【特別企画】
トレーディングカードゲーム特有の商品「オリパ」について考える
2020年2月4日 11:27
オリパという言葉を聞いたことがあるだろうか? 知っている方や買ったことがあるという方もいるだろうが、初めて聞いたという人も少なくないだろう。
オリパとは、トレーディングカードゲーム(TCG)特有の概念であり、TCG業界ではかなり昔から存在していた。しかし、最近、メルカリやTwitterなどを活用してオリパを作成、販売する個人や、オリパ開封を主なコンテンツとするYouTuberが登場し、オリパに対する関心が増している。それに合わせて、オリパを巡るトラブルや、違法性があるのではないかという問題提起もなされている。そこで本稿ではそもそもオリパとは何で、どのような経緯で生まれ、どういう風に流通しているのか、オリパ界隈の現状を解説していきたい。
オリパとは「オリジナルパック」のこと。それがなんなのか?
この記事を読んでいただいている方の中で、「オリパ」という言葉を聞いたことがある、知っている、買ったことがあるという人は、少数派なのではないかと思っている。アナログゲームからコンソール機、PCゲーム、アーケードゲームまでさまざまなゲームがあるが、オリパという概念が存在するのは、TCGだけだ。オリパとは、“オリジナルパック”の略で、要するにTCGのメーカーが公式に販売しているパックとは違い、ショップや個人がカードを集めてオリジナルのパックを作って販売するというものだ。
オリパの販売の仕方や、1つのパックあたりに入っているカードの枚数もショップや商品によってさまざまだ。ストレージからカードが入ったパック(もちろん開封するまで中は見えないようになっている)を手で抜き出すタイプもあれば、ガシャポンのように、オリパを販売する自販機を置いているショップもある。店舗でオリパを販売するだけでなく、マジックフェストなどの大規模イベントへの出店でも、オリパを大きく取り扱うショップが多い。
ショップが独自に作成・販売しているオリパは、価格も千差万別だ。「デュエル・マスターズ(デュエマ)」の場合は、高額カードといっても通常は最高数千円だが(世界に8枚しかないGP TOP8のプロモカードは数十万円になるが)、「マジック・ザ・ギャザリング(MtG)」だと、昔の貴重なカードは1枚数十万円から百万円を超えることも珍しくはない。高額なカードが入っている可能性があるオリパなら、その価格も相応に高くなる。高額なオリパだと、1枚(1パック)数万円になるものもある。また、オリパの性格付けもさまざまであり、極端に損をすることがない代わりに、当たりカードの金額もそこそこという、ローリスクローリターンのオリパもあれば、外れると大損だが、当たれば販売価格の数倍以上の価値があるカードが入っている、ハイリスクハイリターンのオリパもある。
このようにオリパは、一種のくじともいえ、多くのカードショップでは、オリパの中に入っている当たりカードを公開している。また、コンビニで販売されている一番くじのようにラストワン賞(オリパがすべて売り切れたときに追加でもらえる賞)が設定されているオリパもある。
メーカーが販売している拡張パック自体に射幸性があるTCG
ではなぜ、こうしたオリパが誕生したのだろうか? オリパは、カードショップによっては“くじ”という表記で販売されていることもあるが、オリパ自体の誕生はかなり古い。国産TCGの元祖は1996年10月に登場した「ポケットモンスターカードゲーム」であり、2000年頃からは多種多様なTCGが登場するようになった。この頃には、カードショップがオリパの販売を開始していた。オリパが誕生した経緯は、TCGの販売方法そのものにある。
TCGは、デッキと呼ばれる数十枚のカードの束を使って、相手と対戦するアナログゲームの一種だ。TCGをやったことがないという人でも、「遊戯王」や「ヴァンガード」、「MtG」、「デュエマ」、「ポケモンカードゲーム」といったタイトルは聞いたことがある人が多いだろう。これらは、代表的なTCGタイトルだが、この他にも多くのTCGが遊ばれている。
TCGメーカーから販売されているTCG商品は、構築済みデッキと拡張パック(ブースターパック)の2種類に大別できる。構築済みデッキは、そのTCGをプレイするのに必要なデッキがまるごと販売されているもので、構築済みデッキが2つあれば、すぐに遊ぶことができる。あらかじめ2種類のデッキがセットになったデッキセットや、デッキを改造するための追加カードがセットになった製品もある。
構築済みデッキの価格はTCGによっても異なるが、1,000円~4,000円程度が一般的だ。構築済みデッキは、基本的に中に入っているカードは決まっており、ランダム性はない。それに対し、拡張パックは、デッキを作成するためのカードが複数枚入って売られているもので、拡張パックを1パック買っただけでは、通常のプレイをすることはできず(MtGのパックウォーズやブースターブリッツのように1パックだけで遊べる特殊ルールもあるが、本来の遊び方ではない)、何十パックか買って、その中に入っていたカードから、必要な枚数のカードを選んでデッキを構築して遊ぶことになる。一つの拡張パックに入っているカードの枚数や価格はTCGによって異なるが、例えば、「MtG」なら、通常パックの価格は350円程度で、1パックに15枚のカードが入っており、「デュエマ」なら、通常パックの価格は160円程度で、1パックに5枚のカードが入っている。
拡張パックのポイントは、1パックに入っているカードの枚数は固定だが、その組み合わせ、つまり、どのカードが入っているかは、すべてバラバラでパックごとに違うということだ。例えば、2019年12月20日に発売されたデュエマの拡張パック「超超超天!覚醒ジョギラゴン vs.零龍卍誕」には全部で119種類のカードがあり、1つの拡張パックにはその中に含まれる5種類のカードが1枚ずつ入っているが、その組み合わせは開けてみるまでわからない。
さらに、TCGのカードにはレアリティ(レア度)という概念があり、出現率が異なる。ソシャゲのガチャみたいなものだと思えばよいが、歴史としてはTCGのほうが断然古い。現在の「デュエマ」の場合、高いほうから、マスターレア、スーパーレア、ベリーレア、レア、アンコモン、コモンという6段階のレアリティがある。レアリティの高いカードは、それだけ封入率が低いので貴重であり、シングル価格も高くなる。カードショップでは、パックを開封して出たカードの買い取りや販売をおこなっており、そうしたカード1枚1枚の価格をシングル価格と呼ぶ。同じレアリティでも、そのカードがどれだけ実戦で使えるかで、価格は大きく異なる。デュエマの場合は、レアリティが高く、強いカードのシングル価格は3,000円~5,000円程度になることがある。
だから、メーカーから販売されている拡張パックはもともとくじのようなもので、はずれパックもあれば、あたりパックもあるのだ。例えば、デュエマのパックを5パック買って、1枚でもシングル価格3,000円のカードが出れば、買った値段以上になるのでアド(アドバンテージの略。有利とか、得という意味)だが、1パックに入っていた5枚のカードのシングル価格の合計が、1パックの価格を超えないこともざらだ。TCGを普段からプレイしてる方なら、パックを剥いて、当たりカードが出たときの嬉しさ、快感がやみつきになり、ついパックを買ってしまうという気持ちはよくわかるだろう。その根底にあるのが、こうしたTCGという商品自体が持つ射幸性(ギャンブル性)なのだ。
つまり、TCGはもともとパックの中身に何が入っているのか、買って開けてみるまでわからないという射幸性を持った商品であり、TCGプレーヤーもそうした販売方法に慣れている。しかし、何が出るかわからないパックを買い続けたくはないというプレーヤーのために、多くのカードショップでは、カード1枚1枚を指定して買える“シングルカード販売”をおこなっている。カードショップでは、TCGプレーヤーがパックをあけて出たカードを買い取り、店の利益を乗せた価格を付けて、シングルカードとして販売しているのだ。欲しいカードが決まっているのなら、ランダム商品であるパックを買うより、シングルカードで集めたほうが安くつくことが多い。
また、カードのシングル価格は、大きく変動することがある。例えば、大きな大会で優勝したデッキに入っているカードは、人気が上がって品薄となるため、シングル価格も高騰する。逆に、以前のパックに入っていた強いカードが、再び別のパックにも入って売られることがある(これを再録という)。再録されると、そのカードがたくさん出回るので、シングル価格は下がる。
カードショップの運営を続けていくと、上記のような理由からシングルカードの在庫が増えてくる。そこで、プレーヤーから買ったカードやショップが自らパックを開封して出たカードを使ってオリジナルパックを作って売ろうと考えるのも、自然な流れだろう。これがオリパの誕生経緯だ。
ショップ作成のオリパのほうが安全?
カードショップでは、かなり昔からオリパが販売されていたのだが、以前はあまり話題にならなかったのは、SNSが普及していなかったためだ。しかし、最近はSNSが普及したため、オリパを買った人が、SNSなどでその内容を公開することが増えている。あまりに当たりが少なく、還元率が低いオリパは、ショップ名を名指しにして公開されることもあり、大手ショップでは、そのあたりを踏まえてオリパを作っていることが多い。要するに、はずれでも購入価格の半分程度の価値があるカードを入れていたり、当たりのカードをより高価なものにするなど、良心的なオリパ作りをするショップが増えてきたのだ。
それに対し、ここ数年で急激に増えてきたのが、ショップではなく個人がオリパを作成・販売する行為だ。販売の告知をTwitterなどで行ない、DMで注文を受け付けるものや、最初からメルカリなどにオリパを出品する個人もいる。個人作成オリパの問題点は、ショップで売られているオリパよりも大損をするリスクが高いことだ。例えば、販売価格の数倍の価値がある当たりカードを5パック入れて、全体では30パックのみ販売するとうたっておきながら、実際ははずれパックを水増しして販売するといった、詐欺に近い売り方をしている個人もいる。
なお、中古の商品を売買するには、個人であっても古物商許可(古物商免許)が必要だが、自分で購入したものを売るだけなら、古物商許可は不要である。したがって、新品のパックをカードショップで買ってきてそのパックをあけて出たカードや友人から無償でもらったカードを使ってオリパを作ってインターネットで販売すること自体は、古物営業許可は不要だ。個人でオリパの販売を行なうユーザーが増えているのはそうした背景もある。ただし、友人のカードを買い取ったり、カードショップでシングル買いをしたカードを使ってオリパを作って売るには、古物商許可が必要になるので注意したい。
これはあくまでも筆者の個人的な感覚だが、例えば1パック1,000円のオリパを買ったとする。外れがシングル価格300円程度のカードなら、まあそんなものかと納得するが、100円以下の価値しかないカードで、しかも外れ率がかなり高い(9割以上とか)オリパは、購入者を騙して儲けてやろうという意図があると思う。
冷静に考えてみれば、カードショップだろうが個人だろうが、作成者が得をするように当たりカードの価格や枚数を設定するというのは当然のことだ。カードショップはもちろん営利を目的としてオリパを作成しているので、オリパが全部売れた場合、確実に利益が出るように、オリパの価格と中に入れるカードのシングル価格を調整しているはずだ。しかし、個人の場合、匿名での販売が可能なため、もっと大きな利益が出るようにオリパを作成している可能性を否定できない。筆者が目にした例でも、1パック3万円という、かなり高価なMtGのオリパを作って販売した個人が、荒稼ぎをしてSNSから消えたということがあった。
オリパ開封動画で人気を集めるYouTuberにより新たな懸念が
オリパを買うなら、個人が作成したオリパではなく、ショップ作成のオリパのほうが基本的にリスクが少ないのだが、最近はオリパ開封動画で人気を集めるYouTuberが増えたことで、新たな懸念が生じている。その懸念とは、個人のオリパ作成者とYouTuberとの癒着とでもいうべき関係だ。ショップで購入したオリパの開封動画の例を一つあげるが、YouTubeには、こうしたオリパ開封動画が多数公開されており、人気コンテンツの一つとなっている。
もちろん、ここで挙げた動画のように、カードショップで売られているオリパを普通にYouTuberが購入して、開封する動画をアップする分には特に問題はないだろう。問題となるのは、個人のオリパ作成者からオリパを購入し、「人気オリパ作成者●●さんの作成したオリパを購入して開けてみました!」のようなコンテンツをアップしている場合だ。こうした場合、人気YouTuberに自分が作成しているオリパの開封動画を作って欲しいと依頼する、オリパ作成者が存在する。そうした依頼によって作られた開封動画は、一種の広告案件のようなものだが、それを明らかにせず、オリパ作成者から送られてきたオリパを開封する動画を作ってアップしているYouTuberもいると思われる。
この場合、何が問題かというと、そうしたYouTuberに大当たりが入ったオリパのみを抜き出して送ることができるということだ。動画でそのオリパから大当たりが出て、このオリパは絶対に得する、優良オリパであるという印象を視聴者に与え、視聴者がそのオリパをこぞって買い占めるという騒ぎになったことだ。実際にそうしたことがおこなわれているかどうかは不明だが、SNS上で、開封動画を見て当たりを期待して買ったが、はずれパックばかり出てきて騙されたなどという発言や、実際にオリパ作成者からの紹介依頼があったというYouTuberの発言を見たことがあるので、そうした可能性が全くないとは言いがたい。
もちろん、実際にはそうしたインチキをせず、正々堂々と開封動画を製作している動画製作者が多いのだろうが、そうした可能性を100%否定できないところに、個人が作成したオリパ購入の難しさがある。基本的に、オリパ作成者や動画作成者を信じるしかないのだ。SNSでのオリパの評判も、複数アカウントを使い分けてサクラをしている可能性もあり、疑い出すときりがない。ただし、個人でオリパを作成している人の中には、採算度外視というか、自分が儲けるためではなく、余ったカードや自分のデッキでは使わない高価なカードが出たから、同じTCGをプレイする人に安く使ってもらいたいという善意からオリパを作成している人やフォロワーを増やすためにオリパを作成している人、フォロワーへの感謝の気持ちでオリパを作成している人もいる。個人作成のオリパは、そのあたりの見極めがとても難しいのだ。
オリパは宝くじのようなもの。運試し程度に考えて楽しむべき
このようにオリパは、TCG特有の商品であり、当たり外れが大きい商品でもある。したがって、オリパを買うなら、オリパは宝くじのようなものであり、外れもあれば、当たりもある、当然当たりのほうが少ないということをしっかり納得した上で、外れても笑って納得できるくらいの気持ちで購入すべきだ。オリパは、メーカーが販売している通常のパックよりも当たり外れの差が大きいものが多いため、それだけ射幸性も高くなり、開けるときのドキドキ感がやみつきになる人もいるのだろう。
また、オリパを買うなら、個人作成オリパよりも、名の知れた大手カードショップが作成したオリパを買うほうが、大損するリスクは小さいと言えるだろう。大規模イベントでは、イベント専用のオリパが作られることもあり、そうしたオリパは比較的当たりやすいのが通例だ。オリパを購入する際には、友人や信頼のおける人の情報を参考にするのも手だ。特に個人作成オリパの場合、SNSの評判だけでは、複数アカウントによる自作自演やサクラの可能性も否定できないので、より慎重に判断したい。
筆者個人は、オリパの熱心な利用者ではないが、息子やその友達は数百円程度の比較的安価なオリパを、ときどきショップで購入しているようだ。カードショップによく行くTCGプレーヤーにとっては、オリパはかなりなじみ深い商品として認知されている。
最近、オリパには高い射幸性があるため、法律に違反している可能性があるという意見に対して、ネット上で論争が巻きおこった。「オリパ=違法」というわけではないが、グレーな領域が存在する商品であることは事実であり、オリパの存在が世間に知れ渡ったことで、カードショップによっては、オリパの販売をとりやめたり、オリパの中身を変更しているところもある。
今回は、オリパ概論として、オリパについて基本的な情報をお届けしたが、読者の反響が大きければ、より深く取材して記事化できればと考えている。オリパについてご意見のある方は、GAME Watch宛のメールもしくは、Twitterのダイレクトメッセージ等でご意見ご感想をお寄せいただければと思う。