【特別企画】

「エキスパートマウス TB800 EQ トラックボール」レビュー

リングやローラーなど楽しい仕掛けが満載!ただし「ボール上部」での操作が不安定

【エキスパートマウス TB800 EQトラックボール】
発売中(「レッドボール」モデル:12月19日発売)
価格:オープン(市場想定価格:24,200円)

 ケンジントンより満を持して発売されたトラックボール「エキスパートマウス TB800 EQ トラックボール」。トラックボールの老舗であり大家からの新製品は界隈を沸かせ、直近で他社から高価格帯トラックボールが発売されていたこともあり、根強いファンを持つケンジントン派のユーザーからは対抗馬のど本命として注目されていた。

 本機は同社の「スリムブレードトラックボール」や「エキスパートマウス」シリーズと同じく55mmの大型球を搭載したトラックボールであり、ボールを囲むように配された先代「エキスパートマウス」譲りのスクロールリング、新機構となる2つのサイドローラー、有線・bluetooth・2.4Ghz無線の接続&切り替え機能などを搭載したハイエンドモデルである。トラックボールはその構造上ボタン数やスクロールホイールの配置が問題になりがちだが、ケンジントン製品の快適な操作性に各種の機能が追加され、さらに2つも便利そうなサイドローラーがついたなら、一体どれだけ素晴らしいプロダクトになってしまうのか。

 早速本機をお借りして使ってみたので、その手触りをお伝えする。

【パッケージ】

スクロールリングはなんと手触りの切り替えが可能!新機構もモリモリのハイエンドスペック

 本機は55mmもの大型ボールを搭載したトラックボールだ。外観としては先代「エキスパートマウス」のエッセンスを色濃く継いだものとなっており、サイドローラーや新たに追加されたボタン類が目を惹く。

【内容物】
中には本体とボール、USB-Cケーブルやガイドなどが同梱されている
【本体】
55mmの巨大なボールが目を惹く。パッと見のイメージは先代「エキスパートマウス」に近いが、上側にボタン、サイドにローラーが追加されている
左側には電源スイッチ、接続方式の切り替えボタンとサイドローラー
奥側には充電と有線接続時に使用するUSB-Cコネクタ
右側にはDPIの切り替えスイッチとレポートレートの変更スイッチ、そしてもうひとつのサイドローラー
裏側にはスクロールリングとサイドローラーそれぞれをON/OFFできる物理スイッチが配置されているほか、フタの内部には2.4GHz無線接続用のドングルが仕込まれている

 コアとなる55mmもの大型ボールサイズと、白色であることから恐らくセラミックが採用された支持球が織りなす操作感はまさに極上で、トラックボールならではの気持ちよさが味わえる。ちなみに今回はシルバーボールのモデルをお借りしたが、Amazon専売でレッドボールのモデルも発売予定で、机上の雰囲気や好みに合わせて好きな色も選べるラインナップだ。

凄まじい存在感を放つ55mm大型ボール。ラインナップはレッド(Amazon限定)とシルバーの2色
ソケット内にはセンサーと、ボールを支える支持球が3点。おそらく素材はセラミックで、操作感は大変良い

 また、注目のスクロールリングは従来機種では抵抗がなくスルスルと回るものだったが、本機ではなんとボタン一つで”カリカリ”とした操作感のある状態と、無抵抗でスムーズな状態を切り変えることができる魔法のような仕様だ。リングの回転も極めて滑らかで、特に筆者のように長文の記事を書いたり読んだりするためにスクロールを多用する人間にとっては、スクロールすることそのものが楽しくなるような素晴らしい設計である。

ボールを囲む用に配置されたスクロールリング。右回転することで下方向、左回転で上方向にスクロールする。ほかでは味わえない感触だ
ボールの真上に位置する、スクロールリングの手触りを変えるスイッチ。スイッチが上がっているとクリック感有、下がっているとクリック感なしになる

 さらに注目の新機構「サイドローラー」は、デフォルトでは左側が「水平スクロール」、右側には「拡大・縮小」が割り当てられている。このままだと割当機能的に多用する機会の少ないものでちょっと使いづらかったりもするが、同社のドライバ「Kensington Konnect」にてキーボードショートカットや拡大/縮小やスクロールといったナビゲーション機能などを自在に割り当てられるようになるという。右側のローラーは右手をキーボードから手を本機に動かした際、勢い余って当たってしまい意図せず暴発、といったことがあったが、これは慣れの範疇だと思う。

 執筆時点では対応前であったため試すことはできなかったが、機能をカスタマイズできるとなれば使い勝手を大幅に向上させられることが容易に想像できる。サイドローラーの回し心地は抵抗感のある重ためのもので、慣性が効いて軽快に回るスクロールリングとは全く異なる手触り。さながら高級オーディオ機器のボリューム調整つまみのように、回しているだけで不思議な満足感が得られるものだ。なお、左右のサイドローラーとスクロールリングは、本体裏側に配置された物理スイッチでON/OFFの切り替えが可能。使わないものを切っておくということもできる。

ヌルリとした手触りで回転するサイドローラー。触っているだけで嬉しくなるような感触だ

 そのほか、本体上部にはそれぞれデフォルトで「進む」、「再生/一時停止」、「音量を下げる」、「音量を上げる」が割り振られたボタンが4つ。これらも設定変更が可能なため、アクセスが良好な配置であるとは言いにくい部分もあるが、ボタン数としては十分であると言えるだろう。

 加えて本機は接続方法が有線、bluetooth、同梱のドングルを用いた2.4Ghz接続の3種に対応しており、それぞれ別のPC本体と接続が可能。blutoothは2つのモードが用意されているため、合計でPC4台を本機1台で操作することができる上に、DPIなどもそれぞれの接続方法で設定されたものが保存される仕様。DPIやレポートレートは切り替え用の専用ボタンが用意されており、ドライバ設定を介さずにサクサクと切り替えが可能であり、さらに本体上部に配置された小さなモニターによって、現在の接続形式などが一目で把握できるようになっている。

電源スイッチの隣にあるのが接続方式切り替えスイッチ。押すごとに有線→2.4Ghz→bluetooth1→bluetooth2→有線とサイクルする
接続方式を切り替えると、本体最上部にあるモニターに現在の接続方式が短時間表示される。時間経過で消えて真っ暗に戻るため、アイコンが光りっぱなしだと煩わしいという向きにも親切な設計
DPI設定やレポートレートの変更も接続形式ごとに保存される

開封直後、カーソルの挙動に違和感を覚える

 ここまで見てきたように、トラックボールとして、ケンジントンの新製品として本作は満点に近いスペックを誇るのは間違いない。ただ、実際に触ってみた結果として、筆者は本機を手放しで絶賛することはできなくなってしまった。

 本機は筆者自身も長年のトラックボールユーザーとして発表以来注目しており、是非弊誌でもご紹介したい!と製品をお借りしたのだが、ウキウキで開封した直後違和感を覚えることになる。特に手の置き方を意識せずに操作しようとすると、どうもカーソルがふらついてしまうのだ。

 そこで少し意識して手の置き方を変えてみる。結果手を深く置き「ボール上部」を指先で操作しようとすると、特に横方向の移動距離が極端に短くなったり、震えるような上下移動を挟んでカーソルが動くなど上手くいかない。一方で、手を浅く置いて「ボール下部」で操作すると、手の形は少し窮屈なもののカーソルは概ね意図通りに動かせる。

 色々と試してみた結果、縦方向の回転は基本的に正しくカーソルの縦移動として認識されること、構造上「ボール下部」での操作が「ボール上部」での操作に比べて斜め方向の回転が少なくなること、つまり読み取り精度の影響が少なくなることから、これは恐らくセンサー位置の関係で「横+斜め方向のボールの回転」が「X座標の横移動」として正しく認識されていないことによるものだと思われる。ボールの露出部分が大きく、手の置きどころの自由度そのものは高いことが裏目に出てしまっている印象だ。

どっしりと深く手をかけると、指先がボールの奥側(上側)にかかってしまい、横移動の精度が著しく落ちる
指を浅めにかけるとボールの手前側(下側)に指がかかり、少々窮屈だがカーソル操作の精度は上がる

 「カーソルが違和感なく正しく動かせること」がマウスを含むポインティングデバイスの大前提で、その上でトラックボールの価値として「ボールが快適に動かせるかどうか」「スクロールなどが快適に行なえる設計かどうか」、「ボタン数は必要なだけあるか」「設定でどこまでカスタマイズできるか」などが上乗せされる。率直なところ「Expert Mouse TB800 EQ」は期待も大きく、筐体の設計もその期待に応えるだけの出来なだけに、最も基本的な部分がおそろかになっているのが本当に心から残念でならない。

 筆者は半ば”トラックボール信者”のようなところがあり、本機を触り始めてからは”自分の使い方の問題である”と思い込みたいという本音もあり、冒頭のようにグルグルと自問自答していた。なんとかいい使い方が無いかを探り、本体の手元側に何かを噛ませて持ち上げ、必然的に「ボール下部」に指がかかるようにして使ってみたりもしたのだが、個人的にはあまりしっくり来ず、快適に使うことはできなかった。

 なお、本件に関してはケンジントン側も12月16日付けの発表(参考)にて、「約10時から1時の位置でボールを操作する際に、センサーの『デッドゾーン』が発生する可能性がある」という報告があったことを明らかにしている。商品自体の欠陥ではなく仕様上問題ない、かつこの操作方法は「トラックボールの最も一般的な使用方法ではない」と前置きしつつ、改善に向けて調整中であるとした。

 弊誌側でもアコ・ブランズ・ジャパンに問い合わせてみたところ、問題は把握しており、具体的にはファームウェアのアップデートにて解決できるか検討中であるという回答が得られた。

仕様そのものは最上級なだけに極めて残念

 本機はトラックボールにおいて重要な操球感などは快適そのものといって良い。基本設計や新機構、カスタマイズ性の高さや本機1台で複数のPCを操作できる利便性、それを支える設定の保存方法や表示、ドライバに依存しない小さな専用ボタン群など、スペックとしてはまさに「エキスパートマウス」の正当進化系という形で、極めて出来の良いデバイスである。それだけに基本操作部分に弱点があるというのは本当に残念だ。

 使い方や設置方法によっては100%の力を発揮させることも可能かもしれないし、問題に遭遇せず、あるいは気にせずに使えているユーザーもいることとは思うが、個人的には色々試した結果納得することができなかった。主観で言えば、ゲーマーとして一番”ガチ”な瞬間の一つである対戦系ゲームのランク戦にこれで行こう!と思えない時点で、乗り換える理由がないということになってしまう。

 筆者の体験はあくまで一例ではあるが、価格帯からしてもハイエンドであることから、どのような設定、どのような配置にも応える設計であって欲しかったし、それを望むユーザーがほとんどであると思う。光るところはギラッギラに輝いているプロダクトであるため、今後のファームウェアアップデートで改善されることを期待したい。