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韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート

初参戦チームGC BUSANと大人気チームRunAwayの最終戦までもつれこむ熱き戦い

10月21日開催

会場:韓国高陽市KINTEX第2展示場9Aホール

韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 会場入り口に掲げられた大きな垂れ幕
会場入り口に掲げられた大きな垂れ幕

 韓国e-Sports界で、久しぶりに「ロイヤルローダー(Royal Roader)」という言葉が飛び交った。これはかつて「StarCraft: Brood War」のプロリーグが全盛期だったころに生まれた言葉で、「大会初出場の選手またはチームが優勝すること」を指す。

 今回この言葉の主人公となったのは、初参戦チームの「GC BUSAN」だ。いわば歴史的な瞬間であったわけだが、韓国の「Overwatch」大会を初めて現地観戦した筆者にとっては興味深いことがほかにもたくさんあったので、今回はそういった会場レポートを中心にお届けしたい。

そもそも「APEX」とはどんな大会なのか

 「APEX」とは、Blizzard Entertainmentが開催し、ケーブルTVチャンネルOGNが運営する韓国の「Overwatch」公式リーグである。昨年10月にシーズン1が開幕し、今回シーズン4を迎えた。全16チームが優勝を争うリーグ形式で、2部リーグ「APEX Challengers」との入れ替え戦も実施されている。普段はソウル市内にあるOGNのe-Sports専用スタジアムで開催されており、5,000ウォン(約500円)でチケットが販売されている。

 決勝戦は10月21日に、ソウル市の北側に隣接している高陽市にあるKINTEXという展示場で開催された。チケットはS席が15,000ウォン(約1,500円)、A席が10,000ウォン(約1,000円)と普段より割高であったにもかかわらず、3,000枚準備されたチケットが発売開始からわずか5分で完売したというのだから驚きだ。韓国における「Overwatch」のe-Sports人気を物語っていると言えるのではないだろうか。

韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート APEX決勝戦は毎回数千人の観客が会場に詰め掛けている
APEX決勝戦は毎回数千人の観客が会場に詰め掛けている
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート ステージ中央に置かれた優勝トロフィー(写真提供:OGN)
ステージ中央に置かれた優勝トロフィー(写真提供:OGN)

会場の外のイベントおよび会場内の様子

 試合開始時間は18時となっていたが、13時から17時まで会場の外ではさまざまなイベントが開催されていた。残念ながら筆者はこの情報をきちんと入手できていなかったため、あまりゆっくり見ることができなかったのだが、写真を提供していただいたので簡単に紹介しておこう。

韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート コスプレーヤーアイドル「Spiral Cats」が登場(写真提供:OGN)
コスプレーヤーアイドル「Spiral Cats」が登場(写真提供:OGN)
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 両チームのポスター配布場所(写真提供:OGN)
両チームのポスター配布場所(写真提供:OGN)
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート Blizzard公式グッズ販売(写真提供:OGN)
Blizzard公式グッズ販売(写真提供:OGN)
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 手書きの応援ボードを作成するためのイベントブース
手書きの応援ボードを作成するためのイベントブース

 イベントブースのなかで試合直前までにぎわっていたのが、応援ボード作成スペースだ。大会運営側が用意した専用の厚紙に手書きで応援メッセージを書くもので、韓国のe-Sports大会では当たり前の文化となっている。腕に自信のある人は、イラストを描くことも多い。試合が始まるとそれらを選手に向けて掲げるのだが、運が良ければ放送カメラに映してもらえる場合もある。

 それ以外の応援道具で目立ったのが、ビームプレートや厚紙に印刷された応援ボードだ。どれも韓国のe-Sports大会ではよく見かけるものではあるが、e-Sportsとしての歴史はわずか1年ほどしか経っていない「Overwatch」においても、それらの応援文化がしっかり定着しているのはさすが韓国としか言いようがない。さらにネット販売されているRunAwayのユニフォームを着ているファンも大勢いた。観客は圧倒的に若者が多かったものの、男女比は半々といったところでバランスが非常に良かったのも印象的だ。

韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 熱烈なRunAwayファンが持っているビームプレート
熱烈なRunAwayファンが持っているビームプレート
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 釜山方言で書かれたGC BUSANへの応援メッセージ
釜山方言で書かれたGC BUSANへの応援メッセージ
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 韓国のさまざまなe-Sports大会でスポンサーとなっているHOT6
韓国のさまざまなe-Sports大会でスポンサーとなっているHOT6
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 会場後方に展示されていた巨大なファラのフィギュア
会場後方に展示されていた巨大なファラのフィギュア

 入り口ではスポンサーとなっているエナジードリンク「HOT6」が配られ、巨大なファラのフィギュアがお出迎えしてくれる。その向こうに観客席が広がっており、さらにその奥がステージだ。向かって左側がGC BUSAN、右側がRunAwayの競技ブースとなっている。

 もちろん観客席も左側がGC BUSAN、右側がRunAwayの応援席となるわけだが、実際には圧倒的にRunAwayのファンが多く観客の7割ほどを占めていた。残り3割ほどのCG BUSANファンが左側の観客席前方を埋めるような恰好だったわけだが、新規チームなので致し方ないと言える。ゲーム画面を映し出すスクリーンは競技ブース上部とステージ中央の計3か所に設置され、真ん中には花道がせり出している構造だ。

 後方の左側には韓国語中継席、右側には英語中継席が設置されていた。会場には当然のことながら韓国語中継陣の音声が流されており、ベテラン女性キャスターのチョンソリム氏が会場を盛り上げる。さらに「StarCraft: Brood War」プロゲーマー出身で分かりやすい解説に定評のあるキムジョンミン氏、そしてストリーマー出身ながら解説者としての地位を確立したファンギュヒョン氏が試合の細かい点まで丁寧に説明していく。

 配信では英語中継も行なわれ、こちらは韓国語が堪能なWolf氏とほかのゲームタイトルでも活躍中のAchilios氏が担当。試合後半には2人とも立ち上がって配信するほど熱が入っていたようだ。

韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 韓国語中継陣。左からファンギュヒョン氏、チョンソリム氏、キムジョンミン氏
韓国語中継陣。左からファンギュヒョン氏、チョンソリム氏、キムジョンミン氏
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 英語中継陣。Wolf氏、Achilios氏
英語中継陣。Wolf氏、Achilios氏

試合は最終戦までもつれ込む接戦に!

韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート

 8月に開幕した「APEX」シーズン4。約2カ月に渡って行なわれてきたリーグの決勝戦は、シーズン2で準優勝の経験もある大人気チームRunAwayと、初参戦ながら昨シーズン優勝のLunatic-Haiと準優勝のC9 KONGDOOに勝利した驚異の新規チームGC BUSANの対戦となった。両チームはベスト8で一度対戦しており、そのときは3-2でRunAwayが勝利している。今回もRunAwayが貫禄を見せつけて勝利するのか、それともGC BUSANがリベンジを果たすのか、注目が集まった。

 「Nepal」で行なわれた1戦目、ラウンドのたびにGC BUSANが先に拠点を押さえる展開に。Profit選手のトレーサーやGesture選手のウィンストンが活躍を見せ、一気に80~90%以上占有するなど有利に試合を運び、GC BUSANの勝利となった。

 しかし2戦目の「Hollywood」では、早めに拠点Aを制圧しペイロードを目的地に進めることに成功したRunAwayが有利にゲームを展開した。防衛側になっても、RunAwayのディフェンスが上手い。最終的にラウンドを制したRunAwayは、続く3戦目の「Hanamura」でもA地点B地点ともに素早く占拠する強さを発揮。相手の占拠の阻止にも成功し、スコアを2-1としてリードを広げた。

 ピンチに追い込まれたGC BUSANが4戦目の戦場に選んだのは、ここまで1度も戦ったことのない「Watchpoint: Gibraltar」。準備してきたとみられるProfit選手のゲンジが防衛側でも攻撃側でも活躍を見せて勝利し、GC BUSANが2-2に持ち込むことに成功した。

 RunAwayが得意とする「Temple of Anubis」を選んだ5戦目は、両チームともにA地点に素早く到達する接戦となったが、最終的に粘り強さを発揮してB地点のディフェンスに努めたGC BUSANが勝利し3勝目をマーク。スコア上のリードを奪い、優勝まであと1勝に迫った。

 とはいえ、ここで引き下がるわけにいかないRunAway。「Dorado」で行なわれた6戦目では、Haksal選手のゲンジの活躍などでGC BUSANの攻撃をなんとか抑え込む。攻撃側になってからもHaksal選手のゲンジとStitch選手のトレーサーの活躍が光り、ペイロードを目的地点まで運び、勝利。勝負は最終戦に持ち込まれた。

 7戦目のマップは「Eichenwalde」。両者一歩も譲らない接戦となったが、最終的にGC BUSANが粘り強いディフェンスで相手を撃退!4-3でGC BUSANの優勝となった。

 なお、当日の試合はTwitchにて配信されていたため(英語韓国語)、試合を動画で確認することも可能だ。熱戦の模様を是非その目で確かめて欲しい。

韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート (キャプチャ提供:OGN)
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート (キャプチャ提供:OGN)
(キャプチャ提供:OGN)
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート

表彰式とインタビュー、そして日本のファンに向けて

韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 左上からHocury監督、Gesture選手、ARIEL選手、Choanggunコーチ。左下からHooreg選手、Profit選手、HaGoPeun選手、Closer選手、WOOHYAL選手
左上からHocury監督、Gesture選手、ARIEL選手、Choanggunコーチ。左下からHooreg選手、Profit選手、HaGoPeun選手、Closer選手、WOOHYAL選手

 試合終了後に表彰式が行なわれ、まずは準優勝となったRunAwayに賞金4,000万ウォン(約400万円)が授与された。会場からは、ファンの間で事前に決めてあったのであろう「RunAwayお疲れさま!」という声援が届けられた。この声援に、思わずHaksal選手が涙を見せる一幕も。会場は、悔し涙を流しながら選手たちを見つめるRunAwayの女性ファンであふれかえっていた。

 そして優勝したGC BUSANには、賞金1億ウォン(約1,000万円)と優勝トロフィーが贈られた。さらにMVPにはProfit選手が選ばれ、賞金200万ウォン(約20万円)が別途授与された。ステージ上で実施されたインタビューでProfit選手は、自身のゲンジのプレイに対し「95点」と評価。5点マイナスした理由は「龍撃剣を上手く使えなかったから」だとか。

 また、HaGoPeun選手は大会のたびに本拠地の釜山からソウルまで飛行機で楽に移動できた点について、「スポンサーであるAir Busanのおかげだ」と語っている。最後にHooreg選手がメンバーに向けて、Gesture選手がファンに向けて感謝の言葉を述べ、大会は幕を閉じた。

韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 残念ながら2度目の準優勝という結果に終わったRunAwayの選手たち
残念ながら2度目の準優勝という結果に終わったRunAwayの選手たち
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 見事優勝を果たし「ロイヤルローダー」となったGC BUSANの選手たち
見事優勝を果たし「ロイヤルローダー」となったGC BUSANの選手たち
韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート プレスルームでは各メディアの記者が集まってリアルタイムで記事をアップしている
プレスルームでは各メディアの記者が集まってリアルタイムで記事をアップしている

 その後、選手たちはプレスルームへ移動し、メディア向けのインタビューが別途行なわれた。韓国のe-Sports大会ではおなじみの形式で、各メディアの記者たちが挙手をして質問をしていき、選手たちがそれに回答していく。「Closer選手がTemple of Anubisにおいて守備陣営で最後の危ないシーンでデッドせずに耐えたのが素晴らしかったが、どのような状況だったのか」など、ステージ上ではなかったようなゲーム内の細かい点についても質問が及んだ。これに対しCloser選手は、「普段から乱戦の練習をよくしていて、ああいった場面で誰が中に入っていき、誰が出て行かなければならないのかをきちんと把握していたため耐えることができた」と説明している。

韓国「Overwatch」公式リーグ「APEX」決勝戦会場レポート 左からHocury監督、Gesture選手
左からHocury監督、Gesture選手

 ところで筆者が1番注目していたのは、ズバリGesture選手だ。なぜなら、彼はかつてCornという名前でRascal Jesterや7th heavenといった日本のチームに所属し、「League of Legends」の日本リーグ「LJL」に出場していた選手だからである。さらに彼とともに日本で生活していたHocuryコーチも、GC BUSANの監督として活動している。今回特別に、彼らから日本のファンに向けてメッセージをもらったので紹介したい。

Gesture選手

 「LoL」の選手として日本で活動したあと帰国して「Overwatch」に興味を持ち、上手くやれる自信もあったので転向しました。日本で応援してくれていたファンの皆さんのことももちろん覚えているので、「Overwatch」の選手になってしまって申し訳ない気持ちもあります。それでもこのように優勝するところをお見せすることができて、嬉しいです。

Hocury監督

 僕の場合、e-Sportsの仕事を本格的に始めたのがLJLでした。もちろん日本のファンの皆さんにも感謝していますが、日本でコーチとして学んだことが自分にとって役に立っていて非常にありがたい気持ちです。今回「Overwatch」のチームの監督をやることになって、選手たちのやる気を引き出す方法や練習のさせ方など、日本での経験を生かすことができたと思います。

 ちなみにこの大会の翌日、彼らは「APAC Premier 2017」に参加するため中国上海へと旅立った。この大会には中国、韓国、台湾、オーストラリア、アメリカの計12チームが出場。10月29日に行なわれた決勝戦の対戦カードが再びGC BUSAN対RunAwayとなり注目を集めたが、4-1でGC BUSANが優勝している。実力が本物であることを証明した彼らの活躍に、今後も目が離せない。