「ウィッチャー3 ワイルドハント コンプリートエディション」レビュー

ウィッチャー3 ワイルドハント コンプリートエディション

至高のダークファンタジー大作が遂にNintendo Switchで登場!家でも外でも、“大人”の冒険を心ゆくまで楽しもう!!

ジャンル:
  • オープンワールドアクションRPG
発売元:
  • スパイク・チュンソフト(パッケージ版)/CD PROJEKT RED(ダウンロード版)
開発元:
  • CD PROJEKT RED
プラットフォーム:
  • Nintendo Switch
価格:
6,480円(税別)
発売日:
2019年10月17日

 スパイク・チュンソフトは、Nintendo Switch用オープンワールドアクションRPG「ウィッチャー3 ワイルドハント コンプリートエディション」を10月17日に発売した。なお、ダウンロード版は開発元でもあるCD PROJEKT REDから発売されている。

 本作の舞台となるのは、度重なる戦によって荒廃し、怪物が跳梁跋扈する世界。中世ヨーロッパを彷彿とさせる大陸で、プレーヤーは怪物退治の専門家「ウィッチャー」となり、対怪物用の「銀の剣」と対人間用の「鋼の剣」、「印」と呼ばれる魔法などを駆使して冒険を繰り広げる。2015年に発売されたオリジナル版は、「The Game Awards 2015」で「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」(以下、GOTY)を受賞した名作中の名作。今回Nintendo Switch向けに発売された「コンプリートエディション」は、オリジナル版に加え、拡張DLC「無情なる心」と「血塗られた美酒」を含む全てのコンテンツが収録されており、まさに完全版に相応しい内容となっている。

 筆者もオリジナル版の存在は知っていたが、このたび4年越しに念願の初プレイとなった。今回のレビューでは、物語主導のオープンワールドRPGとして世界中で高い評価を得た本作の魅力、そして携帯モードでのプレイフィールを中心にお伝えしていきたい。

重厚な物語に垣間見える大人の遊び心に満ちた世界観

 本シリーズの主人公は、伝説のウィッチャーと謳われ、“白狼”の二つ名を持つ「リヴィアのゲラルト」。シリーズ3作目にして最終章でもある本作では、大陸の南に位置するニルフガード帝国と北方諸国との戦乱のさなか、行方不明になったかつての恋人「イェネファー」を探す旅から物語は始まる。

 戦の過酷さを物語るナレーションから始まり、元恋人の痕跡を辿っていくゲラルト。険しい表情と背中に背負った2本の剣は歴戦の猛者を思わせ、これからさぞ重厚でダークな物語が展開されるのだろうという期待が盛り上がったところで、場面はいきなり夢の中、ゲラルトの入浴シーンへ……。いや唐突なお風呂タイム!しかも髭もじゃもじゃのオッサンのお風呂タイムって、誰が喜ぶねん!と突っ込む間もなく、傍らには明らかに事後と思われるヌーディーな美女の姿が……。ははーん。その瞬間、筆者は全てを悟った。なるほど、CERO Zってこういうことか!!

ナレーションの絵の中で兵士の首が飛んでいるが、ゲーム本編の戦闘中でも人間、怪物を問わず、欠損表現がリアルだ
年長のウィッチャーである「ヴェセミル」とともに、イェネファーを追うゲラルト。顎鬚が似合う渋い漢だぜ……
と思いきや、いきなりプレーヤーにスベスベな肌を見せつけてくる。いやどうしろと!?
養女「シリ」の訓練に付き合うはずが、イェネファーのもとを離れたがらないゲラルト。そんな軟派な男だとは思わなかったぞ!

 衝撃が冷めやらぬまま、ウィッチャーの訓練という形でチュートリアルが始まり、ここでプレーヤーは一通りの操作を覚える。何気ないやり取りの中で主要キャラクターの関係が説明されていたり、自然な展開でチュートリアルが進んだりと、巧みな演出はさすがGOTY受賞作といったところ。しかし、今後ゲラルトがどんな気難しい真面目な顔をしようと、筆者にはもうチャラいオッサンにしか見えないのも事実だ。シリアスな世界観に時おり交じってくる遊び心のある演出は賛否両論あるかもしれないが、少なくとも筆者は主人公に対する距離感がいい意味で縮まった。

ウィッチャーたちのもとで訓練を積むシリ。後に「予言の子」と呼ばれ、世界のあり様を変える存在として狙われることに
シリに見せる形で訓練を行なうチュートリアル。ここでは基本的なXとYボタンでの攻撃、ZLボタンでの防御、Bボタンでの回避のほか、ZRボタンでの印の使い方も覚えられる
夢の中にも現れる謎の軍勢「ワイルドハント」。彼らがシリを付け狙う理由とは?

携帯モードで超大作RPGを余すところなく遊べる贅沢感!

 既にオリジナル版をプレイされた読者でも、携帯モードで遊べるとあっては、本作が気になる方も多いことだろう。確かに筆者がプレイしてみた限りでは、PS4のプレイ動画などと見比べても、本作は解像度がやや見劣りするのは否めない。特にTVモードでのプレイは解像度の差が際立つため、比較したくなる気持ちもプレーヤーとして理解できる。しかし、携帯モードならば画面が小さいため、解像度の差がそこまで気にならなかったのも正直なところだ。また、インタフェースや字幕の文字も相対的に読みやすくなるため、大作ゲーム特有の“文字が見づらい問題”が解決されている。こういった海外のAAAタイトルはゲーム内の資料の作り込みも半端ではないので、文字が読みやすいというのはプレイするうえでかなり大切な要素であり、改めてNintendo Switchの底力を思い知らされた。

戦争の残酷さを目の当たりにするイベントシーン。解像度の差はそこまで気にならず、キレイに仕上がっている
携帯モードでの戦闘画面も思ったほどゴチャゴチャしておらず、文字もスッキリ見やすい
風景の美しさはオープンワールドの魅力の一つ。筆者は十分に色鮮やかな夕日だと感じたが、いかがだろうか
夜に馬を走らせていたら、いきなり絞首刑に処された死体が!こんな風景が至る所にあるので、本当に心臓に悪い……

 そして何より、外出先でも超大作のRPGを気軽に楽しめるのは、Switchならではの贅沢と言える。広大なオープンワールドや重厚なメインクエストは言うまでもなく、その細部に至るまで作り込まれたサブクエストの数々も、本作の大きな魅力のひとつだ。ちょっとした時間にカフェなどでサブクエストを進めたり、ミニゲームのカードゲームを楽しんだり、据え置き機ではできなかった遊び方が、本作では思う存分にできる。いつでもどこでも、ウィッチャーの独特な世界に浸れるのは、オリジナル版を未プレイの方だけでなく、既にプレイした方にも全力でお勧めしたい要素だ。

村や町にある掲示板では戦況に関する情報だけでなく、サブクエストの依頼につながる掲示も見られる
サブクエストはオーソドックスな怪物退治から、意外な結末を迎えるものまで様々。人助けに励むもよし、ビジネスライクに徹するもよし、好みに合わせて楽しもう
我らが伝説のウィッチャーは、庶民がお困りならフライパンも探す!
序盤から遊べるカードゲームの「グウェント」はミニゲームの域を超越しており、サブクエストという名目で、ゲーム内の大会まで存在する

 ただし、携帯モードにも唯一と言っていい弱点がある。それは、本作の主人公ゲラルトが予想以上にチャラいことだ!元恋人のイェネファーをはじめ、冒険の先々で見目麗しい女性とイイ感じになるので、油断しているとお色気シーンが始まってアワアワすることも……。通勤電車の中で他の乗客に見られた日には言い訳もできないので、要注意だ!

本作はいわゆる娼館のような場所でもNPCと任意でイチャイチャできる。任意とはいえ、1回は試したくなるのは、プレーヤーの性(さが)ですよね!?
厳密にはお色気シーンではないが、皇帝との面会前に湯浴びをするゲラルト。どんだけお風呂タイムが好きやねん!

思ったより地味だが、そこがまたリアル!?ウィッチャーの仕事ぶりに注目!

 正直に言えば、剣と魔法のファンタジーの世界、主人公は百戦錬磨の渋いオッサン(しかもイケメン)という表面的な情報から、本作をプレイするまでは華麗でド派手なアクションを楽しめると期待していたが、それはいい意味で裏切られた。伝説のウィッチャーと謳われるゲラルト氏、その仕事ぶりは意外や地味そのものである。

 実はウィッチャーは魔法が使えるといっても、ちょっと火を出したり、身を守る障壁を張ったり、相手を足止めしたりと、戦闘をサポートする程度。この世界には魔女も存在しており、威力の高い魔法はそちらの十八番なのだ。そのため、主人公は2本の剣と弓矢などの飛び道具をメインに使うことになるが、ウィッチャーならではの必殺技などはない。戦闘前に敵の種類に応じて有効なオイルを剣に塗ったり、攻撃力を高める霊薬(ドーピングのようなもの)を使ったりと、相手の特性を見極めた地道な準備が勝敗を分けるのだ。

悪霊タイプの敵は闇雲に攻撃しても効果が薄いため、「イャーデン」の印で足止めして攻撃する必要がある
序盤のメインクエストで挑むことになる大型の怪物「グリフィン」。飛んでいるところを弓矢で狙ったり、霊薬で攻撃力の底上げを図ったり、対策を立てよう

 序盤のうちは怪物だけでなく、野犬などの動物、盗賊などの人間も手強い。群れで襲われると、ウィッチャーといえどもあっという間にやられる。「クエン」の印で障壁を張ってダメージを防いだり、時には安全な場所まで撤退する判断も必要だ。弱い敵を倒してレベル上げをしようとしても、その辺の敵ではいくら倒しても大して経験値は手に入らない。サブクエストをクリアしたほうが多くの経験値を入手できるため、レベルを上げるには困っている住民を積極的に手助けする必要がある。怪物退治の専門家たる者、楽な道を選ぶな!と言われている気分だが、これはこれで妙にリアルだ。

野生の熊も侮ってはいけない。獣に有効な「イグニ」の印で火ダメージを与えるなど、地味な対策が生存率を上げる
拡張DLCのクエストは推奨レベルがかなり高い。詳細を確認せずに進めるとひどい目に遭うので、序盤では注意しよう。

 戦闘以外でも、クエストによっては放火犯の足跡を追ったり、血痕から被害者を推測したりと、ウィッチャーの仕事はとにかく観察力が試される。「アクスィー」の印を使えば口が堅い人間から情報を引き出せるが、逆に言えばできるのはそれだけ。魔法で意のままに他人を操ることはできないのだ。ゲームを進めれば進めるほど、クエストの遂行には経験に基づいた観察力と、たゆまぬ努力が欠かせないことがわかるだろう。

ZLボタンの長押しで「ウィッチャーの感覚」を発動。アイテムがある場所や見えない足跡などが浮かび上がる
僅かな血痕から状況を推測するゲラルト。現代に転生したら一流の探偵になりそうだ
依頼達成のため、悪霊供養に必要な遺品の捜索で井戸の底まで潜るゲラルト。まさに探偵の鑑!
怪物と互角に渡り合えるウィッチャーは同じ人間から恐れられ、忌み嫌われている。そのため、時には印で無理やり情報を得ることも

荒廃した大地で、ウィッチャーとして生きる

 依頼人に感謝されることもあれば、裏切られることもあり、その辺の怪物や野犬に囲まれてピンチに陥ることもある。ウィッチャーとして生きるということは、想像以上にシビアだった。本作をプレイしてわかったのは、伝説と謳われようが、ゲラルトも所詮は1人の人間だということ。メインクエストの険しい道のりを突き進んでもいいし、世界の行く末を気にせず黙々とサブクエストをこなしてもいい。大都市の娼館で自堕落な生活を送るも、一途に恋人と添い遂げる道を目指すも、プレーヤーの自由なのだ。本作ではイェネファーの他、もう一人のメインヒロイン「トリス」も登場するが、どちらとエンディングを迎えるのかも、プレーヤーの手に委ねられる。人によっては、かなり悩ましい選択となるだろう。

 拡張DLCも含めると、優に150時間以上は遊べるという本作。一息に本編クリアまで突き進むのも悪くはないが、外出先で少しずつサブクエストを進めたり、豊富なゲーム内の資料を読み進めて理解を深めたり、じっくりと「ウィッチャー」の世界に浸るのが筆者としては1番お勧めだ。なお、「ウィッチャー」シリーズは原作の小説が存在し、その邦訳も日本で出版されている。さらにはNetflixでもドラマシリーズの配信が決定しているため、ゲームをクリアしても、まだまだ楽しみは尽きそうにない。未プレイの方も、オリジナル版をプレイ済みの方も、今回のNintendo Switchでの発売を機に、孤高のウィッチャーとして生きる選択を検討いただければ幸いだ。

チンピラに絡まれた際に問答無用で切り捨てるか、口八丁手八丁で切り抜けるか、全てはプレーヤー次第。それがウィッチャー
本作では他にも吟遊詩人の「ダンディリオン」など、個性豊かなキャラクターが登場。人物事典などの資料もウィットに富んでいるので、じっくりと堪能しよう
美しい女性に成長したシリの行方など、物語の続きが気になる一方で、豊富なサブクエストについ足止めされる。本作ならではの贅沢な悩みだ
ちなみに今のところ、エロい雰囲気全開のくせに、ゲラルトを心配する健気な表情も見せるイェネファーを、筆者は全力で押している