インタビュー

世界で最もタフなe-Sports大会「Grand Finals」の仕掛け人モハメド・ファダル氏に、大会に掛ける想いを聞いた

4月8日、9日開催



会場:TORWAR HALL

 「Grand Finals 2016」が幕を閉じた。職業柄、数多くのe-Sportsイベントにメディアとして参加しているが、この「Grand Finals」ほどタフな大会はなかなかお目にかかれない。12チームが参加し、予選リーグを含め2日間で20試合を実施する。1試合最短5ゲーム、最長9ゲームで、1試合7ゲームで計算すると、2日間で140ゲーム近くが行なわれる計算になる。

 1試合あたり準備を含めて1時間30分ほど掛かり、4勝4敗までもつれたり、マシントラブルがあると試合時間が1試合が2時間、3時間になることもある。今回も2日間とも終了した時刻は22時を回っていた。参加する選手だけでなく、観戦する我々にとっても非常にタフな大会だ。

 しかし、短期間で数多くの試合が行なわれるからこそ、そこに様々なドラマ、ストーリーが生まれ、試合にぐいぐい引き込まれることになる。予選リーグから観戦していく間に実況によって様々な知識が蓄えられ、最終戦を迎える頃には、すっかりそのチームのファンになってしまうほどで、極めて濃度の高い2日間を過ごすことができる。“凄く疲れるが、凄く面白い”のが「World of Tanks」の世界大会「Grand Finals」だ。

 この「Grand Finals」はどのようなポリシーで運営が行なわれているのか。今回は「Grand Finals」の仕掛け人であり、「WoT」のe-Sports展開を手がけるモハメド・ファダル氏に、「Grand Finals」に掛ける想い、e-Sportsとしての「WoT」の今後の展開などを聞いた。

【「Grand Finals 2016」はNAVIが優勝】
3回目を迎えた「Grand Final 2016」の覇者は、既報の通り、第1回の優勝チームNAVIが返り咲いた。決勝戦は、前回大会を制したHellraisersという奇しくも予選リーグ初戦の相手との再戦となったが、勢いに乗るHellraisersに敗北寸前まで押し込まれたが、最後の最後まで諦めなかったNAVIに勝利の女神が微笑んだ

一般のマルチプレイと同じ15対15をe-Sports化したい

大観衆の前でオープニングの挨拶を行なうファダル氏
年々規模を拡大する「Grand Finals」

——オープニングの挨拶では、緊張していたのか「Grand Finals 2015」と語っていたが(笑)、今回のイベントに賭けた想いを聞かせて欲しい。

ファダル氏:まず、2015と言ってしまった言い訳からすると、頭の中とチーム内での話し合いが混乱してしまって、実際の試合は2015年に行なわれたもので、我々も2015と言って良いのか、2016と言って良いのかギリギリまで調整したせいで混乱して口が滑ってしまった(笑)。今回で3回目となる「Grand Finals」では、これまで培ってきた知識や経験を活かし、長年の夢だったティアXというフォーマットを紹介することができた。これを達成することができてとても嬉しいし、とても誇りに思っている。

——ティアX自体は昔からあったと思うが、ティアXでの大会実施が長年の夢というのは?

ファダル氏:過去にあった困難なところとしては、やはりマップや戦車のバランス、戦術が凝り固まっていた。高ティア帯の戦車はHPも高いだけでなく攻撃力も高いので、待ち伏せの戦術が非常に多く使われていた。そこでマップを作り直したり、マップに制限を掛けたり、ルールを変更していって、そういったキャンピングや同一車両の連続使用などが減って観戦が楽しくなった。これまで培ってきた知識でどうやれば、選手たちが積極的に戦い、見ているほうも楽しい戦いができるかということがわかってきたので、ようやくティアXが導入することができた。その結果、視聴者の60%以上の方が、以前にも増して喜んでくれている。そして、いつも同じ戦車を使っているわけではなく、毎試合違う戦車が使われていることも成功しているなと感じている。

——視聴者の60%以上が満足しているということだが、今後100%を目指していくにあたり、今後どのようなプランを考えているか?

ファダル氏:より多くの人が楽しんでいただけるように、いろいろな施策を考えているが、ひとつは7対7で行なっている試合を、15対15にしようと考えている。理由はe-Sportsは一部の頂点に位置するプロプレーヤーが活躍する特別な競技として、7対7で車両に制限を設ける特別ルールで試合を行なっているが、実際にやってみたところ、特別なものを作る必要はなかったということがわかった。一般のユーザーが普段からプレイしている15対15をe-Sports化することで、一部のプロだけでなく、一般ユーザーもプロを目指すことができるようにしたいと考えている。

——15対15の戦いに参加するためには倍以上のメンバーを集める必要があり、チームにとって負担が多くなるがそこはどう解決するのか?

ファダル氏:7対7から15対15に変えると確かに倍以上のメンバーを集める必要があるが、Wargamingリーグに参加されているユーザーの多くはクランに所属している。「WoT」にはクランのシステムがあり、最大で100名以上のユーザーが参加することができる。e-Sportsのために15人を集めるのではなく、今所属しているクランからGoldリーグやGrand Finalsが目指せるようにしていきたいです。

——7対7から15対15にするとメンバー集めだけでなく、e-Sportsとして色々課題があると思う。たとえば、7人から15人になると、賞金はどうなるのか?

ファダル氏:そのとおり、15対15になったら賞金が減るかも知れない。ただ、我々は来年には15対15の大会を実現したいと考えているので、Grand Finalsが終わり次第、実現に向けて様々な調整をしていきたいと考えている。そこでは賞金だけでなく、選手たちがどうやったら参加しやすいか、視聴者がどうやればより楽しめるかわかりやすく見れるかなど、何が求められるかを考えていきたい。賞金額を増やすだけでなく、パートナーに協力して貰ったり、スポンサーの獲得など、e-Sportsと考えた場合、大会で活躍すれば、賞金以外にも様々なものが得られるので、賞金についてはあまり心配していない。

Grand Finalsに出場したすべてのチームにメインステージで戦う経験を提供したい

勢揃いした12チーム
このステージにあげることそのものが重要だというファダル氏
e-Sportsの大会としては世界最大規模を誇る「League of Legends」はライバルではなく、e-Sportsを展開する仲間として共に成長していきたいという

——私は「Grand Finals」は昨年に続いて2度目の参加で、昨年から疑問に感じていることだが、なぜバックヤードの試合を直接観戦できないのか? 今回も3位決定戦を観ることができないし、NAVIやHellraisersの試合はすべて観たいと考えているポーランドのファンは多いと思うが。

ファダル氏:それは我々も理解していて、だからオンラインではメインステージもバックステージもすべての試合を見ることができる。ただ、ワールドカップのようにすべての試合を見せるというわけにはいかないので、グループリーグでは総当たり戦で均等に戦わせるというのが基本方針となっている。ただ、すべてをメインステージだけで行なうと、非常に長い大会となってしまう。今でもメインステージとバックヤードに分けていても2日間掛かっている。どうしても時間という制限があるので、今後良い解決策があれば解決したいと考えているが、なければこの方針を続けていくと思う。

——どちらかというと栄誉の問題だと思う。Grand Finalsは最高の賞金と栄誉が与えられる試合となっているのに、3位決定戦が誰も観客がいないバックヤードでのみ完結するというのは違和感がある。

ファダル氏:もちろん、仰ることは理解できる。だからこそGrand Finalsに参加しているすべてのチームに平等にメインステージで戦う機会を提供している。8時間、9時間では足りず、24時間試合をし続けなければならず、観客も選手も大変になる。純粋に効率だけ考えれば、他のゲームがそうであるように、決勝戦だけオフラインイベントにして、そのほかはオンラインで行なったほうが良いのはわかっているが、我々としてはGrand Finalsまで勝ち上がってきたすべてのチームにメインステージで戦うという経験を提供したいので、ローテーションでメインステージとバックステージで試合を行なっている。私たちは真剣にプレイされているプレーヤーの方々を大事に思っている。感謝の気持ちとして、120人以上の選手を同じ場所に集め、最低一回ステージにあげ、興奮をわかちあえるようにしたいと考えている。

——将来的に観戦可能なステージを2つにする予定はないのか?

ファダル氏:選択肢はあるが、そうすると、お客さんがどっちにいったほうがいいか、そもそも観客を2つにわけるのはどうか、そしてそれが可能な場所を探さないといけないため、簡単に解決できる問題ではない。わかりやすく例えるなら、フットボールスタジアムを2つにわけて、2つの試合をやるべきかどうかというのと同じ理由で、わけるのはいい解決策だとは思えない。観客の満足度を高めるためのアプローチとしては非常にいいと思う。

——「World of Warships」のe-Sports化については?

ファダル氏:コンペティティブゲーミングという意味においては、我々が提供するすべてのタイトルにおいてe-Sportsの可能性を信じている。本日「WOWS」のエキシビションマッチがあって、初のテストケースとなる。「WOWS」の開発チームも参加しており、どういう反応を見せるか、どう改良すべきかを見定めたい。「WOWs」はゲームとして高いポテンシャルを秘めているし、e-Sportsとしても興奮度の高いものを提供できると思うので、将来的にはe-Sportsとしてやっていきたいと考えている。

——それはGrand Finalsに「WOWs」部門を新設すると言うことか?

ファダル氏:将来的には「WoT」だけでなく、「WoT Blitz」、「WOWs」など様々なタイトルを組み合わせてオリンピックのようなイベントに育てることができればいいと考えている。

——e-Sportsの分野では、「League of Legends」という巨大なライバルが存在するが、彼らに対してどういう見方をしているのか?

ファダル氏:e-Sportsが素晴らしいのは、敵対視する必要がまったくないことだと思っている。「LoL」は「LoL」のユーザーがいるし、「WoT」は15対15で戦うゲームで、ゲーム性がまったく違うし、コア層、ファン層がそもそも違う。e-Sportsにおいて競合しているとは思っていないし、共に成長していきたいと思っています。実際、我々が「LoL」のイベントに招待されることもあるし、彼らを我々のイベントに招待することもある。経験を共有してe-Sportsを育てて行ければと考えている。

——Riot Gamesの担当者と情報交換した際、ロシアを含めた東西ヨーロッパは「WoT」が強いといっていたが、裏返せば北米とアジアは「LoL」の牙城と言うことになる。今後北米、アジアを攻略する上で秘策があれば教えて欲しい。

ファダル氏:我々は特にどの市場に力を入れるというわけではなく、全体として成長していきたいと思っている。それにはまさに先ほど言った15対15のe-Sports化が市場の成長への大きな助けになると思う。というのも、私は子供の頃ラグビーをしていたが、プロの世界とルールがまったく同じで、頑張ることでプロになれるかも知れないという夢を持つことができた。それと同じで、いつも遊んでいるルールと、プロの試合が同じルールなら、夢を持ちやすく、将来の目標にし易いと思う。

(中村聖司)