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【特別企画】君は「TOKYO Game Network」を知っているか? その2

バンドンの実証実験に密着。渦巻く熱気と蒸せる濃さ。これがアジアのゲームビジネス!

5月取材



インドネシア・バンドン

 バザール・エンタテインメントが2015年夏以降、アジアの新興市場で展開を予定している新たなゲームプラットフォーム「TOKYO Game Network」。その概要についてはレポートその1でお伝えしたとおりだが、本稿では、現在インドネシア第2の都市バンドンで行なわれている実証実験の模様をお伝えしよう。

【フセイン サストラネガラ空港】
オープンスポットからてくてく歩いて行く国際空港とは思えない規模のバンドン フセイン サストラネガラ空港。荷物受取所が“ターンしないテーブル”になっており、受取にえらく時間が掛かった

TOKYO Game Networkの実証実験をはじめ様々な目的を兼ねたゲームイベント。優勝賞品はお弁当!

会場となったIndomaret。ごくごく普通のコンビニである
イベント会場の様子
参加者はかなり自由に、自分のやりたいことをやっている
バザールのイベントを聞きつけて、個人イベントへの協力を求める人が大和田氏に陳情に訪れる
会場にはMDCが稼働しており、自分のAndroid端末から接続してゲームをプレイすることができる
最後はジャンケン大会で締めくくる

 バンドンでの実証実験は、想像していた以上に草の根スタイルで行なわれていた。日本からシンガポール乗り継ぎで1日かけてバンドン国際空港に降りたつと、現地の協力者に連れられて向かった先はコンビニ。Indomaretと呼ばれるインドネシア全土に展開しているコンビニチェーンで、イベントはその2階で行なわれていた。

 2階は1階店舗と同じたっぷりした広さのイートインスペースになっており、その半分を使ってイベントが実施されていた。一階と違って冷房は無し。窓は開いているものの、風は入らず、席に着くとじわりと汗がにじむ。通りの車の騒音でやや騒々しい。こうした環境で実証実験は行なわれていた。

 参加者は、開催中多少出入りがあったもののトータルで30人ほどだろうか。みな若い男子ばかりで、学校帰りの中学、高校生かと思いきや、皆大学生だという。インドネシアの人は、比較的体が小さく、顔立ちが若々しいため、実際の年齢よりもずいぶん若く見える。

 イベントでプロジェクターに映し出して遊んでいたのはPS3の「ウイニングイレブン」。当日参加によるゲーム大会が実施されており、大会に優勝したり、大会後に実施されるジャンケン大会に勝つと賞品が貰える。今回の賞品は、下のコンビニで売っているお弁当だという。

 おもしろいのは、試合をしている2人以外は、皆勝手気ままな行動をとっているところだ。試合の進行はバザールのスタッフが行なうが、別に実況を行なうわけでもなく、後ろの席で試合は見ずにお喋りをしている人もいれば、TOKYO Game NetworkのWiFiに接続して実証実験に参加している人もいる。ただ、その割合は1~2割程度で、これで実証実験になっているのだろうかと若干心配になってしまった。

 バンドンでの実証実験のために家族ぐるみでこの地に移住してきたバザール・エンタテインメント CEOの大和田健人氏に話を聞くと、いつもこんな感じだという。イベント開催の目的は、実証実験そのものというよりは、現地のゲーム好きの若者が主催するゲームイベントをバザールが支援することで、現地でのゲームコミュニティを育成し、TOKYO Game Networkのディストリビューター(配信者)になってくれる人を増やすことだという。バンドンに移住して1年弱の間にこの手のイベントをすでに200回以上実施し、大きな手応えを掴んでいるようだ。

 イベントを後ろで見ていると、多くの参加者が常連客であることがわかるが、イベントの最中にも歓声を聞いて飛び込みで入ってきた人や、別のイベントへの協力をお願いしに来る人など、実に様々な人が訪れる。TOKYO Game Networkはもともとフェイストゥフェイスのゲームプラットフォームを目標に掲げているだけに、この姿が正式サービスの風景そのものとなるようだ。

 筆者も試合の合間にiPhoneの電源を入れて、メールを取ったり、ゲームをやろうとしたり、Ingressを立ち上げたりしてみたが、通信速度が衝撃的に遅いことに驚いた。今回、インドネシア用のWiFiルーターをレンタルし、3G回線が使える契約になっていたはずだが、電源を入れた直後は3Gでも、すぐ2Gに落ち、こうなるとデータ通信が正常に行なわれているのかいなかすらよくわからず、ストレスがたまる。インドネシアでは、すでに多くのモバイルゲームがリリースされているが、利用者は少ないというのも頷ける。遊ぶ以前にダウンロードすらままならない。

 実際、参加者の多くは自分のAndroid端末を持っていたが、自分の端末でゲームをしている人はほとんどいなかった。端末もあり、インフラもあり、ゲームもあるが、ユーザーへのラストワンマイルが未整備のままのため、ユーザーにゲームが届いていないのだ。

 ゲームイベントは2時間半ほどで終了した。最後に大和田氏自身がジャンケン大会を実施し、大会に参加できなかった人にも景品を提供。見事景品である弁当を手に入れた参加者は、後ろの席で弁当をガツガツと食いだし、お祈りのために帰る人もいれば、お喋りを続ける人もいて、まとまりの無さがおもしろい。ただ、みなゲームが好きで、日本文化が好きな点は共通しており、この地に大きな潜在需要が眠っていることを伺わせてくれた。

 余談だが、バンドン市内の移動にはAngkot(アンコット)と呼ばれる公共交通機関を多様した。真緑に塗られたライトバンの貨物エリアに、小さな座席をコの字型に配置し、そこに客を乗せる乗り合いバスになっていて、後部の貨物エリアにすぐ乗り込めるように左側面の扉が常に開いている。利用者は手を挙げて呼び止めたり、渋滞を狙っていきなり乗り込んだりする。価格は距離に応じて異なり、東京の210円圏内は40~50円ぐらい。日本より遙かに安いがその分環境は劣悪で、座席は常に蒸し風呂状態だ。日本の感覚で乗り込むとカルチャーショックを受けるのではないだろうか。

【バンドンでの移動手段】
移動は乗り合いバスAngkot(アンコット)を使う。乗り心地は渋滞が酷くなかなか前に進まない。歩いた方が速いことも
Angkotが走らないエリアへはバイクタクシーを使う。移動が大変な街だ

Telcom Universityのジャパンフェスティバルでもゲームを発見。バンドン在住の日本のゲームコレクターに遭遇!

 さて、翌日には、現地の私立大学telcom Universityを訪れた。日本文化を扱ったジャパンフェスティバルが実施されており、昨年はバザールも日本文化の一翼を担うメーカーとして出展。今回は大和田氏と共に視察メインで訪れた。

【Telcom University】

 大学はかなり広く、学園都市らしい雰囲気を漂わせている。車止めのある入り口から数百メートル歩くと一番奥が会場になっており、大学の体育館と屋外広場が会場として割り当てられ、大小のイベントステージを取り囲むように、日本文化に関する多種多様なブースが出展されていた。サクラの木や七夕、着物、幽霊屋敷、メイド喫茶などなど、会場の至る所に日本文化がちりばめられている。

【猫耳メイドカフェ】
ランチエリアは猫耳メイドカフェになっており、コスプレした猫耳メイドさんが、猫耳ダンスをしたり、カレーやオムレツに絵を描いてくれた

 こんなに日本から離れた場所で、日本に特化したイベントが実施されるのは不思議な感じがあるが、実はインドネシアは日本語の学習者が世界第2位(1位は中国)で、その日本語学習の一大拠点がここバンドンということで、非常に親日家が多い街なのだという。バザールが実証実験の地にバンドンを選んだのも、この点が大きいという。ジャパンフェスティバルに訪れるようなインドネシア人は、たいてい片言の日本語を喋ることができ、日本のゲームやアニメを楽しむために必死で日本語を学んでいる。日本人としてついつい嬉しくなってしまう風景だ。

【ジャパンフェスティバル】
多くの来場者で盛り上がっていたジャパンフェスティバル。午後からはアジア特有のスコールが降り注ぎ、屋外会場はイベント中止となってしまったが、体育館はすし詰めの人気振りだった

 ブース出展ではアニメ、ゲームを皮切りに、コスプレ、テーブルカードゲーム、ボーカロイド、アイドル、声優、コスプレ撮影、イラスト、グッズなどなど、オタク文化なら何でもありという感じで、Tシャツブランドに「TSUNDERE(ツンデレ)」、声優教室には「秋の空」、撮影教室には「KAMEKO(カメラ小僧)」、トイ/TCGのクラブ名には「Nippon Bunkabu(日本文化部)」、コスプレ衣装のブランドには「PANTSU(パンツ)」など、日本語をあしらっているところがポイントだ。

【出展ブース】
TSUNDERE(ツンデレ)
Nippon Bunkabu(日本文化部)
VOCALOVERS
WTF48
PANTSU(パンツ)
秋の空
KAMEKO(カメラ小僧)
KAIUKU

 ゲームに直接関連したブースは2つあり、1つはインドネシアで開発されたPC向けの音楽ゲーム「OSU!」、もうひとつは「艦これ」だった。「OSU!」はプロジェクト名と、チーム名を兼ねており、「OSU!」のほか、「Taiko」、「CatchTheBeat」、「OSU! mania」など、複数の音楽ゲームを手がけており、複数台のノートPCを使って自由にプレイすることができた。ブースには幾重にもギャラリーができ、非常に人気が高い。

 正直な所、日本人の目から見ると、基本的なゲームデザインや使用楽曲などは、既存の日本の音ゲーとかなり似通ってる部分があり、ゲームとしては同人ソフトレベルだ。ここからブラッシュアップし、楽曲の許諾を得た上で商用化するのは相当時間が掛かりそうな印象だが、自分たちが遊びたい音楽ゲームを自ら作りたいというむせかえるような気概は十分に伝わってきた。かつて台湾や中国がそうであったように、今後インドネシアでもまさにゼロベースから開発環境が立ち上がるのかもしれない。

【OSU!】
提供されている音ゲーは、同人ソフトとしてならギリギリ許されるかどうかというレベルのもの。楽曲はFunkot(ファンコット)アレンジも多く独自色が感じられたが、原曲は日本のものが多かった

 もうひとつは「艦これ」である。スタッフが「艦これ」の日本サーバーに接続してゲームを延々プレイし、「艦これ」関連のフィギュアを並べただけのファンクラブ的なブースだった。インドネシアでサービスされていない「艦これ」の普及促進(?)と、現地にもコミュニティが存在することをアピールするのが狙いのようだが、「艦これ」のコスプレーヤーが集まり、絶えず撮影が行なわれるなど、人気スポットになっていた。

【NUSANTARA KANCOLE】
NUSANTARA(ヌサンタラ)はインドネシア島嶼群一帯を表わす言葉。「NUSANTARA KANCOLE COMMUNITY WEST JAVA NAVAL BASE」と立派な名前が付いている

取材に協力してくれた情報サイトドキドキステーション エグゼクティブマネージャーのアディティア・ライ氏
ライ氏はかつて日本でジャニーズにスカウトされた(?)という伝説があるほどのイケメン

 午後からは現地のゲームメディアとしてジャパンフェスティバルの取材に訪れていたAditya Rai(アディティア・ライ)氏に話を聞くことができた。ライ氏は、現地でドキドキステーションという日本のエンターテインメントに関する情報と物販を扱ったeコマースサイトを運営しており、日本コンテンツに関する取材としてジャパンフェスティバルに来たという。

 ライ氏は、驚くほど日本のゲームの大ファンだ。日本語も流ちょうで、日本のゲームを遊びたいがために日本語を学んだという、アジアのゲーム少年にありがちなエピソードを持っている。日本文化との遭遇は、子供の頃、当時現地で放送していたロボットアニメ「マジンガーZ」で、スーパーロボット系のアニメが好きだった影響で「こんなに日本のアニメはおもしろいのか」と日本に対して強い関心を持ったという。

 ゲームは小学生2年頃にNES版「スーパーマリオブラザーズ」で初めてプレイし、その後、「ファイナルファンタジーIV」の日本語版に巡り会い、内容を理解したいがために辞書を購入し、辞書を引きながらゲームでプレイしたという。「FF」シリーズの好きなところは“ストーリー”で、中でも「FFVI」が一番のお気に入り。その後は、日本のゲームハードとソフトをどんどん買い集めるようになり、現地では有名な日本のゲームコレクターとなっている。

 ゲームは何でもプレイするが、得意なのはRPGとアクションゲームで、苦手なのはシミュレーションゲーム。現在は時間が取れないため、あまりじっくりゲームを遊べていないというが、今でもドキドキステーションのチャネルを使って日本語のゲームを買い求めており、PS4で「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」や「龍が如く0」などもプレイし、今なお日本のゲームが大好きだという。

 また、ライ氏は、インドネシアの海賊版事情を憂うゲーマーの1人であり、国が対策に乗り出さない状況下で、自身のメディアを通じてオリジナル版の良さを説明し、海賊版を遊ばないようにしようという啓蒙活動を行なっている。インドネシアは、海賊版がもっとも深刻な地域のひとつといっても過言ではない。ライ氏の運動が大きく実を結ぶことを期待したいところだ。

 ライ氏の将来の夢は2つあり、1つは自らのコレクションを活かしてゲームミュージアムを設立すること、もう1つはゲームを開発したいという。しっかりとしたストーリーのRPGをインドネシア語で作りたいと考えており、資金と開発者を集めているところだという。日本のゲームクリエイターにメッセージを求めると、ちゃんと返事したいと、後でメールでメッセージを送ってくれた。

 「日本のゲームクリエイターの皆様、開発者の皆様、ご関係者の皆様。これまで素晴らしい、ずっと印象に残るゲームを作って頂いて本当に感謝しています。日本のゲームのおかげで自分の夢と希望を見つけて今の人生を歩んでいます。日本のおかげで今の私がいます、本当にありがとうございます。自分はこれからも日本のゲームをコレクションとして大事に守っていくつもりです」。

 取材の後、ライ氏に、そんなに日本が好きなら日本や日本に直行便のあるジャカルタでビジネスをしたらどうかと聞いたところ。即座に否定された。理由はバンドンで生まれ育ち、バンドンのために働きたいのと、他のインドネシアの地域にはないバンドンのクリエイティビティが好きで、これを活かしてゲームを作って行きたいからだという。

 今回のバンドン訪問では、ゲームに関するクリエイティビティを感じられる取材はできなかったが、街に出ればアートが盛んで、訪問する直前まで開催されていたバンドンカンファレンスのポスターもセンスを感じさせるなど、クリエイティブな街という印象は確かにある。この地から、新興市場向けのゲームマーケットが垂直に立ち上がるのかどうか、今後の行方を見守っていきたい。レポート3本目では、バザール・エンタテインメントのCEO大和田健人氏と、CTOの伊澤伸氏へのインタビューを通じて、TOKYO Game Networkの今後の展望について紹介していきたい。

【ライ氏のコレクションルーム】
趣味ってレベルを遙かに超越しているライ氏のコレクション。この写真を撮ってから引っ越しを行ない、さらにコレクションは充実しているという。ゲームミュージアムを作りたいというのは冗談でも何でもないのだ

(中村聖司)