インタビュー
横スクロールアクションの最高峰 「Cuphead」モルデンハウアー兄弟インタビュー
はやしうき氏制作のポスターに衝撃! 日本語カルチャライズのこだわりにも注目
2019年5月29日 00:00
- 【Cuphead: The Delicious Last Course】
- 2019年発売予定
- 価格:未定
4月にNintendo Switch版のリリースと、既存のXbox One版とPC版(Windows/Mac)向けの大型アップデートを実施し、ようやく日本語で遊べる環境が整った「Cuphead」。2017年のリリース以降、着実にセールスを伸ばし、2018年の段階で300万本を突破している。兄弟2人で始めたインディゲームとしては未曾有の大ヒットであり、7年に及ぶ長い開発期間を掛けて陶芸品のように磨き上げられたゲームデザインは、ゲームメディアの人間として安心して万人にお勧めできるクオリティと普遍性を備えている。
本稿では、4月の大型アップデートに合わせて実施された単独インタビューの模様をお届けしたい。インタビューに応じていただいたのは、Studio MDHR 共同ディレクターを務めるチャド モルデンハウアー (Chad Moldenhauer)氏、ジャレッド モルデンハウアー (Jared Moldenhauer)氏のおふたり。4月のアップデートによる日本語対応から、カルチャライズに対するポリシー、「Cuphead」の“味”である高難易度のゲーム性に対する考え方、そして「Cuphead」ファンが知りたがっている2019年にリリースが予定されているダウンロードコンテンツ「Cuphead: The Delicious Last Course」の最新情報まで様々なことを聞くことができた。
ローカライズにも一切手を抜かない。クオリティにこだわり続けるその制作哲学
――「Cuphead」は4月のアップデートでようやく日本語が実装され、日本人にとっても遊びやすいゲームになりました。英語以外の言語の実装がここまで遅れた理由は何ですか?
チャド モルデンハウアー氏: 当初から「Cuphead」をさまざまな言語でサポートしたいと考えていて、もともとはローカライズしてから出荷するつもりでした。しかし、各言語の翻訳において、本物らしさを出すために何が必要かを本格的に検討してみると、発表までには間に合わないほどの大仕事だということがすぐに明らかになりました。
英語版のゲームには、ビデオゲームの解説やアニメーションのコールバック、そして数多くのキャラクターなど、情熱と想いをすべてつぎ込みました。そのため、ほかの言語も同レベルまで磨き上げなくてはいけないと強く感じたのです。そこで、最終的に、多言語対応のリリースは見送るという苦渋の決断に至りました。その間、ゲームを 11 の新たな言語でうまく表現できるすばらしい翻訳チームを探し出しました。中でも日本語版では、書道の専門家と協力し、ゲームの大部分を特注の手書きで作成しています。できあがりにはとても満足していますよ。
――「Cuphead」は非常に難易度の高いゲームですが、クリア率は何パーセントぐらいですか。またその結果についての感想を聞かせてください。
ジャレッド モルデンハウアー氏: 「Cuphead」で思い描いていた範囲が明確になり、プロジェクトに完全に没頭するようになると、現実的なことも考えるようになりました。つまり、今後自分たちは別のゲームを作る機会があるのだろうか、ということです。この点を念頭に置き、自分たちが子どもの頃に好きだったレトロゲームの時代の難易度を目指そうということになりました。
開発中、「Cuphead」については、少し現代的な感覚を持つアーケードゲームのような体験にしようと考えていました。古典的な感覚のゲームですが、ゲームオーバーになることや、キャラクターのアップグレードが完全になくなってしまうといった不満のたまる古典的な仕掛けはありません。常に目標としていたのは、フェアでありつつ、手ごわい挑戦ができるものを作ることです。
最終的には、難易度曲線上における最適な場所を目指しました。それは、「テトリス」や「ピンボール」といったゲームのように、プレーヤーが「フロー状態」に入る場所です。その時点では、プレーヤーもすでにプレイのことを考えておらず、単に本能的に別次元で反応しているだけです。私は、挑戦と勝利には関連性があると強く思っているので、「Cuphead」では乗り越えてきた障害と同じくらい勝利の感覚を大きくしたかったんです。クリアしたプレーヤーの比率はきちんと調べていませんが、プレイする中でこの感覚を味わってもらいたいと考えます。
――この「Cuphead」のプロジェクトでもっとも達成感を感じていることは何ですか? その理由も合わせて教えてください。
チャド モルデンハウアー氏: 「Cuphead」を開発していた時は、こんなに人気が出るとは思いもしませんでした。重要だったのは、自分たちが誇りに思えるゲームを作ろう、そして自分たちが楽しめるゲームを作ろうということ。人気が出る可能性なんて考えもしませんでしたし、ゲーム制作が終われば2 人とも普通の仕事に戻る準備もしていました。ある意味、最も達成感を感じているのは、自分たちに忠実なものを制作したという部分でしょうか。
加えて、私たちと同じように2D ゲームやアニメーションに興味を持ち、情熱を注いでいる人が数多くいることには本当に驚きました。ビジュアルに関しては、最近のゲームの多くに見られる伝統的なリアリズムよりも際立っているとある程度感じていましたが、それに共感してくれる人がどれだけいるかは全くわかりませんでした。それが蓋を開けてみると、この美しさとデザインを評価するファンがたくさんいて、驚くとともに嬉しく思っています。サポートいただいているファンの皆さんにはいつも本当に感謝しています。2D はまだまだイケるということを証明してくれていますしね。
――「Cuphead」の魅力は2人プレイにあると思います。2人で遊べるだけでなく、協力し合えるところが素晴らしい。この2Pモードの開発経緯を教えてください。
ジャレッド モルデンハウアー氏: チャドも私も、「Cuphead」を2人で遊べるようにするという考えを最初から重要視していました。子どもの頃、ローカルプレイで協力する「Gunstar Heroes」や「Contra」といった素晴らしいゲームで遊んでいた楽しい思い出があるからです。私たちが一緒にゲームを作りたいと考えながら育った背景のひとつは、こうしたゲームの思い出があるからなのです。チームワークや、厳しいボスの難題に一緒に立ち向かって勝利を手にするといったことで、ゲームに新たな楽しみが加わります。
さらに、「Cuphead」などのゲームでは、2P モードにおける戦略にちょっとした要素が付け加えられています。1人が敵を倒すことに集中し、もう1人がボスにダメージを与えることに集中する、といった具合です。友達と戦略を考えて、1 人でプレイしている時には使わないような独特のロードアウトを選択することもできます。「復活に向けた受け流し」の名人は、チームワークを勧めていますし、お互いに用心することの重要性も強調しています。
結局、私が仲間2人での協力プレイで一番好きなのは、このソーシャル体験なんです。ソファに座って協力することが、友達や家族とのすばらしい交流につながるのですから。ゲームを通じて笑い、近況報告し、非常に難しい課題を克服して一緒に勝利を手にする機会が手に入るのです。
――2018年のE3で発表されたダウンロードコンテンツ「The Delicious Last Course」の発売をファンの1人として楽しみにしています。内容について話せる範囲で教えてください。
チャド モルデンハウアー氏: 「The Delicious Last Course」は、ゲームに全く新しい遊び場を与えるものとなります。戦うべき新たなボスもいますし、新たな武器やチャームを得ることもできますし、「Ms. Chalice」という新キャラクターも登場します。DLC の他の部分についてはお楽しみとして明かせませんが、ファンにとっても新たなプレーヤーにとっても驚く部分がいくつかあると思います。私たちの目標は、DLC をできる限り「Cuphead」最高の追加コンテンツとすることなので、今全力で取り組んでいます。
――新規キャラクターのMs.Chaliceは、どのような性能を持ったキャラクターになるのか教えて下さい。
ジャレッド モルデンハウアー氏: Ms. Chalice は、DLC の中で最も面白い部分のひとつであり、今回新たに登場するチャームや武器と共に、新たな「Cuphead」体験をプレーヤーに提供することになります。Ms. Chalice を設計するにあたってフォーカスしたのは、彼女がCupheadとMugmanと一緒にいてくつろいでいられると同時に、何か違いを感じているということです。彼女の違いについて今はまだちゃんと話せませんが、DLC を最初に発表した時の予告編の最後にヒントがあります。よく見ると、Ms. Chaliceは、CupheadとMugmanがこれまでにしたことのないような動きをしていることがわかると思います。
――発売時期はいつになりますか?
チャド モルデンハウアー氏: DLC でフォーカスしているのは、「Cuphead」の世界にふさわしい追加版となるようにすること。そして、ファンが求めるStudio MDHRの品質に対する期待に応えることです。今は開発に集中しており、発売時期については最初に発表した際の枠を超えてお話しできることは現状ありません。ただし、何かお話しできる段階になれば、公式ソーシャルメディアを通じて必ずファンに最新情報を伝える予定です。
――「Cuphead」シリーズのスマートデバイスへの展開は検討していますか?
チャド モルデンハウアー氏: すばらしいXboxチームのおかげで、最近Nintendo Switchでも「Cuphead」をリリースし、さらに多くのプレーヤーを迎え入れることができました。その発表の興奮からようやく落ち着いてきたところで、いまのところ他のプラットフォームへの対応については特に発表することがありません。
――「Cuphead2」の開発構想について、今話せる範囲で教えてください。
ジャレッド モルデンハウアー氏: 2D の手作りアニメビデオゲームに興味がある人がいる限り、私たちの取り組みの中核となるのは常にそのスタイルです。とはいえ、今後のプロジェクトについて正式に発表できることはいまのところ何もありません。
――日本のファンとして不満なのは「Cuphead」のグッズが気軽に買えないことです。スマートフォンやノートPCに貼れるステッカーが特に欲しいし、日本でも人気が出ると思いますが、日本でも取り扱ってくれないだろうか?
チャド モルデンハウアー氏: 「Cuphead」公式商品に関しては、King Features のライセンスチームと協力できてラッキーでした。同社は、ベティちゃんやポパイなどの著名なコミックブランドを扱っており、同社と協力してすべての「Cuphead」商品の品質を最高レベルに保てるよう細心の注意を払っています。それに、リリースする商品はできるだけ「Cuphead」の時代から来たものだと感じてもらいたいと思っています。私たちは常に「Cuphead」商品をファンに届ける新たな機会を模索していて、日本のファンの間で盛り上がっていると聞くと本当に励みになります。「Cuphead」グッズのラインアップを作成するにあたり、そのことは必ず心に留めておくようにします。
――日本のイラストレーター はやしうきさんを起用したポスターはとてもユニークなアイデアだと思いました。あの企画は、どのような経緯で実現することになったのですか?
チャド モルデンハウアー氏: はやしさんとは、日本語のローカライズを担当している GameTomoを通じて知り合いました。私もジャレッドも日本のクラシックゲームが大好きなので、日本語版のリリースにあたり何か特別なことでお祝いしたかったんです。そこでGameTomoと協力し、日本のアーティスト数人にコンタクトして「Cuphead」の世界を表現する特別版ポスターを 3 種類作りたいというアイデアについて話し合いました。そこで、はやしさんの繊細で遊び心のある芸術スタイルにあっという間に引き込まれていったんです。彼女の「Cuphead」キャラクターの捉え方にも興奮しました。さらに、Cuphead の日本語手書き部分を担当した書道の達人であるチバ ケイスケさんとは、ポスターのタイトル文字デザインと、下の角の方にある Studio MDHR の日本語カスタムロゴで再度協力しました。
――日本にも多くのインディクリエイターがいて、革新的なゲームを生み出そうと努力しています。インディクリエイターがゲーム開発を成功させる秘訣を1つ挙げるとすれば何ですか?
ジャレッド モルデンハウアー氏: ビデオゲームのように変化が早い業界では、成功に的を絞っても、その的が動いているかもしれません。インディ開発者としての大きな利点をひとつ挙げるとすれば、「自分の制作物を完全にコントロール」できることでしょう。そこで、私から他のインディゲームクリエイターに対する最大のアドバイスとしては、自分がプレイしたいと感じるゲームを作ることです。創造性と情熱をずっと掻き立ててくれ、前進するモチベーションを与えてくれるようなゲームを作ってほしいと思います。
ゲーム制作までの道のりは長く、時に大きな困難に直面することもあります。私たちがこれまでずっと「Cuphead」の制作に取り組むことができたのは、自分たちが真に信じているものを作っているとわかっていたからです。デザインやアートの段階でもクリエイティブになれることができたのは、そのことがあったからだと思います。
成功したゲームを作った立場から語ることができるなんて、本当にラッキーなことだと思います。それでも私が信じているのは、最高の作品は自分が一番楽しいと思えるものを追求することによって生まれるということです。もしそれができる立場にいるのであれば、自分が心の底から好きなものを作ることに集中してほしいと思います。そうすれば、結果に関係なく達成感が得られます。
――日本のゲームファンに対してメッセージをお願いします。
チャド モルデンハウアー氏: 日本のゲームは、ビデオゲーム業界全体を形成し、さまざまなゲームジャンルを分ける際の主な原理とコンセプトを定義してきました。ジャレッドと私は2人とも象徴的な日本のゲームで遊びながら育ち、今でも何か楽しいゲームを探している時には昔の日本のゲームでよく遊びます。私たちはこうしたゲームの影響をしっかり主張しているので、日本のプレーヤーは「Cuphead」をプレイする中でその影響を感じるのではないでしょうか。実のところ、「Cuphead」は1980 年代や1990 年代の象徴的な日本のゲームがあったからこそできたものなので、私たちは本当に日本のゲームへの愛情と敬意でいっぱいなんです。
今回、Cuphead の日本語版を完成させるにあたり、しっかり専念できるよう細心の注意を払いました。日本のプレーヤーが文章を見て楽しめるような面白い部分もあります。ゲームのボスのインタータイトルは、日本のすばらしい書道家でアーティストのチバ ケイスケさんが制作したものです。とにかく、日本のプレーヤーが新しい翻訳版の「Cuphead」についてどう感じるか、早く知りたいですね。
――ありがとうございました。