インタビュー
「グランツーリスモ7」クリエイター・山内一典氏インタビュー
PS VR2対応の「GT7」は、現状で得られる“最高のVR体験”
2023年2月2日 23:00
- 【グランツーリスモ7:PS VR2対応アップデート】
- 2月22日 配信予定
アメリカ・ラスベガスにて開催された「CES 2023」にて、突如発表されたPlayStation VR2対応版「グランツーリスモ7」。ほぼ全てのモードが“VR対応”し、DLCのようなボリュームながら“無償アップデート”というサプライズからSNSなどでは大きな話題となった。
PS VR2のローンチタイトルという大きな役割を担った「GT7」。1月31日に行なわれたメディア向け体験会では、想像を遥かに超える“究極のVRレースゲーム”の姿がお披露目され、インテリアが実装された「VRショールーム」、PS VR2の性能を活かしたドライブ体験など、「グランツーリスモ7」クリエイター・山内一典氏のVRに対する並々ならぬこだわりが、ヘッドセット越しから伝わってきた。
本稿では、体験会に際して行なわれた「グランツーリスモ7」クリエイター・山内一典氏の合同インタビューの模様をお届け。約20分という限られた時間ではあったが、PS VR2対応への裏話や、「GT7」をPS VR2でプレイすることの“うま味”、VR酔い低減へのこだわりなど、“新しい時代のレースゲーム”となったPS VR2対応「GT7」への山内氏の想いをお話しいただいた。ぜひ、最後までお楽しみいただければと思う。
「GT7」×「PS VR2」は、現状で得られる“最高のVR体験”の1つ
――山内さん、今、ヨーロッパにいらっしゃると伺いましたが。
山内氏: 今ですね、標高2,000mのところにいるんですよ。モバイルでネットワークに繋げています。
――昨日、ポリフォニー・デジタル東京スタジオでPS VR2の「グランツーリスモ7(以下、GT7)」を体験させていただいて……。とても感動しました。
山内氏: よかったです。この間、(「GT College League 2022」イベントで来日した)スタンフォード大学機械工学部のクリス・ゲルデス教授がいらっしゃって。その時にもお見せしたんですけど、彼もVRを用いたドライビングシミュレーターの研究をしていて、めちゃくちゃ感動されてました。
――ここまでクオリティが高くなると、“欲”が出ちゃいませんか?
山内氏: そうですね(笑)。あと、自分が走ったコースで体験すると、本当に感激します。例えば、筑波サーキットで曇っている場面をVRで走ったりすると、筑波サーキットそのものにしか見えないとか、ニュルブルクリンクとかラグナ・セカとか、全部そうなんですけどね。
――「GT7」をPlayStation VR2(以下、PS VR2)に対応させていく中で、苦労した点はありますか?
山内氏: 今回のPS VR2対応というのは、「GT7」の開発を始めたころからターゲットに入っていました。多くのタイトルは“後から”VRに対応すると思うんです。僕らも「グランツーリスモSPORT」の時にやったことあるんですけど、これってものすごく大変なんですね。なので、「GT7」は最初から4K60fpsを目指す“VRネイティブ”を前提に作ったことで、制作が凄くスムーズに進みました。
ただ、ネイティブに4K60pを動かすとか、VRでフルゲームをプレイするとか、データそのものは相当軽く作っておかないと、後からでは動かないので……。「GT7」の開発を通じて、負荷を大きく上げずに、絵のクオリティをキープするというのが、一番難しかったポイントですね。
――先ほど「GT7」の開発を始めたころからと仰ってましたが、具体的にはいつごろから……?
山内氏: 「グランツーリスモSPORT」が終わった直後から、ネイティブな4K60p、ネイティブなVRをターゲットに作っていました。今って、ネイティブに4K60pで動くゲームってほとんど無いと思うんですね。だけど「GT」の場合は、ネイティブ4K60pを元から目指していたので、VRへの対応は比較的容易でした。
――「グランツーリスモSPORT」でもVRに対応していました。「グランツーリスモSPORT」で実現できずに、「GT7」で実現できたことというのはありますか?
山内氏: まず、「グランツーリスモSPORT」時代の初代PS VRは解像度が低かったので、どこまでちゃんとレンダリングしても、遠方がきちんと見えないとか、解像度に起因する不自然さがあったんです。ですけど、PS VR2はパネルの解像度が上がって、PS5のパワーも加わることで、4K60pで描画、パン・チルトは“リプロジェクション”で120pで描画することができるようになりました。
ですので、画質も上がりましたし、何しろ酔いにくくなりました。以前は、連続して30分とか1時間運転することは、到底考えられなかったんですけど、今回のPS VR2と「GT7」の組み合わせでは、そういったことも可能になっています。
――今回、PS VR2版を初めてプレイされる方に、どういったところに注目してプレイしていただきたいですか?
山内氏: レースゲーム、車のゲームというのは、VRと親和性が高いと思っています。自分が座った状態で、自分の操作で車が動く。しかも、車の動きというのは主に前後方向で、左右の動きというのは制約があります。基本はまっすぐ前に進んで、ステアリングを切った時に“自分の意志”によって曲がっていくので、そういってことが組み合わさると酔いにくくなります。VRって、頭に掛けると「すぐに酔う」と考える人もいると思いますけど、今回のPSVR2と「GT7」の組み合わせは、かつてのVRが持っていた“悪い点”というのがかなり少なくなっています。
それともう一点、僕らはこれまで「グランツーリスモ」の歴史を通じて、世界中の美しい景観とリアルなサーキットを紹介してきましたけど、どんなにリアルに作りこんでも、テレビのスクリーンで表示している限り限界があったんです。ですが、PS VR2で「GT7」を体験することで、ニュルブルクリンクはニュルそのもの、筑波サーキットなら筑波そのものの景色を体験することができます。なので「GT7」とPS VR2は、現状で得られる最高のVR体験の一つだと思っています。
Senseコントローラーには“あえて”対応しない。「GT7」をPS VR2でプレイする“うま味”とは?
――PS VR2の仕様書が山内さんのところに届いた時、どう感じられましたか?
山内氏: 仕様を決める段階からハードウェアのチームとはコミュニケーションをとっていて、HDRの表現とか、片目2K×2K(2,000×2,040)の解像度とか、概ね2022年に求められるスペックは全て満たしていると思います。
――「GT7」をPS VR2でプレイする“うま味”というのはありますか?
山内氏: 先ほど、レースゲームとVRは親和性が高いという話をしましたけど、例えば“テール・トゥー・ノーズ”のバトルをしたりすると、横を見ると並走する車が見えますしVRを使うことによって、ようやく“完全なレースゲーム”になったと感じています。実際に僕らが車で乗る時の“全て”ができていて、その車に乗り、走り、内装を見渡せばそこにスイッチ・メーターがあり……。言ってみれば“本来のレースゲーム”で当たり前にしなければいけないことが、ようやく出来るようになりました。
――PS VR2には、専用の「PS VR2 Senseコントローラー」が付属していますが、非対応となった理由は何でしょう?
山内氏: 敢えて対応しませんでした。基本的に車って、シートに座ってアクセル・ブレーキ・ステアリングで操作するので、DualSenseの持つ機能だけで十分だったんですね。あと「グランツーリスモ」のプレーヤーは、ステアリングコントローラーを使って本気でプレイされる方が多いです。PS VR2とステアリングコントローラーの組み合わせっていうのは、車を実際に運転しているものと“全く同じ体験”が得られるので、DualSenseとステアリングコントローラーの2つの体験を重視しました。
「VRショールーム」で“エンジンをかけたかった”。山内氏“オススメ”の景色は?
――今回「VRショールーム」を体験して、VRゲームの中でも屈指のモデリングだと思いました。モデル制作の際に、VRプレイをどれほど想定していましたか?
山内氏: 「グランツーリスモ」というのは、もともとある一定のレンダリングリソースがあった時に、その多くを“車の表現”に注ぎ込んだタイトルなんです。1台1台の車のクオリティというのは、現行のPS5世代でもはるかにオーバースペックな車のモデリングをやっているので、VRになったときのモデルでも、通常のゲームでは見られないような部分まで全て作りこんでいます。なので、「VRショールーム」のようなモードが活きてくると思います。
――「VRショールーム」ではライトやウィンカーのオンオフなど芸の細かさに驚きましたが、今後エンジンをかけたりなど「VRショールーム」のアップデートはありますか?
山内氏: (笑)。確かなことはお話しできないですけど、実はエンジンかけたかったんです。今回「VRショールーム」では、入った瞬間にエンジンの始動音がなりますけど、内装に入った時点ではできなくなっています。それはエンジンをかけた瞬間に、メーターが動くとかエンジン始動のアニメーションが入るんですけど、そこまで作り切れなかったところはあります。なので、課題としては認識しているんですけど、それを450台以上の車全てに対して、今後行なうかはまだわからないです。
――開発者から見ても細かい点だけど、“ここは気付いてほしい”というようなポイントはありますか?
山内氏: 「VRショールーム」でしか体験できない、個々の車のディテールの凄さというのは「グランツーリスモ」だけの価値だと思っていて、観てほしいと思っています。あとは、レース体験というのが根本的に変化して、車を乗っている感覚そのものになっているので、2022年になってようやくレースゲームが“新しい時代”に行っていることを、体験してほしいです。
――今回色々なサーキットを走って、思わず目が行くような景色がたくさんありました。その中で「ここを見てほしい」など、山内さんオススメの景色などはありますか?
山内氏: いくつかあります。1つは「東京エクスプレスウェイ」のような、上や横とか立体的な構造物に囲まれているコース。オープンカーで走って周りを見渡せるようなコースがいいです。あまり速すぎない車がおすすめで、ゆっくり眺めながらドライブするような感覚でいくと面白いと思います。
もう1つは、ニュルブルクリンクのようなアップダウンの激しいコースがありますよね。こういうコースは、画角の問題で今までテレビではその魅力を表現しきれなかったんですが、PS VR2では壁のような上り坂とか、崖から落ちていくような下り坂を自然な距離感で認知できます。
あと、僕たちも作っていて気づいたのですが、ブレーキングポイントを探すのが楽になります。「ここでブレーキ踏んでおかないとヤバいかも」とか、自分たちが普段感じている距離感はVRの方がより確かに感じ取れます。
次に向かって“走り始めている”。未来のハードウェアに最適化する「グランツーリスモ」シリーズ
――昨年12月に開催の「GT25周年」スタジオツアーの際に「車の内装も作りこんでいるが、披露する場所がない」と仰っていました。これは(※)PS VR2版があるから、内装を作りこんでおこうと思っていたのですか?
※編集部注:「GT7」のPS VR2対応は2023年1月に発表された
山内氏: その通りですね。あと、もう1つの理由は、今後ハードウェアが進化して限りなくどんな表現でもできるようになった時に、モデルを作り直すのが嫌だったんですね。なのでPS5世代に最適化するのではなく、もっと未来のハードウェアに最適な作り方を、車に関しては行なってきました。
――素人目線になりますが、「GT7」はドライビングシミュレーターの必要な要素全てを達成しているように思います。ですが、現代のハードウェアで実現できないことや、「グランツーリスモ」としてまだ足りていない要素など、今後実現したいことはありますか?
山内氏: 実はテーマはあります。次に向かって走り始めているんですけど、まだお話しすることはできません。なかなかお話しできないのが残念です(笑)。
――最後に、これからPS VR2版「GT7」を体験される方にメッセージをお願いします
山内氏: 先ほども何度かお話ししましたが、レースゲームの“新しい時代”が始まったということです。走行体験・レース体験そのものが、限りなく本物と同じようにできるようになったのは、凄く大きな進歩です。
それと、「VR=酔う」というイメージがあると思いますが、“きちんと作れば”そうはならない、ということをお伝えしたいです。「今、VRってこういうことできるんだ」って、ぜひ体験してみてほしいです。
――ヨーロッパでお疲れのところ、本日はありがとうございました!
山内氏: こちらは朝の10時です(笑)。ありがとうございました。
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