「電遊道」~Way of the Gamer~ ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ

ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ【第30幕】

イタヲタのレトロなゲームライフ~ジョン・カミナリのハプニング満載オタク人生~

僕のゲーマーとしての人生を懐かしさたっぷりで語っていきたい。毎回、特定の時代をセレクトして、自分の記憶への冒険をしたいと思う。最終的には1つのストーリーになる。僕というオタクのストーリー。僕という和ゲー好きゲーマーのストーリー。文章だけでなく、クライマックスのシーンをもっとダイレクトに伝えるために漫画も使うことにした。とにかく、日本ではありえないシチュエーションについてたっぷり語っていくぞ!

今回の時代設定:
1996年
イベント:
最高のゲーム友達、エマちゃんと初日本旅行!
ハプニング:
なるべく多くのゲームを買うためのサババイル生活が始まる!

 1996年。ローマの日本文化会館の日本語講座を受けることにした。「これで、ゲーム友のエマちゃんと遊ぶ日本のRPGの文章が理解できる日が来る!」という明るい未来を信じつつ、毎週、日本語講座に通っていた。

「スミスさん、お元気ですか?」
「ゲンキデース」

 教室にお決まりのアメリカ人と日本人の間の会話が流れる。あらゆる言語の勉強は挨拶から始まる。もちろん基本は大切だが、僕は焦っていた。早くRPGの難しい台詞を理解したかったから、日本文化会館にあった図書館から書籍を借りて、家でも独学で勉強を進めていた。

 スミスさんが嫌いなわけではなかったが、講座の順序を無視して自分で漢字の勉強を積極的に進めることにした。半年で1,000前後の漢字を読み書きできるようになっていた。文法のほうも少しずつ難しい表現も理解できるようになっていた。

「私はスミスです。アメリカから来ました」

 相変わらず教室ではスミスさんが大活躍。しかし、僕の頭はRPGで読んでいた台詞でいっぱいだった。授業が終わったら、先生に理解できなかったRPGの台詞が書かれたメモを見せていた。先生は「なんじゃこりゃ?」のような顔で、その難解な台詞の意味を必死に解釈しようとしていた。

 1年目の講座が終わり、夏休みが訪れた。同年代の若者はみんな海に行って海水浴を楽しんでいたが、僕は1人で家に閉じこもり、1日中日本語の勉強に励んだ。なぜなら、9月にエマちゃんとの初めての日本旅行が決まったからだ。それまでに日本人と日常会話ができるようになりたかったのだ。ノートのページが漢字で埋め尽くされていくと共に確実に僕の日本語力はレベルアップしていった。これで、僕の人生初の日本旅行がより一層楽しめるようになるのだ!

 1996年9月。待ちに待った出発の日がきた。僕にとっては初めての日本だけでなく、初めての飛行機体験でもあった。飛行機に乗るのは少し怖かったが、日本のゲームのためならどんな恐怖でも乗り越えることができると信じつつ、エマちゃんとおそるおそる機内へと足を踏み入れた。初めての飛行機体験はあまりにも長かった。12時間以上の飛行時間だった。でも、その12時間が過ぎたら僕達は子供の頃から憧れていたアニメとテレビゲームの魔法の国、日本での旅が待っているのだ。

 実は、僕達の宿泊するホテルは東京ではなく箱根にあった。エマちゃんが温泉にも憧れていたので、僕に相談せず箱根のホテルを予約していたのだ。東京から離れていたが、行けない距離ではなかった。結局、成田空港から3時間以上の乗車時間も余儀無くされた。幸い、ホテルは箱根駅のすぐ近くだった。しかも、スーツケースはほぼ空っぽだったので(メインミッションはゲームでいっぱいにしイタリアに持ち帰ることだった)、体力をそれほど消耗せずに楽に移動していた。

 僕達はようやく、ホテルの受付の前に到着した。非常に疲れていたせいか、エマちゃんは意味不明な英語を披露する。

「アイ・ゴット・ザ・キー」

 カギを獲得した? えっ? どういう意味なの、エマちゃん?! カギを下さいと言いたかったでしょう? エマちゃんはよっぽど疲れている様子だった。しかし、受付嬢はその意味不明な過去形を理解したらしく、素敵な笑顔を見せながら部屋のカギを渡してくれた。「ほらジョン、ここで初日本語を披露するのだ!」、その時、自分に命令した。恥ずかしさと闘いながら、僕は口を開いた。

「あ、ありがとうございます!」

 あれ? 言えた?! 日本語が使えた! 簡単な日本語だったが、受付嬢に通じたようだ。これから、どんどんRPGのような難しい台詞もいっぱい使おうと、その時自分に誓った。

 滞在期間は2週間だった。1週目は箱根周辺で過ごした。日本の温泉はイタリアと違って全裸で入る常識だったので最初はやや抵抗があったが、2人とも少しずつ慣れていった。最初はやはり股間を手拭いで隠したまま入っていたが、慣れてきたら、何も隠さず大胆に入れるようになった。

 到着して3日目。温泉や自然も素晴らしいが、やはり僕達の第1目標はテレビゲームだった。オタク達のパラダイスと知られていた秋葉原にはその翌週に行く予定だったが、今週は箱根周辺のゲームショップ探しに集中することにした。

 箱根にはそれらしき店がなかったので、駅の人に聞いてみたら、小田原に行ってみて下さいと勧められ、早速、目的地に向かうことにした。まず、欧州でも有名な観光スポットである小田原城を訪ねた。そして、エマちゃんがカメラのフィルムを切らしたところで、「テレビゲームショップを探そう!」というミッションに移った。

 小田原城から適当に歩いて15分経過した。長く続く商店街に到着した。通りの両側に喫茶店、八百屋、理髪店など、あらゆる店が連なっていた。しかし、肝心なテレビゲームショップの姿はないかのように見えた。

「あと5分ぐらいこの道を進もうよ。それでも見つからなかったら、今日は諦めよう」

 僕はエマちゃんにそう言って、道をそのまま歩き続けた。そしたら、右側にカタカナで書かれた大きな看板が見えた。その看板には言うまでもなく「テレビゲーム」と大きく書かれていた。

「あった!」

 エマちゃんは先に感激の声を発する。僕達にとって初めての日本のゲームショップ。それまではイタリアで日本から輸入されたゲームを購入していたが、本場でゲームを買える日がくるとは夢にも思わなかった。

「早く行こう!」

 僕とエマちゃんはソニックのように店の入り口に向かって超高速で走っていった。僕達のまだ知らないRPGやアドベンチャーゲームがどれほどあるのだろうか?

 店内へと入った僕達はまるで西部劇で観られるカウボーイがバーに入る場面に似ていた。平日の朝だったので、店内にはほぼお客さんがいなかった。つまりこの店は、今僕達が一時的に“占有”できるのだった。棚にはあらゆるジャンルのゲームがびっしり並んでいた。夢のようだった。一瞬僕は頬をつねってみる。痛っ! これは現実だ!

 その間にエマちゃんは既にRPG専用のコーナーに移動していた。僕は反対側のアドベンチャーゲームコーナーに向かってみた。RPGよりも、日本のアドベンチャーゲームにハマっていたのだ。漢字を思い出しながら、ゲームパッケージのタイトルを必死に解読しようとする。

 セガサターンの「サクラ大戦」。プレイステーションの「ときめきメモリアル」。そして、セガサターン用に移植された「同級生」などエルフ作品の数々。そのすべてが買いたくなった。所持金はあったが、今すべてを使えば、食費や滞在費に必要なお金はなくなる。一体、どうすればいいのだろう。

 頭を抱えていると、無頓着な様子のエマちゃんは積み重なった1メートルほどの高さのゲーム箱を持ちながら、レジに向かおうとしていた。どうやらエマちゃんは食品なしのサバイバル生活をすでに覚悟していたようだった。じゃあ僕もそうしようかと決意し、エマちゃんと同じ行動をとってみた。

 30分後、僕とエマちゃんは重たいビニール袋を手に持って小田原駅の前に戻っていた。エマちゃんはイタリアでは絶対に手に入らないような、誰も知らないRPGを山ほど買っていた。孤島の洞窟に隠された宝箱をとうとう発見したトレジャーハンターかのような表情を浮かべていた。

 これで、何十年も大好きな日本のRPGで遊べるという大満足の顔だった。僕ももちろん嬉しかった。日本語の勉強に便利な日本のアドベンチャーゲーム。遊ぶ感覚で日本語が上達していくなんて恵まれているなと、その時強く感じた。

 結局あの日、所持金の半分を使ってしまっていた。残りの半分があるじゃないかと思っているかもしれないが、実は余った所持金はその翌週に予定されていた秋葉原での冒険に必要だった。本当のオタクはゲームのためなら死ねるのだ。あの頃僕達は、まさにそうだったのではないだろうか。

 しかし食生活も大切! 大人になった今では、決してやってはいけないことだとあの時の僕達の無責任さを非難する。でもそのおかげで10キロぐらい痩せることができた。たまにはオタク的なサバイバル生活も悪くないなと思う時があるのだ……。

サクラ大戦

プラットフォーム:
セガサターン
発売元:
セガ
発売時期:
1996年
ジャンル:
ドラマチックアドベンチャー

 僕のお気に入りジャンル、アドベンチャーとRPGを1つのゲームに凝縮するゲームが誕生するとは、あの頃、夢にも思わなかった。「ときめきメモリアル」的な恋愛要素に、ロボットをベースにしたシミュレーションRPG的なバトルパート。そして、ゲームはアニメのエピソードを彷彿とさせる流れや演出を持っていた。「サクラ大戦」に初めて出会った時、もうほかのゲームは要らないのだろうと、一筋な気持ちでプレイしまくった。すべての女性の心をゲットするために。信頼関係を築いて、バトルパートの成果を上げるためにも。

 イタリアで有名な漫画家、藤島康介氏のキャラクターデザインで、まず、女性のキャラクター達はすごく魅力的だった。恋愛シミュレーションのように、会話パートで選択肢が現われ(ここでLIPSというシステムで制限時間内に返事を選択しなければならなかったので、緊張感がほかのゲームよりずっと高く保たれていた)、返答によって相手の信頼度・好感度が変動し、それがバトルパートでの味方の行動に影響を与えていた。

 バトルパートももちろん、各話のクライマックスとして重要な役割を担っていたが、僕のお気に入りパートは大帝国劇場を舞台にしたアドベンチャーパートだった。ヒロイン達との信頼度を上げるために劇場内を移動し、多種多様なハプニング・イベントに遭遇する、とても重要なパートだった。優れた台詞のおかげで会話パートはいつも印象的で、しかも選択肢が多くあったので、毎回違う展開が楽しめるようになっていた。

 今でもすごく印象に残っているのは、画面内のあらゆる物を調べるのに使用するカーソルだった。そのカーソルは対象物によって、いろんな形に変わっていた。例えば、スケベ目カーソルバージョンもあり、それは言うまでもなく、女性の胸元にカーソルを合わせる時、スケベな表情をした形に変化していた。そのままボタンを押したら好感度が劇的に下がるに違いないと確信しつつ、やはり誘惑に負け、毎回ボタンを押していた僕がいた。

 「サクラ大戦」の楽しみ方の1つは、「本当はやってはいけないことを試してみる」ということだったと思う。「スケベ王」的な最低の結果を出してから、2周目では「良い子ちゃん」としてのグッドエンディングを迎えるために最適の返答を見つけようというふうに、僕は遊んでいた。

 「サクラ大戦」は、すべてのイベントを楽しむために何回もクリアする必要のあるアドベンチャーゲームだった。コミカルなシーンもあれば、ロボットアニメのようなとてもドラマチックなシーンもあった。ストーリー展開は絶妙なバランスを誇っていたと思う。

 最近「サクラ大戦」は、劇場での公演で注目を集め続けていると聞いているが、可能なら、同時に家庭用ゲーム機でのシリーズも続けて欲しい。アドベンチャーゲームは昔のように売れないという常識になってきているようだが、こんなに豊かなゲーム性や魅力的なキャラクターを誇る「サクラ大戦」シリーズが終わるのは、絶対にダメだと強く思っている。

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