どの順番でも読める！ 異色ADV「終天教団」濃厚5ルートインタビュー

「ずっと集中していない」小高氏の執筆スタイル

　9月5日に発売予定の「終天教団」は、“宗教団体”に“バラバラ殺人”といった、扱い方によってはリスクになったり、レーティングに引っかかるような題材を主軸に置き、なおかつADVゲームの中に織り込み、それを丁寧に練り上げた作品だ。

　さらに、「終天教団」は大きな1つのシナリオのなかに、“5種の異なるジャンルのADVゲーム”を内包している点でも挑戦的である。プレーヤーは5つあるルートから1つを選択し、異なるシナリオとゲームを遊んでいく。そうしていくうちに、物語の真実に迫っていくという流れだ。

「終天教団」

　本作を手がけるTookyo Games代表取締役CEOの小高和剛氏は、これまで「ダンガンロンパ」シリーズや、「HUNDRED LINE -最終防衛学園-」を手掛けてきたことでも知られる。いずれの場合も、小高氏のシナリオをベースとしたADVジャンルであることが多い。小高氏はADVゲームを作り続ける理由について、「面白さを人任せにしないで済むからです」と語る。

　ADVゲームでは、とにかくシナリオの面白さが作品を左右する。ゲーム開発規模が大きくなり、メンバーが大人数になり、小高氏の目の届かないところが増えてきたとしても、「シナリオさえ面白ければなんとかなる」という確信があるのだそうだ。「たとえADVゲームのシステムが削られて、読むだけになったとしても、シナリオさえ面白ければなんとかなります。そう考えると余計な不安がなくなりますし、ゲーム全体は自分次第だなと考えられます」。

　代表作「ダンガンロンパ」もかつては少人数で開発していた。続編が決定し、開発規模が大きくなってきたとしても、自身の紡ぐ“シナリオの面白さ”に責任を取ることで、面白さをこれまでも常に担保し続けてきた。「もちろん“面白いシナリオ”が書ける前提です。でも、いいシナリオが1個ポンとできてしまえば、最低限は安心できますね。普通のディレクターだったら、ここはすごくヤキモキする部分ではないでしょうか」。

　では、プレイヤーの感情を次々と揺り動かす小高氏のシナリオとは、一体どのようにして執筆されていくのだろうか。直接聞いてみると、意外なことに「常に筆は止まっています」という回答だった。

　どちらかというと多作というイメージだったので少し拍子抜けしたが、小高氏は自身の執筆について“だらだら長くやるタイプ”と評している。つまり、一点集中的に作業を進めない分、1日の仕事時間を長めに取り、マイペースに書き進めていく。この創作スタイルは、小高氏の日常生活と仕事が密接に紐づいている。話によれば、仕事時間が1日20時間に及ぶときもあるそうだ。

　小高氏によれば、この書き方はADVゲームの仕組みの都合上もあるという。

　ADVゲームでは分岐などがある場合、各ルートで起きていることの関係性も大切になってくる。そうなると集中してのめり込んで書くというよりは、どうしても区切りを入れながら、俯瞰して考える必要がある。

　またテキストは画面上のウィンドウ表示を切り替えて読み進めていくため、ウィンドウごとの見栄えも気にする必要がある。さらには、開発の進捗に合わせて内容を調整することもある。そのため「熱が入って、このキャラクターにどんどん喋らせる」といったことは構造的にできないそう。

　「基本的にそんな感じでやっています。なので、あまり内容が頭に浮かばなくても、焦ることがありません」と小高氏。「ずっと集中していない」という書き方が、性格的にも実務的にもあっているのだそうだ。

「ADV」ジャンルならではの“ストレスフリーな娯楽”のカタチ。小高氏が語るその魅力とは

　ADVゲームを作り続ける小高氏だが、小高氏自身はADVゲームの魅力をどこに感じているのだろうか？ 小高氏は、「軽い気持ちでゲームに触れられること」「ユーザーが作家性を感じられること」という2つを挙げてくれた。

　アクションゲームのように複雑な操作は求められず、物語に没入するだけで気軽に楽しめるADVゲームは、プレーヤーにとって敷居が低い。構えずに、何なら寝っ転がりながらプレイできる気軽さがある。

IzanagiGames×Tookyo Gamesの「ワールズエンドクラブ」。iOS版も配信されている

　気軽さという点では、ソロプレイであることもメリットのひとつ。誰にも気兼ねせず、パーソナルな娯楽として、1人楽しむことができる。「ゲームの中でまで人間関係を気にしたくない、あるいは自分のタイミングでゲームを切り上げたいという人も一定数はいると思っています。その極地にあるものがADVゲームかなと思います」と小高氏は語る。

　作家性という点では、「ADVは話が一番濃厚に書けます」とTookyo Gamesディレクター/シナリオライターの中澤工氏がクリエイター視点で補足してくれた。

　RPGやアクションでもストーリーを重視した作品はあるが、「より深いレベルで楽しめるのはADVゲームかなと思います」と中澤氏は分析する。ADVゲームをプレイする人は、どのようなゲームシステムが採用されていようと、最後まで話を見届けたいと思ってプレイを進めるのではないか。そういう前提を考えると、「シナリオを活かすのに一番適しているのはADVではないかと思います」と語ってくれた。

　実際、この考え方は「終天教団」という作品にも色濃く反映されていた。5つのシナリオルートに異なる5つのジャンルが割り当てられている本作だが、それぞれのゲームシステムはあくまで物語を紐解くまでの“遊び”という手段に過ぎない。

　ADVに触れるプレーヤーが本質的に求めているものとは、その作品における“謎”や“真相”だ。事件の全体像はどのようなものか。このキャラクターのバックボーンとは。世界観を構成するルーツはなんであるのか。これらのクエスチョン、あらゆる謎がプレイヤーの好奇心を煽り、どんどんとプレイを先へと進めたくなる。

Tookyo Gamesディレクター/シナリオライターの中澤工氏

　小高氏は、これまでの作品と「終天教団」においても“サスペンス”が根本にあると明かしてくれた。サスペンスでありミステリーであることこそ、彼の作家性が強力に発揮される掛け合わせなのだ。謎が少しずつ解き明かされていく過程と、巧みなミスリードによって常にプレーヤーの関心を物語に向けさせてくれる。

　そしてそのDNAは間違いなく「終天教団」にも受け継がれている。果たして、ゲーム発売後にADVファン、小高ファンからどのような声が寄せられるのだろうか。クリエイター・小高和剛氏のADVにおける挑戦はこれからも続いていくだろう。