西川善司の3Dゲームファンのための次世代ゲームテクノロジー講座
3D立体視元年を迎え“3Dゲーム”の今後の行方はどうなるのか?
2009年はPS3やXbox 360などが、ユーザーにとって名実共に「現行機」として浸透が進み、開発側にとっては「本当の実力」への理解が進み、ハードウェアのポテンシャルを使い切ったタイトルを送り出せるようになってきた。まさに、PS3、Xbox 360は「成熟期」を迎えた年になった。
2010年は、さらに成熟が進み、全体的な表現レベルは各段に底上げされた一方で、ユーザーの目も肥え始め、ゲームグラフィックスの善し悪しだけでは、ゲームの評価は上がらなくなってきた。これは「ユーザーの目は厳しさを増した」と言い換えてもいいだろう。
だから、というわけでもないだろうが、今年SCEとマイクロソフトは、共に映像体験以外の新しいゲーム要素として、モーション入力システムという新インターフェイスを導入して来た。さらに、これに「立体視への対応」という要素も組み合わされ、ゲーム体験は華やかさを増したように見える。
そんな流れを踏まえて、2010年の3Dゲームグラフィックス関連の技術動向を振り返り、次世代ゲームがどうなっていくのかを、やや妄想を交えながら予想していくことにしよう。
【著者近影】 | ||
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2010年11月、ついに本連載が書籍化された。書籍名はそのまま「3Dゲームファンのためのグラフィックス講座」だ。本連載で取り扱ったタイトルのうち新旧にこだわらず、業界に大きな影響与えた10タイトルをピックアップした。また、GAME Watch記事内では掲載できなかった各技術の概念をイラスト化した図解も盛り込んでおり、より噛み砕いた内容になっている。書店で見かけたら是非手にとって欲しい。表紙がとても恥ずかしいという呼び声も高いが(笑)。 |
■ 3D立体視ブームと3Dゲームのホットな関係
家電メーカー各社が矢継ぎ早に3Dテレビの製品化をした2010年は「3D元年」と言われる |
3Dブラビア「KDL-46HX900」。ソニーは3Dゲームプラットフォームと3Dテレビの双方を提供できるメーカーであることを強調する |
東京ゲームショウ2010にて立体視対応に関してのアナウンスを行なったSCEJプレジデント河野 弘氏 |
2010年は「3D元年」と言われ、各家電メーカーからこぞって立体視に対応した3Dテレビが発売された。立体視技術に携わる研究者は「立体視は昔からあったので2010年が元年というのはおかしい」と口を揃えるが、今回の立体視ブームは、民生向けに広く一般化されたという意味においては「元年」といって差し支えないだろう。
なにしろ、それまでの立体視は、楽しむためには各メーカー独自の製品を揃えて限定的な環境で、それ向けに最適化されたソフトで楽しむか、それらの機材が完備した施設に行くことでしか楽しめなかった。今回の立体視ブームでは、全ての立体視対応機器や立体視対応ソフトが、メーカー間の垣根を超えて利用できる点で、普遍化の第1歩を踏み出したという感がある。
これは家電製品向けの業界標準のデジタルインターフェイスHDMI(High-Definition Multimedia Interface)が、最新のバージョン1.4aにて、立体視フォーマットを細かく規格化した事の恩恵が大きい。
2010年2月、パナソニックは立体視対応の3DプラズマVIERA「VT2」シリーズを発表、このあと、ソニーが3DブラビアLX,HXシリーズを発表、シャープは3DアクオスLV3、LB3シリーズ、東芝は3DレグザZG1、F1、X2シリーズを投入する。現在は、薄型テレビの販売数全体に占める3Dテレビの割合は5%程度だと言うが、メーカーは2011年には、これを10%以上に引き上げたいというから、かなり気合いが入っている。
こうした一連の3Dブームを追い風と認識して積極的にマーケティング戦略を展開しているのがPS3を有するソニーグループだ。ソニー・コンピュータ・エンタテインメント(SCE)は、2010年4月にはファームウェアアップデートにより全てのPS3を立体視に対応させ、6月には「STAR STRIKE HD」、「WipeOut HD」、「Mr.PAIN」などの立体視対応ゲームの配信を開始した。
また、2010年6月のE3 2010のSCEプレスカンファレンスでは、2011年3月までにPS3に20タイトルの立体視対応タイトルのリリースを予定していることをアナウンス。東京ゲームショウ2010では、その立体視対応タイトルには「ファイナルファンタジーXIV」(スクウェア・エニックス)、「メタルギアソリッド・ライジング」(KONAMI)、「絶体絶命都市4」(アイレムソフトウェアエンジニアリング)が含まれることを予告した。
SCEJプレジデントの河野弘氏は、「世界に3,800万台普及したPlayStation 3は、世界で最も普及した3D立体視プラットフォームであり、ゲームこそ、3D立体視対応テレビのメインコンテンツである」と宣言。3Dテレビ製品と立体視対応ゲーム機の双方を有するソニーグループの動きは早く、そして攻撃的であった。
対する任天堂は、2010年3月、立体視に対応させた携帯ゲーム機を発表することを予告。その後のE3 2010では、完成度の高い試作機を公開したことで注目を集めた。「ニンテンドー3DS」と命名されたこの立体視対応の携帯ゲーム機は、3Dテレビの多くで採用されているアクティブシャッター機構搭載の立体視眼鏡を掛けることなく、裸眼による立体視に対応していることが強調された。
3DSに採用された裸眼立体視ディスプレイは、視差バリア方式だが、この視差バリアをオン/オフできる「アクティブ視差バリア方式」を採用していた。立体感の調整はソフトウェア処理によるもので、視差バリアそのものはハードウェア的にはオン/オフにのみ対応する。裸眼立体視の方式にもいくつかの方式があるが、いずれにせよ、視野角が狭く、奨励視域が限定的になると言う弱点を持つ。しかし、携帯ゲーム機であれば、プレーヤーは1人であり、手に持って画面を見るため、そうした弱点が問題にならない。
また、PS3とは違い、まだまだ高値の3D立体視に対応したテレビを追加購入することなく、3DS本体のモニターだけで立体視ゲーミングが楽しめると言うことも大きなアドバンテージである。かくして、立体視ゲーミングは、「ソニーPS3」対「任天堂3DS」という様相を強めると同時に「ソニーの眼鏡立体視主体の3Dテレビベース」対「任天堂の組み込み裸眼立体視ディスプレイベース」という戦いの側面も見えてきた。
立体視ゲーミングが、今後のゲーム体験において、主流になるかどうかはわからないが、今後、立体視ゲーミングが身近な存在になっていくことだけは間違いない
【ニンテンドー3DS】 | |
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ニンテンドー3DSは、オールインワンの3Dゲーミングプラットフォームであることを強調する任天堂社長、岩田聡氏(左)。3DSは2011年2月26日、予価25,000円で発売が予定されている。画面は「nintendogs+cats」より |
■ にわかに台頭し始めたモーション入力システム
2010年はソニーが「PlayStation Move」(PS Move)を送り出し、マイクロソフトが「Kincet」を投入した年でもあった。これらは任天堂のWiiと同系の、プレーヤーの身体の動きをゲーム機に認識させるタイプのマンマシンインターフェイスになる。
ゲームがゲーマーのためだけに進化していき、難易度が高くなると同時にゲームのプレイスタイルが画一化されていくのを憂い、任天堂はゲームの楽しさをカジュアルゲーマー層に振り戻す意味合いでモーション入力システムのWiiリモコンの仕組みを提供した。
PS3へのPS Move導入や、Xbox 360へのKinect導入は、任天堂がWiiに対して行なった「新しいゲーム体験の提供により、ゲームの楽しさをカジュアル層に広めていく」という目論みがメインだと思われるが、次世代機のリリースは当面先送りされていることから、現行機の延命戦略的な側面とみる分析もある。
PS3用PS Moveは、先端に光球の付いたスティックを手に持ってモーション入力を行なうタイプのコントローラーで、使い勝手自体はWiiリモコンとよく似ている。PS Moveコントローラー内には、3軸のジャイロセンサー、3軸の加速度センサー、地磁気センサーが内蔵されており、ユーザーの手の動きや姿勢をこれらの情報から算出する。コントローラー先端の光球は、PlayStation Eye(PS Eye)と呼ばれるUSBカメラデバイスによって捉えられ、その取得イメージの円形状の大小を認識して、PS Eyeからの距離を認識する。この光球の大小で、プレーヤーとの距離を推し量るのだ。
PS Moveのコントローラー先端の光球がどうして“球体”なのかというと、どこから見ても真円として捉えられるからだ。これは発想としては、旧来のモーションキャプチャー・システムがボディスーツにピンポン球形状の反射球を付けていたのと同じ理屈だ。
カメラデバイスのPS Eyeが顔面認識をするため、両手にPS Moveコントローラーを握った状態であれば、逆運動学(IK:Inverse-Kinematics)に基づく人体姿勢の知識モデルとを組み合わせて、リアルタイムに人体の姿勢を推測する。ただし、PS Moveシステムでは、基本的にはPS Moveコントローラーの認識しか行なっていないため、下半身の動きをIK理論で導き出すことはできない。
【PlayStation Move】 | |
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SCEの「PlayStation Move」と、E3 2010で注目度が高かったPS Move専用ソフト「Sorcery」。PS Moveコントローラーを魔法の杖のように振ることで様々な魔法が発動できる。PS Move専用のシリアスゲームだという点においても注目度が高い |
一方、Xbox 360用Kinectは15本程度の人体のボーン構造をリアルタイムに認識することができ、遅延は発生するものの、同時に複数人の人体の姿勢をリアルタイムに取得することも可能となっている。
システムの根幹となっているのは、赤外線ベースの深度センサーだ。これは、赤外線光源とこれを捉えるCMOSセンサーの組み合わせによって構成され、その対象範囲の遮蔽物までの距離をリアルタイムに取得することによって実現されている。
KinectにもカラーのCMOSカメラ(イメージセンサー)が組み込まれており、ここからの取得映像を解析して顔面認識などを行ない、深度センサーの情報と組み合わせて人型を認識している。人型を認識したあとは、PS Moveと同様に、IK理論に基づいた人体の姿勢の推測を行なう。
【Xbox 360 Kinect】 | |
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マイクロソフト「Kinect」と、ユービーアイソフトの「ユアシェイプ・フィットネス・エボルブ」は姿勢や手足の動きまでをレクチャーしてくれる本格派のフィットネスゲームとして登場した。日本語版も発売された |
なお、Kinectでは、PS Moveと違い、上半身だけでなく、下半身のアクションも取得できるのが特徴で、ダンスゲームやフィットネスゲームなどに大きな革新をもたらした。これまでのダンスゲームは地面に敷かれた足押しボタンを押すだけの、いわばステップの正確さを競うものにとどまっていたが、Kinectでは手足や身体の動きを判定できるため、手足が連動したダンスモーションの正確さを競うことができるようになったからだ。同様に、任天堂の「Wii Fit」に代表されるフィットネスゲームも、これまでは両足の荷重変化だけを見ていただけだったものが、手足の動きや姿勢をトラッキングできるようになるため、ヨガのポーズや太極拳の型などを正確にレクチャーすることが可能となる。
3社が同系統のサービスを提供すると、当然出てくるのが、「どれが1番優れているか?」という議論だが、実はあまり意味がない。それぞれの方向性が異なるからだ。
たとえば、コントローラーいらずのKinectに対して、PS MoveはPS Moveコントローラー常に手に持った状態でプレイする必要があるが、手の動きを検出するからこそ、細かい手の動きや、PS Moveコントローラーのボタンによるアクションを取得できる。一方、Kinectは、現状の深度センサーの精度では、手の向きや角度、指の動きは認識できないものの、全身の手足の動きや姿勢を認識できる利点がある。
PS Moveは、精度の高いアクション入力をメインテーマとしたゲームが主流となり、Kinectは身体全体を動かすことを主眼に置いたゲームが主流となることだろう。
■ 3D立体視とモーション入力システムが新しい3Dゲームの世界を切り開く
12月20日よりメタルギアオンラインのアーケード向けリファインバージョンに相当する「メタルギア・アーケード」(コナミ)の稼動が開始されている。同作は立体視と頭部の動きを検知するヘッドトラッキングに対応していることで話題を呼んでいる |
SCEA Senior Researcher Richard Marks氏 |
さて、3Dテレビによる3Dゲームグラフィックスの立体視とモーション入力システムの組み合わせは、新しいゲーム体験を切り開くのではないか、と言う期待感がある。
12月20日より「メタルギアオンライン」のアーケード向けリファインバージョンに相当する「メタルギア・アーケード」(KONAMI)の稼動が開始されている。同作は立体視と頭部の動きを検知するヘッドトラッキングに対応していることで話題を呼んでいる。
PS Moveにしろ、Kinectにしろ、共にIK理論を取り入れたモーションキャプチャーに近いことができるようになることから、ジョイパッド操作やボタン操作を超越したユーザーの動きを仮想世界へ直接反映させることができるようになる共通点がある。
立体視時、こうしたモーション入力システムを用いてユーザーが身体や手足を動かして入力したアクションは、ユーザーの分身キャラクターに"立体的"に再現されて仮想空間内に反映されるため、ユーザー自身があたかもほとんうに仮想空間に入り込んでいるかのような没入感が得られる。
このような未来予想図を熱く語るのはPS Moveの生みの親、SCEA Senior Researcher Richard Marks氏だ。Richard Marks氏は、PS MoveがPS Moveコントローラーをユーザーが直に持つ仕組みであり、手の動きや、ボタンをしたときのアクションを取得できるために、きめ細やかなアクションを仮想空間へ伝えやすいとE3 2010でのPS Move技術説明会にて熱っぽく語っていた。
具体的には、PS Moveでは、例えば、仮想空間内のオブジェクトを“立体視覚”的にポイントしたうえで「削る」、「叩く」、「引っ張る」といったアクションをコントローラーのボタンを押すことで行なうことができる。加えて、PS Moveコントローラーには振動機能があるため、仮想空間内のオブジェクトにインタラクトした際に、振動を起こすことで仮想空間内のオブジェクトからのフィードバックを得たような感覚を再現できる。PS Moveは、2D時は単なるゲームコントローラーだが、立体視と組み合わされることで、仮想空間との双方向ナビゲーション・インターフェイスとしての素養が現われてくるとRichard Marks氏は言いたいのだろう。
なお、こうした立体視とモーション入力システムを組み合わせた新しいゲーム体験は、PS3にて提供が始まりつつある。2011年2月17日発売予定の「つみきBLOQ」は3DテレビとPS Moveの両対応で、通常のテレビでもプレイ可能だが、3Dテレビで立体視でプレイすると、より精度の高いインタラクションを仮想空間に対して行なうことができる。「つみきBLOQ」はシンプルなゲームであり、「立体視×モーション入力システム」が切り開くかもしれない新しいゲーム体験の全てが凝縮されているとは言い難いが、その可能性の片鱗はうかがい知ることができる。
【立体視×モーション入力】 | |
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「立体視×モーション入力」によってより濃密なゲーム世界との双方インタラクションが可能になる? |
【つみきBLOQ】 | |
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「つみきBLOQ」は立体視、PS Move両対応で2011年2月17日発売予定。東京ゲームショウ2010では「つみきBLOQ」は、立体視×PS Moveの両対応でプレイアブル展示された |
■ 次世代コンピューターエンターテインメントにはAR、MR、TIの要素が盛り込まれていく
マサチューセッツ工科大学メディアラボ 副所長・教授の石井裕氏 |
現在発売中のPS3用のバーチャルペットゲームの「Me&MyPet」は立体視とPS Moveの両対応 |
「映像が立体的に見える」と「自由な動きをゲーム世界に入力できる」が組み合わされたその先に、新しいエンターテインメント体験として、「拡張現実」や「複合現実」をゲームに取り入れていこうとする動きも出てきている。
拡張現実(AR:Augmented Reality)と複合現実(MR:Mixed Reality)は、共に現実世界とCG世界を連動させる技術だが、ARはユーザーが現実世界へのインタラクションを支援するための技術とし、MRはARよりもCGの重要度が高く、インタラクション対象も現実世界だけでなく、仮想世界(CG)にも拡張させた技術と区別する研究者もいるが、ARとMRを区別しない研究者もいる。
また、ARやMRの先には、「タンジブル・インターフェイス」(TI:Tangible Interface)というものもある。これはマサチューセッツ工科大学メディアラボ 副所長・教授の石井裕氏が提唱した概念で、現実世界には実体として存在しないCGを現実世界に実体として具現化させてインタラクトできるようにしたり、あるいは現実世界側の実体物を動かすことで直観的かつ直接的に仮想世界へインタラクトするための技術と説明されている。
拡張現実という概念は、iPhoneアプリの「セカイカメラ」(頓智ドット)などで、広く知られるようになり、ゲームの世界にもこの流れが徐々にやってきている。例えば、現在発売中のPS3用のバーチャルペットゲームの「Me&MyPet」は立体視とPS Moveの両対応ソフトだが、PS Eyeで捕らえた実写情景映像とPS3側で生成したCGとを合成して、あたかも現実世界にいるプレーヤーと仮想空間のCGペットがリンクしているような感覚のプレイ体験を提供している。これはいわゆるARタイプのゲームの一種だと言える。
このARタイプのゲームは携帯ゲーム機にも波及しそうな見通しがある。ニンテンドー3DSには、「ARゲームズ」という拡張現実型のゲームが内蔵されており、シンプルだが新しいゲーム体験の可能性を感じさせてくれるものとなっている。
3DSには2眼の3D撮影可能なカメラが搭載されているが、商品セットに付属するマトリクスコードのような図柄が描かれたARカードを、このカメラを通して見ると、現実世界側には何もないのに、3DS側の立体ディスプレイに映し出された現実世界の情景には、そのカードの位置からモンスターが出現しているように見えるのだ。ユーザーは、カードが3DSの画面から外れないように3DSを持ったまま、このモンスターの弱点を探すためにカードの周りを動き回ることになる。
弱点を発見したら、ユーザーはその位置から3DSを動かして弱点に照準を合わせ、攻撃を仕掛ける。うまく攻撃が命中するとダメージが与えられるが、モンスターは、再び弱点を隠して姿勢を変えてしまうため、ユーザーは再び3DSを持ったままカードの周りを歩き回り弱点を探すことになる。
3DSを通して見た現実世界にだけモンスターが表示され、しかもプレーヤーが現実世界を動き回りながら弱点を探したり、攻撃を仕掛けたりするという体験は、まさにARならではのゲーム体験といった感じだ。
【ARゲームズ】 | |
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ARカードを3DSで捉えると、ガードの歪み具合から、カードの置かれている3D空間を把握し、現実世界の情景につじつまの合う形でCGを合成する。ARカードを変えることで様々なCGキャラクタが出現する |
こうしたAR技術やMR技術をエンターテインメントに応用しようとする研究は、大学やIT企業などの研究機関でも行なわれている。例えば、立命館大学の研究グループは、SIGGRAPH ASIA 2009やSIGGRAPH 2010にて、MRタイプのゲームを発表している。
SIGGRAPH ASIA 2009で発表された「KAIDAN」では、現実世界の広がりとつじつまの合う形でCGのお化けを出現させるが、それだけでなく、現実世界の情景に半透明のライトマップテクスチャを適用して、CGで現実世界の情景のライティング効果をリアルタイムに変えて見せていた。被験者は手持ちの剣の柄コントローラーを振りまわして、この幽霊を撃退するのだが、実体物の剣の柄には刃(やいば)はなく、刃はCGとして出現させている。
【KAIDAN】 | |
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左上が「KAIDAN」のシステム概念図で、右上が「KAIDAN」を楽しんでいるところ。下段は左側が、現実世界側の情景で、右が被験者から見た視界。現実世界にCGを合成してライティングするという発想が新しい。現実世界では消えている提灯も、被験者視界では光って見える |
SIGGRAPH 2010で公開された「百鬼面」も、「KAIDAN」に近いものだが、こちらは現実世界に出現した“鬼”達を手裏剣を撃って倒すシューティングタイプのMRゲームとなっていた。
立命館大学の実装では、眼鏡型のディスプレイ装置、ヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)を被験者に装着させていたが、よりシンプル化すれば3DSでも実現できそうだし、ユーザーの1人称視点にこだわらなければ、現在のPS MoveやKinectでも近いことができるはずだ。
【百鬼面】 | |
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左が「百鬼面」を体験しているところ。手をこするジェスチャーで手裏剣発射する。右が被験者の視界。プレーヤーのHMD越しには、現実世界を動き回る小鬼達が見える |
「RePro3D」を体験しているところ |
TI技術を応用したエンターテインメントの研究も出てきている。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科が2010年10月に発表した「RePro3D」は、多視点対応の裸眼立体視ディスプレイに表示したCGキャラクタと現実世界の実体物を合成して見せるだけでなく、そのCGキャラクタに触ったり押したりすることができるシステムとなっていた。被験者の指とCGキャラクタの衝突判定を取るだけでなく、触ったときには触覚も得られると言う点がユニークで、まさに「MRでありTIでもある」という感じだ。
電気通信大学(児玉研究室、小池研究室)が開発した「Bouncing Star」もTI技術ベースのゲームといえる。Bouncing Starとは、直径約10cmのボール状の光球を指し、現実世界に投射されたCGに対し、これを投げることで、このCGにインタラクションできる仕組みになっている。開発されたゲームはブロック崩し、おはじき的なゲームなどで、この光球、Bouncing Starが、CG世界と現実世界を繋ぐTIデバイスと言うイメージだ。
【Bouncing Star】 | |
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「Bouncing Star」は現実世界に投射されたCGブロックを、実体物のBouncing Starで消していくブロック崩しゲーム |
さて、1人称ベースのARやMRを本格的に実現しようとするならば、3Dテレビではなく、現実世界の情景とCGをリアルタイム合成できる立体視対応のヘッドマウントディスプレイ(HMD)が望ましいだろう。「そんなものが民生向けにやってくるのはまだまだ先のことでは?」と思う人も多いかも知れないが、実はHMD関連技術もかなり進化しており、コストダウンが進んでいる。
この分野で、高い評価を得ている米VUZIXは、6軸加速度センサー、方位センサーを内蔵しヘッドトラッキングに対応したAR対応のゴーグル型立体視ディスプレイ「Wrap920AR」を126,000円で発売を開始した。頭部の動きや向きに連動に対応した現実世界の情景とCGを合成表示が可能なため、固定設置された3DテレビでプレイするAR/MRゲームよりも遙かに高い没入感が得られる。
126,000円と言う価格は、絶対的な金額としては安くはないが、機能性を考えればむしろ割安と言えなくもない。AR体験やMR体験は屋内だけでは飽きが来てしまうので、このように携帯できるウェラブルディスプレイの形態はまさに理想的だといえる。今後、携帯ゲーム機が、こうしたAR仕様のゴーグル型ディスプレイに対応してきたりすれば、ARゲームやMRゲームの可能性が一気に広がりそうだ。
【Wrap920AR】 | |
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東京ゲームショウ2010で公開されたVUZIXの最新型のAR対応のゴーグル型ディスプレイ「Wrap920AR」 |
こうしたAR仕様のHMDを用いて、MR的で、なおかつTI的なエンターテインメントの研究をしていたのがNTTドコモ総合研究所だ。同研究所が2005年に発表した「U-TSU-SHI-O-MI」は全身緑色の等身大ロボットと前出のようなAR対応型HMDで構成されており、被験者視点からは、緑色のロボットにはCGキャラクタがクロマキー合成されるようになっている。そう、被験者からの視界では、現実世界の情景にCGキャラクタが等身大で出現したような錯覚が得られるのだ。
システム側では被験者の視線の向きや方向も認識しているので、被験者が移動したりしゃがんだりすれば等身大で出現したCGキャラクターの横側を見たり、下から見上げたりすることもできる。CGキャラクターの顔には豊かな表情アニメーションが適用され話しかけてくるが、CGが投射されている緑色のロボットは実体物なので、被験者はこれに触ったり抱きついたりすることも可能だ。まるで現実世界に出現したCGキャラクターに振れている感覚が得られるというわけで、これはある意味TI的な体験だと言える。
なお、発表段階では緑色のロボットはロボットアームが仕込まれており、被験者と握手することが可能であった。ホンダのASIMOを緑色に塗ってこのシステムに適用すると面白そうだが、現在は開発が停止しているとのこと。コスト的に等身大の自律行動型ロボットとなると、直近で民生向け応用は難しそうだが、1/10スケールとかのフィギュアなどで実現すれば、「ラブプラス」のようなバーチャル彼女系ゲームの次世代系の実現様式として面白いかも知れない。
■ DirectX関連の最新動向~出揃った両雄のDirectX 11世代GPU
DirectX 11のレンダリングパイプライン。拙著「ゲーム制作者になるためのグラフィックス技術」より抜粋 |
テッセレーションステージは「ハルシェーダ」(Hull Shader)、「テッセレータ」(Tessellator)、「ドメインシェーダ」(Domain Shader)の3つのシェーダー・ステージから成る。図は、各シェーダーステージを擬人化した概念図 |
だいぶ空想話や予想話が広がったところに水を差す感じになるが、話を“現代”よりのグラフィックス技術に戻すことにしよう。
2010年は、PS3、Xbox 360といった今世代機での3Dゲームグラフィックスは成熟を迎え、いうなれば安泰期というか安定期を迎えたような感じだが、最新技術を牽引するPCの世界では少なからず動きがあった。2009年10月にWindows 7が発売され、これと同時に最新のグラフィックスパイプラインを提供するDirectX 11もリリースされた。
DirectX 11についての詳細は本連載で詳しくふれているので詳細は割愛するが、DirectX 11では新しいシェーダーステージとして「テッセレーションステージ」(Tessellation Stage)が新設された事などがホットトピックであった。
2009年のWindows 7発売時点では、AMD(ATI)が、RADEON HD5x00シリーズを投入し、DirectX 11対応プログラマブルシェーダ5.0仕様(SM5.0:Shader Model 5.0)世代のGPUの製品投入の一番乗りを果たしている。
この時、対するNVIDIAは、開発コードネーム「FERMI」と命名されたDirectX 11対応SM5.0世代のGPUを開発中であることをアナウンスしたものの、実際の製品投入は2010年の3月にまでずれ込んでしまう。最初に市場投入された製品はGeForce GTX 480/470のハイエンド製品のみで一般ユーザー向けではなく、メインストリームクラスのGeForce GTX 460の投入は、さらに4カ月後の7月まで待たなければならなかった。
先行したAMDは、この時までにノートPC向けや、ローエンドのRADEON HD5400/5300シリーズまでの製品展開を終えており、今世代のDirectX 11世代SM5.0対応GPUのマーケティング戦略は、NVIDIAがかなり出遅れた感が否めない。ただ、時間が掛かった分だけ、性能は高く、評価は高い。特に、新設されたテッセレーションステージの実効性能は、同クラスのRADEON HD5x00シリーズと比較しても圧倒的で、開発者の間でも高い評価を得ている。
DirectX 11世代GPU戦争に出遅れたNVIDIAだったが、その遅れを巻き返すべく、2010年11月には、早くもハイエンドクラスのGeForce GTX 480/GTX 470をリファインして性能を向上させたGeForce GTX 580/GTX 570を投入した。2011年早々にはメインストリームクラスのGeForce GTX 560の市場投入も噂されている。
AMDはハイエンド製品として12月に、RADEON HD6900シリーズを発表。1GPUでは競合のGeForce GTX580にはやや及ばないが、ここもやはり価格で勝負する |
DirectX 11世代GPU戦争に出足の速さを見せたAMDは、絶対性能よりもコストパフォーマンスの向上でさらなるシェア拡大を追求する戦略に出た。11月にAMDはピーク性能は先代に劣るものの、実効性能を先代並に維持しつつ実勢価格を抑えたRADEON HD6800シリーズを投入。12月には、同様のコストパフォーマンス重視のハイエンドRADEON HD6900シリーズも投入した。
RADEON HD6900シリーズは、実際の3DゲームアプリケーションやGPGPUアプリケーションに最適化を掛けるアプローチで、GPUコア内部における汎用シェーダーユニットの構成を変更した。また、テッセレーションステージの実効性能がNVIDIAの同クラスGeForceに比べて低いことに対する改善として、RADEON HD6900シリーズでは、テッセレータ周りのユニットを倍化する工夫が盛り込まれている。
【AMD】 | |
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RADEON HD69x0では汎用シェーダユニットの構成を変更したAMD | また、弱点とされてきたテッセレーションステージを司るGraphics ENgineブロックもデュアル化した |
NVIDIAはコストパフォーマンスよりは絶対的性能の高さを相変わらず追求し、対してAMDはコストパフォーマンスの高さを追求するというのが、DirectX 11世代のGPU戦争の両社の戦い方となっている。
NVIDIAが絶対性能を追求するのは、彼らのGeForceコアが、10倍以上の高値で取引できるGPGPU向けハードウェアに転用することを視野に入れているためだ。
NVIDIAは、GPUを3Dグラフィックス以外の用途に応用するGPGPU(General Perpose GPU)プラットフォームとしてCUDA(Compute Unified Device Architecture)を展開していることはご存じの通り。NVIDIAは、GeForceコアをCUDAプラットフォーム向けのGPGPU専用ハードウェアとして「TESLA」ブランドを展開しており、これが、NVIDIAが手がける製品としては大きな存在となってきているのだ。
「CUDAはNVIDIAの独自仕様のGPGPUプラットフォームだ」という指摘もあるが、サードパーティからx86ベースのCPUでCUDAアプリケーションを実行させるソリューションも発表されるほどで、事実上、HPC(High Performance Computing)分野においてのGPGPUプラットフォームとしてはデファクトスタンダード的な立場になりつつある。
【NVIDIA】 | |
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NVIDIAは自社GPUだけのテクノロジーカンファレンスを3年連続で開催した。そのメインテーマはGPGPUだった | NVIDIAは、未来の製品のロードマップを公開することを極度に嫌うメーカーだったが、今年開催されたGTC2010では次世代、次々世代のロードマップを示した。これは将来のロードマップが最重要視されるHPC市場にむけて送られたメッセージだ |
DirectX 11環境専用の3Dベンチマークソフトとして提供が始まった「3DMARK11」 |
AMDも立体視ソリューションとして「AMD HD3D」の提唱を開始した。こちらはこちらでRADEON独自のAPI経由での実現となる |
NVIDIAのTESLAは、11月に発表されたスーパーコンピュータTOP500ランキングで、世界第1位に認定された中国の「天河」、第3位の「星雲」、そして第4位に認定された日本・東工大の「TSUBAME2.0」に採用されており、新世代のスパコン・アーキテクチャの本流となりつつある。今やNVIDIAのGPUの市場は、HPC市場にも大きく展開しつつあるため、NVIDIAは3Dグラフィックスを意識しつつも、HPCを重視するためには、消費電力や歩留まり、価格などに多少無理をしてでもできる限りの最高性能を実装しようとする傾向が強いのだ。
ここで気になってくるのは、次世代のDirectX 11.1やDirectX 12についてだが、2010年のGDCやSIGGRAPHなどの関連カンファレンスにおいて、マイクロソフトはこれらの予告をしていない。よって、大方の予想では、2011年も、DirectX 11時代がこのまま続き、DirectX 11時代が成熟すると見られる。
12月に公開が開始された、Futuremarkが手がける業界標準の3Dベンチマークソフト「3DMark11」では、DirectX 10世代GPUの足切りが行われており、そのバージョン名の“11”のナンバリングが指し示すようにDirectX 11世代のGPUでなければ起動することもできない。PC関連メディアにおける性能指標が、一気にDirectX 11基準にシフトすることが予想されるため、市場やユーザーのDirectX 11世代GPUへの本格移行も起こるはずだ。
直近で行なわれるDirectX 11関連のアップデートとしては、HDMI1.4a規格の立体視フォーマット出力への対応が有力視されている。
現在、NVIDIAは、NVIDIA独自APIによる立体視ソリューション「3D VISION」を展開しているが、これを利用するためには当然NVIDA GeForceファミリーが必要になる。対するAMDは、HDMI1.4a規格準拠の立体視出力に対応したことをアピールするが、実際には、“AMD独自API経由”のHDMI1.4a規格準拠立体視出力となるため、結局、この機能を利用するためにはRADEONシリーズが必要になる。
現在のこのメーカー依存の立体視出力環境に対してマイクロソフトがDirectXで対応することによって調整対応に取り組むようだ。その意味では、2011年は、PCにとっての、本当の意味での「3D(立体視)元年」となるかも知れない。
■ ついにOpenGLがDirectXのスーパーセット的な位置付けに
OpenGL4.0のレンダリングパイプライン。DirectX 11と同等のテクノロジーが非Windows環境で利用できることとなった |
2010年はOpenGLについて、大きなアップデートがあったことも報告しておかなければならないだろう。2010年3月には、DirectX 11世代と同等のグラフィックスパイプラインを利用可能にする「OpenGL4.0」の提供が始まり、各GPUメーカーからOpenGL4.0対応のドライバの提供も始まった。
既に、DirectX 11が提供されているWindows 7&Vistaのユーザーはそれほど関心の高い事象ではないかもしれないが、Windows XPユーザーやMacOS、Linuxのユーザーにとっては、最新世代のGPUを活用する手段が提供されたと言うことで、かなり大きな事件となった。
なお、3DMark11提供前は、DirectX 11のテッセレーションステージのパフォーマンスを推し量るのにしばしば利用されたUnigine開発のベンチマークソフト「Heaven Benchmark」は、この発表とほぼ同時にOpenGL 4.0への対応を行なっている。
【Heaven Benchmark】 | |
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Unigineのベンチマークソフト「Heaven Benchmark」の最新バージョンではレンダリングAPIに「OpenGL」が選択可能となり、「Tessellation」オプションを有効化して実行できるようになった |
「OpenGL4.xはDirectX 11のスーパーセットである」ことを強調したスライド |
これまでOpenGL陣営(Khronos)は、DirectX世代のグラフィックスパイプライン仕様を最新OpenGLに組み込んで提供するまでに1年はかかっていたものだが、今世代の対応はとても早い。さらに、8月にはOpenGL4.1の発表を行なった。これは、OpenGL4.0に対して寄せられた開発者からの細かい要望に応えたOpenGL4.0のマイナーチェンジ版と言う位置づけになる。
OpenGL4.1における最大のトピックは、「OpenGL ES 2.0との互換性確保」という部分だ。OpenGL ES 2.0は、組み込み機器や携帯機器に向けたOpenGL 2.0のサブセットとして登場したものだ。最近のスマートフォンブームなどの追い風もあって、OpenGL ES 2.0の活用はハードウェア、ソフトウェア、双方において活発化してきている。そこで、OpenGL ES 2.0ベースのアプリケーションをPCやワークステーション上のOpenGLでも動作させられるようにと、半ば“出戻り”のような形で、OpenGL 4.1にOpenGL ES 2.0の仕様が取り込まれたのだ。
これにより、OpenGL ES 2.0用のアプリケーションをOpenGL 4.1のエミュレーション環境で開発するのに役立つと期待されている。OpenGLは現在、OpenGL5.0の規格策定中とのことで、OpenGLがDirectXのスーパーセット的な位置付けになりつつある。
【OpenGL4.0/4.1】 | |
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DirectX 11に遅れることわずか半年でDirectX 11と同世代のテクノロジーが利用できるOpenGL4.0が登場した。そしてその半年後にはOpenGL4.1が登場。OpenGL4.1にはOpenGL ES 2.0の互換機能が組み込まれた |
■ 終わりに。2011年はスタイライズド・レンダリングが花開くか!?
代表的なスタイライズド・レンダリングを採用したタイトル「二ノ国 白き聖灰の女王」(レベルファイブ) |
冒頭の繰り返しになるが、2010年はPS3、Xbox 360といった今世代機の3Dゲームグラフィックスが成熟期を通り超し、安泰期、安定期と言っても良い時期に差し掛かってきたが、これは、逆にいえば、今世代機でできるゲームグラフィックス表現は一通り出揃ったということでもある。定番化した技術を、ただセオリー通り使っていたのでは、ビジュアル面での差別化は今や難しくなってきている。
各ゲームスタジオは、グラフィックス以外の部分に力を注ぎ、独自のゲーム性に訴えたり、あるいはモーション入力システムや立体視を効果的に活用した、新しい体験ができるゲームの開発に注力し始めている。
また、あえてビジュアル表現にこだわるアート志向の強い作品においては、出揃った今世代のグラフィックス技術を独自に料理し、「Stylized Rendering」(スタイライズド・レンダリング:ある法則に基づいたレンダリング手法)、つまりアイデア重視の“魅せるスタイル”への模索を行ない始めているようだ。
「3Dゲームグラフィックス」という技術そのものにフォーカスすれば、2010年は2009年からの飛躍はそれほど大きくはなかったように思える。そんなこともあって2010年最後の「西川善司の3Dグラフィックス講座」は、恒例の「シェーダー技術がどうこう」という話題よりは、未来予想図的な側面の強い回となってしまった。しかし、翌年2011年は、期待感が大きい。年が明けて2月には3DSが出てくるし、立体視(3D)やモーション入力システムといった「おもしろ要素」の応用も本格化するはずだ。
【スタイライズド・レンダリング】 | |
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左が「El Shaddai」(Ignition Entertainment)、右が「TRINITY Zill O'll Zero」(コーエーテクモゲームス)。いずれも独特なスタイライズド・レンダリング手法を採用したタイトルだ |
□「3Dゲームファンのためのグラフィックス講座」バックナンバー
http://game.watch.impress.co.jp/docs/series/3dcg/
(2010年 12月 28日)