インタビュー

「World of Tanks」のゲームバランス担当者に、“盛り上がる大会運営”について聞く

戦車横倒し占領作戦は適切な戦術なのか、CIS/欧州との差をどう埋めていくのか?

4月8日、9日開催



会場:TORWAR HALL

 世界有数の規模を誇るe-Sports大会「World of Tanks The Grand Finals 2016」。「World of Tanks」にとっては最大最高の舞台となるこの「Grand Finals」を最大限盛り上げるために、ゲームバランスの調整や、大会ルールの策定を行なっているのが、Wargaming.net Head of Offline Competitive Gamingのアレクセイ・クズネツォフ氏だ。今回はクズネツォフ氏に、e-Sportsとしての「WoT」のゲームバランスや、最高に盛り上がる大会作りについて話を伺った。

物理エンジン搭載のパッチ9.14を採用した意図について

Wargaming.net Head of Offline Competitive Gaming アレクセイ・クズネツォフ氏
ティアX戦車同士の激しい激突が魅力となっている

――今回の大会ルールはどのような意図で決められたのか?

アレクセイ・クズネツォフ氏:大会ルールやレギュレーションは毎回見直すようになっていて、常にその時々で一番楽しんで貰えるフォーマットを探して改善していっている。今回ティアXに変わったことで、大会を視聴しているユーザーの視聴者数や視聴時間が50~60%ほど上昇しており、以前よりも楽しんでいただけていると思っている。

――今回のルールのポイントは、9.14アップデートを採用したことだと思う。これは物理エンジンが一新され、ゲームが変わってしまうぐらいのアップデートだったため採用しないと思っていたが、本大会で採用した理由は? 出場チームには戸惑いを感じているメンバーも多いようだが。

クズネツォフ氏:そこは確かに我々にとってもポイントだった。大会ルールでパッチ9.14の物理エンジンを採用したのは、ひとつはユーザーに対するお披露目という部分もある。大会によってプロがプレイしているのを多くの方々が見ることで、ゲームにおいて新しい物理エンジンがどのように作用し、どのような戦術や戦略が生まれるかをプロのレベルで見せたかった。

 選手の方々への戸惑いということについては、我々としては最低でも2カ月以上も前から告知し、テストにも参加して貰っていたので、新しい物理エンジンの対策ができなかったということはないと思う。

――ティアXの採用によって観戦者の視聴時間が延び、ポジティブな結果が生まれているということだが、選手からのフィードバックはどうなのか?

クズネツォフ氏:7対7の42ポイントの時代に、選手たちの希望を反映して7対7の56ポイントを取り入れ、そのときにもティアをVIIIまでに限定しない68ポイント制をやらないのかという声もあがり、テストを行ない、その結果を踏まえてティアXのルールを採用するに到った。現在では過半数がティアXを楽しんでいる。

――「WoT」全体としてゲームバランスについてどう考えているか?

クズネツォフ氏:現在バランスという点では問題とは感じておらず、Wargamingのゲームの場合、どちらかというと ゲームバランスは我々が考えるものではなく、ユーザーが考えていくもので、たとえばランダムマップがイヤなら、友達を集めてチームを作り、小隊を組んで、チームバトルやランクドバトルをプレイすればいいので、ゲームバランスの良し悪しを語るのは適当ではないと思う。

 個人的にはマルチプレイで色んな車両を使っているが、やはり自分が得意な車両、不得意な車両もあって、得意な車両でも負けることはあるので、波のようなものもあるので、バランスは良く取れているのではないかと思う。

――オフラインイベントについて、世界中で多数の大会があって、ユーザーがどの大会に参加して良いかわかりにくいと思う。この対策について何か考えているか?

クズネツォフ氏:もちろん、簡単に申し込みや検索ができるようにすることは我々としても目標としている。現在、それを実現するためのトーナメントマネジメントシステム(TMS)を開発していたり、専用のポータルページも作業中。そのページを見ることによって、自分に合った大会を見つけたり、参加する大会を管理しやすくなると思う。

また、Wargamingリーグについては、現在はWeb上で申し込みをしなければならないが、それをゲーム内のランクドバトルに組み込むことで今までより簡単にプレーヤーがリーグに参加しやすいようになるし、全体としてチームが増加すれば、今まで以上にマッチングがしやすくなり、より快適なプレイが実現できると思う。

――日本でも昨年Pacific Rumbleを開催したが、この大会を日本で企画した意図と、今後の日本やアジアでの大会の計画について聞かせて欲しい。

クズネツォフ氏:昨年、日本でPacific Rumbleを開催したのは、日本でいままで大きな大会をやっていなかったので、日本のゲームファンにもe-Sportsをお届けしたいと思って企画した。日本やアジア地域でも、今後も引き続きこうしたオフラインイベントやシーズンファイナルをやりたいと考えているが、日本はコストの面が高いので、いかにして解決するかという点で、様々なパートナーと話したり、各リージョンで相談をしたりしている。それらの課題が解決し次第、順次開催していきたいと考えている。

本大会で見られた車両横倒し戦術。この戦法を採ることで、E-100が倒されない限り、占領を続けることができる。クズネツォフ氏はこれはありだという
4輌で1輌を崖の上に押し上げるお馴染みの作戦。チーム側の創意工夫による奇想天外な戦術は歓迎する方針だ

――大会ルールについて、グループリーグでNAVIが車両を横倒しにして表面積を小さくして、E-100を壁にして拠点占領を行なうという戦術を使っていたが、あれは適正な戦術なのか? それとも問題だと考えているのか?

クズネツォフ氏:今現在私としては問題視していない。むしろ我々が思い付かなかった戦術をプレーヤーが大会で披露するというのは素晴らしいことだと思う。ただ、もしこれがトーナメントやゲームのバランスを崩壊させるぐらい影響力があった場合は、将来的にはレギュレーションの変更があるかもしれない。私としてはおもしろいプレイが見れたことをとても喜んでいる。

――「WoT」はEUとCISが強い。それはお互いに切磋琢磨できる環境があるからだと思う。日本やアジアはそういった環境がないため、なかなか上のステージに進むことができない。この差を埋める工夫を取り組みを行なっていく考えはあるか?

クズネツォフ氏:その問題は我々も認識していて、たとえば、更なる上を目指したいチームには、専用のアカウントを提供して、すべての車両が使えるような環境を整備したり、あとはPingやラグがあるので中間となるVPNを探しているが、技術的には簡単ではないので、どのような解決策が出てくるか協議している。まずはTMSのようにe-Sports活動がし易い環境を構築していくこと。それによって参加者が増え、チームも増え、自然にレベルも上がっていくと思う。

(中村聖司)