【特別企画】
約2万円の食玩「ガム(デンドロビウムつき)」はいかにして生まれたか?
グリコ、ビックワンガムから続く食玩文化の道
2019年10月4日 16:35
食玩「機動戦士ガンダムユニバーサルユニット ガンダム試作3号機 デンドロビウム」の記事が人気である。「食玩とは?」、「2万近くの食玩って……」、「何でガムついてんの?」……。面白いのは"食玩"というジャンルそのものをネタにしているツイートが多いところだ。
食玩とは、"玩具(おまけ)つきの食品"である。笛になるキャンディーや、風船ガムのように"遊べる食品"ではなく、おまけつきの食品に定義されるジャンルだ。玩具文化において世界の最先端を走る日本は、食玩のジャンルにおいても特異な進化を遂げている。
「機動戦士ガンダムユニバーサルユニット ガンダム試作3号機 デンドロビウム」は、超巨大な武器コンテナ"オーキス"を装備したガンダムを再現した全長51cmの「おまけ」がついたガムである。もうどこからツッコンで良いのかわからない商品とも言えるだろう。
なぜこういった「おまけつき食品」がうまれるのか? 今回はざっくりと食玩の進化の過程、「デンドロビウム」の様な商品が世に出て、きちんとビジネスとして成立する背景を考えていきたいと思う。「ガンダム文化」を育んだ日本ならではの面白さが見えてくると思う。
「おもちゃが主役」のユニークな"食玩文化"はいかにして育まれたか?
食玩はいくつかの「ターニングポイント」がある。それまでの食玩の価値観を超える商品が出て、それをユーザーが評価したことで、現在のようなユニークな食玩文化が花開いたと言える。「食玩」そのものが生まれたのはまちがいなく「グリコ」である。江崎グリコの看板でもあるキャラメルは、おもちゃをつけることで、爆発的ヒットを記録した。
グリコにおもちゃがついたのは戦前である1927年だという。おもちゃはシンプルだが完成度も高く、時代を反映したものもあり、現在でも続いている。専門的なコレクターも多い。よりおもちゃに比重を置いた「タイムスリップグリコ」なども登場した。おもちゃを目的にお菓子を欲しがる、食玩の元祖と言える作品だろう。
もう1つ大きなターニングポイントがカバヤの「ビッグワンガム」である。1978年に生まれたこのシリーズは戦艦大和や蒸気機関車など人気の高いモチーフのプラモデルを"食玩"として低価格で売り出したところにある。メインターゲットである子供にはちょっと難易度が高かったが、プラモデルの"腕"を活かせることもあって、年齢を超えた人気を博した。「ビッグワンガム」の名の通り、ガムが1個入っていたが、主役はあくまでプラモデルだった。
このビッグワンガムが玩具業界に新しい扉を開いたのだ。商品にはそれぞれ「販売経路」がある。プラモデルは玩具店、模型店、文房具屋にしか置けなかったが、食玩がおもちゃ業界の商品をお菓子の棚に広げたのである。それは、より幅広い商売の場の開発にも繋がっていた。お菓子業界も自社のウリをおもちゃに求めるという戦略も有効になる。フルタ製菓は海洋堂と共に「チョコエッグ」を開発、食玩やガチャ商品のクオリティアップに繋がることとなる。
ぶっ飛んだ商品が登場するガンダム食玩文化を支えるユーザー達
こういった歴史がある中、バンダイも独特の進化を遂げていくこととなる。バンダイには現在は別会社であるBANDAI SPIRITSのプラモデルを販売するホビー事業部、超合金などの完成品商品を販売するコレクターズ事業部がハイエンドな商品を提示する一方で、ガシャポンを販売するベンダー事業部、食玩を販売するキャンディー事業部など様々な事業部が、それぞれ独自の経営戦略と製造ノウハウを持ち、バンダイが持つIPの商品を販売している。
そして「ガンプラ文化」がある。「機動戦士ガンダム」のキャラクター(MS)をプラモデル化した「ガンプラ」は玩具に大きな価値観の変化をもたらした。スケールモデルのように精密で、超合金よりもっと遊びやすく、様々なポーズがとれる関節設計、劇中そのまま、もしくはそれ以上に緻密なデザイン、組み上げるだけで塗装をしなくてもそれなりに仕上がる色分けに、接着剤が不要なスナップフィット……ガンプラの進化は日本の玩具業界に刺激を与え続けている。ユーザーが求め、企業が応え、そして異常に特異な進化をし続けているのだ。
ガンプラの進化はユーザーが求めるハードルを上げている。それはガンプラ以外の商品にも波及し、特に「ガンダム」関連商品は、高いクオリティが求められるようになった。キャンディー事業部の商品も同様だ。しかし、食玩には店頭に並ぶ価格帯というものがあり、そこからコストの範囲内での商品開発が行なわれていた。
ここはバンダイならではの「生き残り戦略」があった、というのも書いておきたいところだ。お菓子メーカーがなぜ新製品を積極的に販売し、有名タレント、若いタレントを起用し豪華なCMを打っているか? それは非常に熾烈な「売り場競争」がある。コンビニでお菓子売り場はそれなりの面積を占めるが、1商品の売り場は小さく、しかもライバルは非常に多いのだ。この熾烈な争いを勝ち抜くために各社は様々な戦略をとっている。バンダイは、食玩、しかも超ハイクオリティなガンダム食玩を作ることで、他の商品を押しのけ、売り場にその存在感を占めようと、自らのセールスポイントを磨いていったわけだ。
コストが厳密に決められている中、ユーザーに魅力を感じてもらうにはどうするか? その解答の1つが現在はコレクターズ事業部に所属している洲崎敦彦氏がキャンディ事業部で立ち上げた「FW GUNDAM CONVERGE」シリーズだ。このシリーズは頭が大きくて足が小さい、いわゆるデフォルメ体系なのだが、省略という意味のデフォルメ処理ではなく、頭部や、手足、武器などユーザーが注視する部分を大きく、精密に再現し、そのキャラクターの魅力をより強く表現するために考えられた手法なのだ。決められたコスト内でいかにキャラクターの魅力を発揮するか、そこに担当者は頭をひねっている。
そうやって高めていったキャンディ事業部のガンダム商品にもう1つ突破口が現われた。受注生産を行なう通販サイト「プレミアムバンダイ」の登場である。問屋を通さない受注販売は、店頭で棚を圧迫してしまうような大型商品、とても在庫としておけない高額商品の商品化の道のりを開拓した。熱狂的なユーザーが求めるエッジの効いた商品の開発が可能となったのだ。
食玩「機動戦士ガンダムユニバーサルユニット ガンダム試作3号機 デンドロビウム」、「機動戦士ガンダム ユニバーサルユニット サイコ・ガンダムMk-II」、「ASSAULT KINGDOM (アサルトキングダム) ネオ・ジオング」……こういったある意味"ぶっ飛んだ"商品が販売されるのは、受注販売という販売形態が一般化してきたからだ。
もう1つ、厳密なスケール表記を求められない、シリーズとしての厳密なラインナップをを求められない食玩ならではの"身軽さ"もあるだろう。サイコガンダム、クインマンサ、デンドロビウムなど、「まさかこれを販売するのか!」という驚きでユーザーが受け止めてくれる。食玩としての"軽さ"は自由で驚きに満ちたラインナップを可能にしていると筆者は思っている。
そして何より、こういった商品を支えてくれるユーザーがいるからこそ、私達は非常に特異で、ぶっ飛んでいる食玩文化を甘受できる。ものすごい商品を求めるユーザーと、それに応えるユーザーがいるから、食玩文化、玩具文化は発展しているのである。「プラモデルや、本格的な完成品を家に置くにはちょっと……」と言っていた人が、結局2万円の食玩「デンドロビウム」を買ってしまうという面白い現象が生まれている。つくづく面白い時代である。