インタビュー

「十三機兵防衛圏」は音楽にも物語に没入するための様々な仕掛けがあった

サントラ発売を目前に崎元仁氏・金子昌晃氏にサウンドインタビュー

【十三機兵防衛圏 オリジナル・サウンドトラック】

2月27日 発売

価格:4,400円(税込)

 アトラスが2019年11月28日に、プレイステーション 4用として発売したドラマチックアドベンチャー「十三機兵防衛圏」。「十三機兵防衛圏」は、「オーディンスフィア」や「ドラゴンズクラウン」などで知られるヴァニラウェアが開発を手掛けており、1985年の日本を主な舞台とし、13人の少年少女たちが大型ロボット「機兵」に乗り込み、突如世界に現れた怪獣と戦う――というのが”表向き”のストーリーだ。

 ”表向き”というのは、このゲームの物語の真髄がそれだけで語れるものではないからであり、練るに練られた緻密なストーリーはプレイした人たちの間で「すごい」とどんどん口コミで広がっていき、新たなプレーヤーを次々と取り込んでいる。そんな「十三機兵防衛圏」の魅力は、ストーリーだけではない。普通に遊んでいたら気付かなかったような“ゲーム内の音楽”にも仕掛けがあることに、驚くだろう。

 2月27日に満を持して「十三機兵防衛圏 オリジナル・サウンドトラック」が発売されるが、本稿では、「十三機兵防衛圏」を製作したヴァニラウェアと長年タッグを組んでいる作曲家の崎元仁氏、及び、崎元氏が率いるベイシスケイプにて効果音などを担当している金子昌晃氏らへの、「十三機兵防衛圏」の音にまつわるインタビューの模様をお届けする。

 なお、このインタビューや使用画像にはネタバレが含まれているため、くれぐれも注意してほしい。

左からベイシスケイプ代表・崎元仁氏、ベイシスケイプ・金子昌晃氏

「十三機兵防衛圏」の音回りのコンセプトについて

――GAME Watchでは初の「十三機兵防衛圏」インタビューということで、まずは崎元さんと金子さんの「十三機兵防衛圏」での役割をお願いいたします。

崎元氏:「十三機兵防衛圏」サウンドディレクターの崎元仁です。

金子氏:音響全体や効果音などを担当している金子昌晃です。「十三機兵防衛圏」では、音楽以外のほぼ全部を担当しています。

――では、「十三機兵防衛圏」の音楽のコンセプトについて、お伺いできればと思います。

崎元氏:舞台になる時代の幅がとても広いゲームなので、どこにフォーカスしようか最初のうちはちょっと悩んだんですけれど、基本的にはテクノを取り入れつつ、できるだけ曲層の幅を広く取っています。

 テクノミュージックの良さは反復が非常に多いことで、ゲーム内でも何回もループ……反復していくことで、段々その良さを出していくというのがあるんですよ。

 サウンドとして全体的にテクノに寄せていったのは、ゲームの世界がああいう世界だからというのが一番大きいですね。

――テクノにしようと思ったのは崎元さんのご判断ですか? それともヴァニラウェアさんからのご依頼だったのでしょうか。

崎元氏:音楽の全体の方針に関しては、ヴァニラウェアさんからは特に何もなかったので、こちら側で決めていきました。ヴァニラウェアさんとのお仕事に関しては、もうほとんどの場合、こういう音楽がいい、という言われ方はあまりされないんですよね。

――それは長年の間に築かれた信頼関係のようなものもあるのでしょうか?

崎元氏:それももちろんありますけど、一番大きいのは一つのプロジェクトとしてずっと長く話し合ってるからです。

 ヴァニラウェア代表の神谷(盛治)さんとは、何年も前の本当に一番最初の着想の段階からずっと話をしていて、その過程で「こういうゲームならどういうアプローチがいいんじゃないか」という話も散々してきているというのが、一番大きいと思います。

――「十三機兵防衛圏」の音楽は、ベイシスケイプさんに所属する複数の作曲家の方で作られていますけれど、一つの作品として音楽にまとまり感がありましたよね。崎元さんからサウンドディレクターとして気を配った面とかはあるのでしょうか。

崎元氏:まとまりを出すっていうのは、ルール付けの問題だと思っていて、それ自体はそんなに難しいことじゃないんですよ。それよりも、ゲームの中で音楽がどう機能するかっていうことが重要だと思っていて、ゲーム全体で各楽曲の果たす役割のバランスだと思うんですね。そういう部分で、何かまとまり感みたいなものを醸し出すのかもしれないですね。

――テクノ調の曲とは対照的に、アドベンチャーパートではアナログ感の強い音が多いですよね。昭和感を出すのに、アナログを取り入れたんでしょうか。

崎元氏:実は一応そういう昭和感のある曲を作りはしたんですが、どうしてもうまく行かず、本編では使っていません。いわゆる昭和テイストを狙った曲が合わなかったのは、このゲームでは昭和の雰囲気が目立ちますが、内容全体として昭和をフィーチャーすべきゲームではなかったからだと思います。

――なるほど、グラフィックと相まって「懐かしい曲」に聞こえていただけなのですね。

崎元氏:プレイしている方からすると懐かしさがあるような曲なのかもしれませんが、実際には生楽器で演奏した曲が耳に馴染んでそのように聞こえているのかと。イベントシーンは長い時間ゆっくり聴くシーンもあるので、そうなると生っぽい音のほうが耳に馴染むんですよね。シンセでもそういう自然な音を作れないかトライはしているんですけれど、やっぱり生楽器には敵わないです。

 ちなみにアドベンチャーパートでアナログ感が強いのは、バトルとの対比ですね。バトル曲はビートがはっきりしていて、人の気持ちを盛り上げるような曲調なので。


――1ループが比較的短めな曲が多かったように感じましたが、アドベンチャーパートの曲は短めにしていたりしますか?

崎元氏:曲の長さは多分今までのヴァニラウェアさんの作品と比べてもそんなには変わらないかと思いますが、シーンがどんどんテンポ良く変わっていくから、曲が短くループしているように聞こえるのかもしれないです。

金子氏:話を引き立たせるために、ボイスと極力ぶつからないように選曲した結果かもしれませんが、展開が多い長めの曲の使用頻度が少なかったというのはあるかもしれません。聞かせるべきところでは結構鳴らしたつもりではあるのですが。

崎元氏:実際にサントラで聴いていただけると、またゲームとは違った印象になるかと思います。展開の起伏がない曲と言いつつ、曲としてはそれぞれちゃんと完成したものになっていますので。

――「十三機兵防衛圏」を遊ばれた方から、音への反応を何かいただくことはありましたか?

金子氏:同業の人が「これはどうやっているんだ」って探ってくれているのは見かけましたね。ここの音はどういう仕掛けなんだ、みたいな。

 もちろんそこを狙っていたわけじゃないんですけれど、やはり同業の方から「よくわからないけどすごい」みたいな反応を頂くのは、こちらとしては「ニヤリ」という反応ではありますよね(笑)。

崎元氏:確かに同業の人からは、ポジティブな反応をたくさんいただけましたね。ただ、そうすると業界ウケで終わってしまうパターンで危ないかなとか思ったんですけれど(笑)。でもその後口コミで売れたっていうのは、非常に理想的な売れ方ですよね。

難解なストーリーが頭に入ってきやすくするために

――アドベンチャーパートでは、「商店街の曲」、「学校の曲」という分類じゃなく、同じ場所でも違う曲が流れるのは、何気ないところですけれど面白かったですね。

崎元氏:場所ではなく場面に合わせて曲を作っていって、それを元に金子がうまく選曲をしてくれた結果ですね。

金子氏:ヴァニラウェアさんに選曲していただいた状態を元に、最終的には自分が全部順番にプレイして、曲の使用頻度や全体的な印象を考えながら修正していって今の形になりました。

――この場面にこの曲を当てはめよう、みたいな部分は、金子さんが決められたんですか?

金子氏:そうです。ここでこの曲を鳴らすっていうスクリプトを含めて、直接自分が修正しています。なので、背景依存じゃなくて状況依存だったり、「ここは今こういう状況だけど、後でこういう展開になるから……」みたいなものも踏まえて、結構パズルみたいに曲の組み合わせを考えていました。

――感動的なシーンなのにギャグっぽい曲が掛かっていたり、逆にギャグっぽいシーンなのに妙に感動的な音楽がかかるのも、金子さんのセンスだったんですね。

金子氏:はい。そういった振れ幅が持てるシーンの選曲って人それぞれだと思うのですが、スタッフの皆さんの意見を反映させつつ自分なりの色を出したつもりです。

 例えばギャグにしても、コテコテ系にしてもよさそうなところはあったんですが(笑)。「確かにハマりはするけど、このあとのこのシーンに繋がるから、ここはまだ抑えて」みたいな調整を、かなりやりました。焼きそばパンのところとか(笑)。

焼きそばパンのシーンは多数あるが、その中でも曲が印象的なのはこのシーンではないだろうか

金子氏:面白い曲って、どこから流してどこで止めるかも結構大事で、めちゃくちゃ細かいですけれど「このセリフの何フレーム後に止める」みたいな部分まで、こだわりました。なので、それを解ってもらえたら有り難い、というのはありますよね。本当にギャグにしてしまうんじゃなくて、ちょっと笑ってしまう、くらいのところで止めているっていう。

 あとは、話や会話の流れが入り組んでいて難しい場合、そこに難しい曲をあてるのはあまり効果的ではないことが多いと思うんです。

――難しいことを話しているシーンに、あえて軽めの曲を当ててあるということですか?

金子氏:音楽が鳴りすぎていると、意外と気が散ってしまうと思うんです。そうなるとストーリーが頭に入ってこなくなるので、シーンの内容によって選曲や再生場所でその濃さを調整している、ということですね。

 なので、難しい単語が並ぶ場面の曲はシンプルにとか、逆にお決まりの展開だと解っていたら曲をもっと鳴らすとか、話の流れに沿って曲の選択が変わるというやり方をしています。

――そういった工夫もあって、あの難しい話が入ってきやすかったんですね。

金子氏:ボイスがあって時間軸がユーザーのボタン送りなどに起因するゲームでは、曲の展開がはっきりしすぎている曲を使うと、大事なセリフが聞き取りづらかったり、話と曲のテンションがあわなかったり、ということが起きてしまうんですよ。字幕があるからいいだろう、ではないと思うんです。

 「十三機兵防衛圏」では、曲の抑揚を生かしたい特定のシーンについては、あえてセリフのスキップを封じて曲の展開を生かす構造にしてたりしています。

――「十三機兵防衛圏」は緻密な人間関係も魅力のひとつですが、音楽のほうから人間関係に配慮した部分はあるのでしょうか?

崎元氏:一番最初の段階では各キャラクターのテーマとかも作ったんですが、それらも結局使われていません。

――えっ、もったいない。

崎元氏:なにせあのゲームは設定が入り組みすぎていて、音楽でそれをまともにやるとしたら、物凄い曲数が必要になってしまうんですね。なので、必要な個所をピンポイントでやっている感じです。

 どちらかと言うと、どういう傾向を持っている人だとか、どういう出自を持っている人だとか、人間関係に関しては何かしらその伏線を出すようにしてるんですが、残念ながら音楽で完全にそれを描ききれたわけではないです。

――その「何かしら伏線」の部分ははサントラが出てから、ぜひゆっくり聴き比べてみたいですね。

金子氏:音楽で匂わせているというのは、実は結構あります。

崎元氏:あると言えばあるんですけど、そういうことは本来プロだったら、効果があることを確実に決めるべきだと思うんですよね。ただ、今回に限っては、効果があるのか微妙な感じのことを色々やっているんですよ。なので、あまり自信を持って言えることじゃないっていうのがありまして(笑)。

 とにかく苦し紛れに色々やってるっていう感じでした。なので、僕は実際に皆さんがどう感じたかのか、興味がありますね。

――崎元さんほどの経歴の方を、それほど苦しめる作品だったと……(笑)。

金子氏:わかりやすいところだと、学校の中の曲は解りやすいと思いますよ。プレイされた方なら、校舎内の曲といえばこれ、というのが多分何曲かあると思うんですけれど、それらの関係をよく聞いてみたら、何か解るかと思いますね。

 ただサントラでもあえてそうと解る並びにはしていないので、サントラが出たらそこから更に推察をしてもらえると楽しいのではないかと思います。

――「十三機兵防衛圏」というゲームの中で、音が果たすべき役割とはどのように思いますか?

金子氏:さっきもお話した通り、複雑なストーリーを解りやすくしようっていうのが第一にあるんですが、自分が今回やろうとした一番大きい部分は、実は効果音じゃなくて、ゲームをプレイしている皆さんを、演劇を見ている観客のような感覚にしたかったんです。キャラクターが自分のすぐ前の舞台に居て喋っているようにしたくて、そこに結構力を注いでいます。

――セリフの喋り方とかすごい独特だなって思ったんですが、そういうこだわりだったんですね。腑に落ちました。

金子氏:平面的じゃない距離感を出したくて、一応VR的な奥行きを感じさせることを目指しました。そういうところで普通のゲームのボイスと何か違う、もしくは実際に演劇を見ているような感覚になっていただけていれば、自分の目指したところは果たせたかな、と思います。

 そういうところで普通のゲームのボイスと何か違う、もしくは実際に演劇を見ているような感覚になっていただけていれば、自分の目指したところは果たせたかな、と思います。

崎元氏:金子の言う通り、あのシナリオが出来るだけ分かりやすくなるように、ということが多分一番かと思います。それに関しては、ある程度お助けできたんじゃないのかなとは思っていますけれど。

 音でサポートできることが割合たくさんあった作品なんじゃないかと思いますが、僕達も今まであまりやったことがないようなことに結構たくさんチャレンジしていて、かなり試行錯誤しているんですよ。

 うまくいったこともあり、うまくいかなかったこともあり……うまくいかなかったことっていうのは全部実装していないので、でもそういう足し算と引き算の結果、ひとつの作品としてうまくいったのではないでしょうか。

――「十三機兵防衛圏」で具体的にチャレンジしたことは何でしょうか?

崎元氏:とにかく凄く要素が多いゲームなので、その分こちらも考慮しなければいけない要素が多くて……通常ならばその中で優先順位をシビアに決めなければいけないんですけれど、それが決め辛いものが多くて、結局ほぼ全て活かそうとしたっていうのは、今回初めてだったかなと。

――楽曲の優先順位って、作曲家の方からよく伺いますね。大抵注文通りのものを全部は作れないから、優先順位をつけていくと。

崎元氏:本来は、やはりもっと優先順位を決めるべきだったのに、僕たちのほうで色々うまくいかなくてそうなっただけなのかもしれないです。僕たちには他に手がなかったっていうのは事実ですね。

 とにかくこれだけ色んな要素を活かそうとした作品は、僕たちにとっても初めてだったと思います。

――楽曲面でも色々なご苦労があったことがわかりますね……。ちなみに、今のゲームはフルボイスが当たり前ですけれど、それによって音楽や効果音の果たす役割っていうのは変わってきたと思いますか?

崎元氏:ボイスが入るようになってからは、僕たちはむしろ本来得意なことに専念できるようになってきたんじゃないかなと思いますね。

 必要な効果音が必要なタイミングで鳴らせられれば、曲で効果音的なことをやる必要がなくなってきますし。短い時間で感情に凄く大きな影響を与える「バーン」みたいな音楽をやる必要がなくなってくるので、もっと長い時間で感情を持っていくようなことに専念できるようになってきて、より細かく曲のコントロールができるようになっていると感じます。

――昔とゲーム音楽の質が変わってきたな、と思うのは、まさにそういう部分からかもしれないです。

崎元氏:確かに現代のドラマのサウンドトラックってちょっと難しいですよね。ファンタジーやSFになると、プレーヤーの人達が世界観そのものに全く馴染みがないので、ある意味で音楽もやりたい放題にできるんですが、現代が舞台だと馴染みがあるから、曲が鳴ることで違和感を覚えることもあるんですよ。

 どこかのドラマのディレクターが「究極的には音楽はいらない」と言っていたのですが、そういう意見も理解はできますが、僕たちは作曲家ですから「無音より良い音がある」という立場なわけです。

 ただ今回のケースでは過剰のものはやっぱり結構入れ辛くて、それでも「十三機兵防衛圏」に関してはああいう感じの絵や動きをしているものだから、音楽が出来る役割っていうのは普通の現代ドラマよりは、ずっと沢山あったと思います。

金子氏:フルボイスが当たり前になってから、以前よりも複雑なことが出来るようになったと思います。難しい文字でも、それが言葉として耳に入ることで内容が理解しやすくなるのはもちろん、真面目なセリフを喋っているのに曲はそうじゃなくて違和感が生まれる、というような誘導ができるところが大きいと思います。これが音楽だけ、効果音だけ、ボイスだけでは難しい。それらの融合で複雑に感情を揺さぶることで、話に深みを持たせることができるようになったのではないかと思います。

 「十三機兵防衛圏」でも真面目にそういうことを仕込みまして、それが話の深みというか奥行きに少しでも繋がっていたのであればうれしいなと思います。