インタビュー

「ライダー変身!」、新1号と本郷猛はいかに最高のアクションフィギュアとなったか?

「カッコイイなあ……」、時代を超えたあこがれを生む、本郷猛を表現

 続いては、「S.H.Figuarts 本郷猛」を担当したエムアイシーに、彩色原型を前に話を聞いた。エムアイシーのスタッフは、“新たなフィギュア世界を提示する造形! 「S.H.Figuarts ブルース・リー」”でも話を聞いている。

 人物の顔屋表情をリアルに再現できる「デジタル彩色」はいまやS.H.Figuartsの大きなウリとして様々なキャラクターをリアルに再現している。今回は、「S.H.Figuarts 本郷猛」へのこだわりをたっぷり聞いてみた。

「S.H.Figuarts 本郷猛」を担当したエムアイシーの今野裕太氏。デジタル彩色のディレクションを担当
永尾達矢氏。原型製作を担当
木村修氏。原型のディレクションを担当
デジタル彩色で表現された本郷猛。この眼の力の強さがスゴイ

 「スター・ウォーズ」や「マーベル」のキャラクターなど、デジタル彩色はフィギュアの表現として今や欠かせないものとなっている。今野氏はこの技術を開発した当初、これまでと異なる印刷技術によるキャラクター表現である「デジタル彩色」は、生み出したときに手応えを感じたものの、ここまで大きな動きになるとは予想をしていなかったという。ユーザーからの反響の大きさは、クリエイター達の大きな力となったとのことだ。

 デジタル彩色は印刷技術によって造形だけでは生み出せない顔の陰影を映しだし、よりリアルな人物表現を可能にする技術だ。造形以上の顔の奥行きを表現できるので、彫りが深かったり、目鼻立ちがしっかりした人物を再現するのに効果を発揮する。そして商品を重ねていく中で、ただ写真を印刷して再現するのではなく、どうすればリアルになるか、人物やキャラクターに近づけるかというノウハウも重なってきたと今野氏は語った。それは“表情筋”の動きなど、人体の構造そのものにも理解を深めていったという。

 そしてついに、藤岡弘さんが演じる本郷猛という日本人キャラクターを手がけることとなった。顔の造形を担当した永尾氏は子供の頃から本郷猛、仮面ライダー1号が大好きだったという。この強い思い入れがあったからこそ、顔の造形に関して、難しさは感じなかったとのことだ。特に気をつけたのは“眼力”。藤岡さんから伝わってくる目の力の強さを再現すべく注意をしたとのことだ。

 作品によっては資料が限られる場合もあるが、永尾氏は“自分が憧れた本郷猛”を再現するために様々な資料を調べて今回の表情を作りだしたという。「S.H.Figuarts」では複数の頭部パーツがつくことも多いが、「S.H.Figuarts 本郷猛」は“入魂の”1つが付属する。正面に向かって鋭い眼光を投げかけるものとなる。この表情に本郷猛の持つ強いイメージを再現できるように、永尾氏は表情を“吟味”して作っていった。

 藤岡さんはその後のテレビドラマやバラエティー番組などでその強烈な個性を発揮していくが、永尾氏はあくまで「仮面ライダー」での本郷猛を再現すべく造形を行なっていったという。1つの表情、1つのシーンを再現するのではなく、本郷猛というキャラクターにこだわった表情を作りだしたとのことだ。

 しかしそのための資料の吟味は大変だ。様々なシーンで確認できる藤岡さんの骨格、目や眉などの動かし方、彼の仕草、そういった“本郷猛ならではの要素”を多くの資料の中から抽出し、組み上げていく。

 「顔の表情で気をつけたのは、ユーザーが見たときにきちんと『本郷猛だ』と思ってもらえる顔にすることです。人物は再現を細かくするだけでなく、省略したり、誇張することでイメージに近づく方向性もあります。まず最初にちょっと目を大きく作ってそれからバランスを合わせたりしています。デジタル彩色でも、特徴を活かして似せていくという所は似顔絵的な手法が活きてきます」と永尾氏は語った。

 実際のフィギュアを見ると正面をグッとにらむような表情でかなり迫力がある。ぱっと見だとポーズや向きが限定されるのではないか、とも感じたのだが、実際は違うという。変身ポーズはもちろん様々なアクション、そして素立ち、色々な状況に姿勢と首の動きなどで対応することで、様々な本郷猛を再現可能とのことだ。この表情だからこその本郷猛の雰囲気がきちんと出ていると感じさせられた。

 永尾氏は本郷猛について、「最近のライダーの役者さんは若くてイケメンで、スマートなイメージがあります。そういった方に比べると、私の本郷猛の印象は“大人の人”という印象を持っています。それは子供の頃から変わらない。その大人の感じこそ、私のイメージするヒーローそのものの感じで、惹かれます。大人びた感じと、力強さ、というのが本郷猛の魅力だと思っています」と語った。

【S.H.Figuarts 本郷猛】
迫力たっぷりの表情。こちらも力を感じさせるポーズが楽しい
本郷猛ならではのスマートさも持っている

変身ポーズの流麗なライン。動かして、ポーズをつけて楽しむカッコ良さ

 顔と共に強くこだわったのが“肩の可動”だ。ディレクション担当の木村氏は永尾氏と共に肩の設計と調整を重ねたという。肩の可動域の広さをいかに確保するかで、変身ポーズの力の入り具合が大きく違ってくる。強く腕を伸ばし、腰をひねり、しっかりまっすぐな腕のラインを表現する。そのとき肩の部分は胸側に強めに引き寄せられる。この変身ポーズを可能にする関節設計は苦労をしたとのことだ。もちろん変身ポーズだけでなく、アクションフィギュアとして楽しめる関節を考えていく。

1970年代のファッション。ポーズをとらせても服のラインが美しい
背景パーツで変身ポーズにさらなる迫力が
裾部分は軟質パーツなので、足を大きく上げることも
3人の想いがこもった商品となっているという

 その上で関節を確保するための分割は大変だった。本郷猛はスマートでコートを着ており、胸元からは白いスカーフがのぞいている。ズボンは裾の広い1970年代ならではのデザインだ。この本郷猛の服装のラインを崩さず、関節を仕込んでいかなくてはならない。「人として、普通の服を着た人物として自然に見せる、そのシルエットが大前提となります。アクションポーズもそうなのですが、素立ちのカッコ良さを気をつけています」と木村氏は語った。

 永尾氏は本郷猛のみならず70年代ファッションも大好きであり「かっこいいなあ」とつぶやきながら造形していったとのことだ。フィギュアではライダーベルトの下に服のベルトも巻いている。ここもまた永尾氏のこだわりだという。永尾氏は何度も番組を見て服の裏の生地までチェックして原型にその想いを込めたとのことだ。

 ズボンは裾が膨らんでいるが、素立ちはもちろん、アクションポーズでも違和感がない。股関節の可動域も広く、長い足での蹴り上げるポーズなどもきちんと決まる。アクションをさせても違和感のない服のラインやしわというのは、こちらもノウハウの積み重ねから到達できているところだ。動いても自然に見える、服ならではの分割ラインや、人間を表現する上で向いている関節設計なども研究を重ねているという。

 商品開発のタイミング上、「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」と直接連携した設計・開発ではなかったが、真骨彫と並んだ際の人体表現や、バランス、パーツのサイズ感などは意識しているとのこと。足の長さなども調整され、他のライダーフィギュアと並べても違和感が出ないように調整を行なったと永尾氏は語った。

 今回実際に並べてみると、本郷猛はシャープでスリムな雰囲気があり、仮面ライダー新1号はがっしりしている。並べることで変身で大きくイメージが変わるキャラクターを実感できる。今野氏は並んでる本郷猛と新1号のフィギュアを見ながら、「やっぱりカッコイイですね、ヒーローだなあって改めて思いますねえ」と語った。

 木村氏は「当時の本郷猛を再現したフィギュアですが、1ユーザーの視点から見た場合、今の個性溢れる藤岡さんの面影もやっぱりダブってきますよね。もちろん年齢は重ねていらっしゃいますが、芯は変わってない。今の藤岡さんにも通じている何かも感じられるフィギュアになったとも思っています」とコメントした。確かにフィギュアを前にすると、「本郷猛は時代を超えてカッコイイ」というのが実感できる。

 面白いエピソードというか、こだわり、というところではベルトのパーツがあると木村氏は語った。実はベルトの風車を収めているパーツは左側にへこみが生じている。これは何度も原作を見て確認し、再現したこだわりのモールドなのだが、原型チェックや、工場担当者からは原型の設計上で生じた傷のような印象を持たれてしまい、「ここに傷がありますね、修正しますね」といわれ、慌てて「これが設計通りです、ぜひ再現してください」と注意するようなやりとりが数回あったという。原作の細かいところまで再現したからこそ生まれたエピソードだ。

 「S.H.Figuarts 本郷猛」の付属品で注目なのが、クリア素材の背景パーツだ。バンダイ側からの提案で、社内の「仮面ライダー」に詳しいスタッフの発案だという。番組内での変身時ベルトの映像に合成されたエフェクトをイメージしたもので、赤や緑色の原色の波紋が放射状に広がっている。フィギュアの後ろに配置しても、本郷猛と仮面ライダー1号の間に配置しても雰囲気がバッチリで楽しい。遊びの幅を広げるパーツだ。

 「S.H.Figuarts 本郷猛」だけでなく、デジタル彩色で制作されるフィギュアとしては、「S.H.Figuarts モロボシ・ダン」「S.H.Figuarts 一条寺烈」といった日本人をモチーフとした商品が発売される。今野氏は改めて「日本人だから気が付くところがある」という。

 これまでは欧米の人物が中心だったが、日本人をモチーフにすることでより細かな特徴に気が付き、印刷や造形に反映できたという。作業としても作りやすく、似せやすかったとのことだ。永尾氏は「目の形をどうすれば良いか、というときに社内を見回すと似た特徴を持った人がいたりする。そういう意味で参考にできる素材が多いです」と語った。

 各商品では服装も違うし、とらせたいポーズも異なる。変身ポーズや印象的なポーズのために表情はもちろん、可動にも調整を加えているとのこと。それぞれのモチーフならではのポーズを楽しんで欲しいと木村氏は語った。

 最後にユーザーへのメッセージとして今野氏は「昔からのファンはもちろん、新しいファンの方にも満足いただける商品になったと思います、ぜひ遊んで色々なポーズをとらせてお楽しみください」。

 永尾氏は「フィギュアに変身ポーズをさせて、高いところにおいて見上げて欲しいですね。カッコ良さがさらに際立ちます」。木村氏は「私は可動とボディラインにこだわったのですが、やはり変身ポーズのカッコ良さを見て欲しいです、よろしくお願いします」とユーザーに語りかけた。

 「大人のヒーロー」という永尾氏の本郷猛像は非常に納得するものがあった。その後もヒーローとして印象深い人物として活躍する藤岡さんだが、「本郷猛」としての彼は、また特別な印象がある。「S.H.Figuarts 本郷猛」は目の前にするとその独特なたたずまいと、迫力がある。

 そして「S.H.Figuarts(真骨彫製法)仮面ライダー新1号」と並べるとまた格別だ。70年代の雰囲気たっぷりでありながら、今見ても素直にカッコ良い。“決定版”といえるこの2商品は、やはり両方手に入れたいと思ってしまう。魅力溢れる商品だ。

【S.H.Figuarts 本郷猛】
やはりこのフィギュアは“眼力”が楽しい。色々なポーズをとらせたくなる