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圧倒的CIS勢! 「WGL Grand Finals 2016」グループリーグレポート
ティアX採用をはじめ、多くの新ルールが導入された頂上決戦のゆくえは?
(2016/4/9 08:52)
4月8日、「World of Tanks」の世界王者を決める頂上決戦「Wargaming.net League Grand Finals 2016」が、ポーランド、ワルシャワで開催された。世界各地から最も優れたチームが集まったこの大会初日、グループリーグで展開した激闘について本稿でお伝えしよう。
本大会に出場したのは、「WoT」の各地域サーバーでのリーグ戦を勝ち上がってきた強豪チームたち。アジア・パシフィック、CIS諸国(旧ソ連を母体とする独立国家共同体)、ヨーロッパ、アメリカ、中国の各地域から全12チームが出場し、3チームづつの4グループに分かれてリーグ戦を戦った。
「WoT」各地域の最強チームが新ルールでの戦いに臨む
全12の出場チームの中でも、特に高い下馬評となったのは、やはり世界で最も高いレベルを誇るとされるCISの代表チームたち。前回優勝のHellraisersは連覇を狙い、前回3位に終わったNatus Vincere(NAVI)は挽回を期して本戦に臨む。また今回初出場のチームであるNot So Serious(NSS)は、CIS圏の強豪チームでくすぶっていたベテラン選手たちによる新造チームだが、これまでのリーグ戦等ではHellraisers、NAVIともに撃破する試合も展開しており、本大会でも台風の目になると期待されている。
いっぽう、日本が属するアジア・パシフィックの代表として出場したのは、どちらも2度目の出場となる中国EL GamingとYaTo Gaming、そして初出場となる韓国のGold Bass。中でもEL Gamingは昨年大会で奇策を駆使して予想外の快進撃をみせ、準優勝という大きな成果を残している。アジア勢ならではの戦い方がCISやヨーロッパ勢にどこまで通用するかも興味深いところだ。
また、注目点となるのは今期のリーグ戦から導入された新ルールの数々だ。試合形式は7対7、試合ルールは攻撃・防衛を交代しながら4マップを戦う8ラウンド・5ラウンド先取制であることは従来通りだが、その他のレギュレーションに多くの変更が行なわれている。
まず、今期よりティアX車両の使用が可能になった。これに伴い試合時間は従来の7分から10分に改定。各チーム毎の使用可能ティア数は68となり、車両編成としてはティアX車両6両+ティア8車両1両もしくはティアX車両5両+ティア9車両2両という形が標準となる。さらに1マップごとに選択を変更できる車両数が2両までとなったことで(従来は全車両を変更できた)、車両選択がより難しいものになっている。
また、今年3月に実装されたパッチ9.14でのゲームシステムの変更も、戦いに大きな影響を及ぼす部分だ。特に大きいのは、車両の物理シミュレーションが大幅に強化され、挙動が大きく変わったこと。これにより従来は不可能だった機動(急斜面を登ったり、倒木を足場にしたりなど)が可能となり、要所要所でこれまでにない戦術がとれるようになっている。そのあたりの研究がどこまで進んでいるのか、プロの戦いを見守る上では重要なポイントだ。
このように多数のレギュレーション変更が見られたこの大会では、各チームがどこまで新しい環境に順応できているかが、勝負の分かれ目のひとつだ。このため従来通りの実力を発揮できないチームや、予想外の強さを見せるチームが出てくる可能性も大いにある。
その上、グループリーグの組み分けも強烈だ。グループCには前回優勝のHellraisersとNAVIが揃って入り、初戦で激突。また、グループAには前回準優勝のEL Gamingと、今大会最強チームの一角と見られているNSSが入る。同組には中国サーバー代表のYaTo Gamingも入り、EL Gamingとの“中国勢最強決定戦”という組み合わせでもあるわけだ。
各グループの上位2チームが勝ち抜けて翌日の決勝トーナメントに参加するというルールである。1勝すれば良し、全敗すれば敗退だ。引き続き、本大会の注目株が相次いで対決した2試合の模様を詳しく見てみよう。
いきなりの“事実上の決勝戦”? CIS代表NAVI対Hellraisers
この日最大のハイライトとなったと言えるのが、いきなりの初戦、NAVI対Hellraisersだ。いずれもCISで最強クラスを謳い、優勝候補に数えられる2チームによるこの試合は、“事実上の決勝戦ではないか”と観戦者の期待も熱い。
特にNAVIは、前大会で3位に終わってしまった屈辱を晴らすため「最大限の準備をしてきた」と鼻息が荒い。対するHellraisersはメンバー変更により、個人戦最強と言われるGrifon選手が加入。未知数の部分もありながら、その実力に疑いはないチームだ。
大勢の期待通り、試合は一進一退の展開になった。1マップ目は守り有利と言われる「ルインベルク」。防衛側のNAVIはマップ東側中央に集中して展開し、攻め側のHellraisersがどこから出てきても分厚く迎え討てる構えで試合がスタート。これに対してHellraisersは南側から高火力中戦車のB-C 25tを複数展開するも、NAVI側は対応が非常に早く、突出してきたHellraisersの4両をあっという間に撃破してしまい、そのまま押し切って圧勝。
NAVIが攻め側の第2ラウンドも、比較的手堅い流れだ。守り側のHellraisersはやはりマップ東側中央に主力を配置。対するNAVIも中央に分厚く主力を進めてプレッシャーをかけて善戦したが、やはり守り側有利と言われるこのマップの評判通り、Hellraisersがしっかりと粘る。中央の主力を失ったNAVIは攻め手を失うものの、大胆な裏取りをしつつ2両を撃破仕返すなど粘りを見せ、その後の混戦を予想させた。
第2マップ目の「鉱山」では、先ほどと対照的に両チームが攻め側で1勝ずつを分け合う形になった。NAVIの攻め側では、戦略的に重要な価値を持つ中央の丘に1両を配置。そこに殺到してきたHellraisersの主力をうまくいなしつつ、次々にフォローに入った重戦車と合わせて不利なダメージ交換を強いることで競り勝った。Hellraisersの攻め側では中央からのラッシュのような形でNAVIの防衛ラインを素早く突破。NAVI側のフォローが入る前に素早く前進してしまう形で各個撃破だ。この両チームの戦いには無意味な膠着というものが全くなく、スピーディの一言に尽きる。
ここまで一進一退、ほぼ互角の戦いを見せていた両チームだが、細かい面でいうとNAVIのほうが一枚上手という印象があった。というのも負けたラウンドでも、NAVIはチームの全員がしっかりと与ダメージを出せている一方、Hellraisersのほうは何も出来ずに終わってしまうメンバーがちらほら出るケースが目立っていたからだ。ポジション取りが効果的でなく交戦機会を得られなかったり、うかつな動きで瞬殺されたり、などもあった。個人スキルよりも、作戦やチームとしての連動の良し悪しに微妙な違いがあるのかもしれない。
そういったNAVIの作戦的な懐の深さが如実に現われたのが、次のマップ「ヒメルズドルフ」で行なわれた一戦だ。攻め側で始まったNAVIは、東側の丘を全員で北上していくという作戦を取る。Hellraisersはこれを早期に視界に抑えるも、別方面に展開していた主力の再配置に迷いが見られ、対応が遅い。その隙を突いて北側の占領ポイントに接近したNAVIは驚きの作戦をとった。
ティア8軽戦車のAMX 13 90をスピンさせて壁際に横倒しにし、それをティアX重戦車のE-100で“ふた”をする形で占領を始めたのだ。Hellraisers側は射撃で占領を中断させようにも、E-100にふたをされたAMX 13 90の姿が全く見えないためダメージを与えられず、効果的な反撃ができない。NAVIはたった2両で占領タイマーをどんどん進めていく。慌てて飛び出してきたHellraisersの主力を迎撃するのは、NAVIの主力にとっては難しくない仕事だ。こうしてNAVI側に、大きな余裕が生まれ始めた。
狙って戦車を横倒しにできるというのはバージョン9.14ならではの機動だが、普通は勢いがつきすぎてひっくり返ってしまうなど、自爆の危険性が極めて高い。それを作戦として、しかもHellraisersとの試合というレベルの高いステージで実践し成功させてみせるとは、会場の誰もが驚いたところだ。このシーンだけでも、NAVIがいかに本大会に向けて万全の準備を整えてきたか、よくわかる。
奇策をとって良し、手堅い戦法をとっても良しと隙のない強さを見せたNAVIは、こうしてHellraiserとの接戦を制し、取得ラウンド数5-3でこの試合を勝利。優勝候補筆頭との呼び声を完全なものにしている。
敢え無く敗退するEL Gaming。CIS勢の壁はどこまでも厚い
次の注目となったのが、前大会で準優勝を果たしたEL Gamingと、CIS圏で急激に頭角を表しているNSSとの一戦だ。アジア・パシフィック地域のチャンピオンとして出場したEL Gamingは、攻撃側での勝率81%、防衛側での勝率77%と、とんでもない戦績を残している。アジア・パシフィックサーバーや中国サーバーでの試合数も多いこともあって、ランキング1位のタイトルを背負っての出場でもある。
しかし、その戦績も主にアジア勢と戦って積み上げてきたもの。そもそものレベルが高いとされるCIS勢を前に油断は禁物だ……と考えていた所、実際、その壁はとてつもなく高かった。
第1マップ「プロホロフカ」で攻め側スタートとなったEL Gamingはラッシュ編成をとり、マップ東側から一気に北上。これに対してNSS側も東側に主力を固めて防衛する構えだったのは不運だったが、それにしても全く押し切るシーンも、大胆に裏を取る形にも持ち込めないまま、いい形を作る前にあっという間に撃破されてしまった。続いて防衛側となったEL Gamingは、ポイントマンとしてマップ西側の丘に配置した軽戦車が絶妙すぎる役割を果たし、攻めるRSS側の動きを完全に探知。望外に有利な打ち合いに持ち込めたことで1ラウンドを取り戻したものの、逆転を許しかねないハラハラする展開でもあり、辛勝という塩梅だ。
それから後の4ラウンドは、完全にNSSが圧倒して進んだ。第2マップの「ゴーストタウン」、第3マップの「鉱山」とも、EL Gamingがチーム全体での攻めや守りの形を作るまではいいものの、NSSの素早く果敢な攻撃でどこかに必ず穴を作られてしまうような流れだ。例えば「鉱山」では、わずかに射線が通る場所に顔を出したEL Gamingの中戦車が、NSSの完璧なフォーカス射撃を受けて一瞬で瀕死にされるというシーンもあった。そして大抵の打ち合いにおいて、EL Gamingは赤字を強いられている。1両を撃破しても、2~3両が重傷を負わされるという形が何度もあった。
これについてはEL Gamingが弱いというよりも、NSS側を褒めるしかないだろう。EL Gamingがラッシュをかければ、必ず有利な位置で待ち構えていたNSSの主力。幾つかの試合で互いに投入した自走砲も、NSSのほうが圧倒的に多くの与ダメージを出していた。集団での撃ち合いでも、NSSは走行間射撃であってもキッチリ当てていくシーンが目立つなど、射撃スキルでも差があったように見える。
こうしてEL GamingとNSSによる試合は、ラウンド取得数1-5とNSSが圧勝して終わった。EL Gamingとしては何をどうすれば勝てるようになるのかすらわからないレベルの試合で、CIS勢のレベルの高さ、壁の厚さを感じさせる試合内容だった。
アジア勢はYato Gamingが唯一勝ち残り。欧州勢ではWombats on Tanksが強い
その後の試合でEL Gamingは、中国サーバーでのライバルであるYato Gamingにも大差で破れ、グループA敗退が決まった。全グループでアジア勢として生き残ったのは中国対決で勝利したYato Gamingだけという結果となった。韓国のGold Bassも、NAVIとHellraisersという2大巨頭の参加するグループCにあっては一勝もできず敗退している。
その他、ヨーロッパおよびアメリカ勢で争われたグループBおよびグループDの中では欧州勢が強さを見せている。特に安定した試合運びで負け知らずの戦いを見せたのが、Wonbats on Tanksだ。Wonbatsは大手マルチゲーミングチームVirtus.proを前身とするチームで、欧州最強のメンツが集まる強豪。下馬評通りグループBを首位通過している。
残るグループDではこれまた欧州勢のTornade Roxが1位通過、2位通過は地元ポーランドの選手が主力となるKazna Kru。アメリカから参戦のEclipseは敗退となり、決勝トーナメント進出の全チームが出揃った。
結果としては、CIS勢、欧州勢の全チームが決勝トーナメントに進出。アジア勢はYato Gamingのみが残り、アメリカ勢はSIMPだけが残るという形だ。そのどちらも、欧州やCIS勢には勝てないまま、同地域対決を制しての進出となっている。ロシアとヨーロッパが強いとされる「WoT」だが、やはりその差が如実に現れる結果となったグループリーグ。さて、翌日の決勝トーナメントではどのような試合が展開するだろうか。