スタジオの模様】
スタジオ内では貴重なコンセプトアートや機材の見学ができた
カプコンスタッフとの写真やサイン入りアイテムが宝物のように飾られている
PS1パッケージ風の「デイメア:1998」!残念ながら非売品とのこと
スタジオからの眺め。素敵なところだ

 現地では「デイメア:1998」の日本語版を試遊することができたが、本作のゲームバランスはとかくシビアだ。常に弾薬は不足し、ゾンビなどのクリーチャーは強く硬く、謎解きはしっかりと頭を捻らなければ解けない。一歩一歩慎重に、おっかなびっくり進んでいく恐怖や楽しさはまさに「バイオ」譲りのものと言えるだろう。ちなみにタイトルの「1998」はプレイステーションで「バイオハザード2」が発売された1998年から取っており、元々「バイオ」大好きっ子だった開発メンバーの想いと、開発にあたり密な協力やアドバイスをくれた本家「バイオ」スタッフへのリスペクトが込められているのだそう。

狭いくるゾンビなどのクリーチャーをなんとか掻い潜り、真実を求めて先に進んでいく

 一方で単なる「バイオ」の模倣で終わることなく、「デイメア:1998」をオリジナルたらしめる要素も多数詰め込まれている。そのひとつが"マガジン管理"だ。本作では拾った弾薬はただ銃に詰め込めばいいのではなく、インベントリを開いて弾をマガジンに装填してから銃に装着する必要がある。リロード中は当然無防備になるため、敵と戦いながらのリロードは大変危険だ。一応今装着しているマガジンを即座に捨ててインベントリ内にある装填済みのマガジンに切り替える「クイックリロード」もあるにはあるが、これも事前にマガジンに弾を込めておかなければならない。

 必然的にプレイは敵を次々に倒しつつリロードしつつ、といった駆け足なものではなく、じっくりと事前にマガジンに弾を込め、万全の状態で慎重に進むことになる。そもそも本作において弾薬はかなりの貴重品のため、倒す敵、倒さなくてもすすめる敵の見極めをきっちり行なう必要があるし、さらにマガジンも貴重なアイテム扱いなので、仮にクイックリロードを実行した際は、安全を確認してから拾っておいたほうがいい。

 このマガジン管理のシステムが、「適当に戦いながら進む」ことを許さない。常に入念な準備とクレバーな状況判断が求められるという意味で、襲い来るクリーチャーをギリギリの状況をなんとか切り抜けていくというスリルをよりディープに味わうことができるのである。不覚にも準備を怠ってしまった場合は焦りながらなんとか逃げるか、そのまま死ぬことになる。

 ただ、正直このシステムを面倒に感じるプレーヤーもいると思う。開発も当然その懸念については議論を重ねたということだが、ワンボタンでリロードができてしまうゲームが大半の中、やはり「今までのゲームの"お約束"を破るため」、残弾管理を含め次の戦闘に向けてどう準備をするかを考えながら進むようなゲームに練り上げていったのだという。

インタビューに応える開発スタッフ

 加えて、ド直球な感想で恐縮だが、本作のクリーチャーは正直めっちゃ怖い。それは皮膚がとろけていたり、血まみれだったり、肌がグチャグチャにただれていたり、ノロノロと周囲を徘徊しているくせに、プレーヤーを視認するや否や急にグワッと襲いかかってくるような動きだったり、とにかくプレーヤーを怖がらせるような要素が満載だ。

 特にゾンビはメリハリの効いた動き(?)と、その耐久性が恐怖を倍増させる。これはジョージ・A・ロメロ作品や「The Thing(邦題:遊星からの物体X)」にインスパイアされたものだということで、走ったり武器を使うようなゾンビではなく、ある意味クラシックな、にじり寄るような恐怖を体現するゾンビだと言える。

めっちゃ怖いクリーチャーたち
中井 覚氏がデザインしたクリーチャーも登場する!

オレーヴァノ・ロマーノがゲームの"素材"に。現地では日本メディアが熱すぎる歓待を受ける

 本作の舞台「キーンサイト」は研究所などの施設内をはじめ、野外や住宅地など、そのロケーションは多岐にわたる。暗く、荒れ果てたデザインは、今にも死角からクリーチャーが飛び出してきそうな雰囲気を醸し出しているが、それらのロケーションは様々なゲームや映画、架空のものに加え、開発スタジオのある地元オレーヴァノ・ロマーノの風景をもベースにしているのだという。

 現地ではスタジオのスタッフに連れられてオレーヴァノ・ロマーノをぐるりと巡ったが、"この風景がベースなんだよ"と言われても半分信じられるような、半分は信じられないような心持ちだった。オレーヴァノ・ロマーノは山間に位置しており、高低差のあるなかにいかにもイタリア!といった石造りの建築物が並ぶ牧歌的なところだ。

 取材時は天候にも恵まれ、日差しがさす美しい町、という印象だったが、町の入り組んだ構造の陰や、雑多に並ぶ生活用品などからは、たしかに「デイメア」的な雰囲気も感じ取れなくもない。これが作品中に取り込まれ、よりホラーな風景になっているというのはかなり面白いポイントだと思うが、アートディレクターによれば作中では光の使い方に特に腐心したということで、「ゲームとしては暗いに越したことはないが、ゲームのガイドとして使えるように、重要なライトだけを残す方向で調整していった」とのこと。出来上がった舞台を単に暗く怖いだけではなく、いかに"ゲーム的に"仕上げていくかもかなりこだわった部分で、この仕事は作業上まさに「悪夢」のようだったと笑いながら語ってくれた。

【オレーヴァノ・ロマーノ探訪】
最もわかりやすいアレンジの一例。な、なるほど……!

 ロケーション、という意味でいうと、率直に言ってオレーヴァノ・ロマーノは人工的にも地理的にも田舎町といっていい。ここから「デイメア:1998」という世界に広がるヒット作が生まれたというのは地域にとってもとても名誉なことなようで、実は試遊は素朴ながら荘厳な市民ホールにPCやPS4をズラリと並べた環境で行なわれ、さらに市長やおそらく役所のスタッフ、Invader Studiosに投資した銀行のチェアマン、Steam版発売の際に協力したイタリアビデオゲーム開発者協会の担当者までもが勢揃いしており、筆者含め現地を訪れた取材陣は「はるばる日本からInvader Studiosを取材しにきたひとたち」として熱い歓待を受けるとともに、普段撮影する側のメディア陣が逆に写真を撮られまくるという環境であった。

試遊会場はなんと市民ホール。さらにInvader Studiosのみならず、役所や銀行の関係者が多数訪れていた

 イタリアの信用協同組合銀行(BCC)のチェアマン、Gianluca Nera氏によれば、BCCは普段はワインや農業などに投資しており、Invader Studiosに対する投資はゲームという新しい産業への取り組みの一環。ゲーム業界には初の投資だったとのことだが、これは「成功例」だったと力強く語る。一方イタリアビデオゲーム開発者協会「Associazione Editori Sviluppatori Videogiochi Italiani」のDeveloper Relations Manager、Giorgio Catania氏は、そもそもイタリアではゲームイベントが少ないことやイタリア発の成功したゲームがまだ少ないことに触れつつ、「デイメア:1998」は「ミラノゲームウィーク」にアテンドしたときから「手応えがあった」としてゲームの開発からイタリア政府への支援要請までをも全力でバックアップ。先のBCCからの融資を取り付けるなど、縁の下の力持ち的な役割を担ったそうだ。

BCCのチェアマンGianluca Nera氏(右)
Associazione Editori Sviluppatori Videogiochi ItalianiのDeveloper Relations Manager、Giorgio Catania氏

 「バイオ2」の"非公式"リメイクから全てが始まった「デイメア:1998」だが、結果的にはカプコンとの協議を経て、納得の上でオリジナルIPへと舵を切り、さらに政府や銀行、業界団体などの支援を得ながら完成にこぎつけた。さらに先行して発売されたSteamではヒットを飛ばし、彼らにとって憧れのカプコンが存在する日本での発売も決まった。今回の取材ではゲームの面白さやそこに込められた熱い想いはもとより、本作がイタリアゲーム業界におけるサクセスストーリーを体現するかのような作品であることを強く感じることができた。

 そんなイタリアの期待を背負って日本での発売を迎える「デイメア:1998」。クラシックかつ骨太なホラーゲームを求めるプレーヤーはきっと楽しめることと思う。ぜひプレイしてみてほしい。