レビュー

「タクティクスオウガ リボーン」レビュー

——不朽の名作が今蘇る。AIだけでクリアできてしまうと思えるほどの頭の良さに驚愕

【タクティクスオウガ リボーン】

発売元:スクウェア・エニックス

開発元:スクウェア・エニックス

ジャンル:タクティカルRPG

発売日:11月11日(※Steam版:11月12日)

価格:
通常版 5,480円(税込)
スタンダードエディション 5,480円(税込)
※PS5版、PS4版のみ5,478円(税込)
デジタルプレミアムエディション 8,780円(税込)
※PS5版、PS4版のみ8,778円(税込)
CEROレーティング:B(12歳以上対象)

 11月11日に発売予定の「タクティクスオウガ リボーン」。本作は、1995年にスーパーファミコンで発売された「タクティクスオウガ」のリメイク作品となる。

 「タクティクスオウガ」は25年以上に渡って愛され続けている不朽の名作であり、原作のファンおよび1度目のリメイクとなった「タクティクスオウガ 運命の輪」のファンも多いことだろう。一方で「運命の輪」から10年以上が経過しているため、名前は知っていても本作に触れる機会がなかった、という人も多いはずだ。

 本作はヴァレリア島と呼ばれる島が舞台。古来より海洋貿易の中継地として栄えたこの島では、その覇権を巡り民族間で紛争が絶えなかった。だが永い戦いに終止符を打ったのは、後に覇王と呼ばれたドルガルア。ドルガルア王は民族間の対立を取り除くことに努め、ヴァレリアは半世紀に渡り、栄えることとなる。

 しかし王の死後、その後継を巡って貴族階級のバクラム人、人口の大半を占めるガルガスタン人、少数民族のウォルスタ人の三民族が覇権を争い、ヴァレリアは再び内乱状態に陥った。バクラム陣営、ガルガスタン陣営が島を二分する形で一旦沈静化したかに見えた内乱だが——。本作では、抵抗勢力の一員として迎えられたウォルスタ人の主人公デニムが、様々な出来事に遭遇し、そして彼の決断が島の未来を左右することになる。

 本稿では本作のプレイフィールと共に、スーパーファミコン版「タクティクスオウガ」や「運命の輪」からの変更点などについても触れていく。なお、本記事では一部ネタバレを含む内容も記載しているため注意してほしい。

【『タクティクスオウガ リボーン』ファイナルトレーラー】

マルチストーリーにより3つに分かれる物語

 「タクティクスオウガ」の魅力は諸々あれど、まず真っ先に挙げたいのは、選択肢の内容によって3通りに分岐するストーリーだ。通称「ロウ」、「カオス」、「ニュートラル」と呼ばれ分岐する本作のストーリーは前述の通り、戦乱の世が舞台となる。そんな中、ふとしたことからこの戦争に深く関わっていくことになるデニムは、この戦争の行く末を大きく動かす身となってしまう。

 ロウは主に「秩序」や「規律」を重んじ、だからこそその秩序のために非人道的な選択もしなければならない。一方でカオスはどちらかというと己の信念を貫き通す。そしてニュートラルはそのどちらでもないルートだが、その分”日和見”のような扱いだ。

 例えば、「大義のためならば」という理由で汚れ仕事すら厭わないのがロウ。例え大義のためだろうと悪いことは悪いと、味方にすら背くのがカオス。そのどちらでもないどっちつかずのルートがニュートラル。簡単に説明するとこのように分岐すると思ってほしい。

 デニムは様々な場面で選択を迫られるが、ルートに関係する選択肢は意外とわかりやすく、「この場面でこれを選べば明らかにルートに影響するだろう」というようなものになっている。

逆に言えばそれ以外の場所では選択肢は何を選んでいても、ルートには問題がないので、自分自身の思うままに選べばいい

 どのルートが正解ということはないが、個人的なオススメはロウかカオス。というよりも、最低2周はプレイしてロウとカオスのストーリーはどちらも見てほしいと思う。しかし、2周やらなければ物語を理解できないのかというとそんなことはない。物語はどちらも綺麗に完結するようになっている。ただし各ルートにグッドエンディング、バッドエンディングが存在するので注意してほしい。

あくまでルート次第でデニムの置かれる状況やストーリーがどう変わるのかをぜひ見てほしいというだけなので、その点については安心してプレイしてほしい
カオスルートのヴァイス
ロウルートのヴァイス。上記と同じシーンでありながら、ルートによって全く違う顔を見せる。この先ストーリーは、ルートによってより複雑に絡み合ってゆく

 特に「運命の輪」で実装された「W.O.R.L.D.」と呼ばれるシステムを使用すれば、物語の各所に設置されたアンカーに現在の自軍のデータで飛ぶことができるため、はじめからプレイし直さなくても別ルートなどをプレイすることができるようになっている(※W.O.R.L.D.は1周目のクリア後に解放されるため、1周目では使用できない)。このシステムを使えば、特定のルートでしか仲間にならないキャラクターなども収集できるので、非常にプレイしやすくなっている。

 ただしW.O.R.L.D.のシステムにはいくつかの制限がある。フラグ立てが複数章にまたがるような場合、W.O.R.L.D.を使って選択肢の一部だけを変えてもフラグが成立しない。W.O.R.L.D.は使わず、飛ばさずにそのルートをプレイしなければならないのだ。

W.O.R.L.D.で一足飛びに仲間にすることは難しいのがラヴィニス。1章で生存のフラグをたてた上できちんと2章のフラグなども回収しつつ、3章まで進めなければならない

完成され尽くしている戦闘システム

 「タクティクスオウガ」のもうひとつの魅力といえば、25年前の時点でシミュレーションゲームとして非常に高い完成度を誇っている点だ。難易度はかなり高めだが、当然ながらクリアできないような難易度にはなっていない。だが、雑なプレイでは決してクリアできないという絶妙なバランスが素晴らしい。

 敵を一体ずつ確実に倒していくようなゲーム性はスーパーファミコン版の頃から変わらず、それでいてこちらの被ダメージも抑えていかなければ戦闘に勝つことは非常に難しい。特に「リボーン」では敵のAIが戦況や戦術、フィールド状況で変化していくため、同じバトルでも敵が同じように動くとは限らなくなっている点が見どころのひとつだろう。

高低差のある戦闘マップでは弓兵の動きに注意したいところだ
視点を変えて2Dマップで見ることもできる。高低差で移動範囲などがわかりにくい場合などに活用しよう

 本来想定した通りに物事が進まないのがシミュレーションゲームの醍醐味だが、その中でも「明らかに失敗してしまった」というような場面で使いたいのが「C.H.A.R.I.O.T.」。これは戦闘中にターンを巻き戻す機能で、場面によっても巻き戻せるターン数は異なるのだが、最大で50ターンほどまで任意のターンに巻き戻すことができる機能となっている。

 ただし、巻き戻し前と全く同じ行動を取ると、戦闘結果も全く同じになる。例えば攻撃をガードされた場合、C.H.A.R.I.O.T.で巻き戻して同じ行動をしても、絶対にガードされてしまう。そのため、違うパネルに移動してから攻撃をやり直してみる、といった、何かしら違う行動を取らなければならず、ただ巻き戻しても意味がないことを覚えておこう。

 なお、「リボーン」ならではの新システムとして「ユニオンレベル」が導入されている。ユニオンレベルとは簡単に言うと軍全体のレベルで、そのレベル以上にユニットのレベルを上げることができないというシステム。ユニオンレベルはシナリオの進行に応じて徐々に開放されていくため、例えばユニオンレベル10の状態ならば各キャラクターのレベルも10までしか上げられないということになる。これによって極端にレベルを上げることで無理やり勝つ、ということができなくなり、より一層シミュレーションゲームとしての完成度を上げている。

ユニオンレベル以上のレベルは上がらない。この状態で取得した経験値は「経験値のチャーム」となりアイテムとして保存されるので、後から加入した仲間のレベル上げなどに使うといい

 一方で「運命の輪」でなくなったトレーニングが「演習」として復活。各拠点で演習でのレベル上げができるようになった。特にレベル格差があるほど低レベルのユニットの獲得経験値が多くなるパワーレベリングも、「運命の輪」よりさらにパワーアップ。低レベルのまま置いていかれてしまったユニットやゲーム後半で新たに雇ったユニットなども一気にレベルアップできるようになっているのは非常に嬉しい。

 さらにAIの進化が味方に如実に表れるのも演習だ。自軍ユニットの行動を全部AIに任せることでオートで敵をなぎ倒していってくれるのは非常にありがたい。

演習では自軍のユニットが倒されてもロストすることはないので、安心してレベル上げに勤しんでほしい

 また、「リボーン」では8属性のエレメントが登場。各キャラクターに属性があるが、属性の関係は「運命の輪」の装備品と同様で、風→土→雷→水→火→氷→風、光←→闇、という強弱関係になっており、自身のエレメントと魔法や武具の属性が一致していたり、アクションが敵のエレメントに対して優位な属性の場合、攻撃時のダメージがアップする。

 実際には相性のいい敵に当てるより、現在削り中の敵を優先して攻撃したいため、なかなか狙ってダメージアップを発動させられないのだが、どちらかというと敵から食らう攻撃のほうで注意しておきたい。自身と相性の悪い敵の行動範囲にキャラクターを置かないようにするだけでも、被ダメージ量に差が出てくる。

少々風に偏りが大きくなってしまった自軍のエレメント。こんな時はショップでユニットを雇用して、他のエレメントのキャラクターを揃えていこう
ショップでユニットを雇用する際は、まずロウ・カオス・ニュートラルを選ぶ
次にエレメントを選択。自軍に足りないと思うエレメントを選択するのがいいだろう

 ちなみに、細かいUIの改善となるが、本作では各キャラクターの頭上にHPゲージを表示したり消したりできるようになった。これによって今仲間の誰がHPが減っているのか、どの敵を削り中なのかなどが簡単に視認できる。HPゲージを表示させておくと画面がうるさくなりがちという欠点はあれど、筆者は非常に気に入って常にHPゲージをONの状態でプレイしている。

通常の状態。敵味方ユニットも区別しにくい上に今どの敵を狙っているのか、誰が狙われているのかなどもわかりにくい
HPバーを表示させている状態。敵味方ユニットの区別もしやすく、今どの敵を削っているのかも一目瞭然

 バトルシステムは本作の要とあって非常に細部に渡って作り込まれており、全てを挙げていくとキリがないため、大きな要素のみ紹介したが、「リボーン」ならではのシステムについてはさらに別項にて後述するので、そちらも参考にしてほしい。

 バトルに限らず、全ての細かいシステムはゲーム中のチュートリアルが非常に丁寧に説明をしてくれている。基礎の基礎となる部分はNPCキャラクターがバトル中にセリフで教えてくれるので、見(聞き)逃す心配もない。一度説明があったチュートリアルについてはゲーム中何度も見直すことができるので、「言っていることがよくわからない」という場合はあえて一度スルーして、ある程度ゲームに慣れてきた時にまた見直すこともできる。

ウォーレンレポートはいつでも読み返せる
ウォーレンレポートではイベントなども見ることができる
物語もチャートになって見返すことができるため、ストーリーが複雑化してきてわからなくなった時にも見返してほしい

本作での変更点

 本作は「運命の輪」を経ての二度目のリメイクとなるため、基本のベースは「運命の輪」となることをまず承知しておいてほしい。その上で現時点で判明している変更点についていくつかまとめておこう。なお変更点についてはここで挙げているものだけが全てではないので、その点はあらかじめご了承願いたい。

・キャラクターなど各種グラフィックスの高解像度化

・カットシーンのフルボイス対応(シナリオは「運命の輪」ベースで、追加シナリオはなし)

・生演奏によるBGMの再レコーディング

・バトルに倍速モードを搭載

・「運命の輪」で搭載されたクラス毎のレベル方式が廃止、スーパーファミコン版同様ユニット毎のレベル制に

・演習モード(トレーニング)の追加

・レベル格差があるほど、低レベルキャラクターの得られる経験値が多くなる、パワーレベリング導入

・シナリオの進行に伴い上限が解放されていくユニオンレベルの導入。ユニオンレベルの上限を超えたレベルアップができないように

・「チャーム」の導入。チャームにはエレメントの変更効果、経験値アップ効果などがあり

・「バフカード」実装。スーパーファミコン版のタロットカードに近いが、青いカードはそのバトル中のみ効果が得られ、4つまでスタック可能。緑のカードは永続効果があり、赤いカードは得たバフを全て消去する

・「ボーナスタスク」実装。そのバトルによって決められた特定の条件(「〇〇のジョブを編成しろ」等)を満たすと報酬がもらえる。チャームの主な入手手段となる

・アイテム自動補充機能が追加

・説得で仲間にした際、その名前を自由に設定可能

・合成の成功率が100%になった

・弓などの遠隔攻撃などの予測軌道表示がデフォルト実装に

・装備に関する制限が緩和、入手した装備や魔法などはすぐに利用できるように

・「運命の輪」のDLCだった「ウォーレンを捜せ」、「真の騎士」、「十二人の勇者」を最初から収録。クリア後に条件を満たせばプレイ可能に

 基本的には「運命の輪」で不評だった部分などは改善、好評だった部分はそのままだと考えればほぼ差し支えない。賛否両論あった「転職証」については本作でも継続となっており、本作でも転職はある程度考えなければならない。プレイしている限り転職証の入手難度はそこまで高くないため、普通にプレイしていればあまり困ることはなさそうだが、転職証の入手が難しいクラスの場合、その限りではない。

 さて、本作の変更点の中でも特筆したいのは生演奏によるBGMだ。BGMは「運命の輪」の時にもアレンジがされているため、今回は2度目のアレンジとなる。正直なところ筆者はBGMに関してはどうしても思い出補正が強いため、できればオリジナルとアレンジを選択方式にしてくれると嬉しいのだが、今回の新アレンジは思い出補正を塗り替えてくれる素晴らしいアレンジだった。

ウォーレンレポートでは編曲を担当したコンポーザーのコメントも収録されており、BGM好きな人たちはぜひこの項目を楽しみにしていてほしい

 また、フルボイスによるシナリオも違和感がまったくなく受け入れられ、さすがこだわりにこだわって選んだ声優陣だというだけはある。特に気になっていたのはデニムの姉であるカチュアの演技だったのだが、ひとことで言うならば「これ以上ないくらいイメージ通りのカチュア」である。全カチュアファンは、首を長くして待っていてほしいところだ。もちろん他のキャラクターのボイスもいずれも素晴らしい。

カチュアが想像通りのカチュアで、実に嬉しい

 あともう1点、これについては正直触れるかどうか迷ったのだが、やはり書いておかなければならないと思う。

 本作のAIは本当に優秀である。どのくらい優秀かというと“下手したら手作業でクリアするよりも最適解を導き出してしまう”ほどである。試しに筆者は演習以外でもAIでのバトルを試してみたのだが(実際にはAIを切るのを忘れてそのままストーリーマップに突っ込んでしまった)、少々難しいマップであったにも関わらず、ひとりの死人も出さずにクリアできてしまったのだ。とはいえこの時点では筆者も少々疑っていたので、試しに第二章ロウルートの前半部分をほぼAIでクリアしてみたのだが、なんとそのままクリアできてしまった。

 こ、こんなことがあっていいのだろうか? 演習はともかく、ストーリーバトルもAIで全勝だと!?

 ……少々取り乱してしまったのだが、一応告げておくと、装備などはその時点のショップで買える最新のものにしており、スキルなどもきちんとつけている。クラスチェンジなどもきちんとバランスを考えて行っている。そういった部分は手作業でやった上で、バトルのみをAIに頼っている状態だと思ってほしい。だがそれでも自分の手でやったら死人が出てもおかしくないほどの難易度のマップをAIがユニットのロストもないままにクリアしてしまうのだ。なんとも恐ろしい話である。

 つまりこれは「シミュレーションって実はあまり得意じゃないんだけれどオウガってストーリーの評判もすごくいいからストーリーだけでも知りたいよね」という人もプレイできてしまうのではないだろうか……?

 果たしてどこまでAIで突き進めるかは筆者もわからない上にさすがにこれ以上は自分自身の手で遊びたかったため途中でAIでのストーリークリアをやめたが、恐らくはユニットのロストもいとわない、最悪ロードしてやり直す、というようなプレイであればAIでもかなり進めてしまうのではないかと思う。

 ただ、念のため告げておくとAIはゲームをある程度進めなければ解放されないため、どんなに不得手な人もそこまでは自身の手で頑張る必要がある。また、筆者は可能性のひとつを示したにすぎず、“AIで最後までクリアできるとは言っていない”ので、その点にだけはくれぐれも注意していただきたい。

 「タクティクスオウガ」という作品は、元々完成度の高いからこそ”より完璧”さを求められる、ハードルの高い作品だと感じる。各プレーヤーによってシミュレーションRPGというジャンルに何を求めているかも違うとは思うが、長い年月を経て今でも多くのファンがいるタイトルであることはそれだけ多くの人を惹きつける魅力があるということに他ならない。バトルと物語という、本作の二大要素のバランスが素晴らしいからこそ、「タクティクスオウガ」というタイトルは輝き続けるのだ。

 デニムの旅とは、どのルートであろうと苦難に満ちている。その苦難の先に何が待ち受けているのか。それは悲劇なのか、あるいは幸福な未来なのか。デニムの道を決めるのはプレーヤー自身だ。

□Steam版「タクティクスオウガ リボーン」のページ