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どの順番でも読める! 異色ADV「終天教団」濃厚5ルートインタビュー

5つの異なるインタビューから小高和剛氏と「終天教団」の中身を深堀り

【終天教団】
9月5日 発売予定
価格:
通常版:6,980円
デジタルデラックス版:9,180円
豪華版:13,580円

ルートD:「ADVはシナリオと進行が両輪」【ADVに欠かせない構成要素編】

 ルートD【ADVに欠かせない構成要素編】では、ADVゲームを作る上で大切にしていることを聞いた。Tookyo Gamesならではのシナリオに対する考え方や、最近2人が気になっているADVゲームなどを伺うことで、Tookyo Gamesのノウハウが活かされた最新作「終天教団」の魅力に迫っていきたい。ブログ風の対談形式でお送りする。

5ルート5ジャンルの中で最も挑戦的だった“警備省ルート”

――このインタビューでは、「終天教団」の発売を記念して、「ADVゲームに必要な要素は?」というテーマでお話を聞いていきます。ADVゲームは大きくシナリオ構成とゲーム進行プロセスの2つの要素があると思いますが、どちらの方が大事なのでしょうか?

小高氏:どっちもじゃないですかね、やっぱり。

 適度なタイミングでプレイアブルにする必要もあるだろうし、インタラクティブなのがゲームの良さではあると思います。そのインタラクティブな部分も含めてのシナリオを書くというか。

 ここでこういうゲームを入れて、プレーヤーにこういう気持ちにさせたいみたいなところも含めてシナリオを書いて構成していく形がいいと思います。


Tookyo Games代表取締役CEOの小高和剛氏

中澤氏:確かに、どっちかだけだとできませんもんね。

 「ゲームシステムはあの人が全権を握ってるから口出せない」「お話はこの人が考えるからゲームシステムはこれにしてください」みたいなことになると、どうしても2つの相互作用が作れませんね。

小高氏:そうそう。

中澤氏:普通は何かお互いが協調し合うというか。合わせていくしかないんですよね。だけど、両方を俯瞰して見ることでゲームならではの話が作れる。そういうところに、Tookyo Gamesのノウハウが活かされているのかなと。

Tookyo Gamesディレクター/シナリオライターの中澤工氏

――「終天教団」は5ルート、5ジャンルのADVが収録されていますが、まさにシナリオとゲーム進行が協調しているなと思います。その中で特に実験的なジャンルってありましたか?

小高氏:実験的かぁ……。まあでも、警備省ルートが一番大変だったかな(笑)。

中澤氏:大変でした(笑)。

――それはなぜでしょう?

小高氏:アクション性があるんですよ。モンスターに襲われて逃げるっていう、ステルスアクションが入っています。

中澤氏:1番シナリオと相性が悪いんですよね、アクション。アクションのせいで先に進めないとか、アクション中だとあまりお話が読めないとか。

 上手くゲームにできたかはプレーヤーに判断していただくしかありませんが、今回はアクションの中にストーリー要素を入れつつ、アクション自体のバランスもいい感じにできたかなと。アクションのなかで話を描くというテーマでは、理想に近づけたかなとは思います。

――開発では苦労されたんでしょうか?

中澤氏:ADVゲームはストーリーを進めることが根っこにありますよね。ただ、警備省ルートだけが“お話をやりながら逃げたり隠れたりパズルをやる”、というのが全面的に出てくると。そこはかなりチャレンジングだったと思いますね。

小高氏:うん。1番時間かかったもんね。

中澤氏:時間かかりましたね。開発しながらでも、何が正解かわからないので。

 開発のネイロさん的にはゲームとして面白くしたいから、やり応えというか、頑張ってクリアできたときの気持ちよさを高めたいと考える。一方で、我々は話を読む上で障害にはなっても欲しくない

 このバランスがなかなか難しくて……。ゲーム部分だけを見るとどうしても、どんどん難しくなっちゃうんですよ。開発を進めていてふと立ち止まって、「いやこれじゃあダメだね」って見直すみたいな。結構な試行錯誤がありました。

――「歯ごたえがほしい!」という気持ちにブレーキをかけると。

中澤氏:そうです。気が緩むと、「何か簡単すぎる!」ってどんどん難しくしちゃって。「いやいやダメダメ!」って戻したりとか。そんなことばっかりやってましたね(笑)。

やたらリッチになったサウンドノベルの科学省ルート

――「終天教団」の5つのジャンルはどうやって決まったのでしょうか?

中澤氏:バラエティ豊かにやろうとしたんだと思います。ホラーがあって、恋愛があってみたいな。

小高氏:ADVと言えば……って思い付く限りで出したよね。

中澤氏:それでジャンルに合わせてキャラクターを割り振っていきました。

――ちなみに思い付く限りジャンルを挙げた中で、ボツになったものはありますか?

小高氏:ボツになったのはアレだよね。

中澤氏:そうですね。まず最初の5ルートのジャンル設定って、小高が最初にほぼイメージした通りになっているんですけど、科学省だけが全然変わってて。元々は脱出ゲームだったんです。でも保健省のデスゲームと結構被ってくるよねって。

 それで科学省を考え直すことになった時にもっとアクションやらせようかとか、タワーディフェンスをやろうかとか、色々行き詰まった結果「そうだ!サウンドノベルやってないからサウンドノベルにしよう」みたいな感じでポコッと当てはめたんです。

――おお、サウンドノベルですね。

小高氏:僕が意外とユーザーとしてサウンドノベルを遊ばなくて……。だから最初に入らなかったのかもしれないなと思います。ただ、「終天教団」のサウンドノベルは絵がコロコロと変わります。

中澤氏:じつはサウンドノベルに決めた理由が、コストを安く出来るかなと思ったからなんです……(笑)。

 他がアクションだったり、絵をいっぱい使うからリソースも少なくいけるかなと。サウンドノベルでぱっと思いついたのが「かまいたちの夜」とか「弟切草」とか。

――どちらも名作ですが、一枚絵の印象が強いですね。

中澤氏:はい。字があって、少ない絵で、あと音で演出して……となると、少ないリソースでいけるのでは?と。

 僕はずっとギャルゲーを作っていましたが、なんだかんだで絵が多いんです。だけど、「サウンドノベルならきっと少なく作れるぞ」と。そう思ったら、シチュエーション的にいろんな絵が必要になっちゃって……。

――こんなはずじゃないと(笑)。

中澤氏:でも結果的には、小高が満足出来るぐらいのリッチなサウンドノベルにはなりました。

――事前にプレイしましたが、確かにイラスト枚数がだいぶ充実してましたね。

中澤氏:そうですね。最終的には良かったのかもしれませんが(笑)。

最近気になるADV作品について

――少しテーマからは外れますが、お二人が最近気になっているタイトルはありますか?

小高氏:そうだなぁ。そこまで最近ではないけど「未解決事件は終わらせないといけないから」は、面白かったですね。あと全然ADVじゃないし、時間も経って今更ですけど「Baldur's Gate 3(バルダーズ・ゲート3)」にハマってて。

 すごく字の量が多いから、あれはADVじゃないか? と思うほどですね(笑)。とにかく、すっごい字が多い。けど、選択肢によって反応が全然変わるから面白いなぁと思って。

――文字量がRPGを超えていると。

小高氏:お話の全体像はまだよくわからないんですが、体験としてこれだけ字の量を用意して、全ての反応を変えてくると、これは面白いなと思いました。


中澤氏:僕はもう最近ADVゲームしか遊んでなくて。研究の為にもたくさん遊んでいます。衝撃だったのが「Return of the Obra Dinn」。少し前のゲームですが、すごいハマって。「こういうアプローチありなんだ!」と思って、新しい遊び方にガーンって衝撃を受けたんですよね。

――「Return of the Obra Dinn」は斬新ですよね。

中澤氏:この作品に可能性をすごい感じて。ADVゲームってストーリーを読むとか、パズルを解くとかしかないと思ってたんですが、こう全部を観察して頭の中でつなげるんだ!って。見た目のルックも独特ですし、ものすごい衝撃でした。

シナリオ、システム、世界観の全ては「終天教団」に意味のある構成要素

――では続いて、「『終天教団』に欠かせない要素」を伺っていきます。それぞれのルートについてはいかがでしょうか?

小高氏:はい。それぞれのルートで教祖殺しの手がかりや、終天教国自体の謎みたいなのも色々散りばめられています。そういう所はなるべく読み飛ばさずに読んで欲しいですね。

 頭の中で色々繋がってくるパズルみたいな構成で楽しめるので、どのルートも等しく、かつじっくりと読んで欲しいなと。

中澤氏:プレイしていると、だんだん見えてくるものがあると思うんですよ。その国の真実の姿とか、事件の裏にある陰謀とか。そこはやっぱり、読み飛ばしちゃうともったいないですね。

――それぞれ、最後まで気が抜けないですよね。

小高氏:シナリオ自体がゲームのバランスになっているみたいな所がありますね。謎の開示のされ方とゲームシステムとの結び付き方もそうだし。

 最初の話に繋がりますが、ゲームディレクションをする人たちがシナリオを書くからこそ出来る、Tookyo Gamesならではのゲームかなっていう気がしますね。

中澤氏:5つのルートでゲームシステムが異なるというと、何かミニゲーム的なものを遊ぶイメージをされる方ももしかしたらいらっしゃるかもしれません。

 が、これはぜひ言っておきたいところで。実は、1つのルートを選択すると、ゲームシステムが分岐してUIが変わって、見え方からして変わります。さらに、その世界観にはちゃんと意味があるようにできています。

――ルートによっては見た目がガラッと変わりますよね。

中澤氏:ストーリーとゲームシステムがリニアに繋がっているので、感情移入を途切れさせずに、世界観的にも意味のある別のゲームを楽しめます。そこがよく出来てるなと思っています。

 ちゃんとシナリオと結びついた世界観の中で、5ジャンルをワンセットにパッケージにしたっていうのは、中々出来ないことかなと。ここは自分たちのことながら、すごいと思っています。

文部省ルートで出会うことになる幹部「黒四館仄」(こくしかんほのか)。恋愛アドベンチャー風のシナリオがプレイできる

――遊んでても確かにすごく自然でした。

中澤氏:自然ですし、意味があるんですよ。

小高氏:ミニゲーム感はないよね。キャラクターに合ったゲームになっているし。

中澤氏:主人公のやっていることと、プレーヤーがさせられていることが全部一体化している。そこは本当に、よく出来てるなぁと。制作都合じゃなくて、ちゃんと納得できる意味がある。

――一見するとジャンルはバラバラ感なんですが、「終天教団」という作品を構成する要素として、一本にちゃんと繋がっているように感じます。

中澤氏:そうなんですよ。

小高氏:思ったより闇鍋感がないと思います。パッと見、ゲームを始める前には闇鍋感が出ていますけど(笑)。

中澤氏:とにかく、「マリオパーティー」のミニゲームが始まるみたいな感覚ではないぞと(笑)。実は全然違って、すべてに連続性があります。

――前例がないゲームだと思うので、実際のところは遊んでみないとわかりづらいかもしれませんね。

小高氏:上手くユーザーさんに伝えないと……。

中澤氏:そうですね(笑)。異なる5つのジャンルがあるというのが「終天教団」ですが、最初から最後まで、どのルートもどのゲームシステムも、そしてもちろんシナリオも、必要な構成要素です。すべてに意味があって、しっかりつながっていきます。Tookyo Gamesならではの味わいを楽しんでいただけたらと思います。