レビュー
「HUGE PLUS」レビュー
”ベアリング支持ユニット”でかの名機がさらに進化!有線/無線も両対応に
2025年11月26日 00:00
- 【HUGE PLUS】
- 11月下旬 順次発売
- 価格:19,800円
2017年にエレコムより発売された名作トラックボール「HUGE」。そのアップグレード版に当たる「HUGE PLUS」の販売が、Amazonなど一部ストアにて開始されている。
マウスは毎月のように新商品が発売されている傍ら、トラックボールの新製品というのはそこまで数が多くないため、界隈にとっては発売そのものが極めてホットなトピックだ。それが名機のアップグレード版ともなればなおさらである。
「HUGE PLUS」は、”HUGE”の名が示す超大型サイズはそのままに、目玉となるベアリング支持ユニット仕様の採用や、従来「HUGE」では別製品として用意されていた有線・無線接続方式の統合、加えてbluetooth接続の新規対応、電池からバッテリー式への変更などなど、細かいながらも重要な変更が多数行なわれている。
そもそも元となった「HUGE」からして、約52mmという他機種を見渡しても非常に大きい部類となるサイズのボール搭載、細かな操作がやりやすい中指・人差し指操作タイプ、そしてトラックボールでは珍しい計10ボタン対応ということで、既に他に換えが効かないデバイスなのである。かくいう筆者も発売直後に購入してからすっかり気に入ってしまい、当時から2025年現在に至るまで使い続けている。
今回は「HUGE PLUS」実機を試す機会に恵まれたので、「HUGE」を振り返りつつ早速そのアップグレードの内容を掘り下げていきたい。
ベアリング支持ユニットで操作の摩擦半減。「HUGE」を新たな世界へ
そもそもトラックボールとは、その名のとおり”本体に内蔵されたボールを操作してカーソルを動かす”ポインティングデバイスだ。マウスのように本体を動かすことがないため、設置に必要な面積が本体サイズ分だけで済み、手首を固定して操作するため腱鞘炎対策によいとも言われている。なにより”ボールを転がす”という独自の操作方法には独自の快楽があり、PCを触るのが楽しくなるデバイスだと言える。
トラックボールは操作方法の原則こそ共通なものの、形状は操作する指に応じて、握り方としてはマウスに近い親指操作タイプと、多少の習熟は必要だが指を複数使えることで、より繊細な操作ができる人差し指・中指操作タイプに大別される。これはマウス以上に好みの出やすいところで、時に宗教的な雰囲気を醸すほどにそれぞれ熱烈なファンがいる。
「HUGE」及び「HUGE PLUS」は人差し指・中指操作タイプ。巨大なボールと、本体と一体化したパームレストが目を惹く。本体のデザインはほぼ共通で、手のひらをどっしりとパームレストに置き、人差し指と中指、そして時には薬指まで使ってボールを操作。親指で左クリックと「戻る」「進む」(※デフォルト設定)、右手の中指ないし薬指で右クリックと好きを設定できる「機能割当ボタン」、さらに人差し指で2つの同じく「機能割当ボタン」を操作する。さらにホイールはクリックと上下のチルトにも対応しており、トラックボールでこれだけ多くのボタンを備えるモデルはかなり珍しい。
さて、デザインそのものは「HUGE」をほぼ踏襲しているが、「HUGE PLUS」において最大の目玉は、同社の「ベアリング支持ユニット」に対応したこと。これは2023年に発売された親指操作タイプの「IST」で初めて導入されたもので、その後「IST PRO」にも引き継がれている。これがついに人差し指・中指タイプの「HUGE」に搭載された、というのが今回最もワクワクするポイントだ。
トラックボールは基本的にボールを数mmほどのごく小さな「支持球」によって3点で支え、その上を転がすような構造になっている。この支持部分には鉄球やセラミック、人工ルビーなどで作られたごく小さな球が使用されることが多いが、古くは回転を検知する2つの「ロータリーエンコーダー」でXY軸の座標を取得する方式のものなども存在していた。
エレコムのベアリング支持ユニットは、その名の通り小さなプラスチックの土台にベアリングが内蔵されたユニットパーツ。「ロータリーエンコーダー」式の部品に見た目は近く、ボールが固定された小さな球の上を滑る支持球式とは異なり、ベアリングそのものがボールと一緒に回転する構造となっている。それによって何が得られるかといえば、ボール操作のさらなる滑らかさだ。ベアリング支持ユニットはベアリングそのものが回転することにより、ボールが動きはじめるときの摩擦が極めて少なく、操作しはじめの一瞬の抵抗がほとんど感じられない。操作中もごく軽い力で操作できるため疲労も少なく、なにより大変気持がいい。
なお、既存の人工ルビー支持球のモデルでも決して手触りが悪いわけではない。むしろかなりヌルヌルと動くもので、個人的にもこれまで違和感を覚えることはなかったのだが、逆にベアリングを使ってはじめて支持球式の初動の抵抗に気づいてしまった、というのが正直なところだ。エレコムの発表によれば、動き出しの摩擦力は約50%、動作中の摩擦力も約40%低減されており、動作全体でより少ない力で操作できるようになっているという。実際「HUGE PLUS」ではベアリングが回る、硬質で少しこすれるような音がしながらも、手触りは極めて滑らか、という本当に不思議な感覚が味わえる。
ちなみに、ベアリング支持”ユニット”であるからして、このパーツは交換が可能。ベアリングユニットは個別のパッケージ商品「M-BS10(価格:4,235円)」として販売されるほか、従来の人工ルビー支持球の交換パーツ「M-RS10(価格:2,277円))」も用意されており、好みに併せて変更することもできるし、支持部分は最も負荷がかかる部分の一つのため、万一故障してしまった場合でも交換が可能となる。交換はキーボード用の引き抜き工具に似た、小さな専用の工具で引き抜き、ユニットを手ではめ込むことで完了する。
ユニットのバリエーションとして人工ルビーのモデルが用意されているというのも地味に嬉しいところだ。ベアリングは滑らかさにおいて明らかに人工ルビー支持球を凌駕するが、では人工ルビー支持球が過去のものになるかといえばそうとも限らないと思う。摩擦があるということは逆に狙ったところにピタッと止めやすいということでもあり、実際大きく動かして狙ったところに止める、という動作は人工ルビー支持球のほうがやりやすい感じもあるし、こちらのほうが操作感として好き、というユーザーも当然いるものと思う。また、ベアリング支持はごく小さいながら駆動音がするので、静音性を突き詰めるなら動作部分がない人工ルビー支持球のほうが有利でもある。そういった点において、ユーザーの好みに併せて変更できるというのは素晴らしい仕様だと思う。
加えて有線接続と付属のドングルを用いた2.4Ghz無線、Bluetoothにも新規対応して合計3つの接続方式が選べるようになったのもポイントだ。従来「HUGE」では有線モデルと無線モデルがそれぞれ別の製品として販売されており、無線モデルでもBluetoothには対応していなかった。好みや配置、時と場所にあわせて接続方法を選べるのは大変便利で、例えば自宅で長期間使うときは有線、出先で使うときは無線、仮にドングルを忘れてもBluetooth接続で問題なし、などなど、接続方式は多くて困ることはない。さらに接続方式1つにつき1台のデバイスと接続が可能なため、スイッチ切り替えで最大で3台のデバイスで使うことができる。なお、有線接続と充電に用いるソケットはUSB Type-Cとなっており、ここも近代化が行なわれたポイント。さらに有線接続ではポーリングレート1,000Hzに対応し、ゲーミンググレードといっても良い水準にある。
接続方式の変更は本体左手側のスイッチで行なう仕様となっており、ここが外観上「HUGE」と異なる部分のひとつ。従来「HUGE」ではここにDPIの切り替えスイッチが配置されていたが、「HUGE PLUS」ではスイッチで接続方式の切り替え、その隣に配置されたボタンでDPI切り替えを行なう。DPIはボタンを押すごとに3色がサイクルし、赤が500、青が1,000、緑が1,500DPIとなるため、ボタンでDPIをサッと切り替えたり、OS側と合わせて設定を詰めてみたり、ということができる。
また、有線/無線の両対応に併せてか、「HUGE PLUS」ではバッテリーも「HUGE」の電池式からバッテリー式に変更されている。電池は単三電池2本を使う仕様だったため本体のサイズと相まってかなりの重量となり、持ち運ぶにはちょっと……という感じではあったが、「HUGE PLUS」は明らかに軽く、サイズ感さえ許容できればモバイル用途もありだと思える。
ただ、筆者のように在宅勤務でPCの前にいる時間がそもそも長く、その上PCでゲームをするのが趣味、そしてデバイスをできる限り無線で使いたいという人にとって、”電池が切れたらケーブルを繋いで充電しなければならない”といった意味で完全無線化が達成出来ないのは少し残念でもある。ややニッチな希望かもしれないが、筆者は常に充電池を充電器とセットで手の届くところに常備しており、電池が切れたら充電池を即座に交換することで24時間いつでも使える状態にしていたため、これができなくなってしまったことで机上の配線を考え直す必要が出てきた。本体の軽さや接続方式の多さという大いなるメリットを鑑みれば小さなことだが、個人的には唯一「HUGE PLUS」で気になったところであった。
そのほか、「HUGE PLUS」ではホイール周りを除く全てのボタンが静音対応となった。ボタン内部の通常スイッチは押すと「カチカチカチ」といういわゆる”クリック音”が響くが、静音ボタンは「コココ」といった、注意しなければ聞こえないほどの音しかしない。筆者個人としては元々ボタンの音が気になったことはなかったのだが、これも支持球の違いと同じく「HUGE PLUS」で初めて静音モデルの快適さに気付いた次第。もしかしたらとっくの昔にマウス界隈では一般的だったかもしれないが、トラックボール界隈では静音モデルという選択肢そのものがなかったため、これもちょっとした衝撃であった。
大玉&ベアリングで超快適なトラボゲーミングライフ
筆者は仕事もゲームも、PCで行なう作業全てをトラックボールで行なうようになって長いが、中でもゲームは「League of Legends(LoL)」を「HUGE」で8年近くプレイしており、個人的に最もデバイスの違いに敏感なタイトルである。早速「HUGE」から「HUGE PLUS」に乗り換えて「LoL」を暫くプレイしてみたが、結果として「HUGE」と全く結果には違いは出ず、ベアリングによる操作の滑らかさによりプレイフィールだけが向上した。
使い始めは通常操作も含めてカーソルを止める動きが「HUGE」の支持球式の感覚と異なり、逆になめらかすぎてカーソルが止まらない!という印象を覚えたが、数時間も使っているうちに慣れ、ゲーム内のCS精度(※「LoL」では続々出現するモンスターのHPが減ったところでとどめの一撃を加えることをCSといい、この精度が実力に直結する)にも数値上の差は出ず、複数のキャラクターが入り乱れる集団戦などでも、自分の実力がデバイスによって制限されている感覚も全くなかった。つまりは(筆者のレベルはさておき)思うがままに操作ができている、ということだ。
これはeスポーツタイトルの中でもFPSなどの針の穴を通すような、シビアもシビアな極まった操作と比較すれば「LoL」がMOBAというゲームジャンル的にそこまでのレベルを求められないということもあるかもしれない。筆者はそこまでFPSタイトルを日常的にプレイしているわけではないため比較検証が困難であるのが正直なところだが、アマチュアプレーヤーがガチで「LoL」をプレイする上で「HUGE PLUS」は十二分な精度があるし、FPSも含めをゲームをカジュアルにプレイする分には全く不足はない。ゲームを快適にプレイできるトラックボールというものが、いかに幸せで有り難いことか。「HUGE PLUS」は使うだけでスコアが向上するような魔法のアイテムではないが、確実に日々のトラックボールゲーミングのQoLを上げてくれている。
なお、先述したように、大きく動かしてピタッと止めるような動きには摩擦の存在から、あるいは従来の人工ルビー支持球式のほうが向いている可能性もある。お気に入りの本体で、可能性を追いかけて好きに支持方式のカスタマイズができるなど人差し指・中指派トラックボールユーザーにとっては本当に贅沢なことだと思うし、「HUGE PLUS」はそれを実現してしまったデバイスなのである。
ちなみに筆者は仕事で使う持ち運び用に「HUGE」より小ぶりな「DEFT PRO」も長らく愛用しており、ボタン数も機能もデザインもまるっと含めて大好きではあるのだが、率直なところこちらで特に「LoL」のプレイは厳しい。画面端から画面端へのカーソル移動にボールのサイズが足りておらず、指の持ち替えが発生してしまうからだ。DPIを上げればそれ自体は解決するが、伴ってカーソルの移動速度が上がり、今度は精度が犠牲になってしまう。そうした意味でやはり大玉の「HUGE PLUS」がしっくり来ているのである。
また、小ネタとして、「LoL」はキャラクターの移動操作がデフォルトで「右クリック」であり、ゲーム中ほぼ連打し続ける形になる。正直「HUGE PLUS」の細い右クリックボタンを力が弱い薬指で連打し続けるのは普通に困難なのだが、エレコム謹製のマウスドライバ「エレコム マウスアシスタント」では左クリックを含めた各ボタンのキーアサインが可能。筆者はこれで左クリックと右クリックを入れ替えて使用しており、これはかなり快適、というより入れ替えができないと「LoL」がプレイできないというほど馴染んでしまっている。さらに「エレコム マウスアシスタント」では他社のドライバでも見られるように「特定のアプリケーションの操作時に、設定したアサインを使用する」ということができる「プロファイル」機能があり、通常の操作はそのまま、「LoL」をやっているときだけは左右クリック入れ替え、という設定にしている。
トラックボールはその性質上置く場所を問わないため、膝の上に置いても使えるし、楽な姿勢で手が届くところに適当に置いても動かせる。これはトラックボール総じてのメリットでもあり、RPGやノベルゲームなどをだらけた姿勢でプレイするにも大変に良い。特に「HUGE PLUS」は「HUGE」譲りの巨大なパームレストがついていることで、本体に手を預けるような使い方ができるのが本当に素晴らしい。
大玉派兼人差し指・中指派にはこれが答えだ!
「HUGE PLUS」は元々完成度と人気の高かった本体の形状をほぼそのままに、ボールの支持方式の変更、USB-C対応、接続方式の追加・統合、ボタンの静音化などなど、一つ一つは細かいが決して小さくはないポイントを突き詰めてブラッシュアップした、エレコムのこだわりを感じる逸品だ。
トラックボールというプロダクトの性質上、今ゲーミングマウスを使っている方にゲーム用デバイスとして改めて勧めるようなものではないが、元々トラックボールに慣れている方にはハードなゲーム用としても十二分なスペックを備える本機を是非試してみてほしい。気持ちよくストレスなくゲームがプレイできる快感は、もう手放せない。
属性として、大玉派(※トラックボールには操作が軽快で本体サイズも小さくできる小玉モデルもある)、人差し指・中指派、そしてなにより親指タイプの「IST」に搭載された新機構を横目で見て羨ましく思っていた「HUGE」ユーザーには、これが一つの回答となるだろう。





























































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