インタビュー

「eスポーツ大会を通じて高校教育を」NASEF JAPANが開催するeスポーツ大会の意味

大会参加者にレポート課題、高校生運営の大会も予定

6月収録

 全国各地の高等学校でeスポーツ部が発足され、高校生のeスポーツ大会が年度末の風物詩になりつつある昨今、「eスポーツ教育」という新たな可能性が模索されている。ゲームと教育、一昔前は対極のものとして見られていた二者が、eスポーツというキーワードのもとで結びつこうとしているのだ。

 NASEF(北米教育eスポーツ連盟)は、そんな「eスポーツ教育」のパイオニア的存在だ。2017年にアメリカで設立された本団体は、様々な教育機関と連携してeスポーツ教育の可能性を研究し、独自のカリキュラムを使って実際の教育現場にeスポーツを取り込む活動をしている。

 そんなNASEFの日本本部であるNASEF JAPAN(ナセフジャパン)が昨年11月に発足され、現在その活動を本格始動させようとしている。今回GAME Watchでは、NASEF JAPANが主催するeスポーツ大会のトーナメントマネージャーであり、自身もFPSプレーヤーだという岡田勇樹氏に、NASEF JAPANの理念や具体的な活動内容についてインタビューを行なった。

インタビューに応じていただいたNASEF JAPANトーナメントマネージャーの岡田勇樹氏

「生徒たちに新しい活躍の場を」NASEF JAPANの理念とは

――NASEF JAPANはどのような活動をしている団体なのでしょうか?

岡田: 「eスポーツを通して高校生の成長に寄与し、社会で活躍する人材育成を支援する」という理念のもと、昨年11月に発足された団体です。もともと北米にNASEF(ナセフ)という団体があり、NASEF JAPANは北米NASEFと連携して活動しております。具体的な活動内容としては、高校生を対象としたeスポーツ大会の開催や、学校・教師向けのeスポーツセミナーの開催、そしてeスポーツを取り入れた教育カリキュラムの作成などを行なっています。

 あくまでも「教育」を主軸においた活動で、決して高校生をプロeスポーツプレーヤーとして育成するといった意図はありません(笑)。eスポーツを一つの教育のツールとして普及させ、他のスポーツと同じように、真剣に取り組むことで教育的効果があるということを広めていくことが目的です。

【NASEF JAPAN】
3月にはメディア向けの説明会も開催された

――日本の教育現場にeスポーツを持ち込むことには、どのようなハードルがありますか?

岡田: やはり日本では、学校でeスポーツを行なうということに抵抗がある人が少なくないのが現状です。しかし最近ではeスポーツ部がある学校も増えてきています。そこで、NASEF JAPANでは、まずは部活動という形で学校単位でeスポーツに触れ合って貰い、そこからeスポーツの教育的価値を知っていただきたいと考えています。そのために、先生方に向けたセミナーも行なっています。

――先生方や学校に向けたセミナーとは、どのようなものなのでしょうか?

岡田: つい先日も「eスポーツ部活動の始め方」という議題でセミナーを行い、eスポーツ教育に興味を持ってくださった約70名の先生方にご参加いただきました。多くは「eスポーツ部活動に興味はあるが具体的な始め方が分からない」、という問題を抱えており、そういった先生方に対しては、生徒主導型の部活動を推奨しています。

 eスポーツのことになると、生徒の方が多く知識を持っている場合がほとんどです。そのため、まずは生徒のやりたいことを第一にして、先生方は過度に干渉せず、生徒たちの自主性をサポートする形をとると、円滑に部活動が行えます。

――教育現場の最前線に立つ先生方は、eスポーツ教育のどういった側面に可能性を感じているのでしょうか?

岡田: すでにeスポーツ部を運営されている先生方から一番多いのは、生徒自ら積極的にコミュニケーションを取るようになったという声です。普段は他者と関わることに消極的な生徒ほど、eスポーツによってコミュニケーション能力に向上が見られたり、またeスポーツに真剣に取り組むことで、達成感、あるいは悔しさなどを敏感に感じ取るようです。

 そういう意味では、eスポーツも他のスポーツと変わりありません。真剣に取り組むことでしか得られない経験があり、自分のやりたいことだからこそ、生徒たちも向上心を持って打ち込むことができます。生徒によって得意なものは違って、それが野球である生徒もいればeスポーツである生徒もいます。今まではeスポーツが得意な生徒にはその熱意を活かす場が学校には無かったわけですが、今はeスポーツ部がそういった場になっています。

【セミナー】
メディア向けのほかに、高校向けのセミナーも定期的に開催されている

――NASEF JAPANでは学校が加入できるメンバーシップも用意されていると聞きました。

岡田: eスポーツ教育に興味がある先生方が個人で加入できる「ティーチャー メンバーシップ」と、学校単位で加入できる「スクール メンバーシップ」を用意しています。どちらも、eスポーツ教育のサポートに役立つ加入者限定のニュースレターやセミナーなどのコンテンツを用意しており、また将来的には加入校限定大会なども行なわれる予定です。

 このメンバーシップには、eスポーツに興味がある先生方や学校どうしで横のつながりを作っていただく期待もあります。他の学校が実際にどのような取り組みを行っているのかを知ってもらうことで、eスポーツ教育導入のハードルが下がると考えております。現在では北海道から沖縄まで、94校(2021年6月11日取材時点の数字)の学校が登録しております。

【メンバーシップ】

――eスポーツが教育現場に持ち込まれることで、生徒たちに悪影響があるのではないかと考える人もいるかと思いますが、それに対してはどう考えていますか?

岡田: eスポーツに限らず、同じことをやりすぎてしまうのは良くないことです。ただ、eスポーツをやりたいという生徒が実際にいるのであれば、それはむやみに辞めさせるべきではないと我々は考えています。NASEF JAPANでは、依存症に対する取り組みのほか、顧問の先生の管理のもと、競技中のマナー教育なども含め、学校でのeスポーツ部の活動を支援しています。

 否定するよりも、まずは場を用意することが重要で、今まで趣味としてやってきたeスポーツを学校で仲間と真剣に取り組むことで、その生徒は確実に何かを学べます。

NASEF JAPANが自らeスポーツ大会を主催する意図

――NASEF JAPAN主催のeスポーツ大会も開催されていますが、大会を開催する目的はなんですか?

岡田: 大会により目的が異なります。二つの枠組みで大会を開催しており、一つは「EXTRA(エクストラ)」もう一つは「MAJOR(メジャー)」と銘打っています。「EXTRA」は1~2日で完結する短い大会で、生徒個人の単位から参加できる、ハードルの低い大会を目指しています。この大会の目的は、気軽に大会に参加していただき、eスポーツのおもしろさを知ってもらうことです。

 もう一つの「MAJOR」は全国各地でブロック予選を行ない、予選を勝ち上がった地域代表たちによる決勝で全国一を決める、より長期的で本格的な大会です。この大会の目的は、生徒たちの日頃のeスポーツ活動に明確な目標を与えることです。

 高校生のeスポーツ大会は他にもありますが、現状どれも年に一度開催されるのみで、生徒たちの活動にメリハリをつけるには数が不足しています。年に数回MAJOR大会を開催することで、生徒たちはコンスタントに目標がある状態で、モチベーションを保ちながらeスポーツに打ち込むことができます。

 また、大会数が増えればそれだけ生徒たちの活躍の機会も増えます。一年間の活動の結果がたった一度の大会で決まってしまうのは生徒たちにとっては酷なので、そういった側面からも大会の数を増やしていく必要性があると考えます。

【eスポーツ大会】

――これまでに開催した大会の手応えはいかがでしたか?

岡田: これまでに開催した大会は「APEX LEGENDS」のEXTRA大会を二度、「フォートナイト」のMAJOR大会を一度です。一番最近開催した「フォートナイト」の大会は総勢216名の生徒が参加し、いつものオンラインプレイでは味わえない緊張感や達成感を味わえたと、好評いただいています。

 今後は7月に「ロケットリーグ」のMAJOR大会、8月には「フォートナイト」のMAJOR大会、そして冬には「リーグ・オブ・レジェンド」のMAJOR大会を予定しています。

――オフライン大会開催の展望はありますか?

岡田: 現在は、時世柄オフライン大会の開催は難しいですが、将来的には開催していきたいですね。例えば地方で地域密着型のEXTRA大会を開催するなどして、eスポーツを知ってもらう活動もできればと考えております。

――大会のタイトル選定はどのように行なわれていますか?

岡田: やはり参加しやすさを重視しているので、高校生たちが日頃からプレイしている流行のタイトルを選出するようにしています。また北米NASEFが教育現場にふさわしいeスポーツタイトルのガイドラインを設けているので、それに添ったタイトルであるかどうかも重視しています。

 具体的には「ロケットリーグ」、「リーグ・オブ・レジェンズ」、「フォートナイト」の3タイトルが今後のMAJOR大会のタイトルになる予定です。これらのタイトルの共通点としては、高校生たちが協力して取り組めるチーム戦であることです。

 しかしEXTRA大会に関してはその限りではなく、より間口を広げてタイトル選定をしていく予定です。北米NASEFでは「マインクラフト」の建築コンテストなど、競技大会だけでなくコンテストも開催しているので、日本でもぜひ開催していきたいと考えています。

【2021年度の活動構想】

――これらの大会はどのようにして教育と結びつけられるのでしょうか?

岡田: 今後の大会では、生徒たちに参加レポートを提出してもらい、それを評価する仕組みを導入しようと考えています。真剣にeスポーツをプレイする中で意識したことや反省点をレポートにまとめてもらうことで、言語化能力や振り返り能力を育む狙いです。ゲーム内の実力のみならず、「レポート賞」などを用意することで、大会に対する取り組みの姿勢も評価できるようにしていきたいと考えています。

 また、将来的には大会の運営側やキャスターなども体験する機会を設けられたらと感が得ています。選手としてのみならず、大会を動かしている多くの職種の体験もできることで、新しい可能性を見いだすことが期待できると考えております。

 他にも、国際交流の場を設ける計画もあります。北米NASEFでは、オーストラリアやシンガポールにあるeスポーツを教育に取り組むことを推進している団体と連携を取っており、これらの国とオンラインで交流戦を行うこともできます。国外の高校生とeスポーツを通じて触れ合うことで、英語やコミュニケーション能力の向上が図れるでしょう。

――eスポーツ教育の最終的なゴールを教えてください

岡田: eスポーツに興味を持っている高校生が沢山いるので、NASEF JAPANはそういった高校生が情熱を持ってeスポーツに打ち込める環境と、成長・活躍の場を提供していくことをミッションと考えています。そして最終的には、高校生たちがeスポーツが好きであることを得意げに言えるような社会を作っていきたいですね。

――ありがとうございました。