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海賊版最後の秘境を発見!? ジャカルタゲームショップレポート
広州・深センをしのぐガラパゴス的海賊版市場に潜入!
(2015/6/11 00:00)
アジアのゲーム市場の歴史は、ニアリーイコール海賊版の歴史であり、それは日本も例外ではなく、いまやアジアの最先端を気取るシンガポールや香港も等しく通ってきた道だ。筆者はここ10年以上に渡って、アジアのゲーム市場を回って、様々な海賊版ビジネスに遭遇してきたが、あらゆる意味で別格だったのは中国、とりわけ広州、深センの2都市だ。東の横綱が“製造の広州”だとすると、西の横綱は“卸売の深セン”。とりわけこの2つの都市は、マーケットの規模や大胆さ、業者の数などにおいて群を抜いており、手っ取り早く海賊版ビジネスを覗くには格好の市場といえる。
しかし、今回、その東西横綱に勝るとも劣らないゲーム市場を発見した。インドネシアの首都ジャカルタである。かつてインドネシアを代表するリゾート地バリに旅行で訪れた際、ゲームの海賊版に限らず、時計やバッグ、貴金属類など、その開けっぴろげなコピー品の数々に驚いたものだが、それが何十倍、何百倍もパワーアップしたものといえば想像しやすいだろうか。今回のインドネシア取材で最初に立ち寄ったバンドン(詳しくはバンドン編を参照頂きたい)でも様々な驚きがあったが、ジャカルタはそんなものではなかった。さっそくジャカルタの魔都っぷりをたっぷりご紹介しよう。
PS2、PS1がまだまだ現役がゆえに歪んだ海賊版市場が形成
冒頭から若干話がわき道にそれるが、これまでの経験から深セン、広州という二大海賊版市場に匹敵するゲーム市場はもう未来永劫現われないと思っていた。理由は、彼らの存在そのものが、中国という特殊性に満ちたゲーム市場のあだ花だと考えられるからだ。
中国の特殊性の1つは、深セン、広州、その中央に位置する工場地帯 東莞、この3つの都市に、世界の名だたる家電メーカーの生産工場があることだ。それらの都市ではあたかも工場から“にじみ出る”ように、あらゆる模倣品が生み出される。ある意味本家本元から流出しているのだから、クオリティが高いのは当たり前で、そこで生み出された製品は、広州や深センで大量生産され、世界中に売りさばかれる。
ゲーム機で言えば、PSP、PS2、PS3などがそうだ。当然ハードだけでは売れないから、徹底的にハードをハックして海賊版のソフトが動くように改造する。正真正銘の製品のすぐ隣に、精巧な海賊版のエコシステムが存在する。だからこそ中国ではゲームの海賊版がとんでもない規模の大きなビジネスになってしまったわけだ。
もう1つの特殊性は、中国では長らくコンソールゲームが未解放だったことだ。未解放とはいえ、香港と地続きの深センや、特急列車ですぐ行ける広州には、どんどん香港のものが入ってくる。しかし、当然のことながら禁制品の並行輸入にはプレミアムが付けられて非常に高くなる。そこで何とかして改造して安く遊べないかと考えるわけだ。禁止されるとかえってアンダーグラウンドマーケットが成長するもので、ユーザーのニーズに応えるためにあらゆる海賊版が生み出され、たちまち中国における海賊版のメッカとして深セン、広州が注目されるようになったわけだ。
その一方で、タイ、ベトナム、マレーシア、フィリピンなど、物理的に近い他のアジア地域では、なぜ中国ほどの海賊版市場に成長しなかったかというと、海賊版のエコシステムが不十分だったからだ。海賊版を遊ぶだけなら、MODチップを埋め込んだ改造済みのゲームハードと、ゲームのコピーがあれば済む。実際、それらを深セン、広州で仕入れて販売しているショップはアジア中に存在するが、実はそれだけでは市場としては大きくならない。
実際に市場として成長させるためには、海賊版対策を行なうメーカーとのイタチごっこに対応する改造屋が必要だし、ハードが壊れた場合の修理屋も必要で、新たなゲームをインストールするためのHDD屋、そして常に最新のタイトルラインナップを揃えてくれるゲームコピー屋がいる。これらがワンセットで揃わないとエコシステムが確立せず、これらがすべて揃った市場が深センであり、広州だったというわけだ。このあたりの事情については広州ゲームショップレポートおよび深センゲームショップレポートで詳しく紹介しているので合わせて参照頂きたい。
話を戻すと、ジャカルタにはこの海賊版のエコシステムに必要なものがすべて整っているのだ。しかも驚いたのは、中国より世代がさらに1つ2つ古いことだ。メインはPS2とPS1で、PS3やXbox 360はまだ新しい。海賊版が存在しないPS4やXbox Oneに至っては富豪向けのハードで神棚に大事に飾られているといった感じだ。
ショップに所狭しと積まれた段ボールや各種機材には簡体字が使われていたため、多くは広州や深センから流れてきたものと見られるが、中国と比較して時の流れが遅いためか、単純に深セン・広州を薄めた市場というわけでもなく、いまだかつて見たことが無いような独自のガラパゴス的な海賊版市場になっている。
まず、繰り返しになるがメインの商材がPS2とPS1なのだ。ご存じのようにPS2やPS1は、ほとんどのモデルがすでに公式サポートを打ち切っており、パーツのストックも存在しない。しかし、ここジャカルタでは、驚くことにもともと故障しやすい電源やチップセット、ディスクドライブ、光学式ピックアップなどは、独自基板を使ったオリジナルパーツが用意されている。このため持ち込みによる修理にも対応するし、リファービッシュ品(修理済み中古品)として大量に在庫が存在し、バリバリの現役ハードとして売り出されているのだ。
周辺機器もいつ製造されたものなのかよくわからない偽物ばかり。モノ自体は深センや広州のみならず世界中から入っているようだが、これだけPS1やPS2の需要があるのはここジャカルタだけだろう。生産が終了したハードを世界中からかき集めて、使えるところだけを組み合わせて丁寧に直して使うという一連の取り組みは、あたかもポストアポカリプス的、ゲームで言えば「Fallout」の世界そのままであり、善悪の観念を超えて、凄まじい人の業にため息が出ざるを得ない。
ユニークなのは、リファービッシュ品を独自デザインの外箱に入れて販売しているところだ。PS2版は存在しないはずの「ファイナルファンタジーXIII」や「グランツーリスモ5」、「Call of Duty Advanced Warfare」モデルなどはまだ可愛いもので、「クリスティアーノ・ロナウド」モデルや、「ワイルド・スピード」モデルなどゲームと全然関係ないモデルも存在するなど、中国とはまた異なるその商魂のたくましさに驚かされる。
ところで、なぜ、今時、PS1やPS2なのかというと、ジャカルタでは、ゲーム環境的にも、価格的にも、そして環境的にもそれが丁度良いからだ。まずゲーム環境的な意味では、インドネシアローカライズされたコンソールゲームはほとんど存在しないため、英語版や日本語版でプレイすることになるが、言葉がわからないため、内容が複雑なゲームはあまり好まれない。その結果、SD解像度の比較的シンプルなゲームが好まれる。
価格的な面では、PS3以降は、中古品でも万単位の出費が必要になるが、PS1やPS2なら数千円の出費で済む。月給が2~3万円のマーケットでは、この差は大きい。最後に環境的な面では、HDTVの普及率の低さが挙げられる。そもそもショップレベルでフルHDの液晶TVや、PC用液晶モニターはほとんど売っておらず、SD解像度のブラウン管がまだまだ幅を利かせている。このような環境でHD世代のゲーム機を接続しても宝の持ち腐れになるため、SD世代のPS1やPS2の需要が高いということだろう。ソフトも海賊版によってタダ同然で大量に手に入るため、現地のゲームファンにとっては丁度良いサイズのゲームプラットフォームになっているようだ。