インタビュー
「SEGA AGES サンダーフォースAC」インタビュー
テクノソフトが開発した伝説のシューティングが、今ここに甦る!
2020年5月13日 00:00
- 【SEGA AGES サンダーフォースAC】
- 5月14日配信開始
- 価格:999円(税込)
- CEROレーティング:A(全年齢対象)
セガの名作を“こだわり満載”で復刻する「SEGA AGES」。Nintendo Switch用ソフトとして配信するシリーズ全19タイトルのうち、第18弾として登場するのは、「SEGA AGES サンダーフォースAC」(以下、「サンダーフォースAC」)だ。
「サンダーフォースAC」は、1990年にセガが発売したアーケード用横スクロールシューティングゲーム。メガドライブ用ソフト「サンダーフォースIII」をベースにした作品で、テクノソフトが開発を手掛けた。ボタン操作で、自機のSTYX(ステュクス)が使用する武器と移動スピードを自由に変更可能で、初期状態では2種類の武器しか使えないが、アイテムを取ることで種類が増える。
「SEGA AGES」シリーズでは、すでに「サンダーフォースIV」が配信されているが、なぜこのタイミングで、同じシリーズ作品の「サンダーフォースAC」を配信しようと考えたのだろうか? そこでGAME Watchでは今回も配信に先駆けて、おなじみの「SEGA AGES」シリーズ開発スタッフインタビューを敢行。「SEGA AGES」リードプロデューサーの小玉理恵子氏、スーパーバイザーの奥成洋輔氏、開発を担当したエムツーの堀井直樹氏に加え、本インタビューシリーズでは初登場となる、プログラマーの澤井寛之氏が新たに参戦。本作の開発に対する、皆さんの尋常ではないほどのこだわりぶりを聞くことができたので、ぜひ最後までご一読いただきたい。
【編集部より】本インタビューは新型コロナウイルス対策のため、関係者の安全に配慮してビデオ会議で実施しました。
テクノソフトのIP活用と、詳細な解析から生まれた「SEGA AGES」版「サンダーフォース」シリーズ
――本日もどうぞよろしくお願いいたします。まず本題に入る前に、今回初めてご参加いただきました、澤井寛之さんから自己紹介をお願いできますでしょうか?
澤井氏: 澤井です。「SEGA AGES」シリーズでは、「サンダーフォースIV」と「ぷよぷよ通」、「アウトラン」のメインプログラムを担当しました。「サンダーフォースAC」でも過去3作品と同様、解析と改造、それから追加要素の作成を行いました。3DS版の「セガ3D復刻プロジェクト」シリーズでは、「セガ3D復刻アーカイブス3」に収録された「サンダーフォースIII」を担当し、ほかにも、「アウトラン」、「ザ・スーパー忍II」、「ぷよぷよ通」、「ターボアウトラン」、「ガンスターヒーローズ」、「コラムス」の解析と改造、追加要素の作成、3D化を行ない、「スーパーハングオン」では3D化の再調整など、一部の修正を担当しました。「サンダーフォース」は歴代のシリーズを全部遊んだことがありますし、自分でも好きなシリーズ作品ですね。
――たくさんのタイトルを開発されたんですね! 「SEGA AGES」の頭脳とでも言うべき方にご参加いただけて、とても心強いです。
小玉氏: まさに、「SEGA AGES」のすべてを作っていただいたような方ですよね。
堀井氏: 今回は、弊社の松岡(毅氏)の判断で澤井に出て貰うことにしました。「サンダーフォースAC」では自分がやりたいように、もう好き放題に作っていましたので、じゃあ作った本人がしゃべったほうがいいだろうということで(笑)。
奥成氏: 今回、堀井さんはどのパートを担当したんでしたっけ?
堀井氏: 「出来上がるのを待つ係」担当ですね(笑)。
――それでは最初の質問です。数あるシリーズ作品のなかから、なぜ「サンダーフォースAC」を配信タイトルに選んだのでしょうか?
奥成氏: 最初に提案されたのは、確かエムツーさんでしたよね?
堀井氏: ええ。そうだったと思います。提案したのは、「何で『AC』を出さないの?」というユーザーの皆さんからのご意見、ご要望が多かったからですね。
奥成氏: 以前に 東京ゲームショウの会場で(※1) 、「これからは、テクノソフトの版権をセガが管理します」という発表をさせていただきましたが、その権利を取得して最初に移植をしたのが、3DS版の「セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」に収録した「サンダーフォースIII」でした。その後、テクノソフトのIPをセガとしてどう活用すべきかを検討しまして、3DSの復刻シリーズの後継として始めることになったNintendo Switch版の「SEGA AGES」シリーズに、テクノソフトのタイトルも何本か入れようという話になりました。
「サンダーフォースIII」は、ラインナップを決める際にはまだ移植したばかりのタイミングだったので今回はやめようと。じゃあ、「III」を出したから次は「IV」だよねということで「サンダーフォースIV」をまず選び、オンラインで対戦ができたら楽しいだろうということで、「ヘルツォーク ツヴァイ」を選びました。で、もうあと1本くらい何かと考えた結果、「サンダーフォースAC」をラインナップに加えることになりました。
※1……東京ゲームショウの会場で: 2016年に開催された、東京ゲームショウのセガブース内でのステージイベントを指している。また、同年の9月17日には、セガゲームス(当時)よりテクノソフトの権利取得のプレスリリースも発信された。
――ナルホド。テクノソフトのIPを活用したいという意図があったんですね。
奥成氏: テクノソフトが開発したアーケードゲームは、非常に少なくて珍しいんですよ。「サンダーフォースAC」と、あとは 「ハイパーデュエル」(※2) などがテクノソフト製ですね。
堀井氏: そうそう。「ハイパーデュエル」は、確かセガさんの基板じゃなかったんですよね。
※2……「ハイパーデュエル」: 1993年にタイトーから発売された横スクロールシューティングゲーム。ちなみに、ほかのテクノソフト開発によるアーケードゲームには、「マジカルエラーをさがせ」と「マジカルエラーをさがせ2」(ともにテクノソフトが発売)がある。
奥成氏: 「ハイパーデュエル」は、 システム16(※3) の全盛期にあった、テクノソフトのオリジナル基板を使用して作られていました。それで、SEGA AGESのラインナップを決める最初の頃に、私のほうから松岡さんに「『ハイパーデュエル』も作ったらどうですか?」とお話をしたことが実はあったんですよ。
※3……システム16: セガのアーケードゲーム用システム基板の一種。第1弾のタイトルは「メジャーリーグ」で、「ファンタジーゾーン」、「忍 -SHINOBI-」、「カルテット」などにも使用されている。
堀井氏: でも、たった1種類のゲームしか動かない基板を、復刻シリーズだけのために解析してから移植するのは、正直厳しいので手を出せなかったですね……。
奥成氏: そうなんですよね。解析から始めなくてはいけないとなるとハードルが高いですし。
堀井氏: ええ。頑張るどころか、あからさまにお断りするレベルです(苦笑)。
奥成氏: そんな経緯もあって、「ハイパーデュエル」は残念ながら作れませんでしたが、「サンダーフォースAC」については、今回の「SEGA AGES」シリーズでいくつも配信している、 C2ボード(※4) を使用したアーケードゲームからの移植になりますので、これなら作れるだろうと。「サンダーフォースIII」は3DSで出しましたから、今回はそのまま移植するのではなくて、「サンダーフォースAC」を出したらどうだろうと。
※4……C2ボード: 同じく、セガのアーケードゲーム用システム基板の一種。CボードにPCM音源を 追加し、静電気対策などを施した改良型で、「ぷよぷよ」「ぷよぷよ通」「タントアール」などに使用されている。
――テクノソフトのIPを最大限に活用するなら、やはり「サンダーフォース」シリーズだろうと。
奥成氏: そうですね。ほかにも、テクノソフトさんのタイトルはたくさんあるのですが、やはり看板となるのは「サンダーフォース」シリーズだと思います。「サンダーフォースIII」は3DSとメガドライブミニで、「IV」はNintendo Switchで、「V」はプレイステーションのゲームアーカイブスで遊べるようになったところで、今回は「AC」をいよいよ出すことになりました。
「サンダーフォースAC」は、そもそも「サンダーフォースIII」をアーケードに移植したものですから、シリーズのなかでもちょっと変わった位置付けのタイトルなんです。「AC」に使用したC2ボードは、メガドライブと互換性があるのですが、実は性能はメガドライブとまったく同じではなく、色数が増えていたりしてパワーアップしているんですね。その部分を、テクノソフトではどうするかと考えた結果をお楽しみいただけたらと。ゲームバランス調整しつつ、ステージセレクトをやめる代わりに洞窟と氷のステージをボツにして、新たに小惑星ステージと、「サンダーフォースII MD」でも登場した神殿ステージを追加しているんです。
つまり、「サンダーフォースIII」と同じ開発チームが、「アーケードにも展開しよう」と考えてリメイクしたのが「AC」だったのではないかと思います。それから「サンダーフォースAC」は、「サンダースピリッツ」と名前が変わってスーパーファミコンにも移植されたのですが、こちらはマシンパワーの違いなどが原因で十分なスピード感が出せず、残念ながらメガドライブ版のシリーズと同様の名声を得ることができませんでした。ですので、今回の「サンダーフォースAC」移植は、当時『サンダースピリッツ』を遊んだ方にも触れていただきたいですね。
「サンダーフォースIII」は、これまでに移植版が3回発売され、スーパーファミコン版の「サンダースピリッツ」まで含めると今回が5度目で、「AC」としては2度目の移植になるのですが、どれも違ってみんないい……かな?
堀井氏: 「サンダースピリッツ」はしようがないですよね。スーパーファミコンのCPUは、メガドライブやC2ボードとは全然違いますし……。
――以前のインタビューでもお話をされていたかと思いますが、テクノソフトの権利をセガが取得した経緯を改めてお聞かせいただけますか?
奥成氏: テクノソフトさんは、プレイステーションの時代に開発をストップして2000年前に休眠状態に入りました。やがてゲーム業界関係者のなかでもテクノソフトの連絡先をわかる人がほとんど誰もいなくなってしまったんです。しかし2006年頃当時弊社にいた ゾルゲール哲(※5) という者が、「どうしても『サンダーフォース』を復活させたい!」と言い出しまして、さまざまな手をつくした結果、テクノソフトの権利を管理していたトゥエンティワンさんという会社の方に辿り着くことができたんです。そこで長い交渉を続け「どうか復活させてください」とお願いをしまして、セガがライセンスを受ける形で作らせていただいたのがPS2の「サンダーフォースVI」だったというわけです。
その契約をきっかけにして、トゥエンティワンさんのほうでも、それまで休眠状態だったIPをサントラCDの販売などの形で復活させ、プレイステーションのゲームアーカイブスで配信が始まったり、「サンダーフォースV」のフィギュアが出せるようにもなり、テクノソフトファンも大いに喜んだのですが、その後は新作が出ることもなく、また休眠状態になりました。その後、2014年にテクノソフトの創業者である大園富美男社長が亡くなられたというお話を伺ったのです。生前、大園社長が「今後もテクノソフトのゲームをずっと残していきたい。それを任せられるのはセガさんしかないのでは」と話されていたと私がお話を受けまして、弊社の下村(一誠氏)に相談したんです。社内で検討した結果、大園社長の遺志を受け継ぎ、テクノソフトのIPを譲り受けることになりました。
※5……ゾルゲール哲: 「セガガガ」などの開発を担当した元セガ社員。現在は独立し別名義で、漫画や小説作品を発表している。
――今、お話いただいたような経緯があり、セガがトゥエンティワンから権利を取得後、最初に移植したテクノソフトのタイトルが、「セガ3D復刻アーカイブス3」に収録された「サンダーフォースIII」だったというわけですね。
奥成氏: はい、そうです。それから、3DS版の「サンダーフォースIII」には 「KIDSモード」(※6) という、セガサターン版の「サンダーフォース ゴールドパック1」にしか実装されていないモードを追加しました。ですので、今回の「SEGA AGES」シリーズでも、「サンダーフォースIV」を移植するのであれば、サターン版にしかない仕様など、「何か作ってほしい」とユーザーの皆さんは絶対に思うだろうという話がありました。
そこで、Nintendo Switchでもサターン版と同じ仕様を移植できるのかを相談したうえで、2年前に開催したセガフェスの会場で、弊社の小玉やエムツーの皆さんが、電撃的に「Nintendo Switchで『SEGA AGES』をやります!」と発表することになったわけです。フェスの会場には、「サンダーフォースIII」の機体でしか遊べない「サンダーフォースIV」をしれっと展示していたのですが、皆さんが気づかずに遊んでいたので、何だか見ていて面白かったですね(笑)。
ともかく、そんないきさつがあって、「サンダーフォースAC」をただ移植しただけは、きっと皆さんに満足していただけないだろうということで、ここからエムツーさんのご苦労が始まることになったわけですが。もう2年以上も前のことなので、ちょっと記憶があやふやになっているかもしれませんけど……。
堀井氏: 我々にとっては2年も過ぎたら、それはもう大昔のことですよ(笑)。
※6……「KIDSモード」: 通常よりも難易度を低くしたゲームモードのこと。なお、「サンダーフォース ゴールドパック1」とは、「サンダーフォースII MD」と「サンダーフォースIII」を収録したセガサターン用ソフトで、1996年にテクノソフトから発売された。また、同年には「サンダーフォースAC」と「サンダーフォースIV」を収録した、「サンダーフォース ゴールドパック2」も発売されている。
――ちなみに、小玉さんは「サンダーフォース」シリーズのビジュアルについて、デザイナー目線ではどのように評価されていますか?
小玉氏: ラインスクロールで炎のようにユラユラ揺れる演出とかを久々に見て、すごく懐かしかったですね。すごくきれいに描けていますし、当時のドット絵でキャラや背景を描いていた皆さんは、制限のある中で魂を込めて作っていたんだなあと改めて思いました。私自身は、「サンダーフォース」シリーズのようなメカっぽいものは描いていなくて、むしろ避けて通っていました。ですから、あのようなゲームらしいと申しますか、メカを描ける方はすごくうらやましかったです。シューティングゲームで、こういう絵を描いていると、「あ、ゲームを作っているんだな」という気持ちになれますよね。
――澤井さんは、「サンダーフォースIV」の開発も担当されたというお話がありましたが、「IV」と「AC」は並行しながら開発を進めていたのでしょうか?
澤井氏: いいえ。「サンダーフォースIV」の後は「アウトラン」を作り始めましたので、「サンダーフォースAC」の開発を始めたのは、その後からですね。
――「SEGA AGES」版の「アウトラン」は2018年11月29日に配信が開始されましたから、「サンダーフォースAC」は完成までに1年以上掛かった計算になります。
小玉氏: 澤井さんが「サンダーフォースAC」を頑張って作っている間にも、「いやいや、まずはこっちのほうから先にやってください」とか、こちらからもいろんなお願いをしていましたので、時間が掛かってしまいましたね。
堀井氏: 確かに。ほかの仕事もやりつつ作ったから、本当に時間が掛かっちゃいましたねえ……。
奥成氏: エムツーさんのテクノソフトタイトルへの思い入れは、ある意味普段のセガタイトル以上ですよね。今回のラス前の配信が「サンダーフォースAC」で、最後に残った次のタイトルが「ヘルツォーク ツヴァイ」ですから、「テクノソフト AGES」の前編・後編みたいになっちゃいましたね(笑)。そう言えば、「サンダーフォースIV」を移植するときは、ソースがあったんでしたっけ?
澤井氏: 「サンダーフォース ゴールドパック2」版のソースはありました。
奥成氏: 確か、メガドライブ版の「サンダーフォースIV」と、「サンダーフォースAC」のソースがなかったんですよね。
澤井氏: 「サンダーフォースAC」のほうは、テクノソフトさん独自のアセンブラでプログラムされていましたので、その解析をしながら作りました。
奥成氏: 「SEGA AGES」版の「サンダーフォースIV」では、サターン版の要素である「KIDSモード」追加するという、サターン版の仕様をメガドライブ版にコピーするかのような、かなりアクロバティックな作業を行いました。それならば、今回の「サンダーフォースAC」でも、「『IV』で『III』の機体を使えるようにしたんだから、『AC』でも何か追加の機体で遊べるようにしないと、ユーザーの皆さんに喜んでもらえないだろう」ということで、私のほうからはエムツーさんに『サンダーフォースAC』でも追加機体が使えるように改造ができるのか、解析するようお願いをしたわけです。
それで、まずIVと逆パターンで「サンダーフォースIV」の自機、RYNEX(ライネックス)を使えるようにするか、もしくは世界観、時代を合わせるのであれば、「サンダーフォースII MD」のEXCELIZA(エクセリーザ)を使えるようにしてもいいのでは、という2通りの案を検討していただきました。さらに、もし可能であれば両方とも入れてほしいとお願いしていたのですが、途中で松岡さんのほうから「エクセリーザは、どうしてもうまく実装できない」というお話があったんです。
澤井氏: エクセリーザは、ほかの機体と違ってシールドの装備がなく、武器の種類が多いという違いがありましたので、使えるようにするためにはシステムを改造する必要があることがわかったんですよ。どうしようかなと考えた結果、ライネックスとエクセリーザを比べたらライネックスのほうが作りやすいということで、こちらのほうだけを選びました。
奥成氏: ということで、スケジュールの問題もありましたので、エクセリーザのほうは残念ながら断念しましたが、「サンダーフォースAC」でもライネックスが使えるのはこれまでの移植でもやっていないことで、きっと面白いだろうということで開発を進めていただくようお願いしました。ところが、これがいつまで経ってもROMが出来上がってこないんですよ……。
澤井氏: そうなんですよ。本当になかなか出来上がらなくて……。
堀井氏: 現場でゲームを作っていた本人が「本当に……」って言うとは、何て新鮮なインタビュー!
(一同爆笑)
――ROMがなかなかアップできなかった理由は何だったのでしょうか?
澤井氏: 途中から、ほかのタイトルの開発も並行してやっていたこともありますが、最初はライネックスを実装する方法がわからず、「サンダーフォースIV」のシステムを「サンダーフォースAC」のプログラムにうまく入れられるかどうか、ひたすら解析を続けていたのですごく時間が掛かってしまいました。
堀井氏: 解析の時間は掛かりましたが、それさえできてしまえば、あとは比較的早く作れちゃうんでしょうけどね。
澤井氏: そうですね。「サンダーフォースAC」は、「サンダーフォースIV」よりも自機のショット管理用のワーク数が少ないなど、システムの拡張をする必要があり、そこでも時間が掛かりました。
奥成氏: 「サンダーフォースIII」と「AC」の開発者は同じですが、確か「サンダーフォースIV」は違うスタッフが作っていましたよね?
澤井氏: ええ。全然違います。
奥成氏: 「サンダーフォースAC」とは全然違うプログラムで作られた機体を実装できて、本当に良かったなあと。さらに松岡さんから、「エクセリーザは無理でしたけど、機体は全部で4種類入れる予定です」というお話を後で聞いてエッとなりました(笑)。もちろん、これは面白いなと思ったのですが、「最終的に、全部入るかどうかはまだわかりませんので、内緒にしておいてください」と言われましたので、去年の東京ゲームショウのステージイベントでは、ライネックスだけをお見せしたという次第です。最終的には、開発が延びたこともあって、無事に4種類の機体すべてを使って遊べるようになりました。
――「SEGA AGES」版を作るにあたって、元テクノソフトの開発メンバーに監修を受けたのでしょうか?
堀井氏: いいえ。それはできなかったですね。
奥成氏: 「サンダーフォースAC」はすでに完成しているタイトルですし、エムツーさんのお仕事についても特に心配はしていませんでしたが、あるとき松岡さんから、「機体を4種類登場させるのですが、機体の形式番号や名前がちゃんと合っているのか、自信がありません」という連絡があったんです。1年程前に、FREEingさんからステュクスとライネックスのfigma(アクションフィギュア)を発売していただいたのですが、そのときの繋がりもあって「形式番号とかの確認は、当時の開発スタッフに聞いたほうがいいよね」ということで、テクノソフトに最後まで残ったメンバーが設立したガンバリオンさん経由で、当時のスタッフの方々に連絡を取ることができました。「形式番号は、これで合ってますか?」、「う~ん、当時は何て呼んでいたっけなあ……」、「うん、それでいいんじゃないか?」などとお話をしながら確認しました。特にサンダーソード装備時の機体に別名があるかどうかが肝だったのですが、結局機体名での違いは無しということで落ち着きました。「あのユニットのこと、ちょんまげ、と言ってたことは覚えています」みたいな役に立たない知識も得られました(笑)。
――ということは、プログラムに独自のアセンブラが使われているにもかかわらず、元テクノソフトの誰からも監修を受けずに「サンダーフォースAC」を移植することができたわけですね。
澤井氏: はい。過去にも、ソースがない状態から移植をした経験が何度もありましたし、今回はROMを逆アセンブルして解析して、それから「サンダーフォース ゴールドパック2」版と比較しながら調整していきました。「サンダーフォースIV」の解析が先にできていましたので、「AC」のアセンブラの意味も、逆アセンブルしたソースを見ただけでもだいたいわかりましたね。
――リバースエンジニアリングで解決できたんですね。いつものことですが、開発スタッフの皆さんの技術力には敬服します!
奥成氏: でも、今回も追加機体のところがバグの温床になってしまいましたよね。サンダーソードを使って、ボスを想定外の早さで倒すとバグが発生したりして。
澤井氏: そうなんですよね。サンダーソードの攻撃力が高いので、本当は第1形態を倒した後に第2形態があるのに、第2形態もいっぺんに吹っ飛ばしたせいでクリア判定まで進まなくなっちゃったりとか(笑)……。
堀井氏: まあ、そこはある程度はしかたながいことですので。
奥成氏: 「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」で、ドロップダッシュやスピンダッシュを入れたときもそうでしたが、やっぱり元のプログラムというのは絶妙のバランスを保っているので、そこに手を入れるほど不具合がいろいろ起きてしまうんだなあと改めて思いましたね……。
機体セレクト、「KIDSモード」のほか、細かい演出面の工夫にも注目!
――登場する機体のお話が出てきたところで、ここからは「SEGA AGES」版のオリジナル機能やゲームモードについて詳しく伺いたいと思います。機体は4種類とのことですが、まずはどんな機体が登場するのかを教えてください。
澤井氏: ステュクスとライネックス、それから サンダーソード(※7) を最初から装備したライネックスと、「サンダーフォースIV」に出てきた、ステュクス量産型の4種類です。
※7……サンダーソード: 「サンダーフォースIV」で、クローを装備しているときに限り、強力なため撃ちショットが撃てるようになる武器の一種。通常は5面クリア時に装着される。
――なぜ、サンダーソードを最初から装備した機体を追加しようと考えたのでしょうか?
澤井氏: 最初は「サンダーフォースIV」みたいに、途中で機体にサンダーソードが装着されるようにしようと考えていました。ですが、「サンダーフォースAC」にはそれを入れられるタイミングがどこにもなくて……。6面の戦艦を倒した後だったら入れられるかなあとも考えたのですが、それだと全8面なので2面しかサンダーソードが使えないし、しかも8面はボスキャラばかりが出現するので、あまり意味がないと思ったのでやめました。
そこで、オマケ的に最初からサンダーソードが使える機体を、追加機体のひとつとして出すようにしようと思い付きました。さらに、ステュクス量産型も追加できるかなと思って試しに作ってみたところ、こちらは元々「サンダーフォースIII」に登場した機体でしたから、ライネックスほど苦労せずに実装することができました。
堀井氏: エエッ、そんなこと考えていたんですか!? それは知らなかった! そういう構想を元に作っていたことを、松岡さんにも話を通していなかった気がするんだけど……。
澤井氏: どうだったかなあ……話していなかったかもしれませんね(苦笑)。
奥成氏: それと、ステュクス量産型のほうにはバックファイヤーがあるんですよ。これは「サンダーフォース ゴールドパック2」収録版の「サンダーフォースIV」で初めて入った要素で、スピードを切り替えた瞬間に発生するバックファイヤーにダメージ判定があるというものですね。
――ほかにも、何かこだわって作ったところは何かありますか?
奥成氏: 澤井さんのこだわりで、機体を変更すると、機体ごとにパワーアップインフォメーション(※デモ画面中の機体説明)と、フォントのデザインも専用のものに変わるようにしました。フォントは、ライネックスを選択すると斜体のグラデーションが掛かった「サンダーフォースIV」と同じものに、ステュクス量産型を選ぶと「サンダーフォースIII」のフォントに変わるので、こちらにもぜひ注目してください。多分、これも澤井さんのアイデアでしたよね?
澤井氏: サターン版の「サンダーフォース ゴールドパック2」でも、ステュクス量産型を選ぶと「サンダーフォースIII」のフォントに変わる仕様がありましたし、「サンダーフォースIV」を移植したときにもフォントが変わるようにしましたので、今回も同じように作りました。それから機体を変更すると、タイトル画面に描かれている機体の絵も変わるようにもしました。タイトル画面に登場する追加機体の絵は、うちの冬野(灰馬氏)が新たに描き起こしました。
――それから「KIDSモード」については、「サンダーフォースIV」と同様に初心者向けに難易度を下げてモードという理解でよろしいですか?
澤井氏: はい。ミスをしても持っていた武器がなくならずにそのまま残り、シールドが1枚追加された状態でリスタートします。アーケード版の「サンダーフォースAC」でも、コンティニュー時に1回だけシールドが1枚もらえるようになっていましたが、「KIDSモード」では必ずリスタート時にシールドが付きます。
奥成氏: それから、「KIDSモード」では自機の攻撃力を高くしてあります。
澤井氏: ええ。武器が通常の1.5倍の攻撃力になります。
――ほかにも、何かオリジナルの機能などはありますか?
奥成氏: 「オールド」と「ニュー」の2種類のバージョンが選べるようにしました。「オールド」は、国内で最も普及したアーケード版のバージョンを移植したもので、「ニュー」は後期型のおそらく海外バージョンだと思われますが、攻撃力が「オールド」よりも高くなっています。
澤井氏: 「ニュー」の自機の攻撃力は、デフォルトで「オールド」の1.5倍ですね。
奥成氏: そう言えば、「ニュー」の設定で「KIDSモード」も遊べるようになっていましたよね?
澤井氏: はい、できます。「ニュー」の場合は、攻撃力が1.5の2乗で2.25倍にアップします。
奥成氏: ほかの難易度やエクステンドの設定などは、いつもどおりオリジナル版に準拠した形で選べます。それから、機体の入力設定の変更もできるようにもしてあります。
澤井氏: ステュクス量産型には、専用のボタンを2個追加しました。サターン版の「サンダーフォース ゴールドパック2」と同様に、押しっ放しにするとクローが高速回転して、敵弾が消しやすくなるロールボタンと、バックファイヤーが連続して出せる、スピード変更の連射ボタンの2種類ですね。
奥成氏: 今、澤井さんが説明した2種類のボタンは、どちらもデフォルトでは設定されておらず、機体が使えるようになった時点で設定をする必要があるので、ちょっと気付きにくいかもしれません。でも、このインタビューをきちんと読んでいただいたGAME Watchの読者の皆さんには、これでもうご心配がなくなりました(笑)。
澤井氏: それから、武器の発射ボタンを単発に変えることもできますよ。
奥成氏: メガドライブ版「サンダーフォースIII」はオート連射なのですが、実は元々アーケード版の「AC」はマニュアルなんです。もし、アーケード版と同様にマニュアルで遊びたい方は、設定を変更してからプレイしてください、ということですね。
――設定ボタンにも細かい配慮が行き届いて、さすがのこだわりぶりですね。
奥成氏: それからサウンドについてですが、「サンダーフォースAC」はアーケードゲームなので元々モノラル出力だったのですが、エムツーさんが解析をしたところ、実は大半がステレオの曲だったことが判明しました。
堀井氏: そうなんです。データ自体は、ステレオで持っていたことが今回の解析でわかったんですよ!
奥成氏: と、いうことで、全曲ではないのですが、「SEGA AGES」版ではデフォルトでステレオ出力で流れるようにしていただきました。ですから、アーケード版よりもちょっとサウンド面で豪華になりましたね。実はC2ボードのサウンドの性能は、メガドライブとはちょっと違いますので、「サンダーフォースIII」の曲をよく知っている人にとっては、ちょっとアレンジされたような感覚で聴くことができると思います。「サンダーフォースAC」の基板を持っているマニアの方も、ぜひ「SEGA AGES」版のステレオで音楽をお楽しみいただければと(笑)。
――本作でも、ほかの「SEGA AGES」シリーズと同様に、スコアを競うオンラインランキングにも対応しているのでしょうか?
奥成氏: もちろん対応しています。すべての難易度設定を共通で集計したものと、それからアーケード版「サンダーフォースAC」の工場出荷設定と同じノーマルモード設定限定で行う、2種類の集計方法があります。
――2種類のランキングは、それぞれ機体別にスコアを集計するのでしょうか?
奥成氏: はい、機体別に集計します。それから、いつもの「ヴィンテージ」や「キャビネット」設定でも遊べるようになっていますよ。
――それでは最後に、皆さんからGAME Watch読者へのメッセージをお願いします。
小玉氏: まずはプロデューサーとして、配信するタイミングが最後から2番目になってしまったことを皆さんにお詫びします。去年の4月の段階で、「少なくとも6月まで待っていただかないと、動くものができないんですよ……」と松岡さんに言われ、またそこから半年ぐらい掛かって、かなり時間を掛けて作っていただきましたし、きっと皆さんに満足いただけるものが出来上がったのではないかと思いますので、ぜひお楽しみください。
澤井氏: 実は、ステュクス量産型のバックファイヤーで敵を倒すと得点が8倍になり、それからサンダーソードが最初から使えるライネックスで、サンダーソードで敵を倒すと得点が2倍になります。ですので、ハイスコアを狙う場合は遊び方がガラッと変わりますし、オンラインランキングがすごくストイックで面白いものになっていると思いますので、ぜひランキングにもチャレンジしてみてください。
堀井氏: 以前から移植してほしいというご要望をずっといただいていたなかで、今回ようやく配信をすることができて私としても本当に喜ばしいですね。これで「III」「IV」「AC」とひととおり出せたわけですが、今度は「『サンダーフォースII MD』も出してくれ!」というご要望がきっとくるんだろうなと思っておりますが、我々のほうでもそこはちゃんと意識しているということも、併せて皆さんにお伝えしたいと思います。今回の「サンダーフォースAC」もぜひ、よろしくお願いします!
奥成氏: テクノソフトさんの埋もれていたタイトルが手軽に遊べるようになり、「テクノソフト AGES」の前編・後編をついに始めることができましたので、テクノソフトファンとしてもうれしい限りですね。私は当初、「サンダーフォースAC」は「III」の単なるアレンジで、「サンダースピリッツ」のこともあって正直あまり良い印象はなかったのですが、エムツーさんに今回作っていただいた「SEGA AGES」版をプレイしてみたら、「AC」ってこんなにバランスの取れたゲームだったんだ、BGMも良かったんだと、自分のなかで再評価をすることができました。
開発にすごく時間が掛かってしまいましたが、手軽に楽しめて、なおかつ4種類もの機体が使えるという、かなりバランスの取れた良いゲームに仕上がったと思っておりますので、ぜひ遊んでみてください。この勢いのまま、次回の「テクノソフト AGES」の後編、「ヘルツォーク ツヴァイ」が配信されるのも今から楽しみですね。と、言いつつ、私も実機でプレイできるものをまだ触ったことがないのですが(笑)……。
――ありがとうございました。
(C)SEGA
※株式会社セガは、2016年にトゥエンティワン有限会社よりテクノソフトブランドに関する権利取得を受けております