【特別企画】

プラモデルを一手間かけて格好良く作る、“素組み”のススメ

本格的なニッパーと、シャーペンで目指す1つ上のクオリティ

 趣味でプラモデルを作るにあたり、どこまで手間をかけるかは、作る人の腕や製作にかける時間などにゆだねられている。合わせ目を消したり塗装をしたり、あるいは改造を施したりするなど、プラモデル作りならではの醍醐味を楽しむ方向性がある一方、説明書に沿って組み立てるだけの“素組み”(「パチ組み」などと呼ばれる場合もある)と呼ばれる作り方を楽しんでいる人も少なからず存在している。

今回作った30MMのポルタノヴァ。パーツが少なめで作りやすく、安価なので初心者から上級者まで楽しめるキットだ

 近年のプラモデルは設計や成型技術の進歩により、塗装をしなくても組み立てるだけで格好良く仕上がるものが多く、そういった製品が各社から続々発売されたことで、プラモデルユーザーの幅は大きく広がったと言える。筆者もどちらかというとライトユーザー側の人間で、道具はそこそこ手に入れて気持ちだけはあるものの、作ることにあまり時間が取れずに素組みで済ませてしまうことが多いのが現実だ。実際特別な手間をかけずとも、それなりの完成度を誇ることは、弊誌に掲載済みのプラモデルの素組みレビューなどをご覧いただければ周知の事実である。

 そこで今回は、最低限の手間でプラモデルの完成度を生かしつつ組み立てる、筆者が普段やっている素組みにおけるちょっとしたポイントをここに紹介していきたい。

 今回作例に使用したのは、BADAI SPRITSから今年発売となった「30 MINUTES MISSIONS」(以下、30MM)の「bEXM-15 ポルタノヴァ」。30分で作れる手軽さと、海老川兼武氏デザインの格好良さが魅力のキットで、弊誌でレビューをお届けした同シリーズの「eEXM-17 アルト」に続くデザインの機体だ。カラーはスミ入れによるディテールアップが映えるホワイトをチョイスした。

今回制作に使った工具は、デザインナイフ、シャープペンシル、ニッパーの3つだけ

ニッパーでランナーからパーツを切るときは、2段階に分けて行なう

 プラモデルを素組みで作るにおいて、最も多くなるであろう作業が、ランナーからのパーツの切り出しだ。子供の頃に工具を使わずにプラモデルを作った記憶がある人もいるかと思うが、ランナーからパーツを切り離すときに手でちぎると、ランナーとパーツを繋ぐ「ゲート」の部分がえぐれたり逆にバリが残ったりして仕上がりが美しくない。最近のBANDAI SPIRITSのプラモデルには「タッチゲート」という、手でちぎってもゲートの跡が目立たない仕様で設計されているものがあったりして驚かされるが、対象の製品は限られている。

 プラモデルを趣味にするとき、一番最初に手にする工具は、パーツの切り出しに使うニッパーであることは間違いないわけだが、それを使ったパーツのカットに一手間をかけるだけで、パーツのゲート跡を目立たせずに作ることができるのだ。プラモデル作りには既に常識になっているところだとは思うのだが、改めて紹介する。

 理屈は簡単で、パーツをゲートから切るとき、数mm離れたところで一度切って、ランナーからパーツを切り離してから、パーツ側に残ったゲートを切るということ。これによりゲートに余計な負荷がかからず、切った跡が白くなりにくいのだ。

ゲートの部分を数mm残して全てをカットする
残ったゲートを最後にカット。切った破片が落ちるので、下にキットの外箱などを置いておくといい

 切ったあとにもしゲートが少し残って段差ができてしまった場合は、刃を新しくしたデザインナイフで慎重に切るのがオススメ。目の細かいヤスリやフィニッシングペーパーで処理してもいいが、塗装せずに仕上げる場合、他の部分との色合いや光沢具合などが変わってしまう場合があるのでここでは紹介しない。

ゲートの段差が残ったときは、切れ味のいいデザインナイフで慎重にカット

 パーツを切ったあとの切り口の綺麗さは使うニッパーの質に比例し、個人的には初心者でもグレードの高いものをオススメする。筆者もこれまで切れ味がいいと評判の各社のニッパーをいくつか購入して試していて、最終的に行き着いたのはゴッドハンド製の「アルティメットニッパー」だ。

 パーツの切り出し専用に作られた極薄の片刃のニッパーで、ゲート跡が白くなりにくい切れ味は、初心者が素組みをするのにも向いている。模型用の工具としては5,000円というかなり高額な部類で、不注意で落としたりすると刃先が痛んで使えなくなってしまうので使用時に若干気を遣う部分もあるが、一度この切れ味を体験してしまうと、他のニッパーには戻れないと個人的には思う。

筆者が過去に使ったニッパー。左からタミヤ、グッドスマイルカンパニー、ゴッドハンドの製品。今はゴッドハンドをメインに使用している

家庭にあるシャープペンシルを使えば、手軽にスミ入れができる

 今回の製作でもうひとつ行なったのが“スミ入れ”だ。キットに刻まれたモールドなどに塗料を流し込むディテールアップの手法で、塗装が必要のないキットでも、スミ入れをすることでその完成度が引き立つのだ。

 スミ入れは薄めた塗料を流し込んだり、スミ入れ専用に作られたマーカーでモールドをなぞって拭き取ったりするなど、いくつかの手法があるが、今回は特に手軽なシャープペンシルを使った方法を紹介したい。

 今回はGSIクレオスから発売済みの「ガンダムマーカー GP01 ガンダムスミイレシャープペン」と「GP02 専用替芯」を使っているが、家にあるシャーペンでも問題なく使用できる。ただしできれば同製品と同じ、芯の太さが0.3mmの細書き用のものを勧めたい。

 シャーペンを使ったスミ入れはごく簡単で、モールドをなぞって書くだけだ。ただし今回のポルタノヴァのような完成後のサイズが小さいキットの場合、0.3mmの芯でも入らない細いモールドもあるので、事前に芯の先をカッターナイフなどで削ってとがらせておくと上手くいく。

作業前に芯の先をさらに削って尖らせる。紙にこすりつけて尖らせてもいいが、折れないように注意
凹モールドや段差に芯を滑らせていく。何度か行き来させて好みの濃淡を決めよう

 どこまでスミ入れをするかは正直好みによるところなので、目立つモールドだけ簡単にやってもいいし、内角に曲がった段差部分まで全てやってもいい。あまりやり過ぎると、塗装していないということも含め見た目的にうるさくなってしまう場合もあるので、パッケージなどにある作例を参考にするといいかもしれない。

 シャーペンでのスミ入れは、はみ出したりしたときも指でこすればすぐに対応できる手軽さがある。もし何度か失敗して黒っぽさが残ってしまった場合は、消しゴム(練り消しゴムも有効)かごく少量の塗料の薄め液を使えば修復も簡単だ。

はみ出たときは消しゴムを使ってもいいし、薄いときは指でこすってもOK
スミ入れを行なったもの(左)と行っていないもの(右)。モールドが目立つようになった

 シャーペンでスミ入れをする難点としては、あくまで鉛筆芯なので色は黒ではなく灰色なので、濃い色のパーツには効果がやや低めということ。Bや2Bなど濃いめの芯を使ってみる手もあるだろう。またシャーペンでスミ入れをした部分はツヤがあり、あまり太いモールドに使うとツヤが目立ってしまうということもある。あくまでスミ入れの手法のひとつとして、試していただければと思う。

完成した30MMポルタノヴァ。このシリーズはパーツのエッジが立っていて、素組みでもシャープな印象を受ける
肩や胸などにあるモールドがはっきりわかる。ただし色の濃いグレーのパーツは残念ながらあまり効果なし
同色のアルト(右)はスミ入れを行なっていない。スミ入れをしたほうが情報量が多く感じられる

 ここで述べたのは、プラモデル作りにおける1つの提案で、“どう作るか”の選択肢は無限に存在していて、その自由さがプラモデルの醍醐味でもある。もしこの年末、プラモデルを作る機会があるようなら、ここで紹介した“一手間”をぜひ試してみてほしい。