インタビュー

「十三機兵防衛圏」は音楽にも物語に没入するための様々な仕掛けがあった

効果音の仕掛けから読み解く「十三機兵防衛圏」

――クラウドシンク(※1)の時に各キャラクターがクラウドシンクのワードを呟いていたりする演出とかが凄い細かくて、音回りが大変そうだなあと思いながらプレイしていました。

金子氏:そうですね……。難解なシナリオの中からシンプルな単語を選ばないといけなかったわけですから、単語のチョイスの段階でそもそも大変だったんじゃないかと思います(笑)。

 ただ、クラウドシンク中で単語を選択するたびに脳内音声が響く演出は、一歩間違えると、何を言っているかよくわからないただのノイズになってしまうので、最初は実装を悩んでいました。そこに意味付けをしたくて、例えばヒントになるもの……次はこれを選んでほしいっていう単語だけが鳴る、とかいろいろ試してみたのですが、それはそれで違和感に繋がることが多く、結局は今の形に落ち着きました。

 どういうテンションでボイスを収録するかもかなり悩みましたし、加工についても、頭の中で物事を考えるときに自分だったらどうなるかを表現したくて、クラウドシンクについては最後の最後まで模索しましたね。

※1……クラウドシンク:ゲーム内でプレーヤーが物語の謎解きに没頭できるように、日常に近い流れで会話の中のキーワードをキャラクターに投げかけることができるアドベンチャーシステムのこと。

改めてゲームをプレイすると、うるさくならないギリギリのところ、というのがよくわかる

――クラウドシンクをすると水に潜るような感じも、色々試行錯誤されたところから出てきたんですか?

金子氏:沈んだ感じになって、また浮かび上がってくるというコンセプト自体はありました。ただ、それをどう表現するかが問題で……。

 クラウドシンクをする場面は、声だけじゃなくて、曲とかSEとか全部の音があの瞬間にフィルタがかかって変わっているんですけれど、その全体の結果としてキーワードを呟く声が生きてくるんですよ。曲がそのまま鳴っていると、あのクラウドシンクの声は、多分聞こえないので。

――効果音は、現実味のある音から、いかにも作られた感じの音までありましたが、現実の音と虚構の音はどういう線引きをされて制作されたんでしょう?

金子氏:大雑把に言うと、キャラクターについている音は結構わざとらしく付けてるんですよ。昔のテレビドラマとか香港映画みたいな……そこまでは行かなくても、割と強調して付けています。

 そして環境系の音は逆に、リアル路線で作りました。これは、あそこは作られた世界という設定だからこそ、あえて本物そっくりにやりたかったんです。

 ダイモス(※2)とか怪獣系の出す音は、完全にオマージュです。例えばトライポッド(※3)とかは「宇宙戦争」ですし、「こんな感じにすると好きな人は気付くかな」と思って、寄せている感じですね。

※2……ダイモス:ある日突然街に現われた巨大な怪獣の総称。ビルより大きいものから自動車サイズまで様々な種類が存在し、重機や掘削機といった機械でできている。街を破壊するため襲撃してくる存在。

※3……トライポッド:1898年に発表された、H・Gウェルズの有名なSF小説「宇宙戦争」に登場する。火星人がトライポッドという3本足の兵器で地球を侵略する。

まさに「宇宙戦争」を彷彿させる代表的なシーンのひとつ

金子氏:あと、怪獣の声や動作音は金属系の音をベースにして作っていて、生物感を出さないようにしているんですよ。機兵との差別化が難しいところではあったのですが。バトル中の効果音も同じですね。

――効果音になるのかよくわからないのですが、BJ(※4)の声って声優さんが喋っているのを加工されているのか、それとも合成ボイス的なものを使っているのかがわからなかったんですよね。

金子氏:BJは、声優さんにあの感じでちゃんと演技してもらいました。いわゆる、「ワレワレハ、ウチュウジンダ」なんですが、大変だったと思います……(笑)。加工のイメージは最初から自分の中にイメージはあったのですが、それをどうディレクションしたらいいのか、声優さんからしてもどう演技していいのか、という状態で。最初は試しで録らせていただいて、それを一旦加工してみて、これはいけると判断した後は安心して収録させてもらったんですけれど、なかなかに大変でしたね……。声優さんの喉的に。

※4……BJ:主人公の1人である南奈津乃(みなみなつの)が発見した謎の小さいロボット型のドローン。

BJのボイスは全て実際に録音された声を加工しているというのが驚きだ

――あれを全部録音したんですか……。他のボイスの収録で、「十三機兵防衛圏」ならではの特徴的なエピソードってありますか?

金子氏:複数のキャラクターを演じられる方のチェックと指示がかなり大変で、特に種崎さん、上田さん、鈴木さん(※5)は、「では次、5年後やってください」、「次は〇〇で」というようにかなり狭い範囲でキャラが移動してるんですよ。もちろん皆さんプロなので、正確にやってくださるんですけれど、我々のほうがこの演技はこのシーンに合っているのかっていう判断が難解で、毎回比較用のリファレンスを持っていって、実際にその場で聞き比べて、チェックして……というのをかなり細かくやって、そしてまた次のシナリオに移って……、という状態だったので、収録にかなり時間もかかりました……。こちらも大変でしたが、声優さんは皆さん本当に大変だったと思います。

 なので、こちら側としても、できるだけ声優さんが喉を痛めないように、気を配って収録順などを決めましたね。種崎さんの場合は、声が低めのキャラは最後にしようとか。

※5……種崎さん、上田さん、鈴木さん:種崎敦美さん:13人の主人公の1人、冬坂五百理(ふゆさかいおり)役を担当。上田耀司さん:鞍部の幼馴染、柴久太(しばきゅうた)役を担当。鈴木達央さん:13人の主人公の1人、網口愁(あみぐちしゅう)役を担当。

「渚のバカンス」(※6)は当初バトルに使われるはずではなかった

――バトルの音楽がユーザーの操作や状況によってインタラクティブに音が変わるというのは、RPGやアクションではよく使われる手法ですが、シミュレーションではあまり見かけないですよね。場面にあわせてガラっと音楽が変わるのはあっても、連続性がある切り替わりってほぼないと思うんですが。

崎元氏:最初のうちはバトルの長さがどれくらいなのかよく分からないまま、バトルの状況によって曲を変えていこうとか色んな案があったんですけれど、ひとつのバトルで長いものだと5~10分くらいかかるので、最終的にああいう形にした感じですね。

 実はバトルも色々試していて、結局はまず戦闘が始まる前の冒頭部分があって、序盤、中盤と曲が変わってくる今の形に最終的には落ち着いたっていう感じですね。

※6……渚のバカンス:ゲーム内の新人アイドル因幡深雪のデビュー曲。中高生に絶大な支持を得て飛ぶように売れたヒット曲。

――アドベンチャーパートと比べて、バトルの音楽は色々と盛ってきている感じがありました。

崎元氏:金子もさっき言っていた通り、文章と音はバランスが必要というか……音から絵まで全部含めて、人がいっぺんに受け入れられる許容量っていうのは、その場面場面で決まってると思うんですよ。

 例えば映像が過多であれば、音はそんなに聞こえなくなってきて、今度は音が過多であれば、映像の印象が薄くなる。なので、どちらかというと、映像で補いきれない時に音が出てくる可能性が強い。つまり、そういうときはこちらも限界いっぱいまで音を出せる、音を出していくという風にした方が、多分印象はいいと思うんですよね。

 それでいくと13機兵の戦闘シーンっていうのは、音が前に出ていいところなんですよ。それだったら、ちゃんと曲として起承転結を付けたりとか、シーンによって曲が途中で変わりつつも一曲としてきちんと完成されたものにする、ということが出来ました。

――なるほど。勝利ジングルが曲によって全部違うっていうのも、その起承転結の中の結の部分をきちんとしようとした現れなんでしょうか。

崎元氏:これは悩んだところなんですけど、ゲームとしての機能ならば同じ曲が鳴った方が勝利という記号として、解りやすいっていうのはありますよね。なので、結構最後までどうしようか迷ったんですが、今の形になりました。

――ひとつの曲として、その方が良いという風に判断されたと。

崎元氏:そうですね。勝利ジングルまで含めて全体で一曲とした方が、効果が高いと判断しました。

つい飛ばしがちな勝利ジングルからのリザルト画面だが、改めてここも聞き直してみてほしい

――「渚のバカンス」は、最初からバトルで使われることが分かっていて作られたでしょうか?

崎元氏:違います(笑)。あれは最初は網口の家のテレビ(※7)から流れるだけの曲だったんです。テレビから流れてる設定だと、音がよく聞こえないので、作り込みもそれなりで良くはあったのですが、でも⼀応ちゃんと作っておいたんですよね。そうしたらバトルでも使うことになって、こちらもああ良かったという感じでした(笑)。

 まぁでも、ああいう演出はベタなんですけど、やっぱり燃えますよね。なのでよかったなぁ、と思いましたね(笑)。ちなみにあのバトルで「渚のバカンス」を流そうというのは、うちからの提案ではなく神谷さんの指示です。

※7……網口の家のテレビ:20畳の広さがある豪華な網口の部屋には、最新のオーディオシステムが揃っている。部屋にあるテレビでは因幡深雪が出演している音楽番組の映像がよく流れている。