★ PS3/Xbox 360ゲームレビュー★
犯罪渦巻くロサンゼルスで真実を追い求めろ
深い時代考証と丹念な心理描写の推理アドベンチャー
「 L.A.ノワール」
ジャンル:
  • クライムスリラー
発売元:
  • ロックスター・ゲームス
開発元:
  • チーム・ボンディ
プラットフォーム:
  • PS3
  • Xbox 360
価格:
7,770円
発売日:
2011年7月7日
プレイ人数:
1人
レーティング:
CERO:Z(18才以上のみ対象)

 「L.A.ノワール」はロックスター・ゲームスの新しい推理アドベンチャーだ。舞台は第2次大戦直後1947年のロサンゼルス。プレーヤーは沖縄戦を体験した刑事コール・フェルプスとして、犯罪に立ち向かう。

 本作に登場する事件の多くは実在の犯罪を元にしている。戦後の混乱した世相、黄金時代のハリウッドの暗い裏側、腐敗と暴力が内部にある警察を描く本作はこれまでのゲーム以上に「社会派」といえる作品である。また、相手の言葉と表情により“嘘”を見抜くという心理戦の独得な緊張感も、推理小説のような大人な雰囲気である。コンピューターゲームの幅を広げる作品としても注目して欲しい。


■ 風景、人々、そして事件全てが描き出す「1947年という時代」

主人公コール・フェルプス。刑事として時代の闇に立ち向かう
「MotionScan」によりキャラクターの表情はこれまでにないリアルさを獲得した
映画風のタイトル。ゲーム本編にもハリウッド黄金期の映画のオマージュが散りばめられているという

 ロックスター・ゲームスは「Grand Theft Auto IV(「GTAIV」)」で現代の、「Red Dead Redemption」で西部開拓時代の米国を描き、それぞれの時代の勢いとその時代に生きている人々を丹念に描写した。個人的にこの時代を切り取る鋭い視点は、もっと社会で評価されてもいいのではないかと思う。そして、「L.A.ノワール」が取り上げるのは1947年のロサンゼルス。本作はさらに踏み込んだ形で当時の米国を描き出している。

 1947年の米国は第2次大戦直後で、多くの兵士が戦争から家庭に帰還したが、日常生活にうまく適応できずトラブルを起こす人も少なくなかった。また、この時期のハリウッドはテレビ放送が始まる前であり、大掛かりなセットと大量のスターを起用した大作映画が次々と作られる「黄金期」と呼ばれる時代を迎えていたが、スキャンダルもまた多かった。

 戦争が終わり自由を求める気持ちと、大きな力を持ちつつある共産主義への恐怖、消えることのない人種への偏見、戦争による男手の不足と女性の地位向上……「L.A.ノワール」はこういったこの時代の空気をきちんと描き出しプレーヤーに体験させる。1947年はロサンゼルスで最も殺人事件が多かった年だという。そんな混乱した時代を本作は法を守る側の視点で描いていく。

 主人公コール・フェルプスは沖縄戦に士官として従軍し、海軍の最高の栄誉である銀星勲章を受勲する。除隊したコールは警官としてロサンゼルスで勤務する。ロスではさまざまな事件が起きる。コールはパトロール課の警官としてキャリアをスタートするが、刑事さえも見落とした証拠を発見するなどの活躍をし異例の出世をとげていく。

 「L.A.ノワール」は本格的な推理アドベンチャーだ。ゲームでは実際の警察と同じように、現場で証拠品を捜し、関係者に聞き込みを行なう。犯人を追跡したり、捕まえるために格闘したり、時には銃撃戦に発展したりする。取調室での尋問や、鑑識による新たな証拠の発見など「刑事もの」の要素があらん限り詰め込まれている。挑戦する事件はさまざまで、保険金殺人や映画監督の陰謀、痴情のもつれ、さらには連続殺人などもある。ゲームを進めていくことで、プレーヤーはコールと共に社会が抱える様々な病巣を見つめていくことになるだろう。

 本作で特に圧巻なのが「人物の表情」である。「MotionScan」と呼ばれる技術を採用し、俳優の顔を32台のカメラであらゆる角度から撮影することで、表情の微細な変化をもキャプチャーしている。この技術により、眉を動かしたり、目に力を入れたり、口を引き締めるなどあらゆる仕草が精密に再現できる。そしてプレーヤーはキャラクターの微妙な表情から彼等が嘘をついているのか、隠し事があるかを探すのだ。この緊張感を持った心理戦の駆け引きは、これまでのゲームではできなかった感触をもたらしている。

 もう1つ驚かされたのが、「アクションシーンのスキップ」だ。本作は派手なアクションもたくさん用意されており、ゲームとしても楽しい。しかしアクションが苦手な人のために、アクションに3回失敗するとそのシーンをスキップできるというギミックが入っている。他にも目的地への移動を相棒にまかせきりにするのも可能で、女性や年配の人など推理物などが大好きだがこういったゲームは経験がない、という人もプレイできるようになっている。この大胆な試みがファン層を広げることができるか、注目したいところだ。

 様々な新要素を取り入れているが、本作の最大の魅力はストーリーである。証拠を探し出し、関係者の嘘を暴き出し、真実を追い求めていく。陰謀を暴き立てる爽快感だけでなく、時にはほろ苦い結末や、社会の歪みに無力さを感じることもある。幸せな家庭を壊そうとする犯罪には怒りがこみ上げる。ゲームを進め様々な事件に直面するうち、プレーヤーの内面にも様々な想いが浮かび、コールにも感情移入していく。ハードボイルドな探偵小説を読んでいるような雰囲気に浸れる作品だ。

 加えて事件の背後に大きな謎が提示されており、そこもプレーヤーを強く惹き付ける。異例といえるコールの出世には何人か警察の上層部の思惑が絡んでいそうだ。そして事件の合間に断片的に描かれるコールの従軍時の記憶。刑事としてのコールは同僚達に軍隊時代の話を振られても何も話そうとしない。沖縄で何があったのか気になるところだ。さらにゲーム中に落ちている新聞記事を読むことで、プレーヤーは物語の更なる深みを垣間見ることもできる。こういった要素が物語にどう関わっていくのか、ゲームをプレイするほどに先が気になり、のめり込んでいくだろう。


左から、パトロール課の相棒ダンと、交通課の相棒ビコウスキー、コールに目をかけるレアリー警部
本作のキャラクターの表情は実に多彩だ。彼等の表情や言葉から真実を見つけ出すのだ
細かく作り込まれたロスの街
新聞を読むと背後の事件が。右はコールの従軍時の記憶


■ 丹念な捜査、相手の心を見透かす尋問が捜査の鍵だ

現場には様々な証拠品がある
鑑定の結果で、証拠品がより重要な意味を持つことも
事件解決時の評価画面

 「L.A.ノワール」のゲームエンジンは「GTAIV」のものを発展させたものだ。キャラクターの操作感、ドライブの感触などは同じだ。「L.A.ノワール」のロサンゼルスは「GTAIV」のリバティーシティよりも細かくリアルで、ドライブしているだけでも楽しい。ついつい無謀な運転をしてしまうが、器物破壊など違反行為はクリア後の評価を下げてしまう。法の執行者としての節度も心がけておきたいところだ。

 ゲームではコールはパトロール課から、交通課、殺人課と部署を変えていく。制服警官としてのパトロール課はチュートリアルに当たり、交通課から「刑事」としての本格的な活動が始まる。刑事としてのゲームの流れから基本的なゲームシステムを紹介していこう。最初はブリーフィングだ。ここから相棒と共に事件現場に向かうことになる。

 現場での「捜査」には観察力が求められる。現場を隅々まで歩いて事件に関係する証拠を集めていく。捜査のヒントとなるのが「音と振動」である。証拠品のあるところに近付くとチャイムが鳴りコントローラーが震える。ここで調べることで証拠品にズームアップする。証拠品はさらに角度を変えるなどでより細かい情報を入手できる。現場では捜査中はBGMが流れているが、有力な物を全て見つけるとBGMが止まる。

 証拠品や得られた情報は手帳に記載される。手帳の情報は「尋問」で役立てる。尋問では手帳に記載された質問をぶつける。相手は質問に対しさまざまなリアクションをする。相手が真実を言っていると思ったら「信用する」でさらに情報を引き出す。確定的な証拠はないが嘘をついている、ごまかしていると感じたら「疑う」で相手にプレッシャーを与える。手に入れた証拠と全く違うことを言っていたら「反証する」で証拠を突き付ける。

 この対象との駆け引きが本作の最大の注目点だ。実際の役者からキャプチャーした表情はリアルで、特に嘘をついているときの表情は露骨とも言える表現で楽しい。落ち着きなく目をそらしたり、無意味に微笑んだり、こちらを探るように睨む。多少強調しすぎなところもあるが、だからこそ楽しい。尋問には“正解”が用意されておりうまく進めることで、事件の解決がスムーズになる。間違った選択肢を選ぶと相手は態度を硬化させ、重要な情報が得られないこともある。

 ゲームのヒントとして「直感」というシステムが用意されている。このシステムは「直感ポイント」を使って使用でき、「全ての手掛かりを表示する」、「返答を1件消す」、「コミュニティーに聞く」という3つの機能がある。「全ての手掛かりを表示する」は捜査で使える機能で、事件現場で全ての手掛かりをミニマップに表示してくれる。

 他の2つは尋問で使用でき、「返答を1件消す」は“信用する”、“疑う”、“反証する”から間違いに繋がる選択肢を1つ消す。「コミュニティーに聞く」はロックスター・ゲームスのSocial Clubのユーザーがどの選択肢を選んだか教えてくれる。直感ポイントは質問を当てたり、手掛かりを見つけたり、事件を解決することで上昇する「捜査レベル」によって得られる。最大5ポイントまでしかストックできないので、積極的に活用していきたい。

 ただ、“正解数”が表示されるとどうしても正解探しに躍起になってしまうが、「L.A.ノワール」ではたとえ質問が全部間違ってしまったとしても事件は進展し、解決するのだ。正解することで意外な背景などが明らかになり、事件に対する理解が深まることはある。しかし逆に、正解してしまったことで犯人が早くにわかってしまい、尋問や事件の関係者を繋ぐもう1本の線が見つけられなくなったりもする。

 「L.A.ノワール」は“繰り返し”を楽しむゲームである。1度クリアした事件は、事件簿のメニューから何度でも挑戦できる。質問を変えてみたり、現場を訪れる順番を変えることでも事件の進展が変わったりする。正解を探すのみが本作の楽しみ方ではない。あえて1度目と違うアプローチをとり“幅”を確かめるというのも、本作の楽しみ方だ。


様々な証拠品を捜す。音と振動がヒントとなる
手帳を見ながら尋問を行なう。初プレイで全問正解は難しいだろう
ゲームを助ける直感。5つまでしかストックできないので出し惜しみせず使いたい
パズル要素や、カーチェイス、追跡など様々なゲーム要素も


■ 昇進し、様々な角度から犯罪に立ち向かえ

 コールはパトロール課から始まり、難事件を解決することで異例の出世を遂げていく。今回は前半部分の特徴と感触を紹介したい。

・パトロール課

 この課はチュートリアルとなる。パトロール課は刑事達の現場検証の後の確認をさせられたり、遭遇した事件の現場保存をさせられたりと、基本的に下働きの仕事だが、コールはそこから刑事が見つけられなかった証拠品を見つけたり、刑事としての才能を発揮していく。

 コールは刑事への出世を望んでおり、この課での活躍が中央署署長であるレアリー警部の目に止まり、戦争の英雄でもあるコールは異例の出世を遂げていくのだ。相棒のダンも最初の事件ではコールのやる気に「そこまでしなくても」という姿勢だったが、コールに引っ張られ独自捜査に協力してくる。

 捜査の基本、証拠品の発見と調査、そして尋問での注意点と「L.A.ノワール」の基礎を学べるところだ。銀行強盗との撃ち合いや、犯人とのチェイスもある。2回目のプレイからはスキップできる部署だが、後の相棒となる刑事との邂逅や、今後の事件の伏線が散りばめられていて、後でプレイすることで様々な発見をすることができるのが楽しい。


パトロール課ではゲームの基礎を学ぶ。コールの熱意により、上層部から注目されることに

・交通課

 交通課というのは車両関係のトラブルを扱うのだが、コールが直面するのは血塗れの自動車や、有名女優が車に乗って崖の上から落ちた、というような奇怪な事件ばかりだ。ここから現場の調査、1癖も2癖もありそうな関係者への聞き込みといった本格的な推理アドベンチャーが始まる。

 交通課での「天国で結ばれた夫婦」という事件の場合、最初の調査ではとても見つけられない場所に1つの証拠品がある。また事件に不信感を持っているバーテンがいるのだが、彼は警察に反感を持っているようでうまく聞き出せないと大事な証言が得られない。この事件の場合、証拠品をあえて後で見つけると事件の結末そのものが大きく変わるのだ。本作の幅を強く感じさせる事件である。

 1つ面白く感じたのが、犯人とのチェイスである。交通課に限らずこの後の事件でも犯人の悪事が露見すると走って逃走する場合が多いのだ。コールもまた走って追いかけるのだが、犯人を追いかけて走るシーンは、日本の刑事ドラマ「太陽にほえろ」を思い出す。中年のオッサンも、変質者も妙に健脚なのはちょっとゲーム的で楽しいところだ。またカーチェイスシーンも多く、こちらでは妙に細い路地を通ったり、突然トラックが飛び出してきたりと演出が楽しい。


交通課からがゲームの本編といえる。事件の裏を探っていく
奇妙な事件、怪しい登場人物、推理アドベンチャーの醍醐味だ
「墜ちた偶像」のクライマックスは巨大な映画セットでの戦いとなる

・殺人課

相棒のギャロウェイ刑事。頭が固いが、独得のユーモアがある

 ここではコールが取り組むのは残忍な事件だ。女性を殺害し頭部を傷つけ、その遺体を全裸で放置する。遺体には女性宛かそれを調べる警察宛か、口紅で侮蔑的なメッセージが書かれている。極めて異常で残忍な犯人だ。

 社会はこの事件に騒然となった。何故ならば半年前、よく似た形での殺人事件が起き、警察は証拠をつかめなかったのだ。この犯人はマスコミから「ブラックダリア」もしくは「ウェアウルフ」と呼ばれた。今回、その悪夢が再び蘇ったのだ。コールは有力な容疑者を捕まえる。しかし、さらによく似た事件が起こるのだ。真犯人は別にいるのか、それとも……これまでの事件は独立していたが、殺人課ではいくつかの事件が濃密に繋がりを見せてくる。

 死体は損壊させられており、さらに犯人が死体の血を使ってメッセージを描くなどかなりエグイ部分もある。事件への興味以上に、女性を狙い家庭を壊す犯罪の卑劣さに、犯人に強い怒りを覚える。感情的にも盛り上がるシナリオ構成がうまいと感じた。殺人課の事件はここだけでも独立したコンテンツとして通用しそうな内容だ。

 殺人課では特に相棒のギャロウェイ刑事が楽しい。高慢でふてぶてしく最初は“嫌な奴”だ。「女の殺人の犯人は夫か彼氏」という固定観念があり、被疑者に対しても上から目線。ところが、ベテランならではのプライドと犯罪への怒り、正直すぎるその態度にいつしか好感を覚えてくる。捜査を重ねることでコールとお互いがうち解けてくる。ドラマの「相棒もの」の様に絆を深めていく過程が楽しい。


事件はより陰惨なものに。時代背景も濃密になってくる
決定的な証拠で犯人を捕らえても、類似の事件が続く
常軌を逸した犯人の挑戦状。真実は何処に!?


■ たっぷりのやり込み要素。1947年のロスに浸り切れ

フリーパトロールのマップ画面。路上犯罪の他、名所や隠し車両も確認できる

 「L.A.ノワール」は本編以外にもやり込み要素もたっぷり詰め込まれている。捜査中通信が入ることで挑戦できる「路上犯罪」はアクション性の強い小さなミッションだ。路上強盗との銃撃戦や激しいカーチェイスなどもあり爽快感もある。

 ブラックユーモアを感じさせる変なものもある。頭にコイルを巻き付けて「宇宙線を送られている!」と叫んで路上の人に殴りかかる男を取り押さえなくてはならなかったりもする。自殺志願者が教会から飛び降りようとした事件では、制服警官が「私は心理学を学んでいて思いとどまらせるから、その隙に止めてくれ」と言われるのだが、警官は「このまえの自殺者はひどい有様だった」といった感じで、めちゃくちゃなことを言うのだ。

 「路上犯罪」は各課を終えることでできる「フリーパトロール」で集中的に挑戦することができる。この他「隠し車両」や、「黄金のフィルム」といった収集要素もある。街のランドマークを探したり、フリーパトロールでは思う存分ロスの街を探索できる。

 「L.A.ノワール」は時代の雰囲気を膨大な資料とクリエイターの情熱で再現した作品である。作品からは時代を見つめる冷静な目と、犯罪に対する怒り社会が生むひずみへの問いかけが感じられる。大人が楽しむためのゲームである。じっくり、隅々まで味わってもらいたい。


多彩な路上犯罪。シンプルな物が多いが、奇妙な事件も
初回特典のポリスバッジの他、黄金のフィルムといった隠し要素もある


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(2011年 7月 14日)

[Reported by 勝田哲也 ]