インタビュー
TVドラマ「FFXIV 光のお父さん」ゲームパート監督山本清史氏インタビュー
2017年4月20日 12:21
このドラマを前例に、新しいゲーム内の文化が生まれて欲しい
――今回の「光のお父さん」は、マイディーさんのブログが元になっていますが、彼のカット割りの才能というか、こまめなカット割り、シーン転換は、凄いなあと思うのですが、プロの眼からみていかがですか?
山本氏: マイディーさんは頭にストーリーがあるのですよね。写真を撮るときに、こういう絵を撮ろうというのがあるので、撮り方としては一連で全部を撮っているんですよ。撮りまーすで、バババババっと撮って「終わりましたー」で終わるんです。実際に体験すると。そして何枚撮ったんですかと聞くと、500枚撮りましたと。一瞬で数百枚撮るんです。
――同じようにアクターさんが演技をしているわけですよね?
山本氏: そうですね。笑ってくださーいと言って、みんなが笑っている間にスババババと撮って、あとは僕がやっているのと同じように、近づいたり遠のいたりしながらやってますね。
――奇しくも、山本さんがやっていることと、同じようなことをやっていた?
山本氏: 基本は同じですよ。動画か写真かの違いですよ。
――その同じことをやった人間からして、マイディーさんの凄さって何ですか?
山本氏: 絵の完成が見えているじゃないですか。僕の場合は、ストーリーがちゃんとあって、お芝居があっての完結だから、ある意味瞬間はどうでもいいわけです。途中はどうでもよくて、最初から終わりまで撮れればいい。でも、マイディーさんの場合は途中の絵が大事なので、細かい表情をよく見ているのですよね。瞬きした後の顔がこうなるとか、このエモートをした後のこの一瞬の顔がすごくいいとか。細かいところをよく知ってますよね。だから動画の時の芝居もマイディーさんだけは別格でしたね。
――別格といいますと?
山本氏: 芝居が細かい。瞬きの秒数がこのくらいで、こうすると口が動くということをわかっているから、何も言う必要がないのです。ベテラン俳優というか、巨匠を相手にしているような感じです(笑)。勝手に練習して、勝手に撮れるから、マイディーさんは楽でしたね。
――アクターとしても超一流ですか。
山本氏: 何も言うことがないですね。こうしましょうと言ったら、その通りのものがでますから。パターンは無数にあるので。だから本当にプロの役者かよと思いましたね。
――発表会でもいろいろこだわっていた様子でしたね。
山本氏: こうしてイメージを伝えると、色々なエモートを考えて、これかな、これはどうですかというのがいっぱい出てくるので、それはそれで面白かったですね。本当に生身の人間を相手にしているような感じでしたね。じょびのメンバーでもそうではない人もたくさんいますから。
――普通の人というか?
山本氏: そうですね。エモートまでは研究してないというか。でも普通そうですよね。
――制作発表会でユニークだったのは、エオルゼアでも発表会が行なわれたことですが、あれは誰がやろうと言い出したんですか?
山本氏: あれは、もとはだれが言い出したんだろう? 僕は聞いて、それは面白いからやりましょうと言った記憶はあるんですけどね。
渋谷氏:あれは、吉田さんだったと思います。マイディーさんと僕が初めて会ったときにその話が出ましたね。
山本氏: 立ち消えになりそうで、また復活したり。そういううやむやな状態で当日を迎えて、実際やったっていうのが面白かったです。
――すごくシュールな絵でしたね。アクターの皆さんとは、例えば「ではオフでみんなで会おうよ」という話にはならないんですか?
山本氏: 今のところはならないですね。
――やはり全国に散ってるからですかね?
山本氏: じょびのメンバーでは会っている人もいるらしいですよ。マイディーさんは会わないですけど。東京にいる人間だけで会ったりはしているという話は聞きました。
――マイディーさんっていわば有名人じゃないですか。でもまだ1回も出てきたことないですよね。
山本氏: じょびのメンバーの前ではないですね。
――彼はそういうポリシーなんですか?
山本氏: それは、かたくなに守ってますね。
――ずっとミコッテのあのキャラクターを通すのでしょうか。
山本氏: 別に出るのが嫌っていう訳じゃないと思いますが、そういうポリシーをずっと持っていますね。僕は最初それを聞いた時に、昔CGのアイドルっていたじゃないですか。伊達京子、今でいうと初音ミクのような。あんな感じなのかなと思って。そういう感じでアイドル化したらいいですねという話はしたんですけど(笑)。
――話は変わりますが、これからマイディーさんのブログで始まるらしい「光のでぃさん」はどういうものになるのですか?
山本氏: 「光のでぃさん」、僕も謎なのです。
――“でぃさん”は、山本さんですか?
山本氏: 僕です。
――つまり、山本さんを主人公にしたブログ記事が始まっていく?
山本氏: DVDにオーディオコメンタリーが入っているじゃないですか。ああいうイメージで僕とマイディーさんの対談をやりましょう、という話が来ているのです。放送があって、それを振り返りながら、こここうだったよね、ああだったよねと。
――あのTwitterアイコンで使用されている女性キャラクターで登場するのですか?
山本氏: そうです。もう衣装合わせはしたので、衣装は決まっています。まだ撮ってはいないですが。
――どういう内容になるか、まだ決まっていないのですか?
山本氏: たぶんマイディーさんにしか見えていないと思います。対談みたいなことをするか、どうしますって話はしています。僕は対談みたいにしたら、長くなると思っているから、分けるのか、1回サンプルを書いて検証しましょうという流れで止まっています。基本スタイルは同じです。スクリーンショットがあって、青文字と赤文字でセリフを分けながら書いていって、シーンを振り返って、こうだったね、ああだったねと。当時僕が頑張っているときのスクリーンショットをたくさん撮っているらしいのですよ。それを多分使うのかなと思いながら。
――それドラマを見て面白いなと思った人にとっては、最高のエンターテイメントになるかもしれないですね。
山本氏: そうですね。ある種、円盤を買う前にコメンタリーが見えちゃうという感じで
――いつ掲載になるのですか?
山本氏: Netflix公開後にはあげたいと言ってましたから、4月20日にはあげるのかな?
――もうすぐですね。
山本氏: だからそろそろマイディーさん的には動きがあるのではないかと思います。
――その収録は当然エオルゼアの中で行なうわけですか?
山本氏: そうです。家か、どこかにいくんじゃないでしょうか。ロケ地の振り返りをするかもしれないし。ロケ地の振り帰りはそもそもやろうと思っているのですけどね。聖地巡礼的なことをしたがるユーザーもいるみたいなので。
――今後ドラマのロケ地はここだ! みたいなことをやるのですか?
山本氏: 公式のツイッター担当とも、やろうかという話をしています。
――講談社さんがツイッターで独自にやられてますね。
山本氏: 講談社の担当さんは、光のお父さんの足跡を辿ろうとして、実際にプレイされながらやっていますね。
――もし今後、続編とか別の展開があるとすれば、やってみたいアイデアはありますか?
山本氏: グループポーズがかなり機能アップしたので、それを使ってみたいですね。レンズも変えられるし、ズームもワイドもできるのですが、撮影中はまだなかったのです。
――かなり違いますか?
山本氏: 違いますね。ワイドにすると、周辺がちょっと歪むぐらいのGoProかよっていう画面になるので、結構、絵が面白くなるのですね。あと、寄っちゃえば背景の遠近感が無くなってくるので、普通のカメラを使ってるイメージで寄れるし、角度を変えられるので、ちょっと斜めに入って印象的なカット作れたりとかも。結構、構図にこだわれるなと思いました。そういうのをやれたら、ドラマとしてはかなり面白くなると思います。
――グループポーズは、ドラマのためにスクエニさんが用意したというわけではなかったのですね。
山本氏: そうなんです。もう少し、動画機能を充実してくれると嬉しいのですが(笑)。
――今回撮影していて、このエモート欲しいなというものはありますか?
山本氏: トレーニング全般が欲しいです。ヒルディポーズありますが、もう少し真面目な筋トレとかほしいですね。そういうシーンがあるのですよ。あって、欲しいなと思ってたんですけどね(笑)。
――なるほど、実際腕立て伏せをやっているNPCはいますが、プレーヤーは腕立て伏せもできないですものね。
山本氏: そうなんですよね。いるんですよね。
――撮影開始からすでに半年ほど経て、ようやくプロジェクトを終えてみて、感想としてはいかがですか?
山本氏: 実は、まだまだ終わらなそうな気がしています。プロデューサー連中にもまだ終わったと思わないでくださいとずっと言っています。まだなにかあると思っておいた方が、絶対にいいですよと。ドラマ自体は放送が始まってしまえば、僕らのプロジェクトは終わるけれど、多分それで終わりじゃないと思っています。実際、講談社からもゲーム内で撮りたいと言ってきていると。やっぱり、これはまだぜんぜん終わらない。
――それは嬉しい悲鳴ということですよね?
山本氏: 全然やりますよ! という感じなのですが、じょびのメンバーたちにとっては負担になるじゃないですか。そのあたりのコンセンサスは必要かな。僕とマイディーさんだけだったら全然構わないのですが。
――監督と出演者って密な関係にならないと、いいものが撮れないというじゃないですか? そういう意味では、マイディーさん始め出演者の皆さんとは、信頼関係ができたと言えますか?
山本氏: できたと思っています(笑)。
――それは例えばどの辺りで感じましたか?
渋谷氏: 彼がプレーヤーなのは明らかなわけですよ。真面目にこのゲームをプレイして、真面目にこのゲームを愛し、撮影に関しても、演者のことも考えてやってくれているのは、多分みんなにちゃんと伝わっています。つまり、役者さんと監督の関係にちゃんとなっているのですよ。
――それは単に、仕事だからやっているわけではなく、本当に好きでこの世界に入っているということですか。
渋谷氏: そういう仲間の感覚もありますし、監督としてのリスペクトも持ってくれています。
山本氏: 僕もゲーマーだからこそわかるんです。仕事でやってんじゃねえぞ感ってあるじゃないですか(笑)。特に「FF」はそういうのがあるので。だから、腹決めてやるしかないなっていう。
渋谷氏: すごく極端な話、監督が使うキャラクターをスクエニに「ください」ということもできたと思います。当初は、じょびの人がレベル上げをしたキャラクターを共有で使うというアイデアもあったのです。そうすると監督はプレイしなくてもできる訳です。レベル50のキャラクターでいきなり、撮影の現場に来ることができるのです。でも、それはしていませんから。
――自分でレベルを上げたのですね。
山本氏: そうしないと、演出できないと思ったんです。実際に。ゲームパートでどう動けるのか、できることとできないことがわからないと、無茶なことを言う可能性もあるじゃないですか。それはヤバイなと思って。
――4月16日からいよいよ放送が開始されますが、視聴者からどういった反応が来ると予想していますか?
山本氏: 拒否反応か絶賛のどちらかだと思っています。結構拒否反応もあるのではないかと思っています。
――どういった拒否反応ですか?
山本氏: やはり異質ですからね。受け入れられない人は絶対にいると思います。
――テレビ画面の中にゲーム映像が映って、そのキャラクターたちがしゃべるということに対してですか?
山本氏: 思っていたのと違うというのは、絶対にあると思うのですよ。
――それは「FFXIV」のユーザーがですか?
山本氏: ユーザーもですね。もちろんアンチの人たちは当然思うでしょうし、声優のファンの方も思うかもしれないですね。炎上する可能性はあると思っています。
――やはりプレーヤーさんが自分の体験と比べると思うのです。
山本氏: ある種フィクションになっているところがあって、例えばレベル1でこの装備はないよとか、細かいところですよね。そういうところを気にする人たちは、ドラマをみて、「これはありえないぞ!」と言うだろうなと思っています。実際、見た目重視でレベル7なのに、14の装備をしているときもありますからね。
――でもそれはある意味、ファンの楽しみの1つじゃないですか。社会的な意味において、このドラマが与えるインパクトはどのようなものになると考えていますか?
山本氏: できれば普通の人に見て欲しいと思っています。僕も「ドラゴンクエストX」をもう3年くらいやっているので、実体験として、ゲーム内の友達が人生相談をしてくるとか、普通にあるわけです。いつもパーティを組んでいた2人が、いつの間にか結婚をする仲になっていて、僕に報告をしてくるとか、そういうことをリアルに体験していると、皆さんが思っているようなゲームとは世界が違ってきているなと。
MMORPGをずっとプレイしている人はわかっているでしょうが、大人になってゲームで遊ばなくなった人は、子どもの時代でゲームに対する理解が止まっていると思うのです。そういう人たちに、今はこうなんだよということを訴えたいという気持ちが、僕の心の中にずっとあるのです。マイディーさんもそうだと思いますが、だからこそ僕らは意気投合して、このゲームのドラマを作れているのだと思います。もし僕がそちら側の人間だったら、こういうドラマは作れなかったと思います。
普通に考えると、オンラインゲームのドラマは、鬱屈した主人公が、「FFXIV」の世界の中でだけ気持ちを発散させているというようなドラマになるはずなのです。でも実際はそうではないわけです。実際は、ゲーム世界の中の方が鬱屈することがあったりして(笑)。そういう悲喜こもごもというか、僕がずっと言っているのは、リアルな生活もあるし、エオルゼアでの生活もある。だからこそ、神様の手は借りてはいけないし、この中でやれることをやらなくてはいけない。というのが、一番大きいです。それを知って欲しいのです。ここには生活があるんだよと。これはただの遊びだけど、でも遊び以上の価値があると。それがわかってもらえるような造りになっていればいいのですが(笑)。でもつまらないものにはなっていないと思うので、見てもられば、今はこんなことができるんだというくらいにはなると思います。
――ゲームパートの監督という立場から見た、ドラマの魅力はどういったところですか?
山本氏: 僕はエオルゼアパートのことしかわからなかったので、実際に仕上がりを見て驚きましたね。千葉君と大杉さんが、真剣にゲームしている感じに見えるわけですよ。それがすごく感動しました。本当は大杉さんなんかは、実際にはこの世界のことはわかっていないと思うんです。それがここまでのめり込んだ感じに見えるというのはいいなと思って。そう見えると、理屈抜きに感動しますね。
――私もいま、あの大杉さんがツインタニアと戦っている映像を見て、衝撃を受けましたね(笑)。
山本氏: そう、ありえないですよね(笑)。記者会見でも言いましたが、こんなにゲームと実写の雰囲気が全然違うのに、気持ちがちゃんと繋がっているのですよ。芝居もちゃんとつながっているし、エオルゼアの方でもつながっているから、同じ方向を向いて作れたというのが大きくて。たかが深夜ドラマでこんなにみんなが本気になるのはそうそうないと思いますし、深夜ではもったいないなというのが正直な気持ちです。
――今回は全7話で、少し短めでしたが、今後、さらに続編を作ってみようという話になる可能性はありますか?
山本氏: マイディーさんと僕はやってみたいねという話はしていますが、渋谷さんは絶対にいらないと。
――それはどうしてですか?
渋谷氏: いい感じに終わってますから。
――蛇足になってしまうと?
渋谷氏: 少し食べたりないくらいがいいんじゃないでしょうか。
山本氏: それは確かにあるかもしれないですね。
――最後にこれからドラマが始まるわけですが、ドラマを楽しみにしている人、「FFXIV」を楽しんでいる人にメッセージをお願いします。
山本氏: 前代未聞のドラマだと思うので、今後こういうことがあるかどうかわからないですが、1つの方向性は示せたと思っています。これからゲームの中でいろいろやるということが、許諾さえあれば可能なんだと。スクエニさんも、今回はテストケースだったと思うのです。例えばこの中でコマーシャルを取るとか、ショートコントを作るみたいなことができるよねと思ったと思うのです。
それはユーザーさんも同様です。実際に、この中でショートムービーを撮った人もいますが、口パクをして、声を当ててというところまで落とし込むのは、なかなかなかったけれどできると。だから、新しいコンテンツが生み出される可能性があるなと思っています。それをこのドラマで、僕らはプロだから、いろいろな機材も使っているし、色々なキャストも使っているからクオリティは全然違うでしょうけれど、誰かが作ったもので違うものを作るという、二次創作のようなことがゲームでも可能なんだと証明できたと思います。これに続く人がいればいいなというのが、僕の正直な気持ちです。
ドラマ自体を楽しんでほしいですし、ゲームはゲームで当然素晴らしいものだし、これからアップデートも来るので、皆さん楽しみだと思いますが、それとは別の楽しみ方というものを、たぶん吉田さんも想像していなかった遊び方だけど、それが提示できたことが何より嬉しいので、そこを共感してもらえたら、何より嬉しいです。それだけです。
――放送開始を楽しみにしています。ありがとうございました。
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(C) 2017 『一撃確殺SS日記』・株式会社スクウェア・エニックス/『ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』製作委員会