映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」レビュー
画面に引き込まれる“感情の交差”と、MSの躍動感!
- 【機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ】
- 6月11日より全国公開中
2021年6月25日 00:00
「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」がついに公開された。待ち望んでいた人も多いだろう。特に富野由悠季氏の小説を読んで映像化を待っていたという人は、小説が執筆されたのが1989年だから、30年待ち焦がれた映像化と言うこととなる。最初に言ってしまうが、その待っていた時間に充分応える映画となっている。
本作は3部作のうちの第1部。主人公ハサウェイ・ノア、謎めいた美少女ギギ・アンダルシア、プロの軍人であるケネス・スレッグという3人の主要人物の出会いが描かれる。ハサウェイは「人類すべてを宇宙に移民させ、地球環境を保護する」と言うことを目的にテロ活動を行なう反連邦組織「マフティー」のリーダー「マフティー・ナビーユ・エリン(正当な預言者、と言う意味)」であり、ケネスはそのマフティーを壊滅させることを任務としている。その2人の戦いにギギの存在が影響を与えていくことになるのだ。
本作は富野由悠季氏の小説をベースとしながら、監督や脚本に富野氏は関わっていない。だからこそスタッフは本作を「機動戦士ガンダムの最新映画」、「富野氏の作品の映像化」という2つの命題に真摯に向き合い、限界まで挑んでいると感じた。画面の絵作り、音楽や効果音からは製作スタッフの気合いを感じるし、声優の演技からはキャラクターへの強い思い入れを感じる。未見の方は、ぜひ劇場に足を運んで欲しい。本作の魅力を紹介していきたい。
なお、この映画公開に合わせてお台場で謎解き×宝探しイベント「Ξ(クスィー)ガンダム起動計画 お台場に眠るパーツを見つけ出せ!」が開催されている。こちらも機会があれば挑戦してみてはいかがだろうか。
致命的な秘密を抱えた3人だからこそ生まれる緊張感のある人間ドラマ
「閃光のハサウェイ」の魅力のポイントは非常に多いが、本稿では本作ならではの“3人の描写”、“MS戦の面白さ”をピックアップしたい。
ハサウェイは“暗い影と危うさを持った青年”だ。ガンダムファンにとって彼は“ブライト・ノアの息子”であり、「機動戦士Zガンダム」での子供の姿も見ている。ハサウェイは「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」で、ニュータイプの少女・クェス・パラヤに惹かれ、彼女がその強い感性に突き動かされてシャアの元に去って行くのを止められず、それでも取り戻そうと暴走したあげく、クェスが目の前で死ぬのを見る。その記憶は彼に大きなトラウマを植え付けている。
シャアの反乱から12年、現在のハサウェイは反連邦組織「マフティー」のリーダーである。たとえ敵である連邦軍の中にあってもその正体を完璧に隠し、マフティーの仲間からは絶大な信頼を寄せられている。トップパイロットとしてマフティーのMS・メッサーの指揮官型を与えられ、組織の切り札であるMS「Ξ(クスィー)ガンダム」のパイロットでもあるのだ。身体能力も非常に高く、胆力もある。
しかし、“危うい”のである。冒頭にハサウェイはハイジャックに対して1人で制圧しようとするのだが、その戦い方は自分の身を守るという動きが全くない。また、近づいてくるギギに対して強く警戒をしながらもペースに乗せられてしまうし、本来ギギを置いて仲間の元に戻るべきなのにすがりついてくるギギを抱きしめてしまう。ギギに惹かれる心の奥底には“クェスへの想い”が消しきれない。その先には悲劇の予感しかないのに、自分の思いを断ち切れない。
そしてギギは不思議な少女だ。彼女は理由も理屈もなく、まずハサウェイがマフティー・ナビーユ・エリンであることを知ってしまう。彼女は「本質を見通す力」を持っている。それは間違いなく富野由悠季氏の「ニュータイプ」の定義と合致するものだ。なぜそう思ったか、そう思えるか理由を探すのはその後だ。だからこそ「ハサウェイがマフティーであることを知っている」と言うことがどれだけ危険なことか、ハサウェイの命を脅かす事実かを認識すると、うろたえ困惑する。自分の力を彼女自身も持て余しているところがある。
そういった少女らしさと共に、“したたかさ”が同居するのが彼女の魅力だ。自分の美しさ、魅力を使い、自分が惹かれる男たちを翻弄させることに喜びを感じ、秘密を持っていることを楽しむ。「関わると破滅させられるかもしれない」と思わせ、だからこそ男たちを夢中にさせる。
ギギは20歳前の少女と言える年齢だが、絶大な財力を持ち、カーディアス伯爵と呼ばれる80歳を超える老人の“愛人”である。しかしその関係はビジネスだけでなく、彼への愛情もきちんと持っている。真摯さと素直さ、自分の魅力を武器にする強さ、危険なものに惹かれる危うさ……こういった魅力がない交ぜになっている。映画では彼女の表情や、健康的な肢体、美しく舞う髪の毛と、印象的なイヤリングなど非常に力の入った描写がされていて、観客の心をとらえる。ギギの美しさは、本作の大きな魅力だ。
そしてケネスは「有能な軍人」だ。四角四面の軍人ではなく、ハサウェイの資質を見抜き自分の部隊に加えようと思いつくような柔軟な思考と戦士の力を見抜く勘を持っている。さらに彼の高い指揮能力は参加したその日から治安部隊の性質を大きく変える。マフティーのMSが街を盾にしようとしたとき、ためらわず攻撃するような、任務に対する徹底した意思を瞬時に行き渡させる指揮能力を持っている。その強力で冷徹な力で、マフティーを追い詰めていくのだ。
「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」はこの3人の関係が非常に魅力だ。観客である我々はハサウェイがケネスのターゲットであるマフティーのリーダーその人であることを知っている。ハサウェイはギギにそのことを知られていることを認識している。それでいながら3人は親しい友人のように振る舞う。いずれハサウェイとケネスは激しくぶつかることになる。この危うい構図を“俯瞰”で見ることができるのは、観客の特権だろう。非常に緊張感のあるドラマを楽しむことができる。
この3人を彩るのが美麗な背景だ。連邦政府高官が乗る特別なシャトル、美しい南国の街ダバオ、超高級ホテル、植物園、不法居住者も住む貧民街……リアリティのある緻密な背景は、「0G空間で飲み物のグラスはどうなるか」といったSF考察や、「理想を掲げるマフティーの行動は実際に地球の民衆がどう受け止めているか」といった社会背景、「ニュータイプの存在を子供の教育でまで押さえ込もうという連邦の方針」など非常に細かく情報が盛り込まれリアリティのある空間を実現している。本当に細かくチェックしたくなる映画だ。
空を自由に飛び回れるミノフスキー・フライトだからこその戦闘シーン
そしてやはりこの映画の魅力で大きなウェイトを占めるのが、MS戦だ。その魅力の中心が主役機「Ξガンダム」とそのライバル「ペーネロペー」である。この2体はこれまで艦船サイズでしか搭載できなかったミノフスキー・フライト(艦船に搭載されていたのはミノフスキー・クラフト)をMSサイズで搭載しているのが最大の特徴だ。
このミノフスキー・フライトによりΞガンダムとペーネロペーは大気圏内において、従来のMSとは比べものにならないスピードと機動力を発揮することができ、自由自在に空中を飛び回ることができる。そして思考誘導兵器「ファンネル」の最新兵器「ファンネルミサイル」を搭載している。さらにビーム・ライフル、ビーム・サーベルというMSの標準装備も、空中で自由に移動できる両機が使うことで見せ方は変わってくる。「新しいMS戦を提示しよう」という気概が伝わってくる。
「空中を激しく動き戦う」、「多数のミサイルを発射する」この戦いを描くに当たり、スタッフの中には当然「マクロスシリーズ」というライバルアニメの戦闘シーンが頭にあったことは間違いない。マクロスのいわゆる「板野サーカス」と違う空中戦を描こう、と言う意図はどのように反映されたか、劇場で確認して欲しい。
そしてこの空中戦と対をなすのがメッサーによる都市上空の攻防だ。空中で姿勢を変えながら降下、自由落下のままの射撃、全スラスターを一気にふかしての急上昇など「従来のMSの空中戦」をこれまでのテクニックを活かして描写してくれる。
筆者は4DXで「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」を観た。4DXはシートが動き、肘掛け部分から風や水が飛び出すアトラクション要素の強い上映方法だが、これが「MS戦」ととても相性が良いと言うことは今回実感した。コクピット内での重力感、すぐ近くをビームライフルの射線が通り過ぎる緊張感、バルカンの衝撃、海上近くでの戦いなど4DXの演出がぴたりと決まるのだ。本映画を劇場で2回、3回と見に行く人も少なくないと思うが、ぜひ一回は4DXで見て欲しい。
「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は強くオススメできる劇場映画だ。これまでガンダムに触れていない人も、緊張感のある人間ドラマは魅力だと思うし、ファンにとっては演出やMS描写の最先端を楽しむことができる。劇場で「新しいガンダム」を満喫して欲しい。
(C)創通・サンライズ