インタビュー

エイベックス・テクノロジーズ、ついにクラウドゲームビジネスを語る

“エイベックスライク”な「今の世の中には絶対にまだないもの」を届ける!

12月収録

 2019年5月に設立されたエイベックスの新会社エイベックス・テクノロジーズ。エイベックスグループトップの松浦勝人氏がクラウドエンターテインメントビジネスの展開を目的に設立した会社となる。そのエイベックス・テクノロジーズが今年いよいよ本始動する。

 本稿では本始動に先駆け、クラウドエンターテインメントビジネスを担当しているゼネラルプロデューサーの貞永憲佑氏に話を聞くことができた。貞永氏は、元セガゲームス出身で、弁護士でもあるというユニークなキャリアを持つ。

 まだ正式発表前ということで具体的な内容についてはふせられたままだったが、既存のゲーム業界の方程式の外にある、新しいデジタルエンターテインメントをクラウドを使って行なおうとしていることは察することができた。ニューカマーによる新たな取り組みに注目していきたいところだ。

エイベックス・テクノロジーズ Cloud Entertainment事業グループ ゼネラルプロデューサーの貞永憲佑氏

――エイベックス・テクノロジーズさんには何度か訪問させていただいているのですが、正式な取材は今回が初めてです。エイベックス・テクノロジーズは2019年5月に会社を設立し、2020年にどういったビジネスを展開されていくのかについて話が伺えたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

エイベックス・テクノロジーズ 貞永憲佑氏(以下貞永氏): こちらこそ、よろしくお願いいたします。

――まずはじめにエイベックス・テクノロジーズさんは2019年5月に設立を発表されて、クラウドエンタテインメントビジネスについては、それ以降、ある意味で不気味な沈黙を保たれているわけですが、いよいよ今年はその沈黙を破り、本格展開に踏み出すと伺っています。今回クラウドエンタテインメント事業について、事業責任者である貞永さんにそのビジョンをお伺いできたらと思っています。まずは簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか?

貞永氏: 改めまして、貞永憲佑と申します。エイベックス・テクノロジーズのCloud Entertainment事業グループでゼネラルプロデューサーをしています。簡単に経歴をおはなししますと、大学卒業後に自動車メーカーホンダ、弁護士と異業種を経験した後、セガゲームスでゲーム制作の仕事を経て、現職に至ります。

――貞永さんはクラウドエンタテインメント部門のゼネラルプロデューサーということなのですが、どういうお仕事をされているのでしょうか?

貞永氏: 今はクラウドエンタテインメント事業部の全体の統括をしています。この部署は、おおきくわけて2つの部門から構成されています。まず、元々モバイルのゲームを作っていたエイベックス・ピクチャーズのモバイルゲーム部門と一緒になって、ひとつの組織を形成しています。もうひとつは、今までの枠にとらわれないエンタメを創造する部隊です。ただここ自体は、別にクラウドゲームだけを作る部隊というわけでもありません。仮にPCゲームを作ってもいいと思うのですが、今までのような勝負の仕方をしないで、どのプラットフォームでも既存のビジネスモデルにとらわれずに新規のエンタメを作っていく部隊だと言う風に定義しています。

――「新規のエンタメを作っていく部隊」というのは、どのような組織なのでしょうか?

貞永氏: 一言でいうなら「新時代のエンタメを再定義する」というミッションを持っている組織ですね。例えばゲームを作るとなれば、ふつうはゲーム会社からプロデューサーやディレクター、プランナーやプログラマーといった、特定の職能を持った人が開発を行いますよね。ですが、我々の場合は少し違います。もちろんそのような経験がある人たちもたくさんいますが、これまで培ってきた職能を活かして同じことをするのではなく、ゲームをはじめとする様々なエンタメにかかわってきた人たちが集まって、彼らの職能の延長線上にはない、新しいエンタメコンテンツの在り方を生み出そうとする組織になっています。

【全人類クリエイター元年】
エイベックス・テクノロジーズでは5月からクリエイターの募集を行なっている

――例えばどんな人たちですか?

貞永氏: それは本当に様々な方がいます。ゲームのスタッフであったり、映像畑の人であったり、ビジネス畑の人であったり、果ては僕のような弁護士出身のプロデューサーであったり(笑)。しかし、全員のミッションは一つで、「新時代のエンタメを再定義する」ということです。

 例えば、チームの一人にコンシューマーゲームやPCゲームをディレクションしてきた方がいます。しかし、この方のミッションは既存のプラットフォームに乗せる既存のジャンルのタイトルを開発することではありません。これまで培ってきた経験を活かして、また他のメンバーの経験との掛け算を重ねて、ジャンルごと新しいエンタメコンテンツを作ってしまおうという意識のメンバーですね。

――面白い試みですね。しかしそのような人はどういった経緯で集まってくるのでしょうか?

貞永氏: それも様々ですね。これまで数々のヒットを飛ばしてきたけれども、それに満足せずにさらに新時代のエンタメをやりたいといって参画される方が多い気がします。

 今僕自身が描いているビジョンがあるのですが、彼ら自身がそのビジョンや取り組みの共感してくれるうちに、アイデアを出してくれるようになって、そのうち「ではいっしょにやりましょう」となるようなことが多いですかね。これからもそういったビジョンに共感してくれる人たちと関わっていければと思っています。

 新しい時代のエンタメには、必ず新しい技術が必要になります。それが我々が着目しているクラウドエンタテインメントなわけですが、あくまで新時代のエンタメを定義するための横串として「クラウドエンタテインメント」と呼んでいるだけなので、我々が目指すのは、単にクラウドゲームを作る人集団ということではないんです。

――なるほど。では貞永さん自身は、どのような経緯でエイベックス・テクノロジーズに入社されたのですか?

貞永氏: 僕はもともと弁護士時代にエンタメ系の方々からご相談を受けることも多かったのですが、相談を受けるうちに一緒になって新しいビジネスを考えるようになっていったんですね。そこからどうしても自分自身も新しいエンタメを作り上げるチームの一員でありたいという思いが強くなっていって、ゲーム業界の門を叩き、スマートフォンゲームの事業に従事するようになりました。

 しかし、当時戦い方がある程度決まりつつあったスマートフォンゲームという市場でずっとやっていくことに、本当にこれでいいのかとも思ったんです。弁護士をやっていた頃とあまり劇的な進化を遂げていないのではないかと。そんなとき岩永(エイベックス・テクノロジーズ 代表取締役社長 岩永朝陽氏)に会いました。

 たまたま、僕の知り合いに「おもしろい人がいるから会ってみないか?」と言われて、全然転職活動をするつもりはなかったのですが、雑談をしにこの会社に来たんです。ちょうどエイベックス・テクノロジーズの立ちあげをしようとしている時期でした。岩永とはアニキャストの話とかクラウドゲームの話とか、ブロックチェーンの話とか。「いろいろ今後やっていこうと思っているんだ」という話をしました。

 当時は新しいエンタメの形を、ゲームの領域からどう生み出すかについて、結構不安でした。ですが、こういうものを組み合わせようと考えている人の会社であれば、おもしろいことができるかなと思って、いちプロデューサーとしてこの会社に入社しました。その「新しいエンタメの形」についていろいろ提案をしているうちに事業全体を任されるようになって、今に至るということです。

――そういう意味では、クラウドエンタテインメントという茫漠としたイメージが、すごく貞永さんには合っているように思いますね。

貞永氏: そうですね。クラウドエンタテインメントとか、クラウドゲームと聞いた時に、僕は「できることが増えるんだ」と思ったんです。ゲームのできることが増える、機能が増えるし、お客さんの形も多様になるし、ゲームの可能性がもっと広がるから、その既存の枠組みから出られるかもしれないという風に最初は思っていました。ただ、今まだ結構市場が足踏みというか身構えてしまって、僕が望んでいる進化が市場全体にはまだ起こっていないので、逆にチャンスかなとは思います。

 社長の岩永も、「新しいものは区画整理された既存の枠組みや組織からではなく、様々なバックグラウンドを持った人たちの集団から生まれる」というフィロソフィーを持っていて、我々の組織にもそれが体現されていますね。ゲームを作っていた人たちと、それ以外の人たちがどこまで一つになれるかで、この会社のモノ作りは変わってくると思います。実際のところはものすごいカオスなんですが(笑)。

 新しいエンタメを作っていくというビジョンだけでなく、僕自身の変わった経歴や、弁護士や法律というバックグラウンドを活かしたシナジーが、「新しいものを生み出すカオスな環境をうまくマネージメントする」という機能もあると見られたのかもしれませんね。

――カオスというのは、どんな状況なんでしょうか?

貞永氏: 文字通り、いろんな人たちがごちゃ混ぜになって、一緒に新しいエンタメを作り上げるための議論を交わしているような状況ですね。

 これまでコンシューマーのゲームを作ってきた人や、PCゲームで名作を作り上げた人のようなゲーム業界の知見をたくさん持っている人から、テクノロジーを極めてきた人や、僕のような他の業界からエンタメ業界に移ってきた人まで、様々なバックグラウンドを持った人たちが同じフロアにいます。

 人を感動させるコンテンツを生んできた人たちと、新しいテクノロジーで感動を生み出す手段を提供してきた人たちの両方が、同じフロアにいる。テクノロジーはテクノロジーで1個の会社を形成していたり、コンテンツはコンテンツで1個の会社を形成していることが多いですが、この人達が同じフロアにいて、隣に座って会話をしていることはあまりないですよね。そういう珍しい光景の日常が、この会社なのだと思います。

――実際にいま開発されているコンテンツは、どのようなものなのでしょうか?

貞永氏: それを言ってしまうともう新時代のエンタメの定義そのものになってしまうので(笑)。すみません、まだ内緒にさせて下さい。ただ、「今の世の中には絶対にまだないもの」とだけ申し上げておきます。

――では、何かヒントをいただけないでしょうか?

貞永氏: そうですね……我々がいま再定義のキーワードにしているのは、「物語」と「テクノロジー」です。エンタメには常に、何らかの「物語」が生まれたときに人々を魅了してきた歴史があります。そして、エイベックスというグループもまた、「物語」で人々を魅了してきた集団だと考えています。

 たとえば、一人の歌手がステージに立って歌うまでにも、様々な物語がある。曲が生まれるまでの過程をとっても同じですよね。ライブでも、タレントでも、映像でも、それらが生まれる背景には必ず何かの物語があります。それに我々が持っているテクノロジーを使って、新時代の物語体験を提供できないだろうかと考えています。

――物語に対するこだわりが強いようですね。貞永さんが作っていきたいコンテンツ像というのはあるのでしょうか?

貞永氏: 僕自身が「明日の生き方が変わるアニメやゲーム」にすごく影響を受けてきたんです。なので、「明日の生き方が変わるコンテンツ」を提供していきたいなと考えています。「物語」と「テクノロジー」の掛け算で生まれる、明日の生き方が変わる体験をクラウドエンタテインメントの中に入れられないだろうかと思っていたりします。

――その新たに再定義されたエンタメコンテンツというのは、どこで遊べるのでしょうか?

貞永氏: これは申し上げてもいいことなのですが、何か特定のプラットフォームや制作法式にのっとって作っていくというものではないんです。特定のプラットフォームに合わせて作ろうとすると、どうしてもできることやするべきことが制約を受けてしまう。なので、プラットフォームでできることから帰納的にモノづくりをするのではなく、今の時代、これからの時代にできることから演繹的にモノづくりをしていこうと思っています。

 ということで、そろそろ勘弁してください。僕自身もとてもワクワクしていて、油断するともっとしゃべってしまいそうなので(笑)。

――では少し話題を変えて、貞永さんは弁護士出身のプロデューサーということですが、そうなると法律的にも何か変化があるのでしょうか?

貞永氏: 新しいモノづくりには、必ず新しい権利や知財が生まれます。これはどの時代でも同じで、エンタメ業界でもコンテンツやテクノロジーの進化とともに、新しい法律的な解釈論や定義が生まれてきました。

 しかし、法律論は必ずと言っていいほどコンテンツやテクノロジーの進化から遅れてついてきます。それはある意味当然のことなのですが、社会的な事例や事象が蓄積されてから、法律的な議論が始まって、新しい時代に即した解釈論や定義が生まれます。ですが、僕自身のキャリアを活かして、コンテンツやテクノロジーの進化と同時進行して、法律的な解釈論や定義も提案できたら、業界がもっと活性化するんじゃないかと考えています。なかなか難しいことだとは思いますが、それが叶えば最高かなと。

――最後にゲームファンに向けてメッセージをお願いいたします。

貞永氏: 今ゲーム業界は、ソーシャルゲームが盛り上がった後の新たな過渡期にあると思うんです。僕自身がそうなんですが、ゲームが好きなのにゲームに疲れることが多かったんです。アニメもそうなんですが、本数が多くなって疲れてしまう人が多くなって。

 でも、これはすごいチャンスなんです。時代が今まさに変化しようとしているこの瞬間に、自分たちの手で新しいエンタメを定義するチャンスが訪れた。これまで何度も過渡期を通って進化したエンタメ業界に対して、今度はエイベックスというエンタメをリードしてきたグループから再定義を発信できるかもしれない。そして、我々がこれから仕掛けようとしている新しいエンタメに社会が共鳴して、もっと様々な人たちが新たな提言をしていく瞬間に立ち会える。そのことに僕自身もとてもワクワクしています。

 これまでのアニメやゲーム、映画や音楽の世界で遊んできた人たちに、もう1回新しい何か、それがクラウドエンタテインメントですが、それを提供してもっと楽しんでもらえるようなスタジオを僕たちは作ろうとしています。そして触れた人たちがリアルな明日を生きる活力になるようなコンテンツを提供していきたいなと思っています。「Really! Mad+Pure」というのがこのグループのタグラインなんですが、それをクラウドエンタテインメントの世界で体現していきたいと思っています。

――ありがとうございました。