インタビュー
「レリックシールドADC」戦略を生み出した韓国「LoL」プロチーム「Afreeca Freecs」所属のMaRin選手、iloveoov監督インタビュー
2017年11月15日 07:00
先月の韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦取材の折、「League of Legends(以下、LoL)」のプロゲーミングチームAfreeca Freecsの練習室にお邪魔する機会に恵まれた。このチームは韓国プロリーグ「LoL Champions Korea(LCK)」に参加しており、今シーズンは5位で惜しくも世界大会「World Chanpionship(WCS)」出場を逃したものの、かの強豪SK Telecom T1(以下、SKT)相手には対戦成績で上回るなど、相当な地力を持つチームであることは間違いない。
今回はチームを運営するアフリカTVの企画で通訳としてお伺いしたのだが、練習の合間に少しだけ取材の時間をいただくことができた。かつてSKTに所属していたこともあり、日本の「LoL」コミュニティでも抜群の知名度と人気を誇るMaRin選手と、「StarCraft」プロゲーマー出身であるiloveoov監督のインタビューを行なってきたので、さっそくお届けしたい。
MaRin選手インタビュー
「LoL」のプロゲーマーになって
――ではまず、プロゲーマーになったきっかけから聞かせてもらえますか。
MaRin選手:22歳のとき、周りの人たちに「上手いからプロとしてデビューしたらどうか」と言われたのがきっかけですね。僕は軍隊に行ってきたあとにプロゲーマーになったので、ほかの人に比べて遅いんです。10代のころは「StarCraft」が有名だったんですけど、僕はプレイしていなくて。「Warcraft 3: Reign of Chaos」というゲームを長いことやっていたんですが、同じジャンルの「LoL」が出たのでそちらでプロになりました。
――ご両親の反対はなかったんですか。
MaRin選手:反対はなかったです。僕がすごくやりたかった職業だし、自信もあったので。もともと両親は、僕の人生についてそれほど大きく干渉しないんですよ。「お前の人生なんだから自分のやりたいようにやれ」っていう感じで尊重してくれるんです。
――韓国のSKTから中国のLGD Gamingに移籍しましたが、今年から再びAfreeca Freecsという韓国チームに入った理由は何だったんでしょうか。
MaRin選手:当時、僕を一番望んでくれたチームがAfreeca Freecsだったからです。ヨーロッパやアメリカからもオファーは来ていたんですが、中国での経験から言語を学ぶのも簡単ではないしゲームだけに集中できない環境になるとわかったので、韓国のチームに入りたかったんです。
――中国での生活はやっぱり大変だったんですね。
MaRin選手:中国での生活も悪くはなかったですよ。文化的な面でも新鮮だったし、楽しかったです。ただやっぱり、言語を学ばなければいけないというのが大きくて。ゲームに集中するには、意思の疎通に問題のない韓国が一番ですね。
チームメイトのこと、試合のこと
――では、Afreeca Freecsのチームメイトはいかがですか。MaRin選手がお兄さん的存在なのかなと想像していたのですが、何だか仲の良い友達同士のような感じに見えました。
MaRin選手:そうですね、できるだけ仲良くしようと思っています。韓国選手同士なので、不満があったら互いに話し合って解決することができるのが良いですね。
――練習室も部屋もKuro選手と一緒ですが、一番仲が良いのでしょうか。
MaRin選手:もともとはリビングで全員集まって練習していたんですけど、最近は練習生とチームを混ぜて練習をするようになって、今はKuroと2人の部屋で練習するようになりました。でも、みんなそれぞれ仲良しですよ。最初こそ言うことをきかない選手もいましたけどね……。誰かは秘密です(笑)。
――気になりますが、その選手の名誉のためにも追及しないでおきますね(笑)。さて、ここで少しゲームの話をしたいと思いますが、最近のメタ(編注:インタビュー実施時期はシーズン7終了直前)においてTOPとしての役割は何が重要だと考えていますか。
MaRin選手:ディーラー陣がダメージを出せる環境を作り出すことが重要だと思います。どんなチャンピオンでもADCやMIDよりダメージを出すのは難しいですから、TOPは手助けする側に回ったほうがチームの役に立てる気がします。スプリットプッシュがメインの時代も確かにありましたが、今でもそれはやろうと思ったらできますし、僕は状況に合わせてプレイしていこうと考えていますね。
――ではプレイするときに心掛けていることや、メンタル管理で気をつけていることがあれば教えてください。
MaRin選手:試合でも練習のときのように落ち着くことですね。テンションが上がりすぎてしまうと、自分のプレイができないんですよ。なので、落ち着いて舞い上がりすぎないように、っていうのを僕は気をつけています。落ち着きを失うと、最適な選択が見えなくなってしまうんですよね。
――なるほど。試合の話が出ましたが、今シーズンは残念ながら5位という結果に終わりました。それについては、どう受け止めていますか。
MaRin選手:勝てる試合が多かったのに負けてしまったのが、一番残念ですね。集中力が足りていなかったのかなと思います。勝ったも同然というようなゲームを、ひとつふたつのミスによって何度も落としてしまったので。目標は優勝でしたから、よりいっそう残念な気持ちが強いんだと思います。
MaRin選手が日本で感動した出来事とは?
――ここからは、少し日本について聞かせてください。日本によく旅行に行くとのことですが、日本の印象はいかがですか。
MaRin選手:日本へ旅行に行くと、僕は英語が上手いわけでも日本語ができるわけでもないので、地下鉄の切符を買うときとかどうしても時間がかかってしまうんですよ。そうすると親切に買い方を教えてくれたりとかしたので、そういうのがすごく良い印象ですね。
――知っている日本語はありますか。
MaRin選手:基本的な挨拶だけですね。「ハジメマシテ。ワタシハMaRinデス」ぐらい(笑)。
――おお、すごい!では、日本での何か面白いエピソードなどがあれば聞かせてください。
MaRin選手:ユニバーサルスタジオに遊びに行ったとき、財布を無くしてしまって。7万円ぐらい現金が入っていたんですけど、それを誰かが拾ってくれていたんです。施設内の遺失物センターに届いていて、現金がなくなったりせずそのままだったので、日本の市民意識の高さに感動しました。
――ここで日本の「LoL」の話もしたいと思うんですが、プロリーグ「LJL」のことはご存知ですか。
MaRin選手:試合を見たことはないですが、韓国人選手が何人か行っていたのは知っています。実は、日本でも活動していたDayDream選手と交流があって。人懐っこい性格で「兄貴って呼んでもいいですか」とか言ってきて、仲良くなったんです。
――日本の「LoL」コミュニティは韓国に比べると小規模ですが、日本にもMaRin選手のファンがたくさんいます。是非、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
MaRin選手:おそらく、2015年に僕のファンになってくれた方が多いと思います。2016年と2017年は若干不振でしたが、それでも応援し続けてくださって感謝しています。その応援に応えるために頑張っていますので、これからも見守っていただければ嬉しいです。
――では最後に、今後の目標を聞かせてください。
MaRin選手:僕はちょっと年齢が上なので、できるだけ長くプロゲーマーを続けたいっていうのが目標ですね。それと、もう一度「WCS」に出て優勝したいです。今年の夏は上手くいかなくて自信を無くしていたんですが、最近また実力が戻ってきたので「30代プロゲーマー」もいけるんじゃないかなと思います!
iloveoov監督インタビュー
今シーズンを振り返って
――今年からAfreeca Freecsの「LoL」チームの監督に就任されましたが、監督から見てAfreeca Freecsはどんなチームですか。
iloveoov監督:うちのチームは「WCS」に出場したような強豪チームとも良い勝負を繰り広げていたんですが、残念なことに起伏が激しいという弱点がありまして。ある意味魅力的ではあるんですが、もしドラマチックな展開で「WCS」に出場できていたら……とは思いますね。ダイナミックなチームではあるので、ファンは多いです。紆余曲折もありつつ、魅力にあふれた2017年だったのではないでしょうか。
――アーデントセンサーの完成を早めるためにSupportにゴールドを集める「レリックシールドADC」の戦略を最初にやったのがAfreeca Freecsだそうですが、そういった革新的な戦術を生むことができた理由はありますか。
iloveoov監督:選手たちは既存のメタ通りの練習を好む傾向があって、スクリムで奇策を出してくると「練習の邪魔になる」と責めたりするんですよ。そこで僕は、「新しい戦略を見つけることは格好良い」というイメージを持たせるように工夫したんです。頭が良くて特別な人にしかできないことだ、と。そうして選手たちを諭して出てきた数々のアイデアによって、大会でもそういった戦術を見せることができました。ただ、成績には結びつかなかったんですけどね(苦笑)。
――今シーズンは残念ながら5位という結果でしたよね。振り返ってみていかがですか。
iloveoov監督:個人的には今年から「LoL」の監督になったので、とりあえず1シーズン経験してプロシーンを把握する時間が必要でした。僕がこれまでやってきた「StarCraft」との違いは、「LoL」はグローバルで移籍市場が活発なので、少しでも練習が辛いと選手たちは海外行きを考えますし、厳しい練習はしない雰囲気なんです。野球やサッカーなどのスポーツでも豊富な練習量が王道のはずなんですけど、優勝した日にも宿舎に戻ってすぐ練習をするというFaker選手のような選手はなかなかいないんですよ。それが少し残念ですね。
――ですが、そのFaker選手の所属しているSKT相手には対戦成績で上回っていますよね。
iloveoov監督:我々は彼らに勝てる実力を持っているんですが、先ほど話したとおり起伏が激しいので下位チームに負けることもあって。選手たちのテンションが上がりすぎて、勝てる試合を落としたことも何度もありました。誰か1人のせいではなく、5人全員がミスを代わりばんこにしていましたからね。ただし、下位チームに負けた理由は「油断」だと思っています。これはうちのチームの今後の課題ですね。
「StarCraft」の話と韓国e-Sportsの強さの正体
――ところで私からするとiloveoov監督は往年の「StarCraft」時代のスター選手というイメージが強いのですが、当時のことを改めて振り返るとどんな感じですか。
iloveoov監督:とても短くて走馬灯のようですね。自分はどうやって優勝できたんだろうか、という感じです。でも僕にとっては過ぎ去った過去ですから。優勝トロフィーもほとんど捨ててしまいました。「昔の自分はすごかった」というのは、今が上手くいっていないことの証明だとも考えられるわけです。僕は昔から「過去が自分の足を引っ張る」と考えていて、優勝するたびにそれを忘れる努力をしましたし、選手たちにもそうアドバイスしています。
――それもまたすごい話ですね。ご自身の感覚としては、優勝から得られるものはなかったんですか。
iloveoov監督:大きなステージに立って大勢の人の前で戦った、という経験値だけですね。いつまでも虚栄心を捨てられないと、自分に降りかかってくるんですよ。選手って、実力が落ちても「俺は何度も優勝してきたから」と言って自分の都合の良いように解釈しようとするんです。ハングリー精神を保つためには、満腹になってはいけないんですよ。
――なるほど。ではその現役時代の経験が、監督の仕事をするうえで役に立っていることって何かありますか。
iloveoov監督:選手たちが僕のことを認めてくれるので、仕事がしやすいというのはありますね。僕が何のキャリアもない人間だったら、言うことを聞かないんじゃないかなって。実際に選手出身ではない指導者の方が、そういった苦労をされているという話も聞きます。僕の場合、現役時代の経験を例に出せば、選手たちを説得しやすいんですよね。
――昔から「StarCraft」も「LoL」も韓国が強さを維持していますが、ズバリ韓国e-Sportsの強さの秘訣って何なんでしょう。
iloveoov監督:韓国の社会的な構造のせいだと思います。海外を見ると人生の楽しみがたくさんありますが、韓国は大学を出て企業に就職しなければ人生終わりなんです。そこへ徴兵制度までありますからね。プロゲーマーたちは20代のうちに結果を残さなければならず、まさに「背水の陣」ですよ。悲しいことに、この社会的雰囲気が選手たちを強くしているんです。韓国の選手たちは強いですが、皆さんが思っているほど幸せではないと思います。
目指すは「WCS」優勝、日本のファンにも感謝
――そういえば、以前日本に来られたこともありましたよね。日本の印象はいかがでしたか。
iloveoov監督:新婚旅行で、東京や京都を回りました。ディズニーランドにも行ったんですけど、レジャー施設なのにミュージカルのようなショーをやっていて驚いた記憶があります。日本というとアニメのイメージが強かったんですが、演劇や公演なども発展しているんだなと思いましたね。
――SKT(編注:「StarCraft」部門)時代に、ワークショップで神戸や大阪に行かれたこともありましたよね。
iloveoov監督:ああ、ありましたね!懐かしい。僕にとっての日本の印象といえば、景観まちづくりが素晴らしいことですね。歩道に花壇があって道路もきれいに整備されていているなあ、と。それから建物内の看板も大きさや形が統一されていて美しく、どんな店が入っているのかわかりやすくて先進国だなあと感じました。韓国も最近は良くなってきていますけどね。
――では最後に、日本のAfreeca Freecsファンへ向けてメッセージをお願いします。
iloveoov監督:インタビューを通じて日本の皆さんにご挨拶ができて嬉しいです。Afreeca Freecsを応援してくださってありがとうございます。来年は必ず「WCS」に行って、もっと多くの日本の皆さんに知ってもらえるチームになれるよう頑張ります。目標は、「WCS」優勝です!
――本日はありがとうございました。