インタビュー
「バイオハザード RE:2」の限定版「COLLECTOR'S EDITION」はこうして生まれた!平林プロデューサーが語る制作秘話
コンセプトからクオリティまで、こだわり抜いて作られた限定版の内容を紹介
2019年3月5日 13:44
1月25日にカプコンから発売されたプレイステーション 4/Xbox One/PC用サバイバルホラー「バイオハザード RE:2」。商品のラインナップとしては通常版に加え、様々な特典が付属する「COLLECTOR'S EDITION」や「LIMITED EDITION」、そして最も豪華なバージョンとなる限定版「PREMIUM EDITION」も同時にリリースされた。
「COLLECTOR'S EDITION」はゲームソフトやExtra DLC packのプロダクトコードはもちろん、ゲーム本編の世界観がより深く感じられるサウンドトラック付きアートブック「Ben’s File」、B2サイズの両面印刷大判ポスター「”R.P.D.”改築計画全体図」といった資料に加え、精巧に造られた主人公「レオン・S・ケネディ」のフィギュアが同梱されたファン垂涎のアイテムだ。カプコンによれば現在は海外においてはほぼ完売、日本においても多少の在庫を残すのみという状況だとのこと。
今回、「COLLECTOR'S EDITION」を開発した平林良章プロデューサーから、限定版の中身であるグッズの魅力や、開発秘話などを伺うことができた。ここでしか聞けない裏話など、貴重な内容をお届けしよう。
世界中のファンが喜ぶグッズを作りたかった
――限定版のCOLLECTOR'S EDITIONの内容について伺いたいと思います。1番の目玉のレオンのフィギュアですが、これはどういった経緯で作られたんですか?
平林氏: フィギュアって思った形に仕上がるまでに時間と労力がすごく掛かるので、「バイオ」シリーズでキャラクターのフィギュアはあまり作っていなかったんですね。完成した後も、“もっと上に行けたんじゃないか?”ということを思ったりもしますし。そういった理由で、フィギュアを作ろうというのは勇気がいるんですが、今回「バイオハザード2」が20年以上経って新しくなるので、みなさんの思い入れが深いキャラクターをどうにか形にしたいと思って作りました。
――レオンのフィギュアですが、結構な大きさがありますね。
平林氏: はい。僕らも今までやったことがないサイズだったんですけど、“手に入れて嬉しくなるサイズ”のものを目指しました。あと、この大きさだからこそできるディテールの表現なんかもありますので、両方の理由でこのサイズになりました。
――確かに、細部にわたってクオリティの高さがすごいですね。
平林氏: ゲームの中にいるキャラクターをリアルな世界にフィギュアとして呼び込もうというコンセプトがありましたので、ゲーム中のデータを使って可能な限り忠実な造形と塗装で立体化させました。
――制作にあたって、こだわったポイントなどはありますか?
平林氏: 顔を始め頭部全体なのですが、特に髪の毛のディテールはこだわりました。ただもっさりした塊が頭に乗っているだけでは駄目なので、毛先の細さをどこまで表現できるのか挑戦しましたね。顔とか、首から下のクオリティがいくら高くても、顔や頭部に足らないポイントがあると引いて見たときに違和感を感じるんですよ。そこが難しいところですね。
――このクオリティに仕上がるまで結構な時間が掛かったんじゃないですか?
平林氏: そうですね。とはいえフィギュアを作るのが決まってから製品として仕上げるまでの期間がギリギリだったので、実は従来よりも短い期間で作りました。時間は短くても納得のいくクオリティにならなければダメで。妥協した物を出す訳にはいきませんし、⼤変でした。
――何故そんなにギリギリのスケジュールになったんですか?
平林氏: 限定版にどんなものを付けたら喜んでもらえるかなといったことを考えるのに時間が掛かったというのが1つ。あと1つは今回の限定版の中身を、“全ての国で可能な限り同じ内容に近づけよう”って考えていたんですよ。全世界で発売される全ての限定版にレオンのフィギュアを入れよう、箱はアイテムボックスをモチーフにしよう……といった仕様を決めていたりして、普通よりも準備に時間が掛かってしまったんですね。
――世界共通の仕様にするためですか。それは時間が掛かりますよね。
平林氏: 海外に送ることを逆算したスケジュールでフィギュアを作らなければいけなかったので、いつもよりも難しかったです。
――従来よりも短い期間でこのクオリティに仕上がったのは驚きですね。
平林氏: フィギュア制作にあたって、3Dプリンターが導入されたことが大きいですね。顔については3Dデータでの立体と人の目で見たときの微妙なニュアンスがちょっと違ったりするので、「プレーヤーが見た印象」に近づけるためには熟練した方の手作業が欠かせません。衣服や小物類のは3Dプリンターで出力することが精度の向上とスピードアップにダイレクトに繋がりました。
――そうだったんですね。首から下はゲームのデータをそのままに3Dプリンターで制作しているのですか?
平林氏: 実は首から下も完全にそのままというわけではないんです。ゲームのデータを3Dプリンター用のデータにするときに“味付けを濃く”していますね。ゲームとは違うサイズ感になりますので、フィギュア用に手を加えてあります。そのデータを3Dプリンターで出力した物をさらに手作業で仕上げる感じです。
――なるほど。ベルト部分の色が少し剥げているところとか、塗装の面もすごくリアルですね。
平林氏: はい。それぞれ違う“物の質感”を塗りだけでわかるようにと、大分無茶をお願いしました(笑)。ここも人の手の力ですね。
――今回、立体化するにあたって、レオン以外に候補はあったんですか?
平林氏: 最初はGとか、敵っていう候補はありました。カッコいいGやタイラントを選ぶこともできたんですけど、フラットにどのキャラクターのフィギュアが欲しいかって話し合ったときに、「やっぱりレオン」という声が大きかったんですね。
――それでレオンに固まったんですね。
平林氏: もちろんクレアも、という思いもありました。2人で背中合わせに並んでいるっていうのを作りたくて、実はクレアの3Dプリンター用のデータまで作ってあるんですよ。
――そこまで進んでいたのに、やはり厳しかったんですか?
平林氏: スケジュールに加えいろいろと実現が難しい問題も多々あり厳しかったんです。サイズを小さくして2人作るという案もあったんですが、しっかりしたクオリティのモノをお届けしたいという思いが強く、今回はレオンだけに絞らせていただきました。
――それほどクオリティを重視したってことですね。
平林氏: 人間のキャラクターだとなおのことなんですよ。1カ所「あれ?」と思う部分があると、それだけで全体が納得のいかない物になってしまいますからね。眉毛の位置が少しズレただけで“違う”ということになりますから。
――購入されたファンからの反響はいかがですか?
平林氏: おかげさまで好評をいただいております。ほとんどの国では完売していまして、今手に入る地域は日本を含め一部の地域だけだと思います。
――この外箱も改めて良いですね。ゲーム中のアイテムボックスをモチーフにしているというのが。
平林氏: ありがとうございます。箱も世界共通のものにしたかったんです。なので、どの国の人もパッと見てわかってもらえるようなアイコニックな物ではなければなりませんでした。すべての国の「バイオ」ファンが見たときに「これは良いね!」って思えるのがこのアイテムボックスだったんです。
――確かに、アイテムボックスならすべてのファンが納得ですよね。
平林氏: その名の通り“アイテム”が詰まってますからね(笑)。
目指したのは究極のごっこ遊び!
平林氏: フィギュアを作るという案を固める際にそれほど苦労はなかったんですが、ポスターやアートブックは本当に大変でしたね。簡単のように思えるんですけど、実際考え出すとどういう形で仕上げるのか? というのがすごく難しいんです。正直、この話が1番お伝えしたいところでして(笑)。
――ポスターとアートブックですが、一般的なものとは一風変わった内容になっていますね。
平林氏: 限定版に付いてくるグッズをお客様にどう感じていただくかと考えたとき、“世界観への造詣を深められる体験”をお届けしたいと思ったんですね。みなさんがプレイした、ゲームの世界観と親和性のあるグッズを作りたかったんです。それこそが名前の通りファンが欲しがる「COLLECTOR'S EDITION」になるんじゃないかと思いました。
――ゲームの世界観を活かしたグッズと。それでポスターが作中の警察署の改築図だったんですね。
平林氏: 普通に販売していそうな設定資料集や、僕らがプロモーションで使っているポスターをただ付けただけでは「COLLECTOR'S EDITION」としてはありきたりじゃないですか。なので、「バイオ2」の世界にあったであろうアイテムの“レプリカ”を作ろうってなったんです。
――レプリカですか。そういうコンセプトがあったんですね。
平林氏: レオンのフィギュアも、「ゲームの中の人物をリアルの世界に持ってくるとこうなります」というアイテムですし、ゲームのメインとなるR.P.D(ラクーン市警察署)の成り立ちっていうのも興味がそそられるポイントだと思いました。R.P.Dの建物がどう作られたのかというのは今までそんなに語られていなかったので、その歴史が垣間見える物にしようと思い、ポスターはR.P.D改築計画全体図になりました。
平林氏: ポスター自体がR.P.Dの改築を発注された建設会社さんの最終プレゼン資料になっているんですよ。最終的な図面はこんな感じですよという感じで建設会社が、市警の担当に見せて納品した物です。“R.P.Dの改修が終わったら、ラクーンという街に平和がもたらすことを祈っています”という建築家の手書きサインも入っているんですけど、その後ラクーンを襲った最悪の惨劇を知っている皆さんだからこそ、いろいろな思いを感じてくれるのではないかと思います。
平林氏: アートブックはアートをただ羅列するだけのものではなく、ゲーム本編にも登場する「ベン・ベルトリッチ」というジャーナリストが集めた資料をアメリカ政府が事件後に押収して、それを基に諜報機関が極秘の調査資料を作ったモノのレプリカになっています。時系列的にはゲーム本編のその後に作られたものですね。劇中では何も語られていませんが、「バイオ2」の世界にあったであろうというモノを具現化させました。
平林氏: このアートブックの編集担当に、アメリカの諜報機関で資料を整理してスクラップファイルを作った人の役になりきってもらいました。そうでなければ真実味を帯びないので。また、気をつけたのは、ベンがどういう風に撮った写真なのかイメージが伝わるものにしなければならいところですね。上から撮るなら脚立や木に登って撮らなければいけないわけですし、撮れる高さの限界などもあります。なので、ベンがどんな感じで撮った写真なのかが見て伝わるという部分にこだわりました。
――ものすごいこだわりですね。
平林氏: 写真の内容も、ベンが捕まる前に行けた場所の写真しか載ってないんですよ。なので、彼の行動範囲はこのくらいで、この辺りで捕まったんじゃないの? みたいなのも考えました(笑)。この本の中で僕のお気に入りは、2階からホールを撮った写真です。普通なら真上から1枚の写真で撮るんですけど、ベンが持っていたカメラが広角レンズじゃなかったから1枚に収められなかったんですよ。だから、スクラップファイルを作った人が、それを繋ぎ合わせてなんとなく1枚の写真にしているんですよ。繋ぎ合わせてもちょっとズレてるのがポイントですね(笑)。
――確かにちょっとズレてる(笑)。リアルですね。
平林氏: 言われなかったら「ホールの写真ねー」でサラッと次のページ行っちゃうような部分なんですけどね(笑)。次のページなんかもゾンビが出てきている場面なんですけど、人影を見た瞬間にシャッターを切ったので、写真がブレブレなんですよね(笑)。
平林氏: アートブック内のテキストも打ち文字ではなく、ゲームの世界の人が書いたというのを再現しようと、とにかくリアリティを追求しました。さすがにアートブックの後ろにある「QRコード」や「カプコンお客様センターへのお問い合わせ」はしょうがないところでしたけどね(笑)。そこら辺はステッカーを貼ったようなデザインにして、僕らが後貼りでQRコードとかのステッカーを貼ったという感じにしました。
平林氏: アートブックの中にサウンドトラックCDも付いているんですけど、これは今作の楽曲の中から厳選したサウンドを収録しています。オリジナルの楽曲をアレンジしたものや、今作で書き起こしたBGMなど。今回の楽曲を作っている内山修作さんは原作の「バイオ2」からのオリジナルのサウンドメンバーなんですよ。原作からのサウンドメンバーが作っている楽曲も多数収録しているので、かなり良いサウンドトラックとなっています。何故アートブックの中に入っているかと言いますと、「調査資料のデータを収めたCD」といったイメージにしているんです。
――世界観を崩さない工夫ですね。こういった作中のコンセプトを基にグッズを作るというのは早い段階で決まってたんですか?
平林氏: はい。限定版を作る最初の段階から決まっていました。中身の方はアートブックが固まるまで時間が掛かりましたね。最初の仮組のときは少し簡素な内容だったんですけど、後半になるとアイディアがいろいろ出てくるんですよ。アレも入れよう、これも入れようって(笑)。どのくらいのクオリティになるのかは編集の方次第なところもあったので、正直、完成するまでどうなるのかわからなかったですね。いろいろな人の力をお借りして最終的には、世界観をより深く知っていただけるアイテムとしてとても良い物に仕上がったと思っております。
――お話を聞けば聞くほど深みが出ますね。
平林氏: ただ、ここまでコンセプトや制作の裏話を話すことがないので、ただただゲーム中の背景が載ってるだけと思われてしまうかもしれないですが、普通のアートブックの何十倍も苦労して作りました(笑)。
――実際のところは、ここまでこだわり抜かれたアートブックは他には無いですからね。
平林氏: キャラクターのイラストなどが載っているアートブックも良いと思うのですが、このお話で興味を持っていただけましたら、ここでしか手に入らないアイテムではありますので、ぜひ「COLLECTOR'S EDITION」を手にとっていただければ幸いです。
――シリーズの中でも「バイオ2」は特に人気の高い作品ですが、そういった作品のグッズを作ることにプレッシャーなどはありましたか?
平林氏: もちろんありました。何を作ればみなさんに喜んでもらえるのかというのはすごく考えました。その結果、僕の切り口が“世界観へのより深い造詣”だったんですね。1つ1つのアイテムにコンセプトレベルから組み上げていきました。みなさんの思い入れが強い作品なので、それに負けないように思い入れを込めて作りました。
――なるほど。こういったアイテムは多分過去にもないのでファンには嬉しいアイテムですね。
平林氏: ありがとうございます。今回の限定版は作るのにすごく気持ちを込めさせていただきましたし、とても良い仕上がりになっていると思います。もう1回このクオリティのものを作れと言われても、(大変すぎて)当分は難しいなと思います(笑)。
――21年の記念だからこそできたクオリティなんですね(笑)。それでは最後に一言メッセージをいただけますでしょうか。
平林氏: 苦労もありましたが、「COLLECTOR'S EDITION」の名にふさわしい出来になっていると思います。是非よろしければお手に取ってい頂ければ幸いです。
――いろいろなお話ありがとうございました。
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