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【特別企画】君は「TOKYO Game Network」を知っているか? その1

世界の新興市場にゲームを届ける! そのユニークなビジネスモデルとは!?

5月取材



インドネシア・バンドン

 GAME Watchの読者は「TOKYO Game Network」と呼ばれる新しいゲーム配信サービスをご存知だろうか? 日本のメーカー バザールエンタテインメントによる新興市場向けのスマートフォン用ゲーム配信プラットフォームの名前で、新興市場におけるゲーム配信時の弱点となる通信インフラの脆弱さや従量制による通信制限といった課題を克服し、WiFiネットワークを利用して草の根でユーザーを拡げていく新しいゲーム配信システムとなる。

 現在このサービスは2015年内の商用化に向けてインドネシア第二の都市バンドンで実証実験が行なわれている。今回ゴールデンウィークの期間を使って現地取材を行なってきたので3回にわけてその模様をお届けしたい。レポート1本目では、未知のサービス「TOKYO Game Network」の特徴とその強みについて解説したい。

【TOKYO Game Networkのサービス概念図】
既存のサーバーを介した配信ではなく、ディストリビューターという人と、MDCというデバイスを通じてゲームを届けるサービスとなる

個人が個人にダイレクトにゲームをサービスする「TOKYO Game Network」のユニークなビジネスモデル

今回の取材に協力していただいたバザール・エンタテインメント代表取締役社長の大和田健人氏
バザールの経営陣。大和田氏のほか、SCEでCTOを務めた岡本伸一氏や、「どこでもいっしょ」を代表作に持つ高橋宏典氏など、元SCEのメンバーが中心となっている
そのビジョンは、ネットワークの行き届かない新興市場にゲームを届けること
実証実験の様子

 まず今回の取材対象となるTOKYO Game Networkについて簡単に紹介しておくと、WiFiネットワークを使ったゲーム配信システムで、ゲームを配信するためのマイクロデータセンター(MDC)、エンドユーザーが利用する専用クライアント、10円単位の超少額決済に対応した独自のペイメントシステムの3つのレイヤーで構成されている。

 順番に説明しよう。MDCはTOKYO Game Networkでもっとも中核となるサービスで、WiFi機能とストレージを搭載したセットトップボックス(STB)もしくは、MDCの機能を備えたAndroidアプリによって提供され、ユーザーはこのMDCを介してゲームを入手することになる。

 やり方は非常に原始的だ。ユーザーはまずMDCがあるところまで物理的に行き、WiFiネットワーク「TOKYO Game Network」に接続する。すると、配信されているゲームの一覧がポップアップ表示されるため、あとは希望のゲームを選んでダウンロードする。ダウンロードはWiFi経由でPeer to Peerで行なわれるため、通信料は掛からず、高速でダウンロードできる。

 このMDCは、日本でいうところの「ニンテンドーWiFiステーション」や「PlayStation Spot」に感覚的に近いところがあるが、最大の違いは、このMDCは設置するものではなく、個人が所持する形態を取るところだ。この個人を“ディストリビューター”と呼んでおり、バザールにとっては、ユーザーとの間を繋ぎ、仮想通貨の販売なども代行してくれる重要なビジネスパートナーとなる。TOKYO Game Networkは彼らディストリビューターにMDCアプリを配り、彼らを中継基地としてゲームを配信していくモデルとなる。

 新興国では、一説に“8割以上”と言われるほどスマートフォンの普及率は非常に高いものの、4G/LTE通信の対象エリアはまだ限定的で、3Gもしくは2Gネットワークがメインを占め、「雨が降ったらみんな使い始めるから繋がらなくなる」と揶揄されるほどそのスピードは遅く、回線品質は脆弱だ。WiFiネットワークも同様で、MB単位のスピードが出れば速いほうで、テキストレベルのやりとりにも苦労することが多い。

 また、スマートフォンのデータ通信は従量制になっており、通信費をできるだけ切り詰めるために、ユーザーは無駄な通信を抑え、結果として一般的な利用者はデータ通信を使うときだけオンにし、通常はオフにして不要不急な利用を控える。インドネシアではこうした現状から、スマートフォンやSNSが爆発的に普及する一方で、スマートフォンゲームがなかなか立ち上がらない状況にあるが、TOKYO Game Networkは、その現状を見越した上でウィークポイントを克服したサービスとなる。現在バンドンで実施されている実証実験では、主にMDCを使ったゲーム配信システムがうまく機能するかどうかがテストされているわけだ。

 専用クライアント「App Bazaar」については、こちらは現在開発中と言うことで、まだ試すことができなかったが、ゲームプラットフォームとしてのTOKYO Game Networkのポータルとなるアプリケーションだ。MDCの位置検索機能をはじめ、コンテンツカタログ、コミュニティ機能などを備える。今回の実証実験では、「TOKYO Game Network」のWiFiネットワークに接続すると、ダウンロードできるアプリの一覧がポップアップ表示されていたが、実際にはこの専用クライアントを通じてゲームを手に入れる形になるようだ。

 3つ目のペイメントシステムもバザールならではの非常にユニークなサービスだ。インドネシアのような新興国では中間層のクレジットカードの所有率が低い上、コンビニで流通しているプリペイドカードの下限が所得水準からすると高すぎるという問題がある。そこでバザール独自の課金決済システム「Pico Pay」では、バザールがディストリビューターに一定金額でポイントを卸し、それをディストリビューターがユーザーに向けて少額販売を行なうというアプローチを取る。ポイントのやりとりはスマートフォンのSMS機能を使い、それこそ10円のような単位でポイントを買える。これにより、ポケットにある小銭だけで遊ぶという、ゲームセンター的な遊び方が可能となるわけだ。

 そしてゲームプラットフォームとして肝心要となるゲームタイトルについては、3つのアプローチを考えているという。ひとつは自社開発、正確にはバザールが委託したデベロッパー開発したファーストパーティータイトルということになるが、現時点で実証実験用に4タイトル、企画段階のものが数タイトルあるという。

 第二に大手ゲームメーカーによるモバイルタイトルのパブリッシング。まだ正式契約前につきメーカー名は出せないということだが、日本の大手メーカーを中心に新興市場に合ったタイトルを中心に展開を考えていく。過去に行なわれた実証実験では、タイトーの「パズルボブル」や、カプコンの「バイオハザード」といった大手メーカーのタイトルも投入され、好評を博したという。3つ目は、実証実験を行なっているインドネシア バンドンから広くアイデアを求めるプランで、新興市場による新興市場向けのタイトルを生み出していくという。

配信タイトルはオフラインゲームが中心。目玉はインドネシアハウス“Funkot”で楽しめる音ゲー「FunBeat」

 今回配信されている4タイトルを短い時間ではあったもののプレイすることができた。現在配信しているのは、Tokyo Otaku Gamesの「Steel Surge」、「Steel Strike」、「Steel Smasher」、そして台湾で開発された「FunBeat」の計4タイトル。

 Tokyo Otaku Gamesは、日本のモバイルゲームメーカーたゆたうのスマートフォンゲームブランドだ。代表取締役社長の高橋宏典氏は、バザール・エンタテインメントの社外取締役にも就任している関係で、新興国向けにはバザール独占タイトルとして、これらタイトルをTokyo Game Networkを通じてアジア展開していく計画となっている。

 「Steel Surge」は、コンピューターに支配された近未来を舞台にしたロボットアクションゲーム。モバイルゲームのカテゴリでいうところのラン系のゲームで、スワイプ操作により左右移動、ジャンプ、スライディング、武器の使用を行なって、障害を乗り越えながらどこまで進めるかにチャレンジしていく。基本プレイ無料のタイトルで、武器やアイテムなどを買えるコインを有料通貨で購入できるアイテム課金制を採用している。

【Steel Surge】

 「Steel Strike」は、「Steel」シリーズの第2弾で、ロボットをバーチャルパッドを使って操作し、敵のロボットを撃破していく横スクロールタイプのアクションゲーム。現在のバージョンでは、ガトリングガンは弾数が限られ、その補充もままならないため、自然と近接攻撃メインの「ファイナルファイト」のようなゲーム性になる。こちらも同様のコインチャージによるアイテム課金制が採用されている。

【Steel Strike】

 「Steel Smasher」は、「Steel」シリーズの第3弾となるロボットアクション。クォータービューの視点からバーチャルパッドでロボット操作し、360度自由に動きながら、こちらも360度自由な方向に打てるガトリングガンで敵を撃破していく。Bizarre Creationsの「Geometry Wars」のように、360度に弾をばらまく感覚が楽しいゲームだが、あえて弾速がゆっくりで、発射から着弾までタイムラグがあるため、着弾先を予測して撃つ必要がある。こちらもコインによるアイテム課金制を採用。

【Steel Smasher】

 そして最後の「FunBeat」は、インドネシア独自のダンスミュージックで、インドネシア・ハウスとも呼ばれるFunkot(ファンコット)をモチーフにした音ゲーで、音楽に合わせて奥から手前に最大6列に分かれて流れてくるアイコンを、タップ操作で弾いていく。音ゲーとしては、これ以上ないぐらいシンプルなゲーム性だが、Funkotならではのアップテンポの曲調と、軽快なサンプリング音とが相まって脳を直接刺激されるような楽しさがある。ビジネスモデルは1プレイいくらの従量制プラスコンティニュー課金というアーケードスタイルを採用する。

 余談だが、バンドンのショッピングモールにはかなり大規模なゲームセンターがもれなく展開されており、1番人気は音ゲーだった。セガの「maimai」のような日本の音ゲーから、IGSなどの中国・台湾製のものもあり、ちょっとしたアジアの激戦区になっている。Tokyo Game Networkでは、このムーブメントを鑑み、音ゲーをメインタイトルに据えることで、アーケードで音ゲーを楽しむ層ももれなく掴んでいきたいということだ。

【FunBeat】

 今回体験できたこれら4タイトルの大きな特徴は、インターネット接続環境がなくても最初から最後まで遊べるところだ。つまり、オフラインゲームということになるが、これはユーザーが求めた結果だ。先述したようにインドネシアは通信事情が良くないため、ゲームの特徴としてリアルタイムのオンライン通信要素を備えていても、ユーザーはかえって遊ぶのを躊躇うようになる。基本契約が従量制なので、夢中でゲームを遊んでいたら通信量を超過し、追加料金を払わなければならなくなるのは嫌だからだ。

 こうしたことから、現在、日本でランキング上位に入る「パズル&ドラゴンズ」や「モンスターストライク」、「魔法使いと黒猫のウィズ」といった絶えず通信を行なうゲームはあまり適しておらず、「キャンディークラッシュサーガ」や「パズルボブル」、「ぷよぷよ」など、通信頻度の低いタイトルが適しているといえる。

 TOKYO Game Networkのサービス開始は2015年の夏から秋頃を予定し、インドネシアバンドンを対象にβサービスという形で提供を開始していく。バンドンでのローンチ後は、首都ジャカルタ、スラバヤといった他のインドネシアの都市の展開も開始し、2016年以降はミャンマー、フィリピン、ラオス、バングラデシュといった東南アジアの新興市場にもサービスを広げていくという。新興国20億人を対象にしたビジネスということで夢は大きい。レポートその2では、バンドンでの実証実験の模様をお伝えしたい。

(中村聖司)